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本編でざまぁが足りなかった方に
15>>ロメロの絶望
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その日はまだ体調が良かった。
ミックは回復魔法を掛けた後、青い顔をして自室へと帰って行った。その姿を見てアメリアが如何に特別な存在だったのかを突き付けられる。
いや、もしかしたらミックが聞かされている程優秀ではないのかもしれない。その確認すらもできない程に今のロメロには何の権力も伝手も無かった。
少し前まではまだ書き物をしたり本を読む事ができた。侯爵家の手伝いを少しだけではあるがやらせてもらえていた。
でも今は何もできない。
ただベッドに横になっていることしかできず、それすらもロメロの身体には負担があった。
ダルい、ツラい、苦しい……
痛みは回復魔法が取り除いてくれているのか感じなかったが、痛みがないから楽かと聞かれたらそんな事は絶対にないとロメロは答えただろう。
ロメロにとっては何もできずにベッドに横になっているだけのことすらもストレスだった。
──この私が…………──
ただ窓の外を眺めるか、天井を眺めるか、眠ることしかできない今の自分に、ロメロは失望していた……
コン、コン。
扉がノックされてロメロは首だけを動かしてそちらを向いた。
「なんだ?」
ロメロの声に扉が開き、もうずっと顔を見ていなかった思いがけない人物が部屋に入って来てロメロは少し驚いた。
「来て、いたのか……」
ロメロのその声に部屋に入って来た人物は嬉しそうに微笑んでロメロの寝ているベッドの側まで来た。
「久し振りですね、ロメロ様。
いや、今はロメロ義兄様と呼ばせてください」
「にぃ、さま?」
相手が言った聞き慣れない言葉にロメロの心の中に言いようもない不安が湧き上がる。
訝しげな表情をしたロメロに、部屋に入って来た男が嬉しそうに笑って頷いた。
「えぇ、そうですよ、義兄様。
俺、貴方の義弟になったんです」
「な……に……?
ジャレット……どういう、ことだ?」
ロメロは楽しそうに笑って自分を見下ろす目の前の男を驚いた顔で見返した。
父の妹である叔母が嫁ぎ先の伯爵家で産んだ二番目の男子、ジャレット・ニールス伯爵令息。
目の前の男は自分の従弟ではあるが『弟』ではないはずだ。
ロメロは直ぐに浮かんだ可能性に体の中の血が下がっていくのが分かった。考えたくなかった事が突然目の前に現れた……
「あぁ、やっぱり聞いてないのですね。
俺、この家の養子になったんですよ。貴方の義弟として、そして、
貴方の代わりとして」
目を細めてそう言ったジャレットにロメロは崖から突き落とされた様な錯覚を感じた。
自分を支えていたものが突然無くなり、信じていたものが取り上げられた様な気持ちだった。
自分の存在意味さえ無かった事にされようとしている気がした……
「う、そ……だろ?」
ハッハッと知らずに息が上がる。
指先が石になったかの様に冷たくなっていた。
自分を愛してくれている父がそんな事をするなんて、と考え、それと同時に“分かっていた”自分がどこかで納得していた。
侯爵家の次期当主は絶対に必要な存在だ。不在などありえない。
その次期当主であるロメロがベッドで寝たきりなのだ。『代わり』を用意するのは当たり前だった。何もおかしなことじゃない。
ただロメロは、ロメロ本人は、そんな……自分が居なくなる事を想定した行動を考えたくなかった。認めたくなかった。
自分は必ず元気になるんだ。
そう考えているのだ。
みんなだってそう考えている筈、だと、思いたかった……
だが目の前の男の存在が、そうではなかった、のだと主張する。
父が……自分の代わりを用意していた…………
その事実に、ロメロの気持ちは真っ暗な闇に捨てられた気持ちになった。
「義父様も酷い事をされる。
俺を養子にする前からちゃんと義兄様に話を付けておいてくれたら良かったのにね。そしたらロメロ義兄様も変な期待をせずに自分の余生を過ごせたのに」
そう言ってジャレットは優しげな笑みを浮かべてロメロを見る。
「安心してくださいね、ロメロ義兄様。
俺、立派にこのギルディエル侯爵家を盛り上げていきますから。義兄様ができなかった事を精一杯やらせてもらいますから。
何も心配せずに、いって下さいね。
大丈夫です。
俺、義兄様の分も頑張りますから!」
ロメロの手を無理やり取ってその手を握ってそう宣言するジャレットをロメロはただ唖然として見つめていた。
こいつは何を言っているんだ?
