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第四章 真実に立ち向かう者達
4 地上一階を探索する
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1・
迷宮の扉をくぐって一歩前に出ると、血の臭いが漂う広大な原野があった。
血の臭いの原因である魔物の死体が、傍にいくつか落ちている。
竜族の戦士たちが、少し遠くの方で狩りを行っている。戦士たちは物理攻撃スキルを使用していて、ブロンズ迷宮のラスボスだったマンティコアと同じぐらいの中型トラック一個分の魔物が、一撃必殺で宙を舞っている。
フィールドに目をやると、入り口である白い光の扉の横に、青い魔法陣が地面に描かれていて発光している。
「トーマ様、あれは各階層間を瞬間移動するための魔法陣です。このゴールド迷宮内では、上位精霊の瞬間移動能力ですら行使が難しくなります。場所によれば空間収納も使用不可能です。ですので、迷宮の階段は別にあるものの、ペールデール国軍の魔術師と冒険者の有志が、即座に迷宮からの撤退が可能になる魔法陣の維持に努めています」
タンジェリンが、それを指差して教えてくれた。
「これに乗れば、すぐに魔王に出会えたりするのですか?」
「いいえ、魔王は最上階の六階に座しているのではありません。かの化け物は地上二階から上の階層内を自由にさまよい歩いています。どこにいるのかは、時により違います」
「地上……ですか。ゴールド迷宮では、上に向かうのですか」
「地下に向かう迷宮もありますよ。この魔王の居城では上に向かうだけです」
「なるほど。それでその……今までの迷宮と違って、どこが限界なのか分からないんですが?」
脳内検索能力で、この地上一階の地図をイメージ上に展開してみたが、壁が見当たらない。
今までは広くても四、五キロメートルほどの通路やフィールドがあり、遠くが見渡せるフィールド上でも近づけば出現する土や石の壁があった。
地図上では、その壁も表示されていて把握し易かった。
なのに今、地図上に限界がない。
「ここは異次元世界で、本当の意味で別世界なのだと言われています。ですので、湧いてくる魔物の数はほぼ無制限で、魔王を倒して再出現する時間もランダムです。そして階層主というボスは一階につき一頭おり、平均してだいたい十階程度が最奥地になります」
「あの……死体は回収しないで放っておくのですか?」
「欲しい部位だけ切り取って持っていく場合が多いですが、空間収納が使用可能なら、全部回収するのもいいと思います。放っておけば、そのうち消えます」
「タンジェリンさんは……空間収納が使えますか?」
怖ず怖ずと聞くと、彼は笑顔で答えた。
「既に無理です。しかしハルセト殿でしたら、中層辺りまでは対応できるでしょう。ここでの荷物持ちは彼になります」
それを聞いて、タロートがあれだけあっさりと身を引いた意味、現実に気付いた。
笑顔で答えるが、既に己の限界を悟りゴールド迷宮内で散ってもいいと覚悟をしているだろうタンジェリン。そして自分の死を俺のせいにしない為に、潔く引退したタロート。
どちらも正解で正しい選択だ。俺はこの両者の想いを無駄にせず、未来のために生かさなくてはいけない。
そう決意すると、レオンの封印がある額がピリピリした。解けそうにはないが、何かあるのか。
そういえばゴールド迷宮内に入った瞬間から、外より強い重力と薄い魔力の流れに戸惑うしかない状況にいる。戦士の技は鈍くなり、魔法は発動しにくく威力が弱まる。
その上で魔物は一階の雑魚でもブロンズ迷宮のラスボスレベル。しかもそれが多数同時に出現する。
フィールドはほぼ無限大で、無制限に魔物が出現する。魔物と戦って死ななくても、迷子になり出口にたどり着けないだけで死ねるだろう。
二階に行けば、そこからゴールド迷宮の魔王が出現する可能性が出てくる。階層主のボスと戦っている間にそれに背後から強襲される可能性だってある。簡単に全滅もあり得る話じゃないのだろうか。
