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「伯父様!」
「やぁ、アリーチェ。久しぶり。
あの手紙はなんだい?
驚き過ぎで先触れもなく来てしまったよ」
ムルダはエルカダ侯爵邸の玄関で久しぶりに会った姪に微笑んだ。そんな伯父に飛び付く勢いで近付いたアリーチェは両手で持っていた鞄を下に置くと伯父の手を取った。
「嬉しいですわ伯父様!
わたくしもうこの家には居たくありませんの! 伯父様の家に置いて下さいませ!」
嬉しそうに弾んだ声でそんな事を言うアリーチェに、後ろから追いかけてきた母は驚いて声を荒げた。
「アリーチェ!!」
しかし直にアリーチェの前に自分の兄が居る事に気付くと慌てて姿勢を正して貴族の夫人としての顔を作る。
「まぁ、お兄様。何故こちらへ? 火急の用事でもありましたの?」
そんなサバサに兄ムルダは少しだけ冷たい視線を向けた。
「あぁそうだね……
何も話していないのかい?」
サバサに短い返事を返したムルダはその流れのままにアリーチェに視線を移した。アリーチェは悲しそうに眉尻を下げて苦笑いを伯父に向ける。
「お母様はわたくしの話は聞いてくださらないもの……」
「何のお話? アリーチェ。説明しなさい」
不穏な会話をしている二人にサバサは眉間に皺を寄せて問い質す。その態度は“子を叱ろうとする母親”のそれだったが、そんなサバサを振り返って視線を合わせたアリーチェの目は、とても母を見るそれではなかった。
姿勢を正してアリーチェは母親と向き合う。
「わたくしはこの家を出て行きます。
ここにはわたくしの居場所はありませんもの」
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「伯父様!」
「やぁ、アリーチェ。久しぶり。
あの手紙はなんだい?
驚き過ぎで先触れもなく来てしまったよ」
ムルダはエルカダ侯爵邸の玄関で久しぶりに会った姪に微笑んだ。そんな伯父に飛び付く勢いで近付いたアリーチェは両手で持っていた鞄を下に置くと伯父の手を取った。
「嬉しいですわ伯父様!
わたくしもうこの家には居たくありませんの! 伯父様の家に置いて下さいませ!」
嬉しそうに弾んだ声でそんな事を言うアリーチェに、後ろから追いかけてきた母は驚いて声を荒げた。
「アリーチェ!!」
しかし直にアリーチェの前に自分の兄が居る事に気付くと慌てて姿勢を正して貴族の夫人としての顔を作る。
「まぁ、お兄様。何故こちらへ? 火急の用事でもありましたの?」
そんなサバサに兄ムルダは少しだけ冷たい視線を向けた。
「あぁそうだね……
何も話していないのかい?」
サバサに短い返事を返したムルダはその流れのままにアリーチェに視線を移した。アリーチェは悲しそうに眉尻を下げて苦笑いを伯父に向ける。
「お母様はわたくしの話は聞いてくださらないもの……」
「何のお話? アリーチェ。説明しなさい」
不穏な会話をしている二人にサバサは眉間に皺を寄せて問い質す。その態度は“子を叱ろうとする母親”のそれだったが、そんなサバサを振り返って視線を合わせたアリーチェの目は、とても母を見るそれではなかった。
姿勢を正してアリーチェは母親と向き合う。
「わたくしはこの家を出て行きます。
ここにはわたくしの居場所はありませんもの」
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