ロメロはそう思った。
そう、思いたかった。
ロメロは生きることを諦めてはいないのに、ジャレットはさも当然のことの様にロメロの死後の話をする。それはそれは優しげに、ロメロの為だと言うように。
ハクハクと唇を動かして青い顔を更に青白くして自分を驚愕した顔で見てくるロメロに、何を勘違いしたのか、勘違いしたフリをしているのか、ジャレットは何かを思い出したかの様な顔をして話しだした。
「あぁ、そうだ。
なんかみんなロメロ義兄様に嘘を教えているから俺が教えておいてあげますね?
義兄様が元婚約者宛に書いた手紙、あれ1通も送られてませんよ?
義父様が、家の恥になるからって全部止めちゃってます。酷い事するなぁって俺も思ったんですけど、やっぱ今後のギルディエル侯爵家の事を考えたら俺も間違ってないなって思うんですよね。でもそれを義兄様に黙ってるのは酷いなって俺思うんですよ。
だって義兄様は動かない体で一生懸命書いたんですもんね? それを送ってるなんて嘘吐くなんてみんな酷い事するなぁって思ってたんですよ。
俺、優しいからそういうの気になっちゃって。
あ、それと、義兄様が気にしてる元婚約者の、えっと、名前は確かアメリアだったかな?
その人ですけど、なんか凄い人みたいですね。霊山付近の周りの国を周って、今度は大陸を離れて辺境の島国まで行く教会の回復魔法士の集団にメンバーとして入ってるそうですよ? 母国に帰ってこないぞっていう気持ちが凄いですよね。島国を周るのに何年掛かることやら。
義兄様がこんなにも会いたがってるのにそのアメリアって人、全然ロメロ義兄様のこと思い出してくれないみたいじゃないですか。
なんか義兄様と別れた時にひと悶着あったって聞いてますけど、それが原因なんですかね? それにしても薄情だと思いますよ。
義兄様はこんなにも大変な思いをしているのに。
俺ホント、同情しちゃいます。
義兄様の元妻って人も、全然見舞いにすら来てくれないじゃないですか。
ロメロ義兄様はこのまま皆に見放されて人知れずこの別邸で亡くなっていくのかなって思うと俺、悲しくって……
実は俺、義父様にこの別邸に来るなって、義兄様と会うなって言われてたんですけど、そんなの義兄様が可哀想だからってこっそり今日会いに来たんですよ。
俺くらいは義兄様の事心配してあげなくちゃ、誰が義兄様の事を思い出してあげるんですか。
みんな居なくなっちゃったのに。
こんな別邸で一人寂しく死んでいく義兄様を、俺くらいは気にかけて上げなくちゃ可哀想じゃないですか。
ね、義兄様もそう思うでしょ?」
ニッコリとジャレットは微笑む。
「多分俺が次に義兄様に会えるのはロメロ義兄様が死んだ後だと思いますが、俺だけは義兄様のことを思っているので義兄様は寂しくありませんよ。
安心して、後のことは任せてくださいね」
ジャレットはそう言って握っていたロメロの手を一度強く握った後にその手を離した。
柔らかく優しい笑みを残して部屋を出て行ったジャレットが部屋を出る時、最後の言葉を呟いた。
「さようなら、ロメロ義兄様。
意味の無い人生でしたね」
ロメロの耳に、呪いの様にその言葉が響き渡る。
意味の無い人生…………
畳み掛けるように知らされた事実に頭が、心が追いつかずに、目の前が真っ暗になっていたロメロに追い打ちの様に掛けられた言葉に、ロメロの心が砕かれる。
