6 / 11
──6──
しおりを挟む
-
「わたくし、断罪されるのも、自分の婚約者を格下の女に取られるのも、どちらも受け付けないのよね。
ゲームを始めた自分を恨んでね」
その言葉にフィーナは無理やり首を捻ってこちらを見上げた。
「っ?! 貴女、転生者ね?!!」
「だったら何?」
わたくしは扇を頬に当てながら聞き返した。
「っ?! だったら、自分の立場を弁えなさいよ?! 自分が悪役令嬢だって分かってるんでしょ?!」
「えぇ、分かっているわ」
「だったら!!!」
「だからこうやって『悪い事』してるんでしょ?」
「っ?!?!」
小首を傾げてそう言ったわたくしに、フィーナは驚愕した顔をして言葉を失った。
彼女は何を期待したのかしら?
悪役令嬢だからその役を全うするとでも?
将来断罪されると分かっていて抵抗しないとでも?
婚約者が獲られるのを黙って見ているとでも?
ヒロインを陰ながら見守るとでも?
大人しく平民落ちや娼館落ちを受け入れるとでも?
自分ならそうするとでも言うのかしら?
「わたくしは『悪役令嬢』なの。
だから、わたくしはわたくしらしい悪役令嬢をしっかりと演じて見せるわ」
ヒロインを見下ろしてニッコリと笑う悪役令嬢を、フィーナは恐怖に染まった目で見上げてくる。
「ま、待って?! こんな展開無いっ?! 無いから!!?
は、話っ! 話し合いましょ?!? 私もちゃんと話聞くからっ! だ、断罪とか、しない様にするからっ! ね?! そうよ! 平和的に行きましょ?! 現代人だったんですもの?! 話し合いで解決しましょうよ!?! わたしヒロインだけど、悪役令嬢の事も好きだったの!! だから、ちゃんとできるわきっと!! ね!! だからね!! 話、はなし合いましょ!?!」
自分を押さえる男の手に力が入ったのか、顔を痛みで歪めながらもこちらに媚を売る様な笑みを必死に浮かべて、フィーナはわたくしに訴えかける。
現代人って、この場合、どんな人を指すのかしらね?
なんて、どうでもいい事を考えるくらいには彼女の言葉はわたくしの頭に入ってこない。
話し合うも何も……
「今更無理よ?
だってわたくしはもう『悪い事』、してるんですもの。
貴女が“誰にも話さない”と言ったところで信じるに値しないし……
ここまでやっておいて『貴女を何事もなく帰す』なんて、むしろできると思う?」
聞き返したわたくしにフィーナの目からは滝の様に涙が流れ出した。
彼女の中でも答えが出たのだろう。
あ、いや、と小さく呟きながらわたくしを見上げる彼女の目の中に芽生えた絶望の色に、わたくしは満足げに笑った。
-
「わたくし、断罪されるのも、自分の婚約者を格下の女に取られるのも、どちらも受け付けないのよね。
ゲームを始めた自分を恨んでね」
その言葉にフィーナは無理やり首を捻ってこちらを見上げた。
「っ?! 貴女、転生者ね?!!」
「だったら何?」
わたくしは扇を頬に当てながら聞き返した。
「っ?! だったら、自分の立場を弁えなさいよ?! 自分が悪役令嬢だって分かってるんでしょ?!」
「えぇ、分かっているわ」
「だったら!!!」
「だからこうやって『悪い事』してるんでしょ?」
「っ?!?!」
小首を傾げてそう言ったわたくしに、フィーナは驚愕した顔をして言葉を失った。
彼女は何を期待したのかしら?
悪役令嬢だからその役を全うするとでも?
将来断罪されると分かっていて抵抗しないとでも?
婚約者が獲られるのを黙って見ているとでも?
ヒロインを陰ながら見守るとでも?
大人しく平民落ちや娼館落ちを受け入れるとでも?
自分ならそうするとでも言うのかしら?
「わたくしは『悪役令嬢』なの。
だから、わたくしはわたくしらしい悪役令嬢をしっかりと演じて見せるわ」
ヒロインを見下ろしてニッコリと笑う悪役令嬢を、フィーナは恐怖に染まった目で見上げてくる。
「ま、待って?! こんな展開無いっ?! 無いから!!?
は、話っ! 話し合いましょ?!? 私もちゃんと話聞くからっ! だ、断罪とか、しない様にするからっ! ね?! そうよ! 平和的に行きましょ?! 現代人だったんですもの?! 話し合いで解決しましょうよ!?! わたしヒロインだけど、悪役令嬢の事も好きだったの!! だから、ちゃんとできるわきっと!! ね!! だからね!! 話、はなし合いましょ!?!」
自分を押さえる男の手に力が入ったのか、顔を痛みで歪めながらもこちらに媚を売る様な笑みを必死に浮かべて、フィーナはわたくしに訴えかける。
現代人って、この場合、どんな人を指すのかしらね?
なんて、どうでもいい事を考えるくらいには彼女の言葉はわたくしの頭に入ってこない。
話し合うも何も……
「今更無理よ?
だってわたくしはもう『悪い事』、してるんですもの。
貴女が“誰にも話さない”と言ったところで信じるに値しないし……
ここまでやっておいて『貴女を何事もなく帰す』なんて、むしろできると思う?」
聞き返したわたくしにフィーナの目からは滝の様に涙が流れ出した。
彼女の中でも答えが出たのだろう。
あ、いや、と小さく呟きながらわたくしを見上げる彼女の目の中に芽生えた絶望の色に、わたくしは満足げに笑った。
-
165
お気に入りに追加
732
あなたにおすすめの小説
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
悪役令嬢の物語は始まりません。なぜならわたくしがヒロインを排除するからです。
霜月零
恋愛
わたくし、シュティリア・ホールオブ公爵令嬢は前世の記憶を持っています。
流行り病で生死の境を彷徨った時に思い出したのです。
この世界は、前世で遊んでいた乙女ゲームに酷似していると。
最愛のディアム王子をヒロインに奪われてはなりません。
そうと決めたら、行動しましょう。
ヒロインを排除する為に。
※小説家になろう様等、他サイト様にも掲載です。
悪役令嬢はあらかじめ手を打つ
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしは公爵令嬢のアレクサンドラ。
どうやら悪役令嬢に転生したみたい。
でもゲーム開始したばかりなのに、ヒロインのアリスに対する攻略対象たちの好感度はMAX。
それっておかしすぎない?
アルファポリス(以後敬称略)、小説家になろうにも掲載。
筆者は体調不良なことが多いので、コメントなどの受け取らない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした
ひなクラゲ
恋愛
突然ですが私は転生者…
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢でした…
出来ればこんな時に思い出したくなかった
だってここは全てが終わった世界…
悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
えっ、これってバッドエンドですか!?
黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。
卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。
あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!?
しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・?
よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる