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第五章 アーサーと異世界の少女
十 魔石と侵略者の情報
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1・
蜘蛛を倒した後、それよりも小型の魔物や動物たちが複数寄ってきた事で、何が問題かよく分かった。
エルフ達も夢中になって収穫したオレンジだけでなく、木そのものを彼らは得ようとしている。俺が思っていた以上に魔力不足は大問題のようだ。
単純に栄養が欲しいからではなくて、魂の乾きを潤したいのだろう。
そうと分かれば、この狩り小屋から出て行くか、オレンジの木を伐採するしかない。
しかし伐採はエルフ達が大反対してしまった。後でまた生やすと言っても、せっかくの奇跡を一本でも多く残しておきたいと主張してくる。
なので俺たちは狩り小屋から撤収して、夜道を歩いた。
森の小道を歩いていると、俺が点す魔法の明かり以外に、暗闇の中で何かがぼんやりと光っている。
それを持っているエルフの一人が近づいて来たから視線を向けたら、彼と目が合った。
「先ほどの蜘蛛の魔石です。これだけは頂いてきました。お受け取り下さい」
「え? いや、別にいりません。俺は他にも持っているんです。それで……」
俺は、隣を歩く咲夜が気になったものの、聞いてみた。
「魔石の利用方法は、都市と飛空艇を浮遊させる以外に何がありますか?」
「他の魔道具の燃料にもなりますね。それに天空都市では宝石と同等の価値で取引されます。今後の活動資金にされて下さい」
「いや、それは本当に結構です。それよりも、あなたは何かの魔法を使えますか?」
「はい? ええ、火種を作るほどの火の術です」
彼が意味が分からないという風に答えたから、俺は立ち止まった。
他の人に呼びかけて休憩を取ってもらい、人から離れた場所までさっきの彼を連れて行った。
魔石とは文字通りに魔力の結晶だ。普通の人間では親和性に劣るから使えないかもしれないが、この滅び行く世界で勇者でもないのに魔法が使えるエルフなら、可能性がある。
俺は彼に魔石から力を引き出す、あるいは魔石を通して火の魔法が発動するようにイメージして使ってみせてと頼んだ。
幾度か小さな炎が出現して、それだけではダメかなと思ったところで。
突然に高火力の炎の魔法が周辺に襲いかかって火災を発生させたので、慌てて消火した。
質問攻めに遭う前に全員に向けて説明した。エルフ達なら、道具を使わなくても触れるだけで魔力タンクとして使用できるのだと。
いきなり自分たちが凄腕の魔術師になれるかもしれない希望を抱いたエルフ達は、とてもはしゃぎだした。
しかし蜘蛛の大きな魔石は危険だから没収して、俺が故郷のシルバー迷宮でため込んだ雑魚程度の魔物が持つ小さな魔石を配布して練習してもらった。
近くにあった狭い空き地に移動して、結局そこで野営となった。見張り役全員が面白そうにホタル並に光を点滅させているのを、俺は責任をもって徹夜で見張って安全確保した。
そして咲夜が眠っている夜の間に、エルフ達のリーダー格のクフランに違う話を聞いた。
俺が落とした飛空艇から奪った、手のひらですっぽり包めるぐらいの中型の大きさの魔石を見せて、これらが人の体内から取り出された可能性はあるかと。
「可能性は、ないとは言えませんね。天空都市で使用する魔石のほとんどが、彼らが研究所で合成した獣、地上に落とされると魔物となる物から採られるようですが……可能性はね」
俺は、鑑定能力持ちの咲夜に見せなくて正解だったと安堵した。
「でもどうして、天空都市同盟は人からの魔石確保を諦めたんでしょうか。世界大戦の引き金になった程なのに」
「ああ、繁殖に失敗したんですよ。魔力を多く持つ者は先に消費されて、いなくなってから失敗に気付いたんです。優秀な者からしか、優秀な子が安定して生まれないとね」
クフランは、自分たちの先祖の事を表現しているだろうに、物凄く割り切って冷たく教えてくれた。
それに気付いた。ここにいるエルフ達は、狩られずに済んだ魔法の素質がない人の子孫だという事を。だからエルフぽくないと感じるほどに、自然界に馴染めないのだと。
