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29>>母親になれなかった女・1
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それから数日後、手紙のやり取りでロッチェンとムルダが話し合った結果。アリーチェはイフィム伯爵家へと養子に入った。
サバサが謝罪でもしていれば、もしかしたらまだやり直す可能性もあったかもしれないが、アリーチェの覚悟は揺らぐ事はなく、無理に家に戻そうとすればアリーチェが失踪するか最悪自害するかもしれないとムルダに言われれば、ロッチェンはもうどうする事もできなかった。
アリーチェが居なくなったエルカダ侯爵家はただただ重い空気だけが漂っていた。
サバサはそれもこれも全部全部アリーチェの所為だと怒り続け、家族だけでなく使用人たちをも鬱屈とした気持ちにさせた。それが更にサバサを嫌な気持ちにさせてサバサのストレスとなった。
そして更にサバサの心を乱したのはルナリアだった。
あんなに懐いて慕ってくれていたのにあの日からルナリアはサバサと距離を取り始めた。お母様お母様と何かに付けて側に来ていた末娘が自分に笑顔を向けてくれなくなった事にショックを受けたサバサは更に荒れた。
使用人たちが自分を見る目が気になった。外になんて怖くて行ける訳がなかった。
夫はアリーチェの言葉を信じていないとサバサに言ってくれているが、世間までがそうだとは思えない。サバサは自分に突き付けられた『不貞』や『傷物』という“可能性”に怯えた。
本当に娘たちはロッチェンの子供だというのに、それを皆が疑ってくる。
サバサがどれだけ否定しても皆どこか半信半疑で、それでもサバサに対しては「勿論信じている」と言った。今度はサバサの方がその言葉を信じることができなくなっていた。
皆が心の底ではサバサの不貞を疑っているような気がしてサバサは吐き気がした。
いろんな心労が押し寄せてきてサバサは部屋に引きこもるようになった。側に置いていた侍女の目すらも怖くなっていたサバサは誰からの面会も拒絶した。
そんなサバサの元に突然姉が押しかけてきた。
サバサはイフィム伯爵の『次女』。
当然『長女』が居る。
サバサは第一子に長男、第二子に長女の居る3人兄妹の末っ子だった。
押し掛けてきたサバサの姉ヤーナは部屋に引きこもっていた妹と目が合うと怒っていた顔を更に吊り上げて妹を叱った。
ヤーナはずっとサバサに手紙を送っていたがそれをサバサが無視していたのだ。長兄のムルダから話を聞いてサバサに会おうと何度も手紙を出したのにサバサはそれを無視した。だからヤーナはこうして押しかけてきたのだ。
姉の姿を見たサバサは驚いた後にあからさまに嫌悪に顔を歪ませた。それ自体はヤーナは気にしない。自分が妹に嫌われているのはもうずっと昔から気付いていたからだ。だから結婚して家を出てからはサバサと直接連絡を取ることは一度もなかった。だが今回の事は親族として放置出来なかった。
ヤーナはサバサの『姉』だから、尚更今回の事には我慢が出来なかった。
サバサに詰め寄ったヤーナは、サバサに会ったらゆっくり会話をしようとか、順を追って話そうとか、怒らないで話をしようとか考えていたのに、サバサがあまりにも子供のような顔でそこにいたので、考えていたことが全部吹っ飛んで怒りに変わってしまった。
子供のように拗ねて部屋に引きこもっていた、『母親』の立場にいるはずの妹に。
「貴女は何時まで『妹』でいる気なの!?
アリーチェは貴女の娘でしょう!!
“長女”に思うことがあるのなら、わたくしやお母様に言いなさいよ!!」
突然押し掛けて来てそう怒鳴った実姉にサバサは最初唖然としたがすぐにその表情を怒りに染めて反論した。
「何も分からないお姉様に何も言われたくないわ!!
何しに来たのよ?! お姉様になんか関係ないわ!! わたくしの家の事に口出ししないでよ!!」
「ならどうしてアリーチェは家に居ないの!!
貴女がルナリアばかりを可愛がったからでしょう!?」
「何も知らないお姉様は黙っててよ!!