まだその魔王に会ってないものの、このゴールド迷宮の恐ろしさが分かり始めた。
俺は黙り込み、遠くで竜の戦士たちによる戦闘が行われている様子を眺めながら考えた。
俺は死ねない。大森林の滅亡の原因が分からないままでも、それを阻止しなけりゃいけない。
そして俺は記憶さえ戻れば最強レベルの戦士になれる。歴代の精霊王たちは文武両道で、伝説にもなれるような功績を残しているから、その実力は疑いようもない。
なにも無理をしてトーマという自分を鍛えなくても、思い出すのを待てばいい。この体が適度に成長して、レオンの封印が消え去るまで待てばいい。
リヒトが言うには問題に対する時間稼ぎが出来ているらしいから、全てを焦る必要はない。
だから、問題はあるけれども、少しはノンビリと構えていこう。
2・
ということで、あくまで視察として地上一階をユルい感じで一回りすることにした。
外への白い扉と青い瞬間移動魔法陣の光が見える範囲で、色々と雑学を教えてもらいつつブラブラ歩いた。
ところどころの地面に穴が開いている、木々の生えていない原野でまず出会った敵は、百匹ぐらい連続で湧いて出た軍隊的な巨大モグラだった。
さすがに地上一階の最初の敵だからが、俺が軽く防御魔法で援護している間にそれらは全滅してしまった。今の俺のパーティー、思ったより強い。
「ウィネリア魔法世界が出来たのは、四万三千年ほど昔のことです。当時は迷宮内部だけではなく、生まれたばかりの人間族とエルフ族、そして竜族のによる地上での戦いもありました」
撃退した後でタンジェリンの話を聞きつつ、今の竜族の戦士たちが別の敵と派手に戦っている様子を遠巻きに見つめた。
四万年しか歴史がない世界って変な気がするが、魔法世界なんだから何だってありなんだろう。
「竜族って、そういえば精霊じゃないんですか?」
前になんかややこしいような設定を聞いた覚えはあるものの、忘れた。
「古代竜と呼ばれる黒髪が特徴の一族と、世界樹から生まれ出て南部大陸の竜の国に移住した竜の精霊の両方が、今の竜族の先祖になります。特別な存在としては、数千から一万年ほどの寿命を持つ古代竜の長老たちと、四代目精霊王様の子孫である光竜一族が有名です」
俺、結婚してた?
「俺って結婚してたんですか? シルルも?」
「いいえ、シルル様のみは若くしてお亡くなりになられましたので、その子孫は存在しておりません」
ということは、シルル以外は結婚してて子供もいたのか? 覚えてない……というか、今は憎きレオンのせいで何も思い出せない。
レオンも俺なのにと理不尽さに憤っていると、モグラを黙々と拾っていたハルセトが不意に言った。
「歴代の精霊王様方は、その時に顕現された種族の繁栄を願い、同族の女性たちと積極的に結婚されました。人間やエルフとも結婚されていますが、ほぼ同族間の結婚です」
へえ、って普通に思った。
何故か沈黙が訪れた。無表情で俺の傍に立つウルハ以外が、変な雰囲気だ。
「ん?」
何かあるのかと質問しようとしたら、近くの地面の穴から巨大ワームが数匹同時に顔を出してきた。
話している場合じゃないので、みんなと一緒に芋虫を輪切りにする作業に入った。
小一時間後。
俺は虫は食べないとはっきり明言してから、ハルセトの回収作業をぼんやり眺めた。
するとタンジェリンが近くの茂みから、一本の花を手折ってきてくれた。
手にズッシリと重みを感じるそれは、どうやら全体がルビーで出来ているようだ。
他になにか生えていないか探したものの、貴重だからかそれしかなかった。
タンジェリンがくれると言ってくれたから、ありがたく頂いた。
「そういえば……この世界に化石ってあります?」
四万年の歴史で生み出されるものか、気になった。
「ありますよ。この魔王の居城では、あちこちに海で生きていたといわれる生物の化石が落ちています。化石マニアが収集をしているので、完全な形の残る大きな品には良い値段がつきます」
