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34>> エルカダ侯爵家
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エルカダ侯爵家はアリーチェが残した噂を消し去ることができずに社交界ではある意味有名になった。
だが、だからといって醜聞で侯爵家がなくなる訳では無い。
アリーチェが残していったものは
『あくまでも憶測』
『長女の想像』
『確証もない噂』
でしかない。
そして、残った家族全員がそれらを否定しているという事も皆の耳には届いていた。
『長女は侯爵の子ではない。
……と、侯爵似の長女が言っていた』
と言う話を聞いて、「長女は侯爵の子供じゃないんだ!!」とそのまま信じる貴族はそうそう居ない……
そんな事をすれば自分の浅はかさを周りに晒すことになり、逆に自分の方が陰で笑われるかもしれないからだ。
エルカダ侯爵家の姉妹を実際に見たことがある者たちは、長女は父親に似ていたし、次女だって、髪や目の色は母親似だから一見父親には似ていないと思いそうだけれど、鼻の形なんかは父親に似ているから血の繋がりは感じられる、と話した。
だが、実際に長女は養子に出て居なくなり、母親は人前に一切出てこなくなり、次女は姉の婚約者だった男と婚約している。
そんな家のことを噂好きの社交界が放っておくのは無理だった。ほとんどの者は『信じてはいないが面白話として』人に話し、一部の者は『噂を信じて』人に話した。
そして噂は尾ビレに腹ビレも付けて人の口を渡っていく。
そんな中で噂は更に最悪なものへと進化した。
「え? 妹の方が種違い?
道理で父親に似てない訳だ」
最初はそんな聞き間違いだった。
しかしその言葉は、何故かアリーチェが言った言葉よりも皆の納得を得て、広まってしまった。
髪の色も瞳の色も父親似の姉より、
髪の色も瞳の色も母親似の妹の方が、
あやしいのではないか……?
噂はそんな噂へと変わってしまった。
実際には、ルナリアを見た者は「なんだ。似てるじゃん」と言って、ロッチェンとルナリアの親子関係を認めた。
だが噂をする全員が侯爵家の人間を直に見られる訳では無い。面白おかしく噂されるそれは、アリーチェも想像していなかった程に広まった。
高位貴族の醜聞ということもあって、国も放置できなくなったが、この国にはまだ血縁関係を確認できる技術は無かったので『絶対的な否定要素』を用意する事は不可能だった。
その為、遂にロッチェンとルナリアは王城に呼び出される事となった──当然サバサも呼ばれたが、人前に出せる状態ではなかった──。万が一があってはいけないからだ。
しかし実際自分の目で二人を見た王家の関係者たちは、むしろ二人を親子じゃないと言う方が無理じゃないか、と結論を出した。
王家が認めたのだからやはり噂は所詮噂だったと皆に通達がされ、エルカダ侯爵家はお咎めを受けることはなかったが、世間を騒がせたとして厳重注意された。
しかしそれで普段通りの日常が戻ってくる訳では無い。
やはり皆は面白おかしくエルカダ侯爵家の事を噂したし、ルナリアは社交界で常に好奇の目で見られ、後ろ指を指されて陰で笑われた。
しかしルナリアは自分から望んで姉の婚約者を選んでその地位を奪ったのだから、そんな風に笑われることも甘んじて受け入れなければいけない。
噂の発生源は姉だが、そう言われても仕方のない立場に自分を立たせたのは紛れもない“自分”だったのだとルナリアはもう理解している。
そもそも自分が姉の婚約者を好きにならなければ良かったのだから……、全てはそこから変わってしまったのだから……、だからこの現状は『ルナリアの所為』なのだと、ルナリアは受け入れた。
それでも……泣き言を言いたくはなる。誰かに話を聞いてもらって、少しでも心を軽くしたいと思うのは仕方のないことだ。だけど……、それを今まで聞いてくれていた母はもうまともに話もできないし、ルナリア自身ももう母に頼りたいなんて思える状態でもなかった。父はあれから心労で一気に老け込み……髪が薄くなってしまった……
ある日、心労がたたってルナリアは倒れた。
過労だと診断されて数日寝込むことになったが、それもルナリアは自分が今まで甘やかされてきたツケだと思った。
訳もなく涙が出たが、今のルナリアには愚痴をぶち撒けられる相手を想像することもできなかった。
あんなに大好きだったグリドにも……姉から奪いたいほど恋したはずのグリドにも、何故か前ほどの熱い気持ちは湧き上がってはこなかった……
ルナリアは、自分が頑張らなきゃいけないのだと、これは自分が招いた結果なのだから逃げちゃ駄目なんだと、唇を噛み締めた。
─────────
