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「……最近、彼女を見ないんだが、キャサリーナは何か聞いていないか?」

 少し躊躇ためらいがちに聞かれた言葉に首を傾げる。
 わたくしの隣にいたわたくしの婚約者、ジェイド・L・カーフィス第一王子殿下は、自分がわたくしに質問した内容があまり褒められたものではない事を自覚しているのでしょう、後ろめたそうにしながらも、それでもわたくしにそんな事を聞いてきた。

「彼女……とは?
 どなたの事でしょうか?」

 わたくしは不思議そうな顔をして殿下に聞き返す。当然分かっていて聞き返している。でも殿下の言う『彼女』が誰の事を言っているのかを直ぐに分かる程に『わたくしが彼女の事を記憶している』なんて殿下に思われたくもない。

 殿下の気になっている『フィーナ彼女』の事は、『殿下が気になる』のであって、わたくしは『覚えてもいない』くらいでないといけない。

 『フィーナ彼女を気にする殿下がおかしい』のであって、『フィーナ彼女の事は気にも留めていないわたくしの方が平常』なのだと、殿理解してもらわないといけない。

「っ…………」

 後ろめたい気持ちのある殿下は言葉に詰まってわたくしから視線を逸らした。
 まだヒロインに落とされてはいないけれど、心はもう引き寄せられていたのでしょう。乙女ゲームの“出会い”からいくつかのイベントはすでに行われていたはず……殿下の中では彼女との好感度が平均よりは上に行っているのかもしれない。
 それでも……『真実の愛』だと思い込む前まではちゃんと当人にも『それがいけない事』だという自覚があった事に安堵した。

 罪悪感があるのであればこちらが優位に立てる。
 
「……ジェイド様には、気になるご令嬢が居られるのですね……」

 そう言って寂しげに目を伏せれば、ジェイド様はあからさまに動揺して視線を彷徨さまよわせた。
 わたくしはそれを見逃さない。




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