上 下
7 / 13

7>>婚約破棄

しおりを挟む
-




「ミレニア・セルス侯爵令嬢!
 私は貴女との婚約をこの場で破棄する!!」

 学園の卒業式が終った会場でそう叫んだこの国の第一王子に場は騒然となった。

 メロディーはこの時ただエイドリックたちに囲まれていた。それで良いとエイドリックたちに言われていたからだ。

『何も心配いらないよ。全て上手くいく。
 幸せになるんだ……』

 そう言って微笑むエイドリックに見惚れながら、メロディーはただ頷きみんなを信じて全てを委ねた。

 だから卒業式で起こった暴挙にメロディーは当事者であって当事者ではない面持ちでただもうエイドリックたちの言葉を肯定するしかなかった。


「ミレニアは私の寵愛を受けたメロディーに嫉妬し、自らの立場を利用して人を使いメロディーを陰湿に虐めた。そしてそれだけでは飽き足らず、メロディーに暴漢を差し向けて彼女の尊厳を傷付け、そのまま亡き者にしようとしたのだ!!
 その所業は許せるものではない!!
 未来の国母となる女とは思えぬ浅ましさだ! 恥を知れ!!」

 エイドリックは怒気をはらんで言い放つ。その言葉にメロディーは内心目を白黒させていた。
 全部初耳だったからだ。

 虐められた記憶もない。
 令嬢たちにキツく当たられはしたがそれは仕方が無いと受け止めていた。それを虐めとは思っていないし、言葉がキツいだけで虐めだと思う程メロディーは弱くはない。
 しかしそんなメロディーを気にすることなくエイドリックやセルジュたちがミレニアたちがメロディーを虐めたと言い放つ。ロンゼンが証拠だと紙の束を持ち出したりアルドーナが剣を持ち出してミレニアたちを威嚇したりした。
 メロディーはそれらをただ怯えて見ている事しかできなかった。

 何かが動き出してしまったと、それだけが分かった……


「わたくしにはどれも身に覚えのない事です」

 ミレニアが凛とした姿勢ではっきりと否定する。
 セルジュたちの婚約者たちも口々にハッキリと否定した。

「婚約破棄を受け入れます。
 しかし、その理由はそちら側の不貞行為が理由です。全ての証拠も証言も集めております。
 この国では婚姻前に妾を作る事は許容されてはおりません」

「メロディーは妾などではない!
 私の伴侶! 未来の国母となる女性ひとだぞ!!」

「エイドリック第一王子殿下。
 殿下はいつ王太子になられたのですか?」

「なっ!? 不敬だぞ!!」

 メロディーはエイドリックに肩を抱かれながらただエイドリックとミレニアのやり取りを聞いていた。エイドリックの初めて見る姿と声の大きさに驚きしかない。
 ただ訳が分らないままに話が進み、卒業式にお忍びで参加されていた国王陛下が出て来て会場は更に混乱した。

 気付けばメロディーは騎士たちに囲まれて会場を出され、エイドリックとは別の馬車に乗せられた。メロディーと一緒にロンゼンとアルドーナが居た。

 ただ怯えるメロディーに二人は優しく寄り添う。

「大丈夫だよメロディー。後はもう怖いことなんかない」

 ロンゼンが微笑む。

「俺たちが居る。
 信じて待っていてくれ」

 メロディーの手を握って力強く頷くアルドーナに、メロディーはただただ困惑した微笑みを浮べて答えるしかできなかった。

 ──ねぇ? 何が起きてるの?──

 その言葉には優しい微笑みしか返っては来なかった。




-
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄後のお話

Nau
恋愛
これは婚約破棄された令嬢のその後の物語 皆さん、令嬢として18年生きてきた私が平民となり大変な思いをしているとお思いでしょうね? 残念。私、愛されてますから…

死に戻るなら一時間前に

みねバイヤーン
恋愛
「ああ、これが走馬灯なのね」  階段から落ちていく一瞬で、ルルは十七年の人生を思い出した。侯爵家に生まれ、なに不自由なく育ち、幸せな日々だった。素敵な婚約者と出会い、これからが楽しみだった矢先に。 「神様、もし死に戻るなら、一時間前がいいです」  ダメ元で祈ってみる。もし、ルルが主人公特性を持っているなら、死に戻れるかもしれない。  ピカッと光って、一瞬目をつぶって、また目を開くと、目の前には笑顔の婚約者クラウス第三王子。 「クラウス様、聞いてください。私、一時間後に殺されます」 一時間前に死に戻ったルルは、クラウスと共に犯人を追い詰める──。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」 「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」  公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。 * エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

処理中です...