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21>> 失言
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「あぁほらやっぱり。
わたくしはお母様が望んで出来た子供ではなかったのですね」
アリーチェはサバサの言葉を受けて尚、冷静に反応する。言い返されて絶句したのはサバサの方だった。
「なっ?!」
意図しない方に言葉を拾われてサバサは焦る。しかしそんな母を気にすることなくアリーチェは言葉を続ける。
「お母様も人が悪いわ。
望まぬ妊娠でできた子供をお父様の子供だと偽って、そしてその子供を自分たちに都合良く、実子の為の道具として使う為に育てるなんて。
わたくしの人生はお母様の所為で滅茶苦茶です。
わたくしはもうこれ以上、自分を殺して生きていたくはありませんわ」
サバサの言葉を拾って、サバサの意図とは違う話にしてしまうアリーチェに、サバサの心はもう耐えられなかった。
頭を抱えて髪を振り乱し、目をキツく瞑ってアリーチェの言葉を否定する。
「もういい加減にして!!
貴女は旦那様の子供です!!
貴女をっ、貴女をこの侯爵家の為に大切に育てたのになんでそんな風に言われなければいけないの!! この家に生まれたのなら、この家の為に尽くすのが子供の役目でしょうに!!
そんな、そんな許されない嘘を吐くなんてっ!!
貴女は悪魔よ!! 実の親にそんな事を言うなんて! 貴女は頭がおかしくなったのよ!!」
「まぁ。実の娘を18年間も虐げていた人が言う言葉でしょうか。
操り人形にしようとした娘がちゃんと自我を持っていた事がわかった途端に悪魔呼ばわりするなんて、お母様こそ酷いですわ」
「虐げてなどいません!! この家の為っ、貴女をこの家のっ……!」
泣きながら娘の言葉を否定するサバサにロッチェンは困惑したままだったが、それでも妻に寄り添うように名前を呼んだ。
「サバサ……」
しかしそんな両親のやり取りを見守ることなくアリーチェは自分の主張を繰り返す。
「もうその嘘はいいですわ。聞き飽きましたの。わたくしを『次期当主にする為に厳しく育てた』という嘘は。
わたくしを次期当主の座から下ろしたのは他の誰でもない、お母様ですのよ。
今更そんな嘘を信じるのは馬鹿なルナリアやお父様だけですわ」
「なっ!!」
「アリーチェ!!」
突然暴言を吐かれたルナリアは驚きの声を上げた。ロッチェンも流石に非難の声を掛ける。
「嘘じゃ……っ、嘘じゃない……っ!!!」
サバサはただもうアリーチェの言葉を否定するしかできなかった。涙が止まらないサバサは情けなく娘の前で号泣する。
しかしこれ以上の否定の言葉が出なくて、その事にまた絶望して頭を抱えた。
「あ、あぁ…………っ、あぁあああああっ!!!」
悲痛な声を上げた母にアリーチェはただただ呆れきった目を向ける。
「泣きたいのはわたくしですのに……お母様はそうやって自分を被害者側に置いてしまいますのね……」
小さな溜め息付きでアリーチェは呟く。その言葉は更にサバサの心を抉った。
「違うわ……違う……っ、わたくしは……っ」
全てを否定するように頭を振るサバサに、ただアリーチェは冷え切った視線を返す。
「わたくしの子供時代はもう帰ってはきませんの。
ルナリアみたいに大きなぬいぐるみが欲しかったし、ルナリアみたいにお父様やお母様と一緒にお散歩もしたかった。
お父様に抱っこされているルナリアが羨ましかった。
お母様におんぶしてもらえているルナリアが羨ましかった。
遊び回るルナリアを見て何故わたくしだけがと何度も思ったけれど、それもわたくしがこの家を継ぐのだから仕方がないと全部飲み込んできましたわ。
本当は庭を駆け回りたかった。
お花を摘んで花飾りを作りたかった。
お人形で遊んだり、お人形と一緒にピクニックなんかしてみたかった。
裸足になって川に入ってみたかった。
大きなピンクのリボンだって着けたかったし、ピンクのフリルがたくさんついたドレスも着てみたかった。
わたくしだけの為にケーキを買って来たって言って貰いたかったし、あれが食べたいこれが食べたくないなんて我が儘を言いたかった。
それももう、大人の体になったわたくしには出来ませんわ。
して良いと言われましても理性が働いて子供の様に純粋に楽しむなんてできる訳がありませんもの。
子供の時にしかできない事をわたくしは何一つできずに育ってきましたわ。
それもこれも全て、お父様とお母様の嘘のせい。
ルナリアでも良かったのならどうしてわたくしばかりに我慢させたの?」
アリーチェの声は静かだったが、だからこそ逆に、聞いていた者の心を揺らした。
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「あぁほらやっぱり。
わたくしはお母様が望んで出来た子供ではなかったのですね」
アリーチェはサバサの言葉を受けて尚、冷静に反応する。言い返されて絶句したのはサバサの方だった。
「なっ?!」
意図しない方に言葉を拾われてサバサは焦る。しかしそんな母を気にすることなくアリーチェは言葉を続ける。
「お母様も人が悪いわ。
望まぬ妊娠でできた子供をお父様の子供だと偽って、そしてその子供を自分たちに都合良く、実子の為の道具として使う為に育てるなんて。
わたくしの人生はお母様の所為で滅茶苦茶です。
わたくしはもうこれ以上、自分を殺して生きていたくはありませんわ」
サバサの言葉を拾って、サバサの意図とは違う話にしてしまうアリーチェに、サバサの心はもう耐えられなかった。
頭を抱えて髪を振り乱し、目をキツく瞑ってアリーチェの言葉を否定する。
「もういい加減にして!!
