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6>>> なんだかんだで結末
しおりを挟む「それにしてもこのゲームの『ヒーロー』とはどんな方なのかしら……
もしかして……『勇者』、とか……?
フフ、でしたらわたくしは最終的には『魔王』ということでしょうか? それなら前世のお兄様に見せてもらったゲームにありましたわ!
あぁ、どうしましょう♪ ここは魔王らしく、ドラゴンでも探した方が宜しいかしら?」
ミシディアは『乙女ゲームのストーリーを想像』してワクワクする。未知の“お話”に期待するその表情は少女のように愛らしかった。
ルーニーの失敗はミシディアと話をした時に『当然悪役令嬢も乙女ゲームの内容を知っている』と思い込んだことだった。
自分が知っているから相手も知っていて当然だ、と思い込んでしまったが故に必要な情報をミシディアに与えなかった。
きっとミシディアなら、ルーニーが乙女ゲームの展開を事細かく説明していれば、喜んで『イジメ』をしてくれただろう。そういう『悪役』も居るのだと理解してくれただろう。
別にミシディアは自ら率先してルーニーに関わろうとなど、していなかったのだから。
ミシディアに接触して、ミシディアに自分を害せと強請ったのは、他の誰でもない『ルーニー』本人なのだ。
ルーニーの前世は内弁慶なオタク女子だった。専門学校からの帰り道で暴走した電気自動車に撥ねられて死んだ。凄いスピードだった。
前世のルーニーは少女漫画や恋愛物のラノベを好み、その延長線で乙女ゲームを知ってどハマリした。
特にお姫様が幸せになるお話が好きで、勿論童話も好きだったが、ルーニーが読んだことのある童話は全て子供向けにアレンジされた『悪いことをした人も謝れば許される世界』が表現されたものばかりだった。
友達が怖い話やアクション映画を観に行こうと誘ったこともあったが、ルーニーは暴力が怖くて見るのも嫌いだったから観たこともなかった。
前世のルーニーはそんな感じだったので、周りにいる人もわざわざルーニーが嫌がる暴力系の作品を見せたりなんかしなかった。
だからルーニーの考える『悪役』のイメージで『一番悪い悪役』は、乙女ゲームの中で『ヒロインを虐める悪役令嬢』だった。
しかしミシディアは違う。
ミシディアの考える『悪役』のイメージで『一番悪い悪役』は、『必要であれば人を何人殺しても気にしない、金と権力と知能を持った人間』だった。ミシディアが『悪役』を知ったのは前世の兄が好んで観ていた『外国のアクション映画』だったからだ。
マフィアにギャングにヤクザに政治家にアサシン。
格好良いヒーローを際立たせる為に存在する悪役は、前世のミシディアには魅力的に見えた。絶対にしちゃいけないけれど、そんなことは当たり前に分かりきっていることだけれど……前世のミシディアは悪役キャラに憧れを持っていたりした。真似しちゃ絶対にいけないけれど。
そんなミシディアにルーニーは言ったのだ。
“悪役をやれ”、と。
直接的な表現はしなかったがミシディアには『私を虐めて』と言っているようにしか思えなかった。その時点でミシディアはルーニーを『特殊性癖の人』と位置付けた。きっと“死にかけた時に一番幸福を感じちゃうような女性”なのだろうなぁ、と……
『悪役』なんて、他人の命をなんとも思っていないような役をやれと言ったということは、そういうことなんだろう、と、ミシディアは思ってしまった。
“貴女の言いたいことは全て理解しましたわ!☆”という『善意』の心から、ミシディアはそう、理解してしまったのだ……
そうして、今回の悲しい事故は起こってしまったのだった……
ルーニーはもう貴族社会に復帰出来ないどころかこの先まともに生きていけるかも怪しかった。
乙女ゲームのヒロインとしての攻略対象者からの好感度も全然上げられていない状態なので、高位貴族である攻略対象者の援助も見込めない。
男爵家は態々平民から引き取ったのに何の役に立てることもできずにとんだお荷物を背負うことになった。ルーニーの実父である男爵はルーニーの外見の良さを見込んで養子に迎え入れたのであって、決して『血の繋がった子供だから』という理由からではなかった。『この見た目で上の家格の家に嫁に行ければ……!』と考えての養子縁組だったのにこんなことになってしまって男爵は心底ガッカリした。
