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15>>掘り起こされるもの
しおりを挟むしかし、見つかった粉は今回の事には関係のない物だった。
ジャスティンに使われたと思われる毒は即効性のあるものだったが、見つかった毒は遅効性のものだった。蓄積型のその毒は何度も何度も摂取しなければ意味のないもので、到底ジャスティンの身に起こった異変と関係ある物だとは思われなかった。
だがルイーゼは……
その話を聞いてショックのあまり倒れた。
そして目覚めた時……ルイーゼは涙を流しながら話し始めた。
「ずっと……おかしいと思っていたのです……
母は元気が取り柄のような人でした。なのに突然身体が怠いと言い出して……それからどんどん弱っていって、その内ベッドから立ち上がれなくなりました……
お医者様にも診てもらいましたけど、何の病気か分からないって言われて……お母様はいろんなお薬を試したけれど症状は悪化するばかりでした……
そして小さいわたくしを置いて空へ……
……そして母の葬儀が終わると直ぐに義母がこの邸へとやって来たのです。父から、これからは義母を母だと思い実母の話はするなと言われました。
これをおかしいと思わない方がおかしいと思いませんかっ? 何故母の話をしてはいけないのです? 何故母が亡くなったばかりだと言うのに幸せそうに他の女性を家に住まわせるのです?!
何故まだ喪も明けていないのに当然のように愛人が邸に住んでこの家の夫人のような振る舞いをする事を父や周りの大人は誰も不思議に思わないのですか?!
それをおかしいと思っても仕方がないじゃないですか?!
……でもそれを父に訴えても継母や義妹の気持ちを何一つ考えてやれない酷い娘だと叱られました……
父は……父の態度は、母が亡くなって当然で……分かっていたかの様な態度でした……」
震える唇でそう言ったルイーゼが話を聞いていた調査隊を見る。
その顔は血の気が失せて恐怖に染まっていた。だが目だけはしっかりと強い意志を持ち、調査隊員たちを見ていた。
「あ、あのっ!!
毒というのは亡くなっても体に残るんですよね?!
は、母の遺体を調べてはもらえませんか?!
もしかしたらお母様は……っ!!」
それ以上は言葉にできずにルイーゼは泣き出してしまった。部屋の隅に待機していた侍女のハンナとサリーが直ぐにルイーゼの側に寄り添い、震えながら泣く彼女を慰めた。
最後まで聞かなくてもルイーゼが何を言いたいのかを全員が理解した。
『もしかしたらお母様は、
毒で殺されたのかもしれない!』
調査隊は直ぐにその話を国王の耳に入れた。
国王は直ぐ様別の調査隊をルイーゼの実母の墓に向かわせ、その遺体を調べさせた。
死後10年が経ち、既に白骨化していているだろうと思われたルイーゼの母の遺体は、なんと人の形を保ち、内臓の形が残っていたという。
そして調べられた結果、そんな神がかり的な異常をもたらしていたのはやはり、毒が体内に影響していたからだと分かった。
アントン・ロッチは自分の前妻を……ルイーゼの母を殺した毒により、自分の犯行を証明されたのだ。
アントンがどれだけ自分は知らないと騒いだところで、ルイーゼの母を殺して利を得る者はアントンしか居なかった。
実行したのは執事や他の者かもしれないが、命令したのはロッチ侯爵家当主であるアントンしか考えられず、尋問された執事たちもアントンの命令だったと供述したことにより、ロッチ侯爵家当主アントンは妻殺しの罪により捕まった。
義母ナヴィアはカミラとアントンが王城に捕まり罪に問われている現実に、突然ルイーゼに媚を売るように擦り寄りだした。だがそれをルイーゼの周りに居た侍女やメイドたちが跳ね除け、ルイーゼには近付かせないようにした。
そしてその後、アントンとカミラの話が噂話のように貴族の耳を駆け巡ると、話を聞きつけた先代のロッチ侯爵夫妻が慌ててルイーゼの元へとやって来た。
そしてそんな祖父母の働きにより義母ナヴィアは直ぐにロッチ家から絶縁を叩きつけられ、そしてルイーゼの前から消えた。
