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11>>差し込んだ希望の光

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 ある日ミックが回復魔法を掛けながらロメロに質問した。

「そういえば、ロメロ様の最初の婚約者の名前って『アメリア』様、でしたよね?」

「…………だったらなんだ」

 ミックの口から出て来た名前に、ロメロはの顔を思い出して不快感に顔をしかめた。
 そんなロメロを気にする事なくミックはやっぱりそうかと顔を輝かせた。

「いえね、今、回復魔法士の間で話題になってるんですよ。
 教会所属の回復魔法士の中で凄い逸材が現れたって! その人、あのヤバい霊山での修行を凄い速さで終わらせて既に各国を回って成果を残してるとか。
 そんでその人がウチの国出身らしくって、この国の回復魔法士たちも盛り上がってるんですよ。
 で、その人の名前が『アメリア』様って言うらしくって」

「なっ!? それは本当かっ?!」

 ロメロは横になっていたベッドから上体を飛び起こしてミックに詰め寄った。聞きたくないと思っていた名前だったが話の内容は真逆の喜ばしいものだった。

 あのアメリアがっ!?!

「わっ! びっくりした!
 嘘吐いて何の意味があるんですか!

 まぁ僕も人伝ひとづてに聞いただけなんで本当かどうかの確証はまだないんですけどね。なんか相当美人だって話じゃないですか」

 しかしミックから出て来た単語に途端にロメロは眉間にシワを寄せた。

「美人……? ならアメリアではないのか……?」

 そんなロメロの発言にミックが顔をしかめて非難の色を示した。

「えぇ……、それ過去の婚約者だからってアメリア様に失礼じゃないですか?」

 ミックに言われてロメロは鼻で笑って起こしていた上半身をベッドへと下ろした。視線はもうミックを見ていない。

「事実を言って何が悪い。
 あの女は醜女しこめではなかったが、美人だと思った事はない。……だが他の者から見ればどうかは知らん。

 そんな事より、その話は本当なのか?
 アメリアが既に修行を終わらせていると」

「本人かどうかは分からないですよ? でも時期的に見ても、名前からしても、この国出身って事からも、ロメロ様の元婚約者のアメリア様で間違いないとは思いますけどね……
 なんか既に霊山の周りの国で結果を残してるって話ですよ?」

 ミックの話を聞いて、徐々にロメロの口角は上がっていった。
 そうか………
 そうかアメリアが……
 
 ロメロは自分に差し込んだ希望の光に目の色を輝かせた。
 どんどん動ける時間が短くなって来ていた。ミックに回復魔法を掛けてもらって居なければもう既に自分は死んでいると分かる程に弱っている自覚があった。シンシアから聞かされていたアメリアの帰国時期なんて待って居られないと思い絶望していたが、ここに来て天は自分を見放していないと分かった!
 アメリアが帰って来る!!

 そう思うとロメロは居ても立っても居られなかった。

「おい、お前!
 アメリアに手紙を出してさっさと帰国しろと伝えろ!」

 嬉々としたロメロのその声にミックはハッキリと眉間にシワを寄せて嫌そうにロメロを見返した。

「は? 無理ですよ?
 何言ってんすか?

 教会所属のって言いましたでしょ? 教会所属の回復魔法士は民間や国所属と違って教会の指示で活動してるんで、どこの国の貴族だろうと勝手に指示を飛ばすとか出来ませんよ。ていうか怒られますよ」

 ミックのその返答にロメロも眉間にシワを寄せてミックを見返した。

「関係ない!
 身内が会いたいと言っていると言えば教会も無下にはせんだろう!」

「身内??
 婚約を解消しているんだから身内にはならないのでは?」

「幼少期からの繋がりがあるんだ! いくらでも理由付けできるだろうが!」

 騒ぎ出したロメロにミックは気分が悪くなってこっそり回復魔法を掛けるのを止めた……
 ロメロが元気に騒げるのは回復魔法のお陰だ。きっと直ぐに疲れて口も開きたくなくなるだろう……

 しかしロメロは掴んだ希望に気分が高揚しているのか青白い肌を不自然に赤くして笑っている。
 そんなロメロに呆れながらもミックは無理なものは無理だと伝える。

「いや、無理ですよ。
 教会所属の回復魔法士は聖職者でもあるのですから、身内だろうが母国の王族だろうが自由に動かせたりしませんって」

 しかしロメロは話を聞かない。
 ベッドを拳で殴って怒りを現し、ミックの言葉を拒絶した。

「御託はいいっ!!
 俺がアメリアに手紙を書くから、お前はそれがアメリアに届く様に手配しろ!!」

 ミックはほとほと呆れた。

「あ~~……
 すみません、ロメロ様。
 僕の仕事は回復魔法をかけるだけなので、そういう雑務は他の方に頼んで下さいな」

「……っ!? チッ!
 使えん奴だな!!
 おい誰か! 誰か居ないか?!」

 騒ぎ出したロメロに廊下からメイドか数名部屋に入ってくる。
 メイドたちに後の事は任せてミックは部屋を後にした。

「……………はぁ~~……」

 廊下を出た瞬間に盛大な溜め息が出てしまったのはもう仕方がないだろうと、ミックは心底疲れ切った顔で自室へと戻って行った……




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