9 / 11
──9──
しおりを挟む
-
「……最近、彼女を見ないんだが、キャサリーナは何か聞いていないか?」
少し躊躇いがちに聞かれた言葉に首を傾げる。
わたくしの隣にいたわたくしの婚約者、ジェイド・L・カーフィス第一王子殿下は、自分がわたくしに質問した内容があまり褒められたものではない事を自覚しているのでしょう、後ろめたそうにしながらも、それでもわたくしにそんな事を聞いてきた。
「彼女……とは?
どなたの事でしょうか?」
わたくしは不思議そうな顔をして殿下に聞き返す。当然分かっていて聞き返している。でも殿下の言う『彼女』が誰の事を言っているのかを直ぐに分かる程に『わたくしが彼女の事を記憶している』なんて殿下に思われたくもない。
殿下の気になっている『フィーナ』の事は、『殿下が気になる』のであって、わたくしは『覚えてもいない』くらいでないといけない。
『フィーナを気にする殿下がおかしい』のであって、『フィーナの事は気にも留めていないわたくしの方が平常』なのだと、殿下に理解してもらわないといけない。
「っ…………」
後ろめたい気持ちのある殿下は言葉に詰まってわたくしから視線を逸らした。
まだヒロインに落とされてはいないけれど、心はもう引き寄せられていたのでしょう。乙女ゲームの“出会い”からいくつかのイベントはすでに行われていたはず……殿下の中では彼女との好感度が平均よりは上に行っているのかもしれない。
それでも……『真実の愛』だと思い込む前まではちゃんと当人にも『それがいけない事』だという自覚があった事に安堵した。
罪悪感があるのであればこちらが優位に立てる。
「……ジェイド様には、気になるご令嬢が居られるのですね……」
そう言って寂しげに目を伏せれば、ジェイド様はあからさまに動揺して視線を彷徨わせた。
わたくしはそれを見逃さない。
-
「……最近、彼女を見ないんだが、キャサリーナは何か聞いていないか?」
少し躊躇いがちに聞かれた言葉に首を傾げる。
わたくしの隣にいたわたくしの婚約者、ジェイド・L・カーフィス第一王子殿下は、自分がわたくしに質問した内容があまり褒められたものではない事を自覚しているのでしょう、後ろめたそうにしながらも、それでもわたくしにそんな事を聞いてきた。
「彼女……とは?
どなたの事でしょうか?」
わたくしは不思議そうな顔をして殿下に聞き返す。当然分かっていて聞き返している。でも殿下の言う『彼女』が誰の事を言っているのかを直ぐに分かる程に『わたくしが彼女の事を記憶している』なんて殿下に思われたくもない。
殿下の気になっている『フィーナ』の事は、『殿下が気になる』のであって、わたくしは『覚えてもいない』くらいでないといけない。
『フィーナを気にする殿下がおかしい』のであって、『フィーナの事は気にも留めていないわたくしの方が平常』なのだと、殿下に理解してもらわないといけない。
「っ…………」
後ろめたい気持ちのある殿下は言葉に詰まってわたくしから視線を逸らした。
まだヒロインに落とされてはいないけれど、心はもう引き寄せられていたのでしょう。乙女ゲームの“出会い”からいくつかのイベントはすでに行われていたはず……殿下の中では彼女との好感度が平均よりは上に行っているのかもしれない。
それでも……『真実の愛』だと思い込む前まではちゃんと当人にも『それがいけない事』だという自覚があった事に安堵した。
罪悪感があるのであればこちらが優位に立てる。
「……ジェイド様には、気になるご令嬢が居られるのですね……」
そう言って寂しげに目を伏せれば、ジェイド様はあからさまに動揺して視線を彷徨わせた。
わたくしはそれを見逃さない。
-
157
お気に入りに追加
732
あなたにおすすめの小説
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
悪役令嬢の物語は始まりません。なぜならわたくしがヒロインを排除するからです。
霜月零
恋愛
わたくし、シュティリア・ホールオブ公爵令嬢は前世の記憶を持っています。
流行り病で生死の境を彷徨った時に思い出したのです。
この世界は、前世で遊んでいた乙女ゲームに酷似していると。
最愛のディアム王子をヒロインに奪われてはなりません。
そうと決めたら、行動しましょう。
ヒロインを排除する為に。
※小説家になろう様等、他サイト様にも掲載です。
悪役令嬢はあらかじめ手を打つ
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしは公爵令嬢のアレクサンドラ。
どうやら悪役令嬢に転生したみたい。
でもゲーム開始したばかりなのに、ヒロインのアリスに対する攻略対象たちの好感度はMAX。
それっておかしすぎない?
アルファポリス(以後敬称略)、小説家になろうにも掲載。
筆者は体調不良なことが多いので、コメントなどの受け取らない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした
ひなクラゲ
恋愛
突然ですが私は転生者…
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢でした…
出来ればこんな時に思い出したくなかった
だってここは全てが終わった世界…
悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
えっ、これってバッドエンドですか!?
黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。
卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。
あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!?
しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・?
よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。
原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。
悪役令嬢はヒロインに敵わないのかしら?
こうじゃん
恋愛
わたくし、ローズ・キャンベラは、王宮園遊会で『王子様を巻き込んで池ポチャ』をした。しかも、その衝撃で前世の記憶を思い出した。
甦る膨大な前世の記憶。そうして気づいたのである。
私は今中世を思わせる、魔法有りのダークファンタジー乙女ゲーム『フラワープリンセス~花物語り』の世界に転生した。
――悪名高き黒き華、ローズ・キャンベルとして。
(小説家になろうに投稿済み)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる