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しおりを挟む「君が望むなら消すこともできるよ、ソレ」
わたくしの胸元を指差してそう問うてくる悪魔にわたくしは目を開けてしっかりと目を合わせました。
「望みませんわ」
きっぱりとお断りすると悪魔はやっぱり笑いました。
「そう? でも気が変わったらいつでも言って。対価は“魂”だけど」
歌うように言う悪魔に、わたくしは少しだけ肩を落として呆れた表情をして見せました。
「わたくしは両親と違ってちゃんとこの国の神を信仰しておりますので。祈りは教会で行いますわ」
そう言うと悪魔は嬉しそうに目を細めて笑いました。
「いい心掛けだね。その方が良いよ。
その方が僕らも仕事が減って嬉しいし」
そんな不思議な答えにわたくしは首を傾げました。
しかし悪魔はこの会話はここで終わりだと言うようにわたくしから視線を離して、未だに蹲る両親へと視線を向けました。
「気づいてると思うけど、彼女のことを覚えているのは当事者だけだ。
だって当事者が今日のことを忘れたら僕がした仕事が無かったことにされかねないからね。
仕事の報酬はしっかり貰うよ。君たちが死んだ後にね。それまでは幸せな人生を謳歌すると良い。
でも世界からは彼女の記憶は消える。
この家に娘は一人しか生まれなかった。
“妹”という存在は存在せず、エカテリーナが生きた人生が『ベアトリーチェの人生』だったことになる。
おかしな部分は勝手に世界が修正や補正をしてくれるから気にしなくていい。
まぁ、ベアトリーチェはまともに外に出てなかったみたいだし、人とも殆ど会っていなかったみたいだから、大して困ることもないだろうね。
『エカテリーナ』の全てを奪った新しい『ベアトリーチェ』がこれからはこの家の一人娘として生きる。
あぁ、『新しいベアトリーチェ』はこの僕の仕事の結果だ。その『僕の仕事』にケチつけようとしても無駄だからね。『ベアトリーチェ』は『僕の仕事の結果』として『本来の寿命まで』生きてもらうよ。その間に事故死や自殺やましてや他殺なんかは出来ないからそのつもりで。
聞いてる? お母さま?
逆恨みなんかしちゃダメだからね?
これを望んだのは彼女なんだから。そしてそれを後押ししたのは他の誰でもない『貴女』なのだから。
では、素晴らしい仕事をして、人間の望みを完璧に叶えた悪魔は帰るとしよう!
あぁ!? 言い忘れていたよ!
悪魔召喚をしたんだから、知ってると思うけど、時々居るんだよね、『悪魔と契約した魂は悪魔に食われて“消える”』って思ってる人間。
それ、違うから?
悪魔と契約した魂は、その死後悪魔の住む世界で奴隷となり、その魂が擦り減り勝手に消滅するまで『終わらない苦痛の中で働き続ける』ことになるから。
魂が消滅して終わり、なんてないからね。
そのつもりで人生を楽しむんだよ。
君たちが休息を取れるのは生きてる内だけだから♪」
その悪魔の言葉を聞いて、
母は悲鳴を上げて失神した。
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