彼らが俺をハーフエルフと思った時に引いた理由の一つは、これだろう。ただでさえ優秀な者が生まれないエルフなのに、何故未来を託すべき子をより無力な人間との間に作ったのかという。
この世界、色々と悲しすぎると感じて辛くなった。
2・
翌朝。オレンジに鹿肉の焼き肉という朝食が振る舞われている時に、気配は先に感じていたが森の動物かと思っていた穏やかな存在たちが、森の奥からやって来た。
クフラン達は仲間のエルフ達に俺と咲夜を紹介してくれた。そして彼らも名乗ってくれた後で、暗い顔つきで続けた。
「ガレラント首都が飛空艇団によって襲撃を受けた。奴らは南東部の山脈を越えて無差別攻撃を仕掛けてきて、都市全体を空爆して帰っていった。生き残り達は、山の隠れ里や森の狩り小屋、谷の染め物小屋などに散り散りになって避難した」
俺はその台詞を聞いた時に、戦争とはそういうものだという気がしていたから、残酷さだけに心を痛めた。
だからエルフ達が一斉に卑怯だと罵り始めた時に、何が卑怯かすぐに気付かなかった。
「女子供も攻撃するなんて、奴らはどういうつもりなんだ! 戦えない者を犠牲にして得た勝利を誇るつもりか! 奴らはまともじゃない!」
「あ……」
俺は、日本人だった時に学んだある事実を思い出した。
第二次大戦大戦の最中。都市の全てを破壊するような無差別爆撃が繰り返されるようになった。直接的に戦場じゃない都市を、非戦闘員だろうが何だろうが構わず丸ごと攻撃を仕掛けるようになったのは、確かその時が地球の歴史上で初めてだった筈。
そうして破壊された戦場を故郷として知っている日本人にとり、もうすでにそのやり方は通常の戦略とすり込まれてしまっているのだけれど、今この世界では、ここで初めて使用された外道で邪道だ。
つまり、この作戦の立案に日本人が関わっている。咲夜のクラスメイトだろうか。もしくは学校から転移させられたというなら、参考書や教科書などからの情報か。
「偵察隊のメンバーは、全員がクリムゾンレッドの岩山に召集されている。そこで作戦会議を開いて、今後の方針を決定するという。だから行くといい。我々は、残りのメンバーを探して状況を伝える」
やって来たばかりのエルフ達は、すぐに立ち去ろうとした。
その彼らにオレンジと鹿肉の一部を手渡して譲ると、ハーフエルフみたいな俺でも特に差別感はないようで普通に感謝してもらえた。
彼らは暗く沈んだまま、森の中に消えて行った。その姿を見て、自分が遥か過去のエルフ王レオンだった時のことを思い出した。
俺が黙り込んでいると、クフランが話しかけてきた。
「アーサー殿、南部山地に行く前に、岩山に立ち寄っても構いませんか? ここから南東に徒歩で三日ほどの距離です」
「えっ。そりゃあ行くべきですよ。私達のことは、あまり気にせずともいいですよ。それに合流した先では、食料に困っているんじゃないですか? 岩山に行くまでに適当な場所で木を生やして、果物を収穫しましょう」
「……ありがとうございます。よろしくお願いします」
クフランも、俺に素直に感謝してくれた。俺は、エルフ達と自分の関係を色々と考えてしまった。
すぐ、南東にあるクリムゾンレッドの岩山に向かうことになった。
いつも通りの隊列で森を進み、咲夜の隣を歩いた。
歩きながら咲夜に聞いてみた。
「こっちに呼ばれた時に持っていた物は、ほとんど王国人に奪われたんじゃないのか?」
「うーんと、そういう言い方で合ってるかもね。日本文化を理解したいから全部譲ってって迫ってくる、押しの強い人たちがいたの。それで私たちにはこっちの常識をさっと教えただけで、後は毎日武芸の練習だけさせたのよ」
「とはいえ、教科書とか持って行ってもらえたのは、嬉しいんじゃないのか?」
「ああ、まあ、それはあるわ。でも今となっては、真面目に勉強するから帰りたいって思う。だけど、叔父さんと会えたのは物凄く嬉しいの。乙女心は、ほんっと~に複雑よ!」
「俺も、咲夜に会えて嬉しいよ。まさか異世界で姪っ子に会えるなんて思わなかったし、物凄い美人で驚いた」
「な、なによもう。叔父さんってナンパ師だったの? 知らなかったわ」
