妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ

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39>> これは未来の話 

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「次女じゃ、だめなの……っ、
 わたくし、わたくしはっ、育てられない……っ!!」

 そう言って泣き出してしまったルナリアにグリドは困惑して焦った。
 胸に抱いている産まれたばかりの娘は大人しく寝ている。その子をいたわるように大切に抱きながら、グリドはルナリアをなだめ寄り添おうとワタワタした。

「な、何がダメなんだ?
 それにこの子は“次女”じゃないよ?」

「次女よ! 二番目に生まれたんだもの……っ」

「でも一人目は男の子だったんだから、この子は“長女”だよ?」

「長女…………」

「そう。なんだから、長女だよ?」

「でも……」

 何かに怯えて苦しそうに涙を流すルナリアにグリドはオタオタすることしかできなかった。それでも、『自分の伴侶』を守らなければと足りない知識で考えを巡らせた。

「リア、ルナリア。
 大丈夫だから、安心して。ルナリアは一人じゃないだろ? 私が居るよ。頼りないけど、ルナリアを一人にしたりしないから。安心して。
 不安なら人を呼ぼう!
 お義父様を呼ぶ? それともうちの母様がいいかな? あ、兄様! いや、兄様じゃ駄目か、お義姉様(兄の嫁)の方が話が合うな、お義姉様にしよう!
 ルナリアは今ちょっと不安になってるだけだよ。出産したばかりだもの。疲れが溜まっちゃってるんだよ。だから変なこと考えちゃうんだ。今だけだよ。だから気にしなくていい。大丈夫だから。ね?
 いや、お前が言っても説得力ないよ! ってなるか! ゴメンね!
 すぐにお義姉様に来てもらえるように連絡するから! 今はルナリアは安静にするんだよ?
 あ、子持ちのメイドたちに側に居てもらおうか! そうだな! そうしょう!

 誰か! 子持ちの女性たちを集めてくれる? ルナリアの側に居てもらって!」

 そう声を上げたグリドの声に反応したのか、抱かれていた娘がワアアンと大きな声で泣き始めた。

「あ! ごめん! ごめんね!!
 父様が悪かったね! あぁっ!?
 どうしよう……っ?!」

 娘を抱きながら慌てるグリドにルナリアは最初唖然とした。そして……なんだかグリドのその姿が面白くて、涙を浮かべながら少し笑ってしまった。

「ほら……私に抱かせて」

 そう言って微笑みながらグリドに両手を差し出すルナリアに、グリドの方も困ったように、それでも笑いながら娘を母親に差し出した。

「…………かわいい」

 母親に抱かれた途端に泣き止んだ娘の顔を見つめながら、ルナリアは呟いた。
 その姿をグリドは微笑ましく見守る。

「凄く可愛いよ……
 ありがとう、ルナリア」

 グリドの言葉にルナリアは眉尻を下げながら笑った。

 ルナリアの恐怖は、母親サバサに似ている自分が『母親サバサのようになる事』だった。
 鏡を見ればどんどんと母親サバサに似てくる自分にルナリアは恐怖していた。
 何も知らずに母に依存していた自分が、もしかしたらその依存する気持ちすらも母親から植え付けられた感情だったかもしれないと思うと、底知れない恐怖がルナリアを襲った。
 母親と自分は違うと思っていても、でももしかしたら、と考えてしまう。自分はあれだけあの母の側にいたのだから、あんなにお母様が好きだったんだから……と……

 第二子を妊娠したと知った時、この子も男児であればと何度も願った。“次女”では駄目だと何度も思った。
 次女だと自分も母親サバサのようになるかもしれないから……
 しかしグリドは言う。
 『一人じゃない』と『誰かに頼れ』と。
 そしてグリドが言うように、ルナリアには助けを求めれば手を差し伸べてくれるだろう人たちの顔が思い浮かぶ。
 その事が、『自分は母親サバサとは違うんだ』と思わせてくれる……
 ルナリアの不安が徐々に薄れていく気がした……

「……信じて……るから……」

 娘を見ながら溢れるように囁かれたルナリアの言葉は小さかったが、それでもちゃんとグリドの耳には届いた。

「頼りなさには自信があるが!
 家族を守る自信だけは山より高いぞ!!
 私は絶対にルナリアと子供たちを裏切らないと誓う!! いや、“裏切らない!”という事だけが、私が命を掛けてもやり遂げられる事だと言っても過言ではないかもしれない!! うん! そうだ!! だから、任せてくれ!!!」

