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第四章 真実に立ち向かう者達

十一 魔王ユリアヌス戦へ

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1・

俺が全てを知って、味方たちに作戦を伝えてから一ヶ月後。ペールデール国の魔王の居城前広場に、精鋭たちが勢揃いした。

全くの初心者だったレナードたちの事を考えれば、あと数カ月間は修行をさせて決戦に挑むべきかもしれない。

しかし魔王と迷宮に関する真実を知った時の味方たちの、良い意味での緊張感が維持されるのは、この一ヶ月ほどの期限でぎりぎりだ。

どんな猛者でも、一ヶ月も強い緊張感にさらされれば慣れてしまうか、逆に辛抱ならなくなってイラつくようになる。その心の隙を生まない今のうちに、迷宮の機能のおかげでリトライが可能なので、一度は挑んだ方がいい。

低い確率だと思うが失敗したりしても、その失敗で緊張感を維持したまま修行して、次の戦いに挑めるだろう。

しかし絶対に、次の機会など作るつもりはないが。

味方の部隊は、魔王の出現する地帯である二階から六階までの階層全てに配置する。そして迷宮内部をどんどん逃げていくかもしれない魔王を常に追いかける役として、俺たちが遊撃部隊になる。

そして退治したところで即座に俺が魔王の体を封印して時間を止め、ユーリシエスの闇の力を借りて魂と体を引き剥がす。

体に残る闇の力は捨て置いて、魂のみに有志からもらい受ける光を集中させて、かつての俺のように魔王から神へと転じさせる。この方法ならば、まだかき集められる光が少なくとも、一番必要なユリアヌスの魂のみは救える。

俺はみんなにこう説明して、この作戦の時に光の英雄の帰還を望み祈りを捧げるように頼んである。

これは現場にいる仲間だけでなく世話係の知り合いや、ベルリアナにも頼んで鳥族の全員に森から祈るように頼んだ。竜王も信頼できる者達に真実を説明して、南部大陸から祈りを捧げるように命じてくれた。

ただ宗教問題などの事情がある人間たちの国々、リヒトの部下ですら一部の信頼できる者以外には祈りの手助けは頼んでいない。

これは神を生み出す儀式ではあるけれど、何か特定の宗教の問題ではない。ここで誤解されては、後の魔王の解放作戦に悪影響が出る。

元凶である預言者集団も、元は人間たちの宗教団体だった。

それを警戒するからこそ、人間たちにはどの勢力にも通じない孤児出身のレナードパーティーの英雄譚として全ての人々の心に届き、何のしがらみもなく魔王の中にある光を信じてもらえるように期待する。そのために事を成す前の今は、人間たちにはあまり頼れない。

だからこそ光が足りずに、必要になる犠牲。俺はそれが誰なのか、いつどこで必要なのかは説明していない。

けれど、誰からも教えてくれとは頼まれない。俺がこの方法で成功すると断言するから、みんな信じて黙ってついてきてくれている。

しかし、全てを心地よい笑顔で聞いてくれたタロートは知っている。

そのタロートは、後で呼ぼうと思っていたのに、俺がリヒトと共に出陣式で台の上に立った時にはここに来ていて、少し向こうの人影でニコニコ笑っていた。

俺が生後二ヶ月でも、とても立派になったと思ってくれているのだろうか。見てくれだけでも立派に見えるなら、俺はそれを嬉しく思う。

そして式の後。念のために作戦中の一階部分の制圧作業をする係の、竜の国の一般兵士たちと鳥族の精鋭たちが入場を開始したところで、彼は俺に近づいてきた。

何故か、両手に花の状態で。

「トーマ様、私たちも同行いたします。トーマ様と契約はしておりませんが、私たちもゴールドカード保持者です。役立ちます!」

ミーナが元気よく叫ぶ。

「魔王ユリアヌス戦は、簡単には勝ち得ないものと思います。ですので、私にも手伝わせて頂けませんか? 私たちはトーマ様のお側にいたいのです」

エリスが真摯に頭を下げてくる。

両者が何故か、苦笑いするタロートの腕を取って引っ張っている。

俺は二人のハルセト伯父さんに視線をやった。そ知らぬ顔をしている。タンジェリンは空を仰ぎ、バルバドスは俯いている。

さすがに忙しすぎて機微が分からなかった俺でも理解できた。彼女らは、俺の嫁候補か!

