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「わたくし、断罪されるのも、自分の婚約者を格下の女に取られるのも、どちらも受け付けないのよね。
 ゲームを始めた自分を恨んでね」

 その言葉にフィーナは無理やり首を捻ってこちらを見上げた。

「っ?! 貴女、転生者ね?!!」

「だったら何?」

 わたくしは扇を頬に当てながら聞き返した。

「っ?! だったら、自分の立場をわきまえなさいよ?! 自分が悪役令嬢だって分かってるんでしょ?!」

「えぇ、分かっているわ」

「だったら!!!」

「だからこうやって『悪い事』してるんでしょ?」

「っ?!?!」

 小首を傾げてそう言ったわたくしに、フィーナは驚愕した顔をして言葉を失った。

 彼女は何を期待したのかしら?

 悪役令嬢だからその役を全うするとでも?
 将来断罪されると分かっていて抵抗しないとでも?
 婚約者が獲られるのを黙って見ているとでも?
 ヒロインを陰ながら見守るとでも?
 大人しく平民落ちや娼館落ちを受け入れるとでも?

 自分ならそうするとでも言うのかしら?

「わたくしは『悪役令嬢』なの。
 だから、わたくしはをしっかりと演じて見せるわ」

 ヒロインを見下ろしてニッコリと笑う悪役令嬢わたくしを、フィーナは恐怖に染まった目で見上げてくる。

「ま、待って?! こんな展開無いっ?! 無いから!!?
 は、話っ! 話し合いましょ?!? 私もちゃんと話聞くからっ! だ、断罪とか、しない様にするからっ! ね?! そうよ! 平和的に行きましょ?! 現代人だったんですもの?! 話し合いで解決しましょうよ!?! わたしヒロインだけど、悪役令嬢の事も好きだったの!! だから、ちゃんとできるわきっと!! ね!! だからね!! 話、はなし合いましょ!?!」

 自分を押さえる男の手に力が入ったのか、顔を痛みで歪めながらもこちらに媚を売る様な笑みを必死に浮かべて、フィーナはわたくしに訴えかける。

 現代人って、この場合、どんな人を指すのかしらね?

 なんて、どうでもいい事を考えるくらいには彼女の言葉はわたくしの頭に入ってこない。

 話し合うも何も……

「今更無理よ?
 だってわたくしはもう『悪い事』、してるんですもの。 
 貴女が“誰にも話さない”と言ったところで信じるに値しないし……
 ここまでやっておいて『貴女を何事もなく帰す』なんて、むしろできると思う?」

 聞き返したわたくしにフィーナの目からは滝の様に涙が流れ出した。
 彼女の中でも答えが出たのだろう。
 あ、いや、と小さく呟きながらわたくしを見上げる彼女の目の中に芽生えた絶望の色に、わたくしは満足げに笑った。




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