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12>>リネット

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 国外追放されたリネットは、服を変え、髪を切り、名前を変えて冒険者となった。

 リネットは転生者だった。
 母が死んだショックがきっかけで前世を思い出していた。
 そして父が後妻を家に呼び、義妹が出来た事により、リネットはこの世界がもしかしたら何かの物語の舞台になるのかもしれないと思った。

 王子の婚約者の姉と見た目が良い義妹。手作りお菓子を配ってどんどん味方を増やしていく義妹。早々に義妹に絆される婚約者の王子。

 なんか知ってる感じだな、とリネットは思ったがリネットの前世は某週刊誌だけを読み、情報はネットで回ってきたものを見る程度のものだったので、自分が転生したこの世界がゲームの世界なのか小説の世界なのかはたまた別の媒体なのか全く見当もつかなかった。
 だけどリネットにとってそんな事はどうでも良かった。

 別に婚約者の王子に惚れている訳でもない。最愛の母は死に、後妻にのめり込んでいる父に期待する事もない。
 何よりリネットは魔法が使えた。
 これが転生チートだろうかとリネットは思った。魔法で想像した事が何でも出来ると知った。

 途端にリネットは公爵令嬢でいる事が嫌になった。
 どうせ家には居場所は無いに等しい。さっさと出て行ってやろうかと思ったが何やら義妹が裏でやっている。この世界がもし物語の世界なら何か起こるのではないか?
 この世界が話題で聞いた事のある悪役令嬢ものであるならば、このまま待っていたら勝手に追放してもらえるのではないか?その方が探される心配もなく自由になるのでは?と、リネットは様子を見る事にした。

 魔法で遠くの声を聞き、もし死刑とか害のある刑になるのならさっさと消えようと思っていたリネットだったが、聞こえてきた話は国外追放だった。それならば茶番に乗ってやっても問題ないだろうとリネットは静観した。
 学園の卒業パーティーにて想像通りの断罪劇が繰り広げられ、極悪非道な義姉として会場を追い出された。
 乱暴にされる事もなく馬車に乗せられ一晩中運ばれて明け方頃に国境に着いた。

 国外追放という名の実質死刑と変わらない処罰にリネットは内心ちょっと笑ってしまった。普通の令嬢がいきなり追放されて生きていける訳が無い。なんて非道な人達だろうか。
 それにしても、あの人たちはこの後どうするのだろうか?相当困る事になるのではないか?その困っているところを自分は見る事が出来ないのだと、リネットは少しだけ後ろ髪が引かれる思いだった。

 それに仕返しもしたい。

 あの義妹の好き勝手にさせたままなのも不快。私は別に聖人じゃないのよ?
 という事で、義妹が頼りまくっていた魅了の効果を無くした。
 公爵や王子たちには感謝されたい気分だった。
 リネットは鼻歌交じりに魔法で転移して苦もなく隣国へと渡った。

 隣国で冒険者となり身分を得たリネットは名を新しく『ミク』とした。前世の名前でもなんでもない。ただ前世で好きだったから次の名前に拝借しただけの名前だった。
 魔法が使えるので生活にも何も困る事は無い。異次元空間に異次元収納、転移魔法に念動力。願えば何でも出来る魔法でリネット改めミクは世界中を旅して好きに生きた。

 生まれた国で自分を追い出した人たちに何が起こったのかも知らずに……。

 知ったところでミクは「そうなんだ。貴族って大変だよね~」くらいの事しか言わないだろう。自分に優しかった侍女たちの事は気になるが、それ以外の事はミクになったリネットにとっては気にしたいと思う程の思い入れなどないのだ。

 魅了薬で操られていたから冷遇してしまっていたと言われたところで、冷遇されていた方は『そうだったのね。分かった。あなたも本心じゃなかったのね。許すわ』なんてならないだろう。傷付いた心がそう簡単に割り切れるものではない。その時リネットが感じていた孤独や心痛が無かった事にはならないのだから……。

 自由を手に入れたミクが産まれた国に帰る事は2度と無かった。









[完]






※無詠唱で思い描くままに魔法が使えるのはリネットだけです。
※リネットがもっと早くに魅了の効果を消していたら誰も死ぬ事はなかったかもしれませんが、それをリネットがして上げる程の愛情は貰ってません。リネット的に後腐れなく放逐される方法を取り、序にウザい義妹の悪事を出来ないようにしてあげたら結果がアレになっただけです。リネットの責任ではありません。悪い事する方が悪い。
※「力の無い人」は何もしなくても許されるのに、「力の有る人」は何もしないを選択すると怒られ加害者扱いされるんですよね。産まれただけなのに「義務」と「責任」を背負わされる……。
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