「いや違う。彼女いない歴が年齢のおっさんだよ。そうじゃなくて、あの兄貴の娘がこうだと複雑というか……」
咲夜は、ぶっと吐き出して笑った。
「言いたい事は分かるわ。出会う親戚全員から、お母さん似で良かったねって褒められるのよ」
「兄貴、マジで怖いもんなあ。でも県庁職員っていうギャップ」
「今は、まあまあお偉いさんになってるわよ。仕事人間であまり遊んでくれた事がないけど、しょうがないかなって割り切ってる。人のための仕事だし、偉いと思ってる」
「本当になあ。俺なんてニートだったからな。兄貴がいてくれて、本当に良かったって思ってる。両親の面倒を絶対に最後まで見てくれるって確信があったから……馬鹿な俺は家でぶらぶらしちゃったというか……」
こんなところで本音を言ってしまい、恥ずかしくなった。
しばらく照れて黙った。そしてそのうち、まじまじと俺を見る咲夜に気付いた。
「うん? 何か?」
「アーサー叔父さん、本当に私たちの家族だったんだね」
「うん」
「転生って、本当にあるのね」
「あるよ。咲夜も日本に帰って思う存分生きた後は、ウィネリア魔法世界に来てみたらいい。めっちゃめちゃ素敵な場所だからさ」
「転生しなくても行ってみたいわ。どうしてか知らないけど叔父さんがこっちに来られたんだから、私がそっちにだって行けるんじゃない?」
「今は日本に帰らないと、兄貴たちが悲しむ。帰ってあげてくれ」
「一生ずっとじゃないわ。三日間ぐらい行ってみたいの。お口直しのバカンスにね」
「ああ、それぐらいなら頼んでみるよ。俺の家に招待するからおいで。森の中の美しい一軒家なんだ」
「よし。じゃあ約束ね!」
咲夜はにこやかに、俺と指切りげんまんをした。嘘ついて針千本飲みたくないから、本気で検討することにした。
「そういえば、叔父さんもこのアルダリアに、勇者として誰かに召喚されたの?」
「咲夜が召喚したんだよ。コボルトの住みかで」
「ん? 存在を知らなかった人を、私が?」
「俺も良く分からない。だけど、だからこそ何か別の要因がありそうだよな。俺が後で調べておく」
「分かったわ。アーサー叔父さんは頭脳労働担当ね」
肉体労働担当も俺だ。つまり、丸投げされたか……。
蜘蛛を倒した後、それよりも小型の魔物や動物たちが複数寄ってきた事で、何が問題かよく分かった。
エルフ達も夢中になって収穫したオレンジだけでなく、木そのものを彼らは得ようとしている。俺が思っていた以上に魔力不足は大問題のようだ。
単純に栄養が欲しいからではなくて、魂の乾きを潤したいのだろう。
そうと分かれば、この狩り小屋から出て行くか、オレンジの木を伐採するしかない。
しかし伐採はエルフ達が大反対してしまった。後でまた生やすと言っても、せっかくの奇跡を一本でも多く残しておきたいと主張してくる。
なので俺たちは狩り小屋から撤収して、夜道を歩いた。
森の小道を歩いていると、俺が点す魔法の明かり以外に、暗闇の中で何かがぼんやりと光っている。
それを持っているエルフの一人が近づいて来たから視線を向けたら、彼と目が合った。
「先ほどの蜘蛛の魔石です。これだけは頂いてきました。お受け取り下さい」
「え? いや、別にいりません。俺は他にも持っているんです。それで……」
俺は、隣を歩く咲夜が気になったものの、聞いてみた。
「魔石の利用方法は、都市と飛空艇を浮遊させる以外に何がありますか?」
「他の魔道具の燃料にもなりますね。それに天空都市では宝石と同等の価値で取引されます。今後の活動資金にされて下さい」
「いや、それは本当に結構です。それよりも、あなたは何かの魔法を使えますか?」
「はい? ええ、火種を作るほどの火の術です」
彼が意味が分からないという風に答えたから、俺は立ち止まった。
他の人に呼びかけて休憩を取ってもらい、人から離れた場所までさっきの彼を連れて行った。
魔石とは文字通りに魔力の結晶だ。普通の人間では親和性に劣るから使えないかもしれないが、この滅び行く世界で勇者でもないのに魔法が使えるエルフなら、可能性がある。
俺は彼に魔石から力を引き出す、あるいは魔石を通して火の魔法が発動するようにイメージして使ってみせてと頼んだ。