貴女は旦那様の子供です!!
貴女をっ、貴女をこの侯爵家の為に大切に育てたのになんでそんな風に言われなければいけないの!! この家に生まれたのなら、この家の為に尽くすのが子供の役目でしょうに!!
そんな、そんな許されない嘘を吐くなんてっ!!
貴女は悪魔よ!! 実の親にそんな事を言うなんて! 貴女は頭がおかしくなったのよ!!」
「まぁ。実の娘を18年間も虐げていた人が言う言葉でしょうか。
操り人形にしようとした娘がちゃんと自我を持っていた事がわかった途端に悪魔呼ばわりするなんて、お母様こそ酷いですわ」
「虐げてなどいません!! この家の為っ、貴女をこの家のっ……!」
泣きながら娘の言葉を否定するサバサにロッチェンは困惑したままだったが、それでも妻に寄り添うように名前を呼んだ。
「サバサ……」
しかしそんな両親のやり取りを見守ることなくアリーチェは自分の主張を繰り返す。
「もうその嘘はいいですわ。聞き飽きましたの。わたくしを『次期当主にする為に厳しく育てた』という嘘は。
わたくしを次期当主の座から下ろしたのは他の誰でもない、お母様ですのよ。
今更そんな嘘を信じるのは馬鹿なルナリアやお父様だけですわ」
「なっ!!」
「アリーチェ!!」
突然暴言を吐かれたルナリアは驚きの声を上げた。ロッチェンも流石に非難の声を掛ける。
「嘘じゃ……っ、嘘じゃない……っ!!!」
サバサはただもうアリーチェの言葉を否定するしかできなかった。涙が止まらないサバサは情けなく娘の前で号泣する。
しかしこれ以上の否定の言葉が出なくて、その事にまた絶望して頭を抱えた。
「あ、あぁ…………っ、あぁあああああっ!!!」
悲痛な声を上げた母にアリーチェはただただ呆れきった目を向ける。
「泣きたいのはわたくしですのに……お母様はそうやって自分を被害者側に置いてしまいますのね……」
小さな溜め息付きでアリーチェは呟く。その言葉は更にサバサの心を抉った。
「違うわ……違う……っ、わたくしは……っ」
全てを否定するように頭を振るサバサに、ただアリーチェは冷え切った視線を返す。
「わたくしの子供時代はもう帰ってはきませんの。
ルナリアみたいに大きなぬいぐるみが欲しかったし、ルナリアみたいにお父様やお母様と一緒にお散歩もしたかった。
お父様に抱っこされているルナリアが羨ましかった。
お母様におんぶしてもらえているルナリアが羨ましかった。
遊び回るルナリアを見て何故わたくしだけがと何度も思ったけれど、それもわたくしがこの家を継ぐのだから仕方がないと全部飲み込んできましたわ。
本当は庭を駆け回りたかった。
お花を摘んで花飾りを作りたかった。
お人形で遊んだり、お人形と一緒にピクニックなんかしてみたかった。
裸足になって川に入ってみたかった。
大きなピンクのリボンだって着けたかったし、ピンクのフリルがたくさんついたドレスも着てみたかった。
わたくしだけの為にケーキを買って来たって言って貰いたかったし、あれが食べたいこれが食べたくないなんて我が儘を言いたかった。
それももう、大人の体になったわたくしには出来ませんわ。
して良いと言われましても理性が働いて子供の様に純粋に楽しむなんてできる訳がありませんもの。
子供の時にしかできない事をわたくしは何一つできずに育ってきましたわ。
それもこれも全て、お父様とお母様の嘘のせい。
ルナリアでも良かったのならどうしてわたくしばかりに我慢させたの?」
アリーチェの声は静かだったが、だからこそ逆に、聞いていた者の心を揺らした。
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