体さえ元に戻ればと、必ず戻る筈だと、希望を抱いていたロメロのその希望そのものが馬鹿みたいな妄想なのだと否定された。
誰もロメロが生きる事を望んでいない。
誰もロメロを気にかけない。
誰もロメロを覚えていない……
誰もロメロを…………
生きる意味を否定された様な錯覚に陥ったロメロの心は耐えられなかった。
何も言い返す言葉も浮かばない。
何も考えられない。
ただ虚無を見ていたロメロの目から涙が溢れる様に流れた。
あぁ本当に……
本当に……自分の生まれた意味は何だったんだろうか…………
ロメロを支配したその考えが、ロメロを更に地獄へと引きずり込む。
父が母が、ミックがロメロの命を引き延ばそうと、できるだけ長くロメロと生きていたいと望むことも、ジャレットから投げかけられた小さな悪意ある言葉で全てが塵に返っていく。
ロメロの気力を奪うその言葉を、ロメロは戯言だと一蹴出来ずに何度も頭で反芻する。
意味の無い人生……
意味の無い人生…………
意味の無い人生………………
それどころか、アメリアを傷付けて、シンシアを傷付けて、母を泣かせて、父を裏切る人生だった……
「……あぁ……」
ロメロの口から言葉が漏れる。
「あぁなんて……
……なんて無意味な存在なんだ……」
言葉と共に流れ出した涙がロメロの視界を滅茶苦茶にする。
目前に迫った死の恐怖と生存意義を失った自分への絶望に
ロメロはただ虚無を見つめて涙を流す。
ただ死ぬ為に生まれた人生……
ただ死ぬ為だけに今まで生きていた……
何も残さずに、人をただ傷付けて……
ただ死ぬだけの自分が…………
死ぬだけの…………
ロメロは明日消えるかもしれない自分の命が余りにも無価値に思えて、その時初めて……
自分が明日にでも死ぬことに、安堵した……
◇ ◇ ◇
『お前と私を一緒にするな!
お前は伯爵家だろうが!
伯爵家の血が入った時点で侯爵家の私と同じ存在じゃない!!
覚えておけ!!!』
子供の頃にロメロから言われた言葉をジャレットは今も覚えている。
母は伯爵家に嫁入りしたが歴としたギルディエル侯爵家の娘だ。
その母が産んだジャレットとその兄の子供のロメロ。
血の濃さはどう考えても同じだろう。
そう思ったジャレットをロメロは違うと否定した。
お前は伯爵家だ。ロメロの下だ、と。
その時からジャレットはロメロが苦手だった。
そしてそんなロメロが元気に偉そうにできているのは周りの人の助けのお陰なのだと聞いて、更にロメロが苦手になった。
──誰かに迷惑を掛けないと生きられない癖に……──
感謝もせずに偉そうに生きているロメロがジャレットは苦手だった。
ずっと会わずに過ごしてきた中で、突然ジャレットはロメロの代わりとなる人生が降ってきた。
兄の補佐として伯爵家で生きていく予定だったが、突然格上のギルディエル侯爵家の次期当主に抜擢されてしまってジャレットは困惑した。
喜びよりも困惑したのだ……
目まぐるしく動く生活の中で、ロメロの事を耳にした。
もう未来の無いいとこの話。
優しい両親の手を焼かせる我が侭な男……
皆の優しさに未だに甘えているロメロにジャレットは腹が立った。
病弱──弱者──だからと皆から優しくされているのに、それに気づかずに未だに自分を強者──人の上に立つ者──だと思っているロメロが許せないと思った。
「“死ぬ”から“許せ”?