幾度か小さな炎が出現して、それだけではダメかなと思ったところで。
突然に高火力の炎の魔法が周辺に襲いかかって火災を発生させたので、慌てて消火した。
質問攻めに遭う前に全員に向けて説明した。エルフ達なら、道具を使わなくても触れるだけで魔力タンクとして使用できるのだと。
いきなり自分たちが凄腕の魔術師になれるかもしれない希望を抱いたエルフ達は、とてもはしゃぎだした。
しかし蜘蛛の大きな魔石は危険だから没収して、俺が故郷のシルバー迷宮でため込んだ雑魚程度の魔物が持つ小さな魔石を配布して練習してもらった。
近くにあった狭い空き地に移動して、結局そこで野営となった。見張り役全員が面白そうにホタル並に光を点滅させているのを、俺は責任をもって徹夜で見張って安全確保した。
そして咲夜が眠っている夜の間に、エルフ達のリーダー格のクフランに違う話を聞いた。
俺が落とした飛空艇から奪った、手のひらですっぽり包めるぐらいの中型の大きさの魔石を見せて、これらが人の体内から取り出された可能性はあるかと。
「可能性は、ないとは言えませんね。天空都市で使用する魔石のほとんどが、彼らが研究所で合成した獣、地上に落とされると魔物となる物から採られるようですが……可能性はね」
俺は、鑑定能力持ちの咲夜に見せなくて正解だったと安堵した。
「でもどうして、天空都市同盟は人からの魔石確保を諦めたんでしょうか。世界大戦の引き金になった程なのに」
「ああ、繁殖に失敗したんですよ。魔力を多く持つ者は先に消費されて、いなくなってから失敗に気付いたんです。優秀な者からしか、優秀な子が安定して生まれないとね」
クフランは、自分たちの先祖の事を表現しているだろうに、物凄く割り切って冷たく教えてくれた。
それに気付いた。ここにいるエルフ達は、狩られずに済んだ魔法の素質がない人の子孫だという事を。だからエルフぽくないと感じるほどに、自然界に馴染めないのだと。
彼らが俺をハーフエルフと思った時に引いた理由の一つは、これだろう。ただでさえ優秀な者が生まれないエルフなのに、何故未来を託すべき子をより無力な人間との間に作ったのかという。
この世界、色々と悲しすぎると感じて辛くなった。
2・
翌朝。オレンジに鹿肉の焼き肉という朝食が振る舞われている時に、気配は先に感じていたが森の動物かと思っていた穏やかな存在たちが、森の奥からやって来た。
クフラン達は仲間のエルフ達に俺と咲夜を紹介してくれた。そして彼らも名乗ってくれた後で、暗い顔つきで続けた。
「ガレラント首都が飛空艇団によって襲撃を受けた。奴らは南東部の山脈を越えて無差別攻撃を仕掛けてきて、都市全体を空爆して帰っていった。生き残り達は、山の隠れ里や森の狩り小屋、谷の染め物小屋などに散り散りになって避難した」
俺はその台詞を聞いた時に、戦争とはそういうものだという気がしていたから、残酷さだけに心を痛めた。
だからエルフ達が一斉に卑怯だと罵り始めた時に、何が卑怯かすぐに気付かなかった。
「女子供も攻撃するなんて、奴らはどういうつもりなんだ! 戦えない者を犠牲にして得た勝利を誇るつもりか! 奴らはまともじゃない!」
「あ……」
俺は、日本人だった時に学んだある事実を思い出した。
第二次大戦大戦の最中。都市の全てを破壊するような無差別爆撃が繰り返されるようになった。直接的に戦場じゃない都市を、非戦闘員だろうが何だろうが構わず丸ごと攻撃を仕掛けるようになったのは、確かその時が地球の歴史上で初めてだった筈。
そうして破壊された戦場を故郷として知っている日本人にとり、もうすでにそのやり方は通常の戦略とすり込まれてしまっているのだけれど、今この世界では、ここで初めて使用された外道で邪道だ。
つまり、この作戦の立案に日本人が関わっている。咲夜のクラスメイトだろうか。もしくは学校から転移させられたというなら、参考書や教科書などからの情報か。
「偵察隊のメンバーは、全員がクリムゾンレッドの岩山に召集されている。そこで作戦会議を開いて、今後の方針を決定するという。だから行くといい。我々は、残りのメンバーを探して状況を伝える」
やって来たばかりのエルフ達は、すぐに立ち去ろうとした。
