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36>> グリド・2 

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 いけないことだとは分かってはいたが気持ちを抑えられなかった。
 むしろ……『いけないこと』だったからこそ、恋心は燃え上がったのかもしれない……

 そんなグリドに悲しそうなルナリアの声が、囁くように耳から頭に浸透する……

「お姉様なんて嫌い……」

 あぁやっぱり……
 そうグリドは思った。

 ルナリアとアリーチェは一緒に居ても義務的な会話しかしていない。大人しいアリーチェはともかく、感情豊かなルナリアがわざとアリーチェと目が合わないようにしていることから、この姉妹の間には何かあるのだろうとグリドも思っていた。
 違和感を感じていた事に答えを貰ってグリドはすんなり納得した。
 そしてその言葉を受けてグリドのアリーチェへのイメージが変わった。

 ──アリーチェは妹に嫌われる程に嫌な女だったんだな──
 ──そんな女が婚約者なんて嫌だな──
 ──それならルナリアの方が良いに決まってる……──

 『許されない関係』に『でもアリーチェに問題がある』という免罪符が付いた瞬間だった。

 アリーチェを嫌うルナリアの話を聞いてアリーチェに不満を持つようになったグリドは、自分の婚約者がルナリアであればいいのにと思った。

 そこに『当主の仕事』や『義務』などという考えは無い。
 ただ『婚約者がルナリアだったらいいのに』としかグリドは考えていなかった。

 そしてそんなグリドの考えをまた後押ししてくれる存在があった。

 婚約者の母親サバサだ。

「こんなに愛し合っている二人を引き裂くなんて可哀想よ。
 幸いルナリアにはまだ婚約者がいないんだもの、グリドくんをルナリアの婚約者にすればいいのよ。
 そうすれば全てが丸く収まるわ。
 
 グリドくんの婚約者となったルナリアが跡継ぎとなり、この家を継げばいいのよ!
 婚約者が姉から妹に変わるだけだもの、大した問題じゃないわ!」

 サバサのその言葉はグリドを勇気付けたし、グリドの両親を説得するのにとても有益ゆうえきなものとなった。
 ──令嬢たちの母親がそう言うのだから、エルカダ侯爵家では話がまとまっているのだろう。グリドが婿に入れるのならばそれでいい──と、グリドの父はその提案を受け入れた。

 グリドは歓喜した。
 ルナリアと結婚できる!!
 好きなひとと結婚できる!!!

 舞い上がっていたグリドにはその後聞かされた「アリーチェは家を出た」という話は謎でしかなかった。

「何故アリーチェは家を出てしまったんだ? そんなにすぐに嫁ぎ先が見つかったのか?」

 そんな脳天気な事しか考えられなかったグリドには、その後の日々は青天の霹靂であった。

 常に幸せそうに微笑んでいたルナリアは常に疲れた表情をするようになった。
 何故か義母となる侯爵夫人サバサとは会えなくなった。
 義父となる侯爵閣下は目の下に隈を作っていた。

 そして、
 グリドにも仕事がたくさん回ってきた。




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