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「きゃぁ!痛いっ!」

 今日も今日とて聞こえる可憐な乙女の悲鳴。
 桃色のパステルピンクの長髪を揺らしながら一人の少女が床に倒れている。
 場所はわたくしから離れた、それでいてわたくしが見えるところ。
 ピンク髪の少女が倒れている横では困惑した顔の女生徒が心配そうに声を掛けている。

「……だ、大丈夫?」
「っ……、だいじょうぶです……わたしが……悪いんですよね……っ!」

 横から手を差し伸べてくれた女生徒の手を無視してピンク髪の少女は走り去っていく。手を差し出した体勢のまま、女生徒は驚き困惑した顔をして固まっている。
 その女生徒の友人が心配して声を掛けた。

「どうしたの?」
「……分からないわ……後ろで声がしたと思って振り返ったら足元で倒れて居られたから声を掛けたのだけれど……」
「なんか嫌な感じだったよね……」
「わたくし……何かしてしまったのかしら……?」

 女生徒は不安げな顔をして友人と会話をしている。
 同じような会話を聞くのもこれで3回目。どれも「後ろで声がしたから振り返ったら倒れていた」というもの。

「……また……ですの?」

 わたくしの友人であるチルノ・ゼネザ伯爵令嬢が少しだけ眉間に眉を寄せた表情で騒ぎの女生徒たちに視線を向けながらわたくしに話しかけた。

「えぇ……そうみたいですわね……」

 わたくしも彼女と同じような表情をしながらそう答える。
 『ピンク髪の女生徒が倒れて走り去る姿』をわたくしとわたくしと共に居てくれる友人たち全員が今のを含めて計3回目見ている。

 最初は純粋に驚いた。
 貴族の令嬢令息が通う学園で、まず“転ける”という事が無い。マナーとして走らない事が徹底されている貴族社会で『ゆっくり歩いているのに転ける』のは足元に障害物がある時だけだから。学園の廊下や教室に石ころが落ちている訳もなく。

 何もないところで転けた彼女を最初みんなが心配した。年頃の娘が一人で歩いていて足がもつれるとか、わたくしなら病気とかを心配する。
 転けた彼女は心配するみんなに泣きそうな笑顔で
「だ、だいじょうぶです……わたしが、わたしが悪いんですから……」
と、謎の言葉を残して早足でその場を去った。
 『転けた事に誰が悪いとかあるのか?』というのがその時その場に居た全員の気持ちだろう。よく分からない彼女の言動はその後また起こり、そしてさっきの3回目だ。

 3回も起こればさすがのわたくしも確信出来る。

 彼女も前世の記憶を持っていて、この世界が乙女ゲームを舞台にしており、自分がそのヒロインであると自覚しているのだと……。



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