その彼らにオレンジと鹿肉の一部を手渡して譲ると、ハーフエルフみたいな俺でも特に差別感はないようで普通に感謝してもらえた。
彼らは暗く沈んだまま、森の中に消えて行った。その姿を見て、自分が遥か過去のエルフ王レオンだった時のことを思い出した。
俺が黙り込んでいると、クフランが話しかけてきた。
「アーサー殿、南部山地に行く前に、岩山に立ち寄っても構いませんか? ここから南東に徒歩で三日ほどの距離です」
「えっ。そりゃあ行くべきですよ。私達のことは、あまり気にせずともいいですよ。それに合流した先では、食料に困っているんじゃないですか? 岩山に行くまでに適当な場所で木を生やして、果物を収穫しましょう」
「……ありがとうございます。よろしくお願いします」
クフランも、俺に素直に感謝してくれた。俺は、エルフ達と自分の関係を色々と考えてしまった。
すぐ、南東にあるクリムゾンレッドの岩山に向かうことになった。
いつも通りの隊列で森を進み、咲夜の隣を歩いた。
歩きながら咲夜に聞いてみた。
「こっちに呼ばれた時に持っていた物は、ほとんど王国人に奪われたんじゃないのか?」
「うーんと、そういう言い方で合ってるかもね。日本文化を理解したいから全部譲ってって迫ってくる、押しの強い人たちがいたの。それで私たちにはこっちの常識をさっと教えただけで、後は毎日武芸の練習だけさせたのよ」
「とはいえ、教科書とか持って行ってもらえたのは、嬉しいんじゃないのか?」
「ああ、まあ、それはあるわ。でも今となっては、真面目に勉強するから帰りたいって思う。だけど、叔父さんと会えたのは物凄く嬉しいの。乙女心は、ほんっと~に複雑よ!」
「俺も、咲夜に会えて嬉しいよ。まさか異世界で姪っ子に会えるなんて思わなかったし、物凄い美人で驚いた」
「な、なによもう。叔父さんってナンパ師だったの? 知らなかったわ」
「いや違う。彼女いない歴が年齢のおっさんだよ。そうじゃなくて、あの兄貴の娘がこうだと複雑というか……」
咲夜は、ぶっと吐き出して笑った。
「言いたい事は分かるわ。出会う親戚全員から、お母さん似で良かったねって褒められるのよ」
「兄貴、マジで怖いもんなあ。でも県庁職員っていうギャップ」
「今は、まあまあお偉いさんになってるわよ。仕事人間であまり遊んでくれた事がないけど、しょうがないかなって割り切ってる。人のための仕事だし、偉いと思ってる」
「本当になあ。俺なんてニートだったからな。兄貴がいてくれて、本当に良かったって思ってる。両親の面倒を絶対に最後まで見てくれるって確信があったから……馬鹿な俺は家でぶらぶらしちゃったというか……」
こんなところで本音を言ってしまい、恥ずかしくなった。
しばらく照れて黙った。そしてそのうち、まじまじと俺を見る咲夜に気付いた。
「うん? 何か?」
「アーサー叔父さん、本当に私たちの家族だったんだね」
「うん」
「転生って、本当にあるのね」
「あるよ。咲夜も日本に帰って思う存分生きた後は、ウィネリア魔法世界に来てみたらいい。めっちゃめちゃ素敵な場所だからさ」
「転生しなくても行ってみたいわ。どうしてか知らないけど叔父さんがこっちに来られたんだから、私がそっちにだって行けるんじゃない?」
「今は日本に帰らないと、兄貴たちが悲しむ。帰ってあげてくれ」
「一生ずっとじゃないわ。三日間ぐらい行ってみたいの。お口直しのバカンスにね」
「ああ、それぐらいなら頼んでみるよ。俺の家に招待するからおいで。森の中の美しい一軒家なんだ」
「よし。じゃあ約束ね!」
咲夜はにこやかに、俺と指切りげんまんをした。嘘ついて針千本飲みたくないから、本気で検討することにした。
「そういえば、叔父さんもこのアルダリアに、勇者として誰かに召喚されたの?」
「咲夜が召喚したんだよ。コボルトの住みかで」
「ん? 存在を知らなかった人を、私が?」
「俺も良く分からない。だけど、だからこそ何か別の要因がありそうだよな。俺が後で調べておく」
「分かったわ。アーサー叔父さんは頭脳労働担当ね」
肉体労働担当も俺だ。つまり、丸投げされたか……。
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