 ドンッと自分の胸を叩いて胸を張るグリドの言葉に、ルナリアは笑った。
 グリドに呼ばれてやって来た子持ちのメイドたちにグリドが部屋から追い出されるまで、ルナリアは娘を抱きしめながら笑った。 
 それは久しぶりに見せるルナリアの心からの笑顔だった。





 …………部屋の外からそのやり取りを聞いていたロッチェンはグリドが部屋から出てくる前に静かにその場を離れた。

 自分がちゃんと娘たちと向き合わなかった所為で、ルナリアは全てを背負うことになった。その心労はどれほどのものだろう……
 ルナリアは甘やかされて、真綿の中で育ってきた。そんなルナリアが、突然世界が変わり、棘だけに囲まれた世界に放り込まれることになったのだ。子供の頃からそこで育った者よりも、酷く苦しくツラい思いをする事となっただろう……
 ゆっくり慣れる時間すら与えてやることもできなかった。
 全ては父親であるロッチェンの所為で……
 母親サバサの所為にはしない。
 サバサの横で、何も知ろうとはせず、何も関わろうともせずに、馬鹿のように平和な世界だと思い込んでいた自分が全て悪いのだとロッチェンは理解していた。

 アリーチェ長女はそんな自分の元から逃げ出してしまった。
 もう二度と挽回の機会はない。
 ロッチェンがアリーチェ長女の為にする事を許されているのは、謝罪し続け、心の中で幸せを願い、二度と迷惑をかけないようにして、このエルカダ侯爵家を維持し領民を守り、アリーチェ長女がこちらを見た時に何ら心を乱さないで気にしなくていいようにすることだけだった。
 そして……それとは例外的に、読まれないと分かっている手紙を出すことを、ムルダから言われて、続けている。

 アリーチェが謝罪を受け取らない事、と、ロッチェンが謝罪し続ける事、は別の事だからだ。
 アリーチェに『自分の父親は自分に謝罪を続けている』という認識を持ってもらうことに意味があるのだとムルダに言われたロッチェンは、唯一許された繋がりなのだと感謝して、決して読まれることのない手紙を書き続けている。
 ロッチェンがアリーチェ長女にできることはもうそんなことしかないのだ。

 だが、次女は、ルナリアには、やろうと思うことは何でもできる。

 ロッチェンはルナリア次女が必要としなくても、ルナリア次女の為に何でもしようと心に決めた。
 『当主補佐』『当主代理』の仕事はロッチェンがルナリア次女にできる最大で唯一の贖罪であった。しかしそれはアリーチェ長女にやらせようとしていたことをの事だ。アリーチェ長女に人生をかけてさせようとしていたことをするだけで、それを『謝罪』とする……そんなことしかできない自分を……ロッチェンは恥じた。

 だが逃げ出すことは許されない。自分が死んだところで残されたルナリア次女たちが苦しむだけだ。死んでも誰も喜ばない。
 もどかしい気持ちを抱えながら、ロッチェンは生きて自分のできることをするしかないのだと自分に言い聞かせた。

 ルナリアが望むなら、この命尽きるまで、この家に尽くそう。
 堕落しては困るが、ルナリアやその子供たちが笑って暮らせる為ならば、自分はこの人生を仕事だけに費やそう。

 許されることは願わない……
 ただ、あの子達の幸せの為に……

 ロッチェンはそう心に誓った。




 ……そして……──









 ─────
※入れるところがなかったので枠外で書きますが……
【アリーチェはグリドのことむしろ苦手でした(悪意は無いけどアホなんで)。なのでルナリアの方に行って、ちょっとホッとしてましたね。アリーチェのブチギレポイントは『親の裏切り』です。なのでぶっちゃけアリーチェ的にはグリドはアウトオブ眼中、意識外でした(-_-)】
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■感想やエールやブクマを頂き、本当にありがとうございました😄
■時々『感想とは判断出来ないもの(作品内容に触れていない)(個人の妄想)(他の人が見たら気分を害しそうな言葉使い)』があり、それは『却下』させてもらっております。こちらも反応にも困るのでスミマセン。






□□■〔 注意 〕
※この話は作者(ラララキヲ)がノリと趣味と妄想で書いた物です。
 なので『アナタ(読者)の"好み"や"好き嫌い"や"妄想"や"考察"』等には『一切配慮しておりません』事をご理解下さい。

※少しでも不快に感じた時は『ブラウザバック』して下さい。アナタ向けの作品ではなかったのでしょう。

■えげつないざまぁを求める人が居たので私的なやつを書いてみました。興味のある方はどうぞ😁↓
◇〔R18〕【聖女にはなれません。何故なら既に心が壊れているからです。【強火ざまぁ】


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