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8>> 義母の命令
しおりを挟む義母ナヴィアは、到底家族に向けるものとは思えないような見下した目でルイーゼを見て語りかける。
「カミラは王子に捨てられた義姉を可哀想に思ってそれを許していただけよ?
それなのに、平民にチヤホヤされてそれを忘れてしまった義姉に、困ったカミラが自分の権利を取り戻すと言い出しただけなのよ。
分かる?
本来カミラが受け取るはずの称賛や礼賛を貰って、調子に乗ってしまった様だけれど、それもここまで。
下賤の民の声であっても、それは次期王妃のカミラに向けられなければいけないものなのよ。
だから分かるわよね?
ロッチ侯爵家で作られた焼菓子は全てカミラが作った物。
貴女はそれを自分が作ったと嘘を吐いていたの。
本来ならば罰を与えるところだけど、カミラの為に大目に見てあげるわ。
だから貴女も理解してわきまえなさい。
貴女はカミラを手伝っただけ。
これから誰に何を聞かれても、焼菓子はカミラが作ったものだと言いなさい。
いいわね?」
ナヴィアの圧の籠もったその言葉にルイーゼは反論することもできずに口を閉ざす。唇を噛み締めていなければ震えてしまいそうだった。
「…………」
悲痛な顔で何も言えなくなってしまったルイーゼを侍女やメイドたちが心配する。
「そ、そんな……お嬢様……」
しかしそんな使用人の態度にナヴィアは眉間にシワを寄せて不満を示した。
そして、侍女たちを見渡して声をかける。
「貴女たちも。使用人が誰に雇われているか思い出しなさい。
カミラの邪魔になるのなら、貴女たちなど直ぐにクビにしてやるから」
「「ヒッ……!」」
ナヴィアの言葉に侍女たちは恐怖に顔を引きつらせた。小さく上がった悲鳴にルイーゼは強張らせた顔を上げてナヴィアを見て叫んだ。
「お止め下さい! 彼女たちはただわたくしを手伝ってくれているだけです!」
「なら、全て貴女の責任ということね。
で? どうするの? 貴女の選択次第では彼女たちも無関係という訳にはいかないでしょう? だって彼女たちは『貴女の』手伝いをしているのですものねぇ」
目を細めてルイーゼを見るナヴィアの目を見ていられなくてルイーゼは視線を逸らす。心配げに自分を見てくる侍女たちの視線が痛いほど分かってルイーゼは一度目を閉じた。
そして眉間にシワを寄せたままで目を開けたルイーゼは、しっかりとナヴィアと目を合わせた。
「……わかりました。
“お菓子はカミラが作った物”です。
わたくしはただ“その手伝いをしていた”だけ……そうちゃんと、皆に伝えます……」
そう言ったルイーゼの言葉に、ナヴィアはニンマリと笑った。
「そうよ。分かっているわね。
素晴らしいのはカミラなの。
皆に褒めそやされるのはカミラただ一人。
貴女じゃないわ」
釘を差すように言われた言葉にルイーゼは目を閉じる。
「はい」
弱々しく紡がれた返事を侍女たちは沈痛な面持ちで聞いていた。
キッチン内に満ちた悲愴感など全く意に介さずに、ナヴィアはルイーゼの返事を聞いて口元に弧を描いて笑っていた。
「分かっているのならいいのよ。
じゃぁこれからもカミラの手伝いとしてお菓子作りを頑張りなさい。
カミラの為にね」
「はい、お義母様……」
ルイーゼは去っていくナヴィアの後ろ姿に頭を下げて見送ることしかできなかった。
嫌がったところで勝つ見込みはないどころか、最悪侍女たちが解雇される恐れがあった。
侍女やメイドたちも頭を下げながら何もできない悔しさに顔を歪ませていた。
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