生まれた時から「お前が悪い」と家族から虐待されていた少女は聖女でした。【強火ざまぁ】☆本編完結☆

ラララキヲ

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2>> ビャクロー侯爵家 

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「…………準備ができたのなら行くぞ」

 姦しい母親たちを玄関で待っていた父親は、全員が揃っているのを見ると、長男の手を引いて先に自分たちの馬車へと乗り込んだ。
 その背中をカリーナは苛立たしく睨みつけ、エーを振り返るとその足を踏みつけた。

「……ほんと……腹立たしいわ……」

「お母様……っ」
「お可哀想っ、お母様っ!!」

 心を乱した母を長女シャルル次女サマンサは痛々しげに見つめて声を掛ける。
 そんな娘たちにカリーナは悲しげに笑ってみせた。

「いいのよ。シャルル。サマンサ。
 母は大丈夫です……
 さぁ、わたくしたちも行きましょう。

 今日はと一緒の馬車ですが、二人共、我慢して頂戴ね」

「分かっておりますわ、お母様」
「我慢できますわ、お母様」

 長女と次女は優雅に笑って見せた。その、淑女として完成された美しい微笑みに、母であるカリーナは幸せを感じて自然と頬が緩んだ。
 その母の瞳に三女の姿は映らない。
 三女のエーはただただ流れに身を任せていた。


 ビャクロー侯爵家は父ランドルを当主として、母親のカリーナ、長女のシャルル18歳、次女のサマンサ17歳、三女のエー14歳と、養子で唯一の男児であるオルドラン11歳の、6人家族である。
 3人の娘はカリーナが産んだ。
 しかし三女を出産した時、問題が起きてカリーナは死にかけた。それが原因かと思われるが、カリーナはそれ以上子供を産むことができなくなってしまった。
 その為、当主であるランドルは、男児であるオルドランを産ませ、それを養子にした。
 愛人である女はネアアス子爵家の次女オデットで、今は乳母としてオルドランの子育てをしている。勿論住んでいるのはビャクロー侯爵家の本邸内。カリーナたちとは極力顔を合わせないように配慮された結果、カリーナ本邸の部屋を移動させられるという事が起こった。
 オルドランはビャクロー侯爵家の後継者なので部屋は当然当主であるランドルの近くだ。そして勿論オルドランを育てなけれはいけないのでその乳母でありランドルの愛人のオデットは、まだ幼いオルドランの隣りの部屋で生活している。
 これで平静で要られる本妻はあまり居ないだろう。自分の部屋は夫から離れた場所に追いやられたのに、愛人の部屋は夫の側にあるのだ。
 男児を産めなかった負い目から、カリーナはランドルへ何も言えなかったが、怒りと悲しみと嫉妬は消えることはなく、その捌け口をランドルではなく『男児を産めなくなる原因となった』三女に向けた。

 三女が生まれるまではランドルもカリーナも、姉たちも全員が子供が生まれるのを楽しみにしていた。全員が本当に楽しみにしていたのだ。
 が生まれてくることを。
 しかし産まれたのは女で、母体であるカリーナは死のふち彷徨さまよった。せめて男児であればカリーナに起こった事も仕方のないことだと皆気持ちを受け流したかもしれないが、既に二人もいる女児が更に増えた上にもう次は望めないと知った全員が落胆し、生まれてきた三女に幻滅した。そして次が望めなくなったカリーナの絶望は、計り知れなかった……

『お前が生まれてきたから悪いんだ!!』

 カリーナは自分を殺しに来た死神のように三女エーを憎んだ。
 産まれたばかりの赤子を殺そうとする母親を見てしまった長女シャルルと次女サマンサは、殺されそうになっていた三女を『生まれてきてはいけないモノ』だと認識した。
 ランドルは心底落胆してカリーナから距離を取った。長女と次女は可愛いが、娘はもう要らないと思った。

 だが捨てるわけにもいかない。

 カリーナのお腹の中に子供がいた事をたくさんの人が目撃している。カリーナ自身も『次はきっと男児だ』と嬉々として色んな人に話してしまった。今更、妊娠していませんでした、なんて言えなかった。
 死産だったことにしたかったが、この世界では『子殺し』は神の罰が下る。
 言い伝えでもなんでもなく、子を殺した親はそれが他者に頼んだことだとしても、放置による餓死だとしても、ただ捨てただけだったとしても、子を親には神の罰が与えられる。
 その罰により親は気が狂い、その後廃人となって糞尿を垂れ流しながら生きることとなる。そんな者が歴史上何名もいる為、ランドルもカリーナも生まれた女児を殺すことができなかった。だから仕方なくランドルは三女が生まれた事を国に報告するしかなかった。
 その時、必要に迫られて付けられた名前は【エリス】だったが、誰もその名前で三女を呼んだ事はない。彼女が理解している自分の名前というものは『エー』という音だった。

 エー。この世界の文字列の最初の一文字の音。三女は家族からその『音』で呼ばれていた。
 ランドルはできるなら名前など付けたくなかった。名前をつけるという事は、家族と認めるということになる。ランドルは必要に迫られて嫌々付けた名前など、すぐに忘れてしまった。
 カリーナは最初から三女を『エー』と呼んでいた。ランドルからエリスと名付けたと聞かされた時にも「まぁ、贅沢な名前だこと」と言って顔をしかめた。アレなど『エー』で十分だ。個体を判別できれば番号でもいいほどだとカリーナは思っていた。
 親がそれなのだから当然姉二人も親に従い三女をエーと呼んだ。いや、姉二人は三女の名前が本当に『エー』だと思っていた。『エリス』なんて名前、聞いてもいなかった。

 そんな扱いのエーは、ビャクロー侯爵家の別邸で軟禁されながら育った。
    
   
   
   
         
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※この話自体が『強火ざまぁ』の “為に” 書いた話なので、
 「罪に罰が釣り合わない」みたいな話は‼️お門違い‼️です。



□□■〔 注意 〕
※この話は作者(ラララキヲ)がノリと趣味と妄想で書いた物です。
 なので『アナタ(読者)の"好み"や"好き嫌い"や"妄想"や"考察"』等には『一切配慮しておりません』事をご理解下さい。

※少しでも不快に感じた時は『ブラウザバック』して下さい。 アナタ向きの作品ではなかったのでしょう。
※感想欄で「こんなの酷いですー」的な事を言ってくる方へ。 作者は『分かっていて』書いてます。『お門違い』だとお気づき頂けると助かります。この作品は『ざまぁを楽しむ』お話として書かれています。


☆ブクマにしおりにエール、ありがとうございました!!
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