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3>>> ヒロインと悪役令嬢 

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 ルーニーが見つかったのは10日後だった。
 もう彼女は生きては居ないかもしれないと思われていた10日目の朝。学園の正門の前にルーニーはボロボロの姿で汚いシーツに包まれた全裸の状態で通行人に発見された。生きているのが不思議な程だった。
 直ぐに治療院に運ばれたルーニーはできる限りの治療を受けて一命を取り留めることができた。
 しかし失っていた右足の膝から下が復活することはなかった。

 ルーニーは二週間ほどして意識を取り戻した。
 しかし目が覚めたルーニーはパニックを起こし暴れ、その度に看護師たちにより眠らされた。
 落ち着きを取り戻し、まともに会話ができるまでになったのはルーニーが保護されてから一ヶ月半以上も経ってからだった。
 ルーニーは自分の身に起こったことを騎士隊達に話した。直ぐに犯人を捕まえるべく騎士たちが動き出したが、ルーニーの失踪の痕跡を全く残さなかった者たちの犯行だった為に裏の仕事のプロや高位貴族が関わっているだろうと思われていた。だから犯人は見つかることはないだろうと……

 ルーニーは治療院の一室でただ茫然ぼうぜんとして過ごしていた。何も考えたくない。何も思い出したくない。
 だが犯人を捕まえる為には必要なんだと、思い出したくもない記憶を思い出して騎士隊の女性騎士に話さなければならなかった。相手が女性だから大丈夫なんてことは当然全く無い。ルーニーは犯人のことを聞かれる度に過呼吸を起こした。顔を見たはずなのに思い出せない。犯人の男たちの全身を一糸纏いっしまとわぬ姿で見たはずなのに、ルーニーには思い出せなかった。思い出したくもない自分の凶器ばかりが脳裏に焼き付いてルーニーの精神を追い詰めた。それはルーニーに使われた薬の副作用でもあった。

 治療院での治療は長く続けられた。
 ルーニーはその間、学園にも行けずに、友人たちの面会もすべて断って、病室に閉じこもった。少しでも体を動かさないと、と言われても、人に会いたくなかった。……人の目に自分の姿を晒したくなかった。
 そんな、ただ日々が過ぎ去るだけの日々の中で。


 ある夜、ルーニーの病室をミシディアが訪れた。





   ◇ ◇ ◇ 





「な……、に、しに……来たのよ」

 ミシディアの姿を見た瞬間にルーニーはミシディアを睨みつけてそう言っていた。
 一人でルーニーの病室へ入って来たミシディアは大きな花束を持ち、ルーニーの姿を見ると痛ましそうに眉尻を下げた。

「お加減はどお?」

 ベッドヘッドに背を持たれかける形でベッドの上に座っていたルーニーに近付きながらそう聞いたミシディアは、ルーニーの返事を聞かずにルーニーの足元のベッドの上に持っていた花束を置いた。
 その位置にはルーニーの本来あるはずの足は無く、ルーニーはその花束を蹴り飛ばしてベッドの下へ落とすこともできなかった。

「……何しに、来たのよ……」

 ルーニーはミシディアの言葉には答えずに同じ言葉を繰り返した。
 今の時間に面会が許される筈がなかった。何より面会希望者が来たらルーニーが心を許している看護師が先に聞きに来る筈なのだ。それなのに、それらも無しにミシディアはこの病室に入って来た。
 ……ルーニーは湧き上がる得体の知れない恐怖心を隠すようにミシディアを睨みつけた。
 そんなルーニーを気にすることなくミシディアは微笑む。

「ごめんなさいね、突然訪問してしまって。
 でも待てど暮らせど何も起こらないから気になってしまって」

 そう言うと困ったと言わんばかりに苦笑して眉尻を下げたミシディアが小さな溜め息を吐きながら頬に手を添えた。

「だから、この“乙女ゲーム”の今後の展開がどうなるのか、ヒロインである貴女にお聞きしに来たの」

「展、開……?」

 ルーニーにはミシディアが何を言い出したのか分からなかった。
 でも嫌な汗が湧き出してくる。
 聞きたくて聞きたくない言葉が目の前の女からつむがれそうな気がして、ルーニーは自分の口の中が乾いてくるのが分かった。
 そんなルーニーとは反対に、ミシディアは少しだけ興奮するかのように頬を染めて話し始めた。

「そうですわ。この後はどうなりますの?
 わたくし、貴女に言われた通りに“悪役令嬢”になりましたのよ! “乙女ゲーム”がどんなものなのかはわからなかったのですが、“悪役”が出る作品などは大抵同じような設定ですものね! だからわたくし前世でよく見た“悪役”を参考にして頑張りましたのよ! 自分でもよくできたと思いますわ!」

 そこまで言うとミシディアは姿勢を正してルーニーに対して少し体を斜めに見せて、扇子を広げると口元を隠して目を細めた。

「『お前たち、あの目障りな女をとらえなさい。殺す以外は何をしても構わないわ。
 わたくしに楯突くとどうなるか、その体に教え込んで差し上げなさい!!』」

 言いながらミシディアは口元を隠していた扇子をルーニーに向けるとその口元に浮かべた笑みを見せつけるようにしてルーニーを不敵に笑って睨みつけた。
 しかし直ぐにその表情を崩して恥ずかしげに笑って体をくねらせて照れた。

「なんて言って皆に指示したのよ? どうかしら? “悪役令嬢”できていた?」

 フフフ♪、と恥ずかしそうに笑うミシディアにルーニーの頭は追いつかない。
 この女はなんと言った?
 “乙女ゲームを知らない?”
 “皆に指示した?”

 ナニをイッていルの?????

 ルーニーは唖然としてミシディアを見つめた。
 その目はとても人間を見ている視線ではなかった。
 
 
 
  
        
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