彼はそれ以上の事をしたでしょう?」
──自覚のないまま“終わる”なんて許されない……──
ジャレットは本邸に戻るまでの道を歩きながら誰に言うでもなしに呟いた。
ロメロが苦手で、むしろ嫌いな部類に入っていた。
だが、ロメロが傷付く言葉を投げ掛けて後腐れなくすっきりするかと思ったが、どうにもそうはならなかった……
胸の中にシコリが残る。
ロメロの様に自己中で、自分の言葉が正しいと思える程の傲慢さをジャレットは持てない。
ロメロの様になりたいとは思わないが、あの目障りな程の自信は、実のところ少しだけ……羨ましいと思っていた……
「兄弟喧嘩……
したかったですね……義兄様……」
ジャレットは自嘲気味に笑った……
[終]
──────
※これは13の『その日から数日後』の数日間の間のどこかで起こった出来事です。
※ジャレットのセリフは元は侯爵(父親)に言わそうと思ってたんですが、死を目前にした死に抗う今まで愛して大切に育てきた最愛の息子に最後に突然牙向きすぎだろうって思ったので無しになりました(;^^)侯爵(父親)そんな人じゃないよ~(笑)
この追い打ち(最後まで心を折る行為)、死を実感してる人にするにはちょっとやり過ぎかな?って思ったんで本編から無しになったんですが「死ぬだけじゃざまぁがヌルい」って考えの人がいるみたいなので出す予定のなかった義弟にお役が回ってきました(笑)彼は今後りっぱな貴族(侯爵当主)となりますよ(*^^*)
こんなざまぁでしたが、少しでも楽しんで頂けたら……と思います(;^^)
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
その日はまだ体調が良かった。
ミックは回復魔法を掛けた後、青い顔をして自室へと帰って行った。その姿を見てアメリアが如何に特別な存在だったのかを突き付けられる。
いや、もしかしたらミックが聞かされている程優秀ではないのかもしれない。その確認すらもできない程に今のロメロには何の権力も伝手も無かった。
少し前まではまだ書き物をしたり本を読む事ができた。侯爵家の手伝いを少しだけではあるがやらせてもらえていた。
でも今は何もできない。
ただベッドに横になっていることしかできず、それすらもロメロの身体には負担があった。
ダルい、ツラい、苦しい……
痛みは回復魔法が取り除いてくれているのか感じなかったが、痛みがないから楽かと聞かれたらそんな事は絶対にないとロメロは答えただろう。
ロメロにとっては何もできずにベッドに横になっているだけのことすらもストレスだった。
──この私が…………──
ただ窓の外を眺めるか、天井を眺めるか、眠ることしかできない今の自分に、ロメロは失望していた……
コン、コン。
扉がノックされてロメロは首だけを動かしてそちらを向いた。
「なんだ?」
ロメロの声に扉が開き、もうずっと顔を見ていなかった思いがけない人物が部屋に入って来てロメロは少し驚いた。
「来て、いたのか……」
ロメロのその声に部屋に入って来た人物は嬉しそうに微笑んでロメロの寝ているベッドの側まで来た。
「久し振りですね、ロメロ様。
いや、今はロメロ義兄様と呼ばせてください」
「にぃ、さま?」
相手が言った聞き慣れない言葉にロメロの心の中に言いようもない不安が湧き上がる。
訝しげな表情をしたロメロに、部屋に入って来た男が嬉しそうに笑って頷いた。
「えぇ、そうですよ、義兄様。
俺、貴方の義弟になったんです」
「な……に……?