【次回→→→Title『グリド』】
エルカダ侯爵家はアリーチェが残した噂を消し去ることができずに社交界ではある意味有名になった。
だが、だからといって醜聞で侯爵家がなくなる訳では無い。
アリーチェが残していったものは
『あくまでも憶測』
『長女の想像』
『確証もない噂』
でしかない。
そして、残った家族全員がそれらを否定しているという事も皆の耳には届いていた。
『長女は侯爵の子ではない。
……と、侯爵似の長女が言っていた』
と言う話を聞いて、「長女は侯爵の子供じゃないんだ!!」とそのまま信じる貴族はそうそう居ない……
そんな事をすれば自分の浅はかさを周りに晒すことになり、逆に自分の方が陰で笑われるかもしれないからだ。
エルカダ侯爵家の姉妹を実際に見たことがある者たちは、長女は父親に似ていたし、次女だって、髪や目の色は母親似だから一見父親には似ていないと思いそうだけれど、鼻の形なんかは父親に似ているから血の繋がりは感じられる、と話した。
だが、実際に長女は養子に出て居なくなり、母親は人前に一切出てこなくなり、次女は姉の婚約者だった男と婚約している。
そんな家のことを噂好きの社交界が放っておくのは無理だった。ほとんどの者は『信じてはいないが面白話として』人に話し、一部の者は『噂を信じて』人に話した。
そして噂は尾ビレに腹ビレも付けて人の口を渡っていく。
そんな中で噂は更に最悪なものへと進化した。
「え? 妹の方が種違い?
道理で父親に似てない訳だ」
最初はそんな聞き間違いだった。
しかしその言葉は、何故かアリーチェが言った言葉よりも皆の納得を得て、広まってしまった。
髪の色も瞳の色も父親似の姉より、
髪の色も瞳の色も母親似の妹の方が、
あやしいのではないか……?
噂はそんな噂へと変わってしまった。
実際には、ルナリアを見た者は「なんだ。似てるじゃん」と言って、ロッチェンとルナリアの親子関係を認めた。
だが噂をする全員が侯爵家の人間を直に見られる訳では無い。面白おかしく噂されるそれは、アリーチェも想像していなかった程に広まった。
高位貴族の醜聞ということもあって、国も放置できなくなったが、この国にはまだ血縁関係を確認できる技術は無かったので『絶対的な否定要素』を用意する事は不可能だった。
その為、遂にロッチェンとルナリアは王城に呼び出される事となった──当然サバサも呼ばれたが、人前に出せる状態ではなかった──。万が一があってはいけないからだ。
しかし実際自分の目で二人を見た王家の関係者たちは、むしろ二人を親子じゃないと言う方が無理じゃないか、と結論を出した。
王家が認めたのだからやはり噂は所詮噂だったと皆に通達がされ、エルカダ侯爵家はお咎めを受けることはなかったが、世間を騒がせたとして厳重注意された。
しかしそれで普段通りの日常が戻ってくる訳では無い。
やはり皆は面白おかしくエルカダ侯爵家の事を噂したし、ルナリアは社交界で常に好奇の目で見られ、後ろ指を指されて陰で笑われた。
しかしルナリアは自分から望んで姉の婚約者を選んでその地位を奪ったのだから、そんな風に笑われることも甘んじて受け入れなければいけない。
噂の発生源は姉だが、そう言われても仕方のない立場に自分を立たせたのは紛れもない“自分”だったのだとルナリアはもう理解している。
そもそも自分が姉の婚約者を好きにならなければ良かったのだから……、全てはそこから変わってしまったのだから……、だからこの現状は『ルナリアの所為』なのだと、ルナリアは受け入れた。
それでも……泣き言を言いたくはなる。誰かに話を聞いてもらって、少しでも心を軽くしたいと思うのは仕方のないことだ。だけど……、それを今まで聞いてくれていた母はもうまともに話もできないし、ルナリア自身ももう母に頼りたいなんて思える状態でもなかった。父はあれから心労で一気に老け込み……髪が薄くなってしまった……
ある日、心労がたたってルナリアは倒れた。
過労だと診断されて数日寝込むことになったが、それもルナリアは自分が今まで甘やかされてきたツケだと思った。
訳もなく涙が出たが、今のルナリアには愚痴をぶち撒けられる相手を想像することもできなかった。
あんなに大好きだったグリドにも……姉から奪いたいほど恋したはずのグリドにも、何故か前ほどの熱い気持ちは湧き上がってはこなかった……
ルナリアは、自分が頑張らなきゃいけないのだと、これは自分が招いた結果なのだから逃げちゃ駄目なんだと、唇を噛み締めた。
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【次回→→→Title『グリド』】
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