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2>>> 受け入れた悪役令嬢 

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「悪役令嬢って何かしら……」

 ミシディアは自室で今日あったことを考えていた。
 突然現れた自分と同じ前世の記憶を持つ令嬢。侯爵家の娘として、王太子の婚約者として、貴族の顔を見れば相手が誰であるか大体分かる。
 彼女は最近男爵家に引き取られた女性。名前は確かルーニー。
 そういえば最近自分や王太子殿下の周りやその側近候補たちの周りでよく見かけていたことに気付いた。

「ゲーム……イベント…………」

 そこまで呟いてミシディアは1つ小さく溜め息を吐いて頬に手を当てて小首を傾げた。

「……乙女ゲームって、どんなゲームのことかしら?」

 ミシディアは困ってその美しい眉間にシワを寄せた。

 そう。ミシディアの前世は乙女ゲームをしないタイプの女性だったのだ。
 “ゲーム”を知らないなどとは言わない。しかし彼女自身はゲームを自ら進んで手に取ったことはなかった。彼女の前世では兄が居て、その兄が遊んでいるのを横で見ていた記憶があるだけだった。
 ゲームだけではない。彼女は前世でゲームを初めライトノベルや漫画やアニメなどにも興味を示さず、子供の頃から挿絵すら無いような小難しい本ばかりを好んで読むような女性だった。成長してからは英語原作で読む楽しさにハマってしまったので他に興味を示す時間などもなかったのだ。
 時々兄に誘われて流行りの物も見聞きしてはいたが、それはあくまでも『兄が好きになった流行り物』であった為に『世の女性に流行った物』にはとてもうとい生き方をしたのだった。

 そんな前世を持つミシディアなので、本気で『乙女ゲーム』がどんなゲームなのかが分からなかった。
 乙女? 乙女が出るゲーム? 乙女になれるゲーム?? 乙女のゲーム??? ミシディアはちゃんと考えようとしたがさっぱり分からなかった。
 だが……

「悪役、に、なればいいのかしら……?」

 ミシディアは『悪役』には想像が付いた。むしろ前世の記憶で読んだ読み物や兄が好んでいた作品には『悪役』がよく出ていた。

「彼女も……令嬢をちゃんとやれって言っていたし……やらないと神様に怒られるのよね……?
 それなら……躊躇ためらっていちゃダメよね……
 わたくしは“悪役令嬢”らしいのだから……やらなきゃ……むしろダメなのよね……」

 そう考えて、ミシディア1度大きく頷いた。瞳からは悩みの色が消えた。
 強く前を見据えてミシディアは心を決める。

「何故転生などしてしまったのかと思っていたけれど、この為にわたくしは転生したのね……!
 分かったわ。
 わたくし、立派な“悪役令嬢”になりますわ!!」

 両手を強く握り締めて脇を締めたミシディアは、部屋で一人、やる気に満ちた顔でヨシッと呟いた。
 
 
 
 
 
   ◇ ◇ ◇ 
 
 
 
 
 
 ルーニーは晴れ晴れしい表情で学園に来ていた。
 昨日は遂に言ってやった。
 役目を果たさない悪役令嬢にガツンと喝を入れてやった。ミシディアは悪役令嬢らしくなくおどおどとしていてはっきり喋ることもしなかったが、それでもちゃんと返事をしたのを聞いた。悪役令嬢が悪役をちゃんとやると言ったのだ。やらなければまた言いに行けばいいが、ミシディアがちゃんと悪役令嬢をやるのなら、乙女ゲームはちゃんと進んでイベントも起こるだろう。
 乙女ゲーム『愛はすべてを凌駕する! 愛され乙女は誰のモノ?!』の悪役令嬢はミシディアだけだ。どの攻略対象者のルートに行ってもミシディアは出しゃばってきて仕事をする。悪役令嬢の鑑のようなキャラだった。本来ルーニーは怯えているだけで攻略が進む簡単ゲームな筈だったのに悪役令嬢がちゃんと義務を果たさない所為で無駄な時間を使ってしまった。
 時間は有限。乙女ゲームのような仕様なら尚更タイミングや日付は重要。

「頼むわよ、悪役令嬢……!」

 ニヤつく口元を手で隠してほくそ笑んだルーニーは、直ぐに庇護欲を唆るヒロインの笑顔を作って校舎へと向かっていった。
 
 
 
 
 
   ◇ ◇ ◇

 
 
 
  
 
 しかし……期待したことは何も起こらなかった……

「何なのよ! もうっ!!」

 怒りながらルーニーは学園を下校する。
 今日こそはイベントが起こると思ったのに、何も起こらなかった。
 あの日から今か今かとの期待してきただけに苛立ちがどんどん募ってくる。
 今日こそは悪役令嬢ミシディアが何かしてくるかと思ったけれど、それも何もなかった。
 ルーニーがミシディアを盗み見たら、ミシディアの方もルーニーをこっそり見ていて、目があった時にミシディアは他の人にバレないようにルーニーに微笑んで見せた。

「目配せとかいらないのよっ!」

 他の人の目を盗んで小さく手を振ってきたミシディアに期待したのに何も起こらなかったことにルーニーは腹を立てていた。
 友達かっつーの!
 悪役令嬢をやるどころか秘密の友達みたいな反応を見せたミシディアにイライラが止まらない。
 学園から少し離れた寮に住んでいるルーニーは家路を一人で歩きながらブツブツと怒りを募らせながら歩いた。
 本来ならば寮から学園までは専用の馬車が出ているのだが、ここ数日、ミシディアが何かしてくるだろうと思って授業が終わっても教室に残って何かが起こるの待っていたのだ。その所為で専用馬車が使える時間が過ぎてしまった。イベントも何も起こらない上に寮まで歩きとなった所為でルーニーの不満は貯まりまくっていた。

「あぁっ!! イライラするっ!!」

 そうルーニーが立ち止まって地団駄を踏んだ時、通りすがりの馬車がルーニーの真横に止まり、驚くルーニーの口を馬車の中から出て来た見知らぬ男が塞いぎ、その体を抱えて馬車の中へと引きずり込んでしまった。
 抵抗もまともに出来ずに馬車に連れ込まれたルーニーは何が起こったのかも分からないままに、暗い馬車の中で体を縛られて動けなくなってしまった。

 そんなルーニーのことに気付く人は誰もいない。
 先程まで道を歩いていたルーニーが居なくなったことに誰一人気づく者も居なかった。その手際の良さにすらも気づく人が居ないまま、ルーニーは連れ去られた。
 
 
 
 
    
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