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30>>味方に道を塞がれる

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「ティオレイド様?」

 マリリンは困惑して聞き返す。
 そんなマリリンにティオレイドは少しだけ困った様に眉尻を下げて微笑んだ。

「カリンナお義姉ねぇ様が言っている事は、前のマリリンが言った言葉、なんだろう?
 なら、今のマリリンがどう思っているのか教えて欲しい」

「え……?
 今のわたくし……ですか……?」

「そうだ。
 ……淑女教育をやり直したマリリンは、前に自分が言った言葉をどう思う?」

 微笑んではいるが、真剣なその眼差しに、ティオレイドが本気なんだとマリリンにも伝わる。

「あ……っ、……わたくし……」

 ティオレイドにジッと見詰められてマリリンは言葉に詰まった。
 言葉が出なくて自然と震える唇にマリリンは自分が心底困っているんだと自覚する。

 昔の自分の言葉を認めれば、カリンナがティオレイドに近付く。
 昔の自分の言葉を否定すれば、自分が間違っていてカリンナが正しいのだと認める事になる。

 ──どっちも嫌なのっ!!──

 マリリンは目を瞑って心の中で叫んだ。
 嫌よ嫌よ! と頭の中ではそれがいっぱいになるが、だからといってそのままティオレイドに訴えたところでどうにもならないだろう。最悪ティオレイドに嫌われるかもしれない。

 そんな考えがマリリンの頭にぎった時、ティオレイドが小さく溜め息を吐いた。

「……っ!?」

 マリリンの心臓が小さく跳ねる。嫌な気持ちが一気に溢れてきてマリリンの背中に冷や汗が流れた。

「……マリリン……
 私は婚約者である貴女の考えを尊重したい……でも本心を言えば、……大切な時間をマリリンとだけ共有したいんだ……」

 そう呟いたティオレイドの表情は悲しげだった。そんなティオレイドにマリリンは心臓が締め付けられる様に軋む。

「ティオレイド様……っ!」

 悲しげな声で名を呼んだ目の前の婚約者の肩を優しく撫でてティオレイドは溜め息と共に気持ちを吐き出した。

「もしマリリンがまだ考えを変えていないと言うなら私はカリンナお義姉ねぇ様との時間も作らなくてはいけなくなる……」

「そんなっ!? ダメです!!」

「私も嫌だよ……だからマリリン……」

 ──お願いだよ……──
 そんなティオレイドの心の声が聴こえた気がしたマリリンが堪らず口を開く。

「っ!! ……はいっ! はいっ! わたくしが間違っていたのですっ! 前にお姉様に言った言葉はおかしな事でしたっ!
 婚約者以外の男性には、例えそれが将来家族になる方だろうと適切な距離を保たなければいけません!! わたくしも今はそう思っています!!」

 ティオレイドに聞かせる様に訴えたマリリンの目に、ティオレイドの表情が緩やかに微笑みを浮かべるのが映る。
 その事にマリリンが心の底から湧き上がる安堵に体の力が抜けると、そんなマリリンにティオレイドが返事を返した。

「良かった。
 じゃあマリリン。 
 お義姉ねぇ様に謝ろう」

「え?」



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