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11>>王宮からの使者
しおりを挟むポリパリポリ。
サクサク。
美味しそうな音を立てながらルイーゼは侍女やメイドと一緒にキッチン内で出来立てのクッキーを食べていた。
「ほんと、信じられないですよ!」
「いいのよ」
プリプリと怒りながらクッキーを食べる侍女ハンナに、ルイーゼは困ったように笑いながら返事をする。
侍女ハンナはずっと怒っていた。
ロッチ侯爵家の後妻はとても性格が悪く最悪だった。男爵家の出の癖にルイーゼの母親から旦那様を奪っただけでなく、奥様が儚くなった途端にこの侯爵家に入り込んで好き勝手しだした。
本来ならば前妻の娘であり正当なるこの侯爵家の嫡子であるルイーゼお嬢様を大切にしなければいけないのに、この家の夫人になった途端にルイーゼを邪険にし始め自分の娘であるカミラを優遇しだした。それに異を唱える使用人は見境なくクビにすると脅す。
そんな性格の悪い女に育てられたカミラもクソだった。ルイーゼから色んな物を奪い、遂には婚約者まで奪っていった。そして今度はルイーゼの功績までもを寄越せと言う。
ハンナからすれば理解ができなかった。
「お嬢様ももっと怒って下さい! 私たちがクビになってもいいじゃないですか!」
「そんなこと……」
返事に困って苦笑するルイーゼにメイドのシャルも流石にハンナを止めに入った。
「言い過ぎですよ。それにクビになって困るのは私たちじゃないですか」
「でも~っ!」
ヤケ食いとばかりにクッキーを3枚一度に口に入れたハンナに、ルイーゼとメイドのシャルが目を合わせて苦笑した。
そんな時だった。
ガチャッと大き目の音を立ててキッチンの扉が開いた。そして見たこともない男たちが数名キッチンの中へと入って来る。
メイドと侍女は慌てて動いてルイーゼを守る様に立った。
「…………」
このキッチンの中に居たのはルイーゼと侍女2人にメイドが2人。
そこに押し入って来た男たちは3人。
その3人の男たちが黙って部屋の中に居た女性たちを見渡して、そしてハンナをジッと見ていた。
「な、なんなんですか、あなた達は!?」
口いっぱいにクッキーを頬張っているハンナが喋ることができないので、もう一人の侍女サリーが声を出した。
彼女もクッキーを食べていたので口元を手で触りながら自分の口の周りにクッキーカスが付いていないかを気にしている。
他のメイドたちやルイーゼまでもが同じ様に口の周りや胸元にクッキーカスが落ちていないか気にして手を忙しなく動かしていた。
だが全員が突然部屋に入って来た不審者たちを見ていた。ハンナやサリーそしてメイドのシャルは不審者たちを睨みつけた、ルイーゼやメイドのトトは怯えと困惑が入り混じった目をして男たちを見ていた。
「……コホン」
一番偉そうな男がわざとらしい咳払いを一つした後に口を開いた。
「……クッキーを、食べたのか」
その言葉にルイーゼたち全員が訝しげに眉間にシワを寄せた。
「……食べる為に作ったので……」
ルイーゼが困ったように返事をした。
クッキーを作ったのに食べないとかあるのか? と顔面に書いてあって聞いた男の方が逆に困ったような顔をした。
「…………?」
ルイーゼは意味が分からずに怪訝な表情をする。
口いっぱいにクッキーを頬張っていた侍女ハンナが口の中のクッキーを食べ終えて自分用に置いてあったグラスの中のお茶を飲むと、皆が聞こえる程にゴクンと喉を鳴らした。
そして改めて男たちを睨みつけた。
「貴方たちは誰なんですか!!
ここはロッチ侯爵邸! そしてここに居られるのはロッチ侯爵家が嫡子、ルイーゼ・ロッチ様ですよ!
そのルイーゼ様の使用する場所に押しかけてくるとは何事ですか!?」
先程まで木の実を口に貯めた小動物の様に頬を膨らませていた女性とは思えないような威厳に満ちたハンナの怒鳴り声に男たちは一瞬たじろぐ。
互いに顔を見回した男たちは、改めて姿勢を正してルイーゼに向き合った。
「我らは国王の指示でここに来ました。
ルイーゼ様、ここにあるクッキーは貴女様が作られた物ですか?」
厳しい顔つきになった男がルイーゼを見る。
ルイーゼは怯みながらもそんな男と向き合った。
だが何と答えて良いのか困ってしまう。
「……えぇっと…………」
目を泳がせたルイーゼに男は「あぁ」と続けた。
「侯爵夫人に話は聞いております。
夫人はクッキーはルイーゼ様が作ったと言っておりましたよ。『カミラが作ったことにしろと言っただけで、カミラはクッキーなんて作っていない』、と」
それを聞いてルイーゼはホッと息を吐いた。
「……お義母様がそう言われたのでしたら嘘を吐く必要はないのですね。
はい。ここにあるクッキーは全てわたくしが作りました」
「捨てた物は?」
「え?」
男の言葉にルイーゼは意味が分からずに聞き返してしまった。
しかしルイーゼの横でハンナが怒りに顔を赤くして反論した。
「お嬢様が作った物を捨てるなんてありえません!?
お嬢様の作る物は、お嬢様が失敗作だと言った物でも美味しいのですよ!!
お嬢様が捨てたって私が食べます!!」
フンスッ! と鼻息荒く反論する侍女ハンナに、男たちはやはり何とも言えない戸惑いの表情をしていた。
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