ジャレット……どういう、ことだ?」
ロメロは楽しそうに笑って自分を見下ろす目の前の男を驚いた顔で見返した。
父の妹である叔母が嫁ぎ先の伯爵家で産んだ二番目の男子、ジャレット・ニールス伯爵令息。
目の前の男は自分の従弟ではあるが『弟』ではないはずだ。
ロメロは直ぐに浮かんだ可能性に体の中の血が下がっていくのが分かった。考えたくなかった事が突然目の前に現れた……
「あぁ、やっぱり聞いてないのですね。
俺、この家の養子になったんですよ。貴方の義弟として、そして、
貴方の代わりとして」
目を細めてそう言ったジャレットにロメロは崖から突き落とされた様な錯覚を感じた。
自分を支えていたものが突然無くなり、信じていたものが取り上げられた様な気持ちだった。
自分の存在意味さえ無かった事にされようとしている気がした……
「う、そ……だろ?」
ハッハッと知らずに息が上がる。
指先が石になったかの様に冷たくなっていた。
自分を愛してくれている父がそんな事をするなんて、と考え、それと同時に“分かっていた”自分がどこかで納得していた。
侯爵家の次期当主は絶対に必要な存在だ。不在などありえない。
その次期当主であるロメロがベッドで寝たきりなのだ。『代わり』を用意するのは当たり前だった。何もおかしなことじゃない。
ただロメロは、ロメロ本人は、そんな……自分が居なくなる事を想定した行動を考えたくなかった。認めたくなかった。
自分は必ず元気になるんだ。
そう考えているのだ。
みんなだってそう考えている筈、だと、思いたかった……
だが目の前の男の存在が、そうではなかった、のだと主張する。
父が……自分の代わりを用意していた…………
その事実に、ロメロの気持ちは真っ暗な闇に捨てられた気持ちになった。
「義父様も酷い事をされる。
俺を養子にする前からちゃんと義兄様に話を付けておいてくれたら良かったのにね。そしたらロメロ義兄様も変な期待をせずに自分の余生を過ごせたのに」
そう言ってジャレットは優しげな笑みを浮かべてロメロを見る。
「安心してくださいね、ロメロ義兄様。
俺、立派にこのギルディエル侯爵家を盛り上げていきますから。義兄様ができなかった事を精一杯やらせてもらいますから。
何も心配せずに、いって下さいね。
大丈夫です。
俺、義兄様の分も頑張りますから!」
ロメロの手を無理やり取ってその手を握ってそう宣言するジャレットをロメロはただ唖然として見つめていた。
こいつは何を言っているんだ?
ロメロはそう思った。
そう、思いたかった。
ロメロは生きることを諦めてはいないのに、ジャレットはさも当然のことの様にロメロの死後の話をする。それはそれは優しげに、ロメロの為だと言うように。
ハクハクと唇を動かして青い顔を更に青白くして自分を驚愕した顔で見てくるロメロに、何を勘違いしたのか、勘違いしたフリをしているのか、ジャレットは何かを思い出したかの様な顔をして話しだした。
「あぁ、そうだ。
なんかみんなロメロ義兄様に嘘を教えているから俺が教えておいてあげますね?
義兄様が元婚約者宛に書いた手紙、あれ1通も送られてませんよ?
義父様が、家の恥になるからって全部止めちゃってます。酷い事するなぁって俺も思ったんですけど、やっぱ今後のギルディエル侯爵家の事を考えたら俺も間違ってないなって思うんですよね。でもそれを義兄様に黙ってるのは酷いなって俺思うんですよ。
だって義兄様は動かない体で一生懸命書いたんですもんね? それを送ってるなんて嘘吐くなんてみんな酷い事するなぁって思ってたんですよ。
俺、優しいからそういうの気になっちゃって。
あ、それと、義兄様が気にしてる元婚約者の、えっと、名前は確かアメリアだったかな?