しかし、『実の子だからと引き取ったのに傷モノになったからまた捨てる』、なんてことをすれば男爵家としての評判が悪くなるのは目に見えている。男爵は仕方がなく地方の療養院へとルーニーを預けた。ルーニーは体だけではなく心も壊していたので専門家の側にいる方が安全だろうという最後の親心でもあった。
こうしてルーニーは乙女ゲームの舞台から去った。
今後ルーニーが驚異的な回復を見せて学園に戻ってきても『乙女ゲーム』は再開されないだろう。既に純潔ではなく片足も無いルーニーを、今の婚約者から変えてまで、嫁として受け入れる高位貴族の家はないからだ。
ミシディアはルーニーに別れを告げた後も、ずっとヒーローが来るのを今か今かとワクワクハラハラしながら待っていた。
しかし待てど暮らせどヒーローはやって来ない。自分の周りの警護を強化し続けている娘がさすがに気になったミシディアの父親が独自に調査して、ミシディアを狙う者の動きは全く一切虫の触角の動きにもならない程に全然『無い』ことを確信した後、父親である侯爵は娘に知らせてミシディアの為に割いていた要員を下げさせた。
身の危険が無いことが証明されたのになんだか若干ガッカリしている愛娘に父親は不思議に思ったが、それ以外は本当に優秀な娘なので大して気にすることはなかった。
「はぁ……、乙女ゲームとはどんなストーリーだったのかしら……
立派な“悪役令嬢”になりたかったのに腕を振るう機会もないのね。
てっきりルーニーの平民の時の恋人か幼馴染なんかが復讐に燃えてこの侯爵家を敵に回す展開なのかと思ってましたのに……」
そう言うとミシディアはドレスのどこからか細身の短剣を取り出して指や腕を使ってクルクルと短剣を回し出した。
そしてその短剣を素早い動きでスパンッと真っ直ぐに投げて壁に掛けられてた的に当てると続け様に短剣を何本も取り出して的にスパパパパンッと投げ付けた。
『乙女ゲームのミシディア』はそんなことはしなかったのだが、『転生した悪役令嬢』だからか、今のミシディアは自分の強さに自信を持てるほどに強かった。
「ヒーローと一騎打ちしてみたかったわぁ……」
前世で観た映画のクライマックスを思い出してミシディアは溜め息を吐いた。
自分の婚約者がその『乙女ゲームのヒーロー』であると気付くこともなく、ミシディアはこの先も生きる。
自分の父親が「我が娘は王の盾にも鉾にもなれる王妃となりますぞ!」と王家に売り込んでいることなど知る由もなく、ミシディアはこの先も何の邪魔もされずに“王太子の婚約者”のまま学園を卒業した。
ルーニーが始めた乙女ゲームはバッドエンドとなったが、ミシディアの人生はゲームとは無関係に進み、とても平穏な幸せで満たされるのだった。
[完]
────────
※ルーニーが思う『駄目な人種』とは:悪いことも正しいことも法律も倫理も道徳も全部“理解した上”で、自分がどうしたいか周りが何を望んでいるか未来の為にどうなるかをその時の自分の立ち位置から考えて行動する人。悪意より善意で動く方が多いが『その善意が“人々の考える善意”と同じであるか』はその時の状況次第となる。
全てを分っていて行動しているので基本『正論で論破』とかは効かない。分かりきったことを改めて諭されても困るという態度になる。
応援ありがとうございます!
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読んで頂きありがとうございます^^
『悪役』を敵に回すとか死にたいのか?ってなりますよね😅ディ○二ーの悪役だって結構な『悪人』なのに😅
乙女ゲーム舞台の小説のヒロインって、ほんと『学校(学生)』という世界でしか生きられない思考してますよね😅上下関係がゴリゴリの貴族社会だと直ぐに毒盛られると思いますよ(笑)
読んで頂きありがとうございます^^
私的には「なんで悪役令嬢って地味な虐めとかで、ヒロイン側は怪我もしてないのに、国外追放(実質死刑)や娼館送りになってるんだ?」って思ってたんですよね🤔そこまでされるなら悪役令嬢側だって「ちゃんと悪役やればいいのに」って😅
親から虐待や邪険にされてる悪役令嬢じゃないなら、敵に回すと絶対にヤバい存在だと思いますよ!😅笑
読んで頂きありがとうございます^^
『悪役令嬢』は突如ネット小説界隈に現れたみたいなところありますね🤭
私も悪役といえば人殺してなんぼだと思ってるので、人も殺してないのに悪役とか言われて処刑までされる悪役令嬢見るとかわいそうだな〜とか思っちゃいますよ😆(笑)