だが、ナヴィアがただ追い出されただけなどとはルイーゼも思ってはいなかった。ルイーゼの母親を殺したのは父アントンだったかもしれないが、それを一番喜んだのはナヴィアだったであろうと誰でも想像できるからだ。祖父母たちもきっとそうだろうとルイーゼは思った。
ルイーゼの予想通り、祖父母たちはナヴィアを絶縁だけでは許さず、表向きは実家に返した事にして人知れず強制労働場へと送っていた。ナヴィアは逃げようとしたが頭を殴られ失神したところを縄で縛られ、気付いた時には強制労働場の男たちに囲まれていた。
若いと呼ばれる年齢ではなくなってはいても、ナヴィアはスタイルの良い美女だった。そんな女性が男たちばかりがいる強制労働場に放り込まれれば何をされるかは目に見えている。ナヴィアは抵抗虚しく直ぐに全裸にされて汚れとホコリまみれの男たちの慰み者になった。こんな場所にいるくらいなら娼館の方がマシだとナヴィアがどれだけ叫んでも助けが来ることはなかった。
そして……
ルイーゼが悲しみにくれている間に、
実父は妻殺しの罪により身分剥奪の上で永久投獄となり、
カミラは王子殺しの罪で処刑された。
毒による最期だった。
アントンは刑が下された時になって漸く罪を認めた。
だがそれでも謝罪の言葉などなかった。
何故に今頃になって?! 誰かの策略だ?! もう今更だろう!! 妻もきっと許してくれている!! 仕方がなかったんだ!! 愛する女を妻にしたかったんだ!! そんな昔の事を言い出すなんておかしいだろうが!! 私はロッチ侯爵家当主なんだぞ!!!!
そんなアントンの叫びをまともに聞く者は居らず、アントンは猿轡をされて入れば二度と出てくることはない監獄へと送られて行った。
カミラは最後まで、自分は何もやっていない、知らない、クッキーを作ったのはルイーゼだ、ジャスティン様を愛していた、と訴えたがカミラもまた、その言葉を誰かに受け止めてもらえることはなかった。
カミラは無理やり唇を開かされて毒を口へと流し込まれ、そして苦しみの中で息絶えた。その死に方はジャスティンと同じ様に見えたという……
カミラが犯行を否定していた為に動機が分からず終いだったが、カミラがジャスティンに愛を囁く裏で他の令息とも距離を縮めていたことが分かっていた。
その為にカミラがジャスティンへの愛を叫べば叫ぶほどに疑いの目が強くなったのだ。
『本命の男が他にいたのでは?』
『義姉から婚約者を奪い、一度は王子の婚約者の立場を得て、王子が亡くなれば“悲劇の令嬢”として皆の同情を貰える。
王子が亡くなったのだからカミラ自身に瑕疵が無いことは明らかだ。その後本命の男と結ばれても誰にも咎められないだろう』
『その本命の男とは? それが裏で糸を引いていたのでは?』
『いや、そんな人物は見つかってはいない』
『ただカミラが一人で実行したのだろう。カミラが義姉であるルイーゼから物を取るのはロッチ侯爵家では当然のことになっていたようだ。“悲劇の令嬢”になることは後から考えついたのではないか? まず第一王子を義姉から奪うことが目的にあったのだろう』
『取った後で邪魔になったのか』
『毒の入手経路は?』
『まだ捜索中だ。だがアントン・ロッチが妻に使った毒の入手経路もまだ分かってはいない。きっと同じような手を使っているに決まっている』
『恐ろしい親娘だな』
その一年後、アントンが使った毒の入手経路が分かり、そこから出た毒のどれかがカミラが使った毒だろうと結論付けられた。
何故そんなに曖昧かというと、毒の製造元がとてつもなく大量の毒を持っていて、それでいて多種多様な毒を作っていたからだった。作っていた本人も既にどれがどの効果か、どれとどれを混ぜて作ったかすらも覚えていないほどだった。
そこからカミラが使った毒の一つを探し出すのは不可能だと、王家の調査隊は諦めた。
毒の製造者の男が世界的な指名手配犯であったこともその理由の一つだった。
男は世界で一番大きな国に連行され、そこで全ての罪を明らかにして罪を償うことになる。カミラやアントンが使ったと思われる毒の調査はそちらへ丸投げされることになり、結果がわかるかどうかも怪しかった……
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