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【>> 中編 】
しおりを挟む「数の多い男爵家と子爵家の子供は下位貴族のマナーや知識を覚える為に、数の少ない伯爵家以上の家の子供は上位貴族のマナーや知識を覚える為に。
当然ではありませんか?上位貴族と下位貴族では覚える事が違うのですから。
なので、伯爵家の娘であるわたくしが子爵家であるそこのご令嬢と知り合う場面などほとんどございませんの。お食事も、わたくしたちは専用のサロンを使いますから。
ディーゼル様だってそうでありましょう?」
わたくしがそう聞くとディーゼル様はそこで初めて思い出したかのような顔をした。
わたくしが下位貴族の令嬢たちと出会わないように、侯爵令息であるディーゼル様も下位貴族の令息とほとんど接触は無い筈なのです。
それなのに何故わたくしだけが特別だと思うのでしょうか……
「あら?そういえば、ディーゼル様とリレイラ様はどこでお知り合いになられたのですか?」
「っ!!」
「っ……、わ、わたくしが学園の人の居ない場所で泣いていたところをディーゼル様が声をかけてくれたのです!虐められて悲しんでいたわたくしをディーゼル様はそのお優しい心で救ってくれたのです……あ、あれは運命の出会いだったと思います!!」
「あら?ディーゼル様と出会う前から虐められておられたのね?」
「あっ!」
「なら何故その後に"嫉妬したわたくしが虐めた"と思い込んだのかしら?
ディーゼル様と出会う前から虐められていたのでしたら、ディーゼル様に出会った後も同じ人たちが虐めていたんじゃありませんの?」
「そ、そんなの知らないわ!!わたくしは虐められた被害者なの!酷い事をしてくる人たちの顔なんて見たこともないわ!!」
「なら何故わたくしが虐めた事になったんですの?」
「っ……!!」
「そんな事は考えなくても分かるだろう!僕に構ってもらえない事を逆恨みしたお前が、嫉妬心からリレイラを虐めたに決まっている!!!」
「何故決まっているのですか?」
「っ!?当然じゃないか!!お前は僕の婚約者だからだ!!」
「婚約者だから嫉妬したと?
では、ディーゼル様はわたくしが男性と親しくしていたら嫉妬するのですか?」
「はぁ?!する訳がないだろう!!馬鹿にしているのか?!」
「馬鹿にしているのはディーゼル様ではありませんか?
ディーゼル様は嫉妬されないのに、
何故わたくしは嫉妬すると思われるのですか?」
「はぁ?!そんなのお前が……っ」
ここまで来てやっとディーゼル様は自分がおかしな事を言っている事に気付いたようです。
「ディーゼル様はわたくしが他に男性と親しくしていても嫉妬しないのに、
何故わたくしがディーゼル様と他の女性が親しくしていたら嫉妬すると思うのですか?」
わたくしはもう一度同じ事を聞きました。
「~~~っっ!?!」
ディーゼル様は思っている事を言葉に出せないかのように歯を噛み締めているようでした。
「そんなの!アデリカ様がディーゼル様を愛しているからに決まってるじゃないですか!!!」
何も言えなくなってしまったディーゼル様の代わりとでもいうように、その胸元でリレイラ様が声を上げました。
わたくしはそれにまた首を傾げて問いかけます。
「何故"決まっている"のですか?」
「そんなの、アデリカ様がディーゼル様の婚約者だからよ!!」
「わたくしがディーゼル様の婚約者だから嫉妬したのであれば、わたくしが他の男性と親しくしていたらわたくしの婚約者であるディーゼル様は嫉妬しないとおかしいですわよね?
でも、それを否定されたのはディーゼル様本人ですわよ?」
「当然じゃない!?!なんでディーゼル様が嫉妬するのよ!!」
「ディーゼル様は今の段階ではわたくしの婚約者ですわ。
"わたくしが婚約者だから"嫉妬するのであれば、ディーゼル様も"わたくしの婚約者だから"嫉妬しないとおかしいではありませんか?
何故わたくしだけがディーゼル様のお相手に嫉妬しなければなりませんの?」
そこまで言ってやっとわたくしの言いたい事が分かったリレイラ様が、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「貴女っ、ディーゼル様が好きじゃないの!?!」
リレイラ様の言葉が会場内に響き渡る。
そんな静かな会場にわたくしも声が響くように、けれど静かに返事をした。
「ディーゼル様は、お父様がお決めになった "婚約者" ですわ。
それ以外に思うことなどございません。
これはディーゼル様も同じでしょう?
何故、わたくしだけがディーゼル様の事を特別に想っているなどと妄想されたのでしょうか?
不思議でしかたありませんわ?」
「っっ!」
ディーゼル様が何故か悔しげに唇を噛んでおられますが意味が分かりません。
わたくしは"わたくしがディーゼル様をお慕いしている"と思われていた事が不愉快で、淑女としてはマナー違反ではありますが、不満気な顔を作ってお二人を見返しましたわ。
「そんなの……そんなのただの強がりに決まっているわ!!ディーゼル様はこんなにも格好良いんだもの!それに侯爵家次期当主様なんですもの!そんなディーゼル様を好きじゃないなんて!そんな事ありえないわ!!
ねぇ!?正直になりなさいよ、アデリカ様!?本当はディーゼル様が好きなんでしょう!?!」
何か必死に騒ぎ出したリレイラ様にわたくしは心底呆れてしまって肩をすくめてしまった。仕方ないわよね?だってこんなのを相手にするなんて疲れない訳がないわ。
「わたくしにとってディーゼル様は親が決めた婚約者であって、それ以上でもそれ以下でもありません。
むしろ好きか嫌いかで聞かれたら、
"嫌い"だと答えるしかないでしょうねぇ……」
呆れ返りながらそう伝えたわたしに、何故かリレイラ様の方が絶望したような顔になった。
なんなのかしら?
「あ、アデリカは僕が好きじゃないのか……?」
弱々しく聞こえてきた声に目を向けるとディーゼル様は青くなってこちらを見ていた。
「……逆にお聞きしますが、ディーゼル様はわたくしの事を好きだったのですか?」
「っ?!そんな訳ないだろう!!!」
不快げに叫ばれて、眉間に眉が寄ってしまう。静かに喋れないのかしら。
「でしたら、何故わたくしだけがディーゼル様に好意を持っていると思われるのですか?」
この質問何回目?
何故この2人はこうもわたくしを"ディーゼル様に惚れてる女"にしたいのかしら?
「そ、それは……」
「それはディーゼル様が格好良くて次期侯爵当主だからです!!」
「……貴女にとって、次期侯爵当主というのはそんなに魅力的なのかしら?」
「当然じゃないですか!!次期侯爵当主ですよ!その伴侶になれば、次期侯爵夫人です!!!こんなに魅力的な事はありません!!!」
嬉々として発言したリレイラ様の言葉にわたくしは呆れるしかなかった。
さすがにその発言には思う事があったのか、ディーゼル様が訝しげにリレイラ様の顔を見ている。
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