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37>> グリド・3 

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 あれ?
 婿入りってもっと楽じゃなかったのか?

 そうグリドは思ったが、言える雰囲気ではなかった。
 ルナリアは常に疲れていた。

 話を聞いたら夜中まで勉強しているという。何故そんな事をと聞くと、「自分が次期当主だからしなきゃいけないの」、と言われた。
 そう言えばそうだな、とグリドは思った。
 ロッチェン義父からも、「アリーチェが時間を掛けて覚えてきた事をルナリアは今から覚えなければいけないのだ」、と言われればそうなのかと思った。
 そして、
「アリーチェが長年かけて覚えてきた事をルナリアは今から覚えなければならない。だからグリドくん。君もルナリアを支えるために頑張ってくれ」
そう言われてしまった……
 そう言われてグリドが思った事は……

 ──なんでアリーチェは出て行ってしまったんだよ……──

 だった。
 アリーチェが居たらこんな大変なことなんてしなくていいのに……
 そんなグリドの雰囲気が伝わってしまったのか、ルナリアがグリドを見る目に不信感が浮かぶようになった……

 ルナリアは既に愛や恋だけを考えていられる立場ではなくなった。
 現実を知ったルナリアが動くのは早かった。

 グリドは婚姻の際に普通では出されないような契約書にもサインさせられた。
 浮気すれば即離婚。家族を邪険にしたら即離婚。冷たくしたら即離婚。脅し暴力即離婚。百日連絡無ければ即離婚などなど、細かいことから話題に上げる事すら失礼だろうと言いたくなるような内容の事まであった。
 そしてその全てで猶予もなく即離婚な上に多額の慰謝料を払う事と書かれていた。
 率直に、酷くないか? と思ったが、サインしなければそこで婚約は解消だと言われてしまえば、グリドにはサインするしかなかった。
 それを愚痴った兄には当然のように、
「お前が嫌がっている意味が分からん。絶対にしないと決まっているのだから、逆に命をかける契約をしても困らないだろう?」
と首を傾げられた。グリドは自分がおかしいのかと悩んだ。

 しかしそんな悩みなんか霞むぐらいの事になった。
 噂の的になった次男をハーゼン侯爵当主は切ったのだ。

 グリドの父は息子の婚約者の変更はちゃんと話し合われて円満に決まったものだと思っていた。
 しかし蓋を開けてみれば婚約者の変更後に元婚約者が実家を出た上に他家の養子になった。
 これで、『アリーチェ彼女の変化は婚約者の変更が理由ではない』とは言えないだろう。当然、その原因となった元婚約者の親にも噂の目は向けられる。

 ハーゼン侯爵家は『婚約者の妹に手を出す男を育てた家』という目で見られるようになった。
 面白おかしく「ハーゼン侯爵家の紳士教育は奇抜ですなぁ(笑)」と噂される事をグリドの父は我慢できずに、『あれは息子が勝手にやった事。そんな事をする子はうちの子ではありません!』と世間へと縁切り宣言をしたのだ。

 これにはさすがのグリドも慌てた。
 ルナリアに離婚されれば自分は帰る家すらない“平民”となる上に、慰謝料を肩代わりしてくれる人も居ないのだから当然慰謝料が払えず、最悪エルカダ侯爵家の手により強制労働所送りにされるかもしれないのだ。
 苦し紛れにグリドはルナリアに、離婚したら君も困るだろう?──子供が生まれなければ侯爵家が困るだろう?──と言ったのだが、ルナリアは疲れた顔をして、

「そうなったらそうなったで……いいかもしれないね……
 わたくしが修道院に入れば噂もきっと消えるもの……親戚の誰か……そういえばおばさまの孫がいたような……」

そんな事をルナリアが考えだしたので、慌てたのはグリドの方だった。




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