「タロートさん、そのう、巻き込まれましたか?」

「はあ。保護者兼推薦人として連れて来られました」

「何でも人の言うこと聞いちゃ駄目ですよ」

まさか俺がタロートに注意すると思わなかった。

「そこを何とか」

バレたと理解したミーナがタロートの腕を放し、俺の手をしっかり掴んで懇願してきた。

「どうかよろしくお願いいたします」

エリスもタロートの腕を放して、俺の手を掴んで引っ張った。

「あ~、え~と、そのう……」

どう答えようか悩んでいると、周囲の知り合いたちがクスクス笑い始めた。

物凄く恥ずかしいから良いよと答えて手を離してもらったところで、ふと視線が合った。

女神として誰にも見せてはいけない形相で、俺を睨むプリムベラと。

「ちょっと、プリムベラさん? 何故その顔を?」

「へへー、ほほー、ふーん」

プリムベラはそんなこと言いながら、顔を逸らして歩いて行ってしまった。

そしてレナードたちと共に、受け持つ地上二階へと向かってしまった。

見送った俺は、気持ちを素早く切り替えた。

2・

一階は竜の一般兵士たちと鳥族の精鋭たち。二階はレナードパーティーと、その彼らの補佐もするリヒト率いるペールデール国軍パーティー。

三階は影の勇者であるジェフリーパーティーと、唯一依頼を出して頼った部外者の人間たちである、オゼロの冒険者ギルド支部の職員パーティーが受け持つ。

四階から六階には竜王直属の賢竜隊と覇竜隊の面々を丸ごと借りて、多く配置した。

そして俺たちは作戦の要であるユーリシエスと、ミーナとエリス、保護者のタロートまで加えて最後に入場して、魔王ユリアヌスが現在いるという地上五階へと向かった。

この魔王の居城がペールデールの山岳地帯にある為か、階層が上がるに従いフィールドが険しい山岳地帯に変貌していく。

足場の悪い瓦礫地帯も多いながら、元々山岳地帯出身の竜族たちは特に何も気にしていない。

その彼らが案内してくれた地上五階の山の洞窟に、闇に染まり黒々とした全身鎧とマントを身につける、鬼の形相をした魔王ユリアヌスがいた。

その体は鎧姿のままで、エルフ王レオンが大獅子に変化した時のように巨大化していて、さながら鉄の巨人のようだ。

手に持つ武器は彼の得物だった大剣が、同じく呪われて巨大化したものだ。
その一撃を防御せずに受ければ、俺どころか若手の竜ですらたやすく即死するだろうと思える。

戦力としては参加しないが同行してもらっているユーリシエスの雰囲気が変わったのが、彼を見なくても感じ取れた。

あまり芳しくない事情があって生まれただろうに、それでもユリアヌスは実の父だ。

シルルが気遣った通りに、慕情があるのだろう。

ユーリシエスのためにも、俺は仲間たちに戦闘開始の合図を送った。

不意打ちとなる初めの一撃は、俺も含めた全員による遠距離からの総攻撃。

俺は床面が破壊されることなど気にせず、最高位に近い風魔法で攻撃を加えた。それで全てが終われば簡単なのだが。

引き続いて、舞い上がった砂埃を迷宮を操作する力で消去してすぐ、壊れた地面を余計に砕きつつ俺たちに突撃を仕掛けてくるユリアヌスの姿を確認した。

そりゃあ、たった八人で星一つを滅ぼせるように生み出された魔王だ。そう上手くはいかない。

先ほどの攻撃でいくらかのダメージを負っただろうに、ガレドとウルハとバルバドスが突撃を止めるために立ちはだかっても、俺の最高位防御魔法を一撃で駄目にして、三人自身にもダメージを与えてしまった。

ユリアヌスの攻撃方法は手に持つ大剣だけでなく、彼の体から鎖が伸びて繋がっている六つの巨大な鉄球もある。事前情報で聞いた通り、その人と同じ程の大きさの鉄球はユリアヌスが操作しているのか、それぞれが全く別の動きをして素早く近づくハルセトとタンジェリンに打ちかかっている。

ハルセトとタンジェリンはその攻撃を素早さのみで回避して、ユリアヌスに連続攻撃をたたき込んだ。

ハルセトの灼熱の一撃とタンジェリンの剣撃で一瞬動きを止めたユリアヌスながら、ダメージを受けているかどうか分からない様子で、引き続いて俺たちに大剣と鉄球で攻撃を仕掛けてきた。

俺がここですべきは、なかなかダメージを食らわないとはいえ怪我をする仲間の回復と、最高位防御魔法を維持し続ける事。そして同時に足場の悪さを無くすために、宝玉を利用して周辺の地形そのものを変化させること。

その三つを同時に行うつもりだったが、幸運なことにミーナとエリスが仲間入りしてくれて、仲間の回復と防御魔法以外の補助を頼めた為に、かなり楽になれた。

余計な女の子を巻き込みたくないと意固地になって、彼女らを避けていた自分を馬鹿だと思った。

地形の変化にほぼ全ての意識を集中できたことで、山岳地帯だった筈の周囲はあっという間に荒れた平地へと変化した。

地形が整えば、素早く動く攻撃役のいる俺たちの方が有利になる。

それに奇しくもタロートが現場復帰してくれて、俺の傍に立ってくれている。タロートには、絶対に前に出ずにミーナとエリスを守ってと頼んだ。

でも本当は俺の傍に立ってくれているだけで、俺の中から勇気が湧いて出てくる。まるで実の父が傍にいて、見守ってくれる安心感がある。

俺、たった一ヶ月一緒にいただけでどれだけ懐いてしまったんだろうと苦笑いしつつ、勇気を力に変えて前に一歩踏み出した。

以前シルバー迷宮で見たルチアの炎の槍を真似、風の魔力を集束させて巨大な槍を作り、味方を避けて一瞬でユリアヌスに突き刺した。

俺の本気の一撃を胸に受けたユリアヌスは、ようやく足元が揺らいで攻撃の手を止めた。

だが、ここでとどめをと思った時には、その巨体は跡形もなく消え去ってしまっていた。

四万年が経っても魔王が一度も退治されていない原因の一つ、迷宮内部での瞬間移動をされては、せっかくの攻撃の好機を失うだけだ。

しかしすぐ、リヒトから借りた魔道具で耳に取り付けてある通信機から、声が聞こえてきた。

『二階の階段前です! 王子と勇者たちが戦闘に入りました!』

「了解しました!」

俺は叫んで返し、仲間たちと共に二階の階段前に瞬間移動した。
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