その人ですけど、なんか凄い人みたいですね。霊山付近の周りの国を周って、今度は大陸を離れて辺境の島国まで行く教会の回復魔法士の集団にメンバーとして入ってるそうですよ? 母国に帰ってこないぞっていう気持ちが凄いですよね。島国を周るのに何年掛かることやら。
義兄様がこんなにも会いたがってるのにそのアメリアって人、全然ロメロ義兄様のこと思い出してくれないみたいじゃないですか。
なんか義兄様と別れた時にひと悶着あったって聞いてますけど、それが原因なんですかね? それにしても薄情だと思いますよ。
義兄様はこんなにも大変な思いをしているのに。
俺ホント、同情しちゃいます。
義兄様の元妻って人も、全然見舞いにすら来てくれないじゃないですか。
ロメロ義兄様はこのまま皆に見放されて人知れずこの別邸で亡くなっていくのかなって思うと俺、悲しくって……
実は俺、義父様にこの別邸に来るなって、義兄様と会うなって言われてたんですけど、そんなの義兄様が可哀想だからってこっそり今日会いに来たんですよ。
俺くらいは義兄様の事心配してあげなくちゃ、誰が義兄様の事を思い出してあげるんですか。
みんな居なくなっちゃったのに。
こんな別邸で一人寂しく死んでいく義兄様を、俺くらいは気にかけて上げなくちゃ可哀想じゃないですか。
ね、義兄様もそう思うでしょ?」
ニッコリとジャレットは微笑む。
「多分俺が次に義兄様に会えるのはロメロ義兄様が死んだ後だと思いますが、俺だけは義兄様のことを思っているので義兄様は寂しくありませんよ。
安心して、後のことは任せてくださいね」
ジャレットはそう言って握っていたロメロの手を一度強く握った後にその手を離した。
柔らかく優しい笑みを残して部屋を出て行ったジャレットが部屋を出る時、最後の言葉を呟いた。
「さようなら、ロメロ義兄様。
意味の無い人生でしたね」
ロメロの耳に、呪いの様にその言葉が響き渡る。
意味の無い人生…………
畳み掛けるように知らされた事実に頭が、心が追いつかずに、目の前が真っ暗になっていたロメロに追い打ちの様に掛けられた言葉に、ロメロの心が砕かれる。
体さえ元に戻ればと、必ず戻る筈だと、希望を抱いていたロメロのその希望そのものが馬鹿みたいな妄想なのだと否定された。
誰もロメロが生きる事を望んでいない。
誰もロメロを気にかけない。
誰もロメロを覚えていない……
誰もロメロを…………
生きる意味を否定された様な錯覚に陥ったロメロの心は耐えられなかった。
何も言い返す言葉も浮かばない。
何も考えられない。
ただ虚無を見ていたロメロの目から涙が溢れる様に流れた。
あぁ本当に……
本当に……自分の生まれた意味は何だったんだろうか…………
ロメロを支配したその考えが、ロメロを更に地獄へと引きずり込む。
父が母が、ミックがロメロの命を引き延ばそうと、できるだけ長くロメロと生きていたいと望むことも、ジャレットから投げかけられた小さな悪意ある言葉で全てが塵に返っていく。
ロメロの気力を奪うその言葉を、ロメロは戯言だと一蹴出来ずに何度も頭で反芻する。
意味の無い人生……
意味の無い人生…………
意味の無い人生………………
それどころか、アメリアを傷付けて、シンシアを傷付けて、母を泣かせて、父を裏切る人生だった……
「……あぁ……」
ロメロの口から言葉が漏れる。
「あぁなんて……
……なんて無意味な存在なんだ……」
言葉と共に流れ出した涙がロメロの視界を滅茶苦茶にする。
目前に迫った死の恐怖と生存意義を失った自分への絶望に
ロメロはただ虚無を見つめて涙を流す。
ただ死ぬ為に生まれた人生……
ただ死ぬ為だけに今まで生きていた……
何も残さずに、人をただ傷付けて……
ただ死ぬだけの自分が…………
死ぬだけの…………
ロメロは明日消えるかもしれない自分の命が余りにも無価値に思えて、その時初めて……
自分が明日にでも死ぬことに、安堵した……
◇ ◇ ◇
『お前と私を一緒にするな!
お前は伯爵家だろうが!
伯爵家の血が入った時点で侯爵家の私と同じ存在じゃない!!