わたくしの家の事はお姉様には関係ないわ!!!」
そんな姉妹喧嘩を盛大に行って、慌ててやってきたロッチェンや使用人たちが頑張って止めるまで、姉妹は互いの主張を言い合うだけの喧嘩を続けた。
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それから数日後、手紙のやり取りでロッチェンとムルダが話し合った結果。アリーチェはイフィム伯爵家へと養子に入った。
サバサが謝罪でもしていれば、もしかしたらまだやり直す可能性もあったかもしれないが、アリーチェの覚悟は揺らぐ事はなく、無理に家に戻そうとすればアリーチェが失踪するか最悪自害するかもしれないとムルダに言われれば、ロッチェンはもうどうする事もできなかった。
アリーチェが居なくなったエルカダ侯爵家はただただ重い空気だけが漂っていた。
サバサはそれもこれも全部全部アリーチェの所為だと怒り続け、家族だけでなく使用人たちをも鬱屈とした気持ちにさせた。それが更にサバサを嫌な気持ちにさせてサバサのストレスとなった。
そして更にサバサの心を乱したのはルナリアだった。
あんなに懐いて慕ってくれていたのにあの日からルナリアはサバサと距離を取り始めた。お母様お母様と何かに付けて側に来ていた末娘が自分に笑顔を向けてくれなくなった事にショックを受けたサバサは更に荒れた。
使用人たちが自分を見る目が気になった。外になんて怖くて行ける訳がなかった。
夫はアリーチェの言葉を信じていないとサバサに言ってくれているが、世間までがそうだとは思えない。サバサは自分に突き付けられた『不貞』や『傷物』という“可能性”に怯えた。
本当に娘たちはロッチェンの子供だというのに、それを皆が疑ってくる。
サバサがどれだけ否定しても皆どこか半信半疑で、それでもサバサに対しては「勿論信じている」と言った。今度はサバサの方がその言葉を信じることができなくなっていた。
皆が心の底ではサバサの不貞を疑っているような気がしてサバサは吐き気がした。
いろんな心労が押し寄せてきてサバサは部屋に引きこもるようになった。側に置いていた侍女の目すらも怖くなっていたサバサは誰からの面会も拒絶した。
そんなサバサの元に突然姉が押しかけてきた。
サバサはイフィム伯爵の『次女』。
当然『長女』が居る。
サバサは第一子に長男、第二子に長女の居る3人兄妹の末っ子だった。
押し掛けてきたサバサの姉ヤーナは部屋に引きこもっていた妹と目が合うと怒っていた顔を更に吊り上げて妹を叱った。
ヤーナはずっとサバサに手紙を送っていたがそれをサバサが無視していたのだ。長兄のムルダから話を聞いてサバサに会おうと何度も手紙を出したのにサバサはそれを無視した。だからヤーナはこうして押しかけてきたのだ。
姉の姿を見たサバサは驚いた後にあからさまに嫌悪に顔を歪ませた。それ自体はヤーナは気にしない。自分が妹に嫌われているのはもうずっと昔から気付いていたからだ。だから結婚して家を出てからはサバサと直接連絡を取ることは一度もなかった。だが今回の事は親族として放置出来なかった。
ヤーナはサバサの『姉』だから、尚更今回の事には我慢が出来なかった。
サバサに詰め寄ったヤーナは、サバサに会ったらゆっくり会話をしようとか、順を追って話そうとか、怒らないで話をしようとか考えていたのに、サバサがあまりにも子供のような顔でそこにいたので、考えていたことが全部吹っ飛んで怒りに変わってしまった。
子供のように拗ねて部屋に引きこもっていた、『母親』の立場にいるはずの妹に。
「貴女は何時まで『妹』でいる気なの!?
アリーチェは貴女の娘でしょう!!
“長女”に思うことがあるのなら、わたくしやお母様に言いなさいよ!!」
突然押し掛けて来てそう怒鳴った実姉にサバサは最初唖然としたがすぐにその表情を怒りに染めて反論した。
「何も分からないお姉様に何も言われたくないわ!!
何しに来たのよ?! お姉様になんか関係ないわ!! わたくしの家の事に口出ししないでよ!!」
「ならどうしてアリーチェは家に居ないの!!
貴女がルナリアばかりを可愛がったからでしょう!?」
「何も知らないお姉様は黙っててよ!!
わたくしの家の事はお姉様には関係ないわ!!!」
そんな姉妹喧嘩を盛大に行って、慌ててやってきたロッチェンや使用人たちが頑張って止めるまで、姉妹は互いの主張を言い合うだけの喧嘩を続けた。
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