覚えておけ!!!』
子供の頃にロメロから言われた言葉をジャレットは今も覚えている。
母は伯爵家に嫁入りしたが歴としたギルディエル侯爵家の娘だ。
その母が産んだジャレットとその兄の子供のロメロ。
血の濃さはどう考えても同じだろう。
そう思ったジャレットをロメロは違うと否定した。
お前は伯爵家だ。ロメロの下だ、と。
その時からジャレットはロメロが苦手だった。
そしてそんなロメロが元気に偉そうにできているのは周りの人の助けのお陰なのだと聞いて、更にロメロが苦手になった。
──誰かに迷惑を掛けないと生きられない癖に……──
感謝もせずに偉そうに生きているロメロがジャレットは苦手だった。
ずっと会わずに過ごしてきた中で、突然ジャレットはロメロの代わりとなる人生が降ってきた。
兄の補佐として伯爵家で生きていく予定だったが、突然格上のギルディエル侯爵家の次期当主に抜擢されてしまってジャレットは困惑した。
喜びよりも困惑したのだ……
目まぐるしく動く生活の中で、ロメロの事を耳にした。
もう未来の無いいとこの話。
優しい両親の手を焼かせる我が侭な男……
皆の優しさに未だに甘えているロメロにジャレットは腹が立った。
病弱──弱者──だからと皆から優しくされているのに、それに気づかずに未だに自分を強者──人の上に立つ者──だと思っているロメロが許せないと思った。
「“死ぬ”から“許せ”?
彼はそれ以上の事をしたでしょう?」
──自覚のないまま“終わる”なんて許されない……──
ジャレットは本邸に戻るまでの道を歩きながら誰に言うでもなしに呟いた。
ロメロが苦手で、むしろ嫌いな部類に入っていた。
だが、ロメロが傷付く言葉を投げ掛けて後腐れなくすっきりするかと思ったが、どうにもそうはならなかった……
胸の中にシコリが残る。
ロメロの様に自己中で、自分の言葉が正しいと思える程の傲慢さをジャレットは持てない。
ロメロの様になりたいとは思わないが、あの目障りな程の自信は、実のところ少しだけ……羨ましいと思っていた……
「兄弟喧嘩……
したかったですね……義兄様……」
ジャレットは自嘲気味に笑った……
[終]
──────
※これは13の『その日から数日後』の数日間の間のどこかで起こった出来事です。
※ジャレットのセリフは元は侯爵(父親)に言わそうと思ってたんですが、死を目前にした死に抗う今まで愛して大切に育てきた最愛の息子に最後に突然牙向きすぎだろうって思ったので無しになりました(;^^)侯爵(父親)そんな人じゃないよ~(笑)
この追い打ち(最後まで心を折る行為)、死を実感してる人にするにはちょっとやり過ぎかな?って思ったんで本編から無しになったんですが「死ぬだけじゃざまぁがヌルい」って考えの人がいるみたいなので出す予定のなかった義弟にお役が回ってきました(笑)彼は今後りっぱな貴族(侯爵当主)となりますよ(*^^*)
こんなざまぁでしたが、少しでも楽しんで頂けたら……と思います(;^^)
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
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酷いことを言ってくる人が全員『無神経な悪人』とは限らない、って感じですね。彼はロメロがなんだかんだで『他人を傷付けた罰を受けていない』って気付いて『それは駄目だろう』と唯一動けた人でした。ロメロがちゃんと反省できる人間だったならば、彼はきっとあんな事はしないし言わなかったでしょうね……
感想ありがとうございます^^
わぁ!そう言っていただけて嬉しいです!😊私的には展開に問題はないと思っているのですがどうも「ざまぁ」的には不満をもたれるようで……😅笑
両親的には、自分の息子がやらかした結末とはいえ、自己中突き抜けてたけど犯罪をおかした訳ではないですからね🤔しかも弱っていく姿をずっと見た上での死ですから親の立場からしたら、いくら駄目な子供だったといえども……だと思います……
赤ちゃんの頃から「この子、明日にでも死ぬかも?!」って思いながら子育てするのは相当重いものがあると思いますよ……
感想ありがとうございます^^
血が繋がってても似る事はそうそうないので(Kouさんも親御さんと『同じ性格』ではないですよね?😅)子がいたとしてももしかしたら父親を反面教師にしてマトモになったかもしれませんが、立場的に不安定な存在になったと思うので子が産まれなくて良かったと思いますよ。……もしかしたら体の不調が男性機能から人知れず始まっていたのかもしれませんね………