「それいいですねえ。俺も化石は好きな方ですよ。探してみたいです」
「地上二階に上がれば比較的発見し易いんですが、ここでも落ちていると思います。あの岩陰などは……」
タンジェリンが指差した先に、日本の映画でよく見かけるタイプの小型捕食者恐竜が群れで走っていた。
俺は思わず走って逃げた。
ハルセトとタンジェリンが同じ風属性ということで、素早く連携して見事な合同技で退治してくれる。
バルバドスとウルハは、知り合いだったかどうか知らないんだけれど同じ賢竜隊の一員としての連携技を見事に繰り出してくれて、俺を狙おうとする不届き者を力強く粉砕してくれる。
俺がよろけて座り込んだ頃には、戦いは終了してくれた。
ここの恐竜の皮はなめすと良い革製品になるということで、ハルセトだけじゃなくてウルハも死体の回収作業に入った。
ゴールド迷宮の魔物との戦闘は群れが基本で、ついでに休暇がろくに取れない頻度で襲ってくると、ちゃんと経験して理解できた。確かにゴールド迷宮は厳しい場所だ。
バルバドスとタンジェリンが周囲を警戒してくれる中、近くにある石に腰掛けると、かぐわしい薫りが漂ってきた。
立ち上がり、匂いのする方に歩いていった。
気付かなかったものの、すぐ傍の枯れ木に美味しそうな桃の実がいくつか生っている。
「これ、桃ですか?」
「いえ、酒精の実ですね。精霊も好んで飲むお酒ですよ」
タンジェリンが来て、手を伸ばして枝から一個もいで渡してくれた。
見てくれは大きな桃だ。匂いも、アルコール臭があるものの桃だ。桃のお酒なんだろうか。
それにしても……とても良い匂いだ。
「へえ、お酒ってこんな風に生っているんですね」
「人間やエルフたちが普通の果物から醸造する樽酒の方が一般的です。そういえば精霊王様方は、確かお酒がとても苦手であった筈です。ほんの少しでも食べないようにしてください」
「ん……」
でも俺は果物の中で桃が一番好きだし、酒は日本で家飲みだけれどよく飲んでいた。
タンジェリンが返せとばかりに手を伸ばしてくる。
俺は返そうと思ったが、体が動かない。麻痺した訳でもないのに動かない。
本能が語りかけてくる。そのまま喰え! と。
「いただきます」
「あっ」
パクリといった。めっちゃ美味しい桃のお酒だ。しかも適度に冷えている。精霊王が酒が苦手って、それ嘘だ。
タンジェリンが没収しようと飛びかかってきたのを避け、バルバドスに捕まるまでにあと四口食べた。
いい案配に酔いが回る。これ、物凄くアルコール度が高い! きっと良く燃えるぞ!
「トーマ様、吐き出して下さい!」
怒るタンジェリンに桃を奪われたものの、口の中のは全部飲み込んだ。
なんだか……意識が遠のく……。
迷宮の扉をくぐって一歩前に出ると、血の臭いが漂う広大な原野があった。
血の臭いの原因である魔物の死体が、傍にいくつか落ちている。
竜族の戦士たちが、少し遠くの方で狩りを行っている。戦士たちは物理攻撃スキルを使用していて、ブロンズ迷宮のラスボスだったマンティコアと同じぐらいの中型トラック一個分の魔物が、一撃必殺で宙を舞っている。
フィールドに目をやると、入り口である白い光の扉の横に、青い魔法陣が地面に描かれていて発光している。
「トーマ様、あれは各階層間を瞬間移動するための魔法陣です。このゴールド迷宮内では、上位精霊の瞬間移動能力ですら行使が難しくなります。場所によれば空間収納も使用不可能です。ですので、迷宮の階段は別にあるものの、ペールデール国軍の魔術師と冒険者の有志が、即座に迷宮からの撤退が可能になる魔法陣の維持に努めています」
タンジェリンが、それを指差して教えてくれた。
「これに乗れば、すぐに魔王に出会えたりするのですか?」
「いいえ、魔王は最上階の六階に座しているのではありません。かの化け物は地上二階から上の階層内を自由にさまよい歩いています。どこにいるのかは、時により違います」
「地上……ですか。ゴールド迷宮では、上に向かうのですか」
「地下に向かう迷宮もありますよ。この魔王の居城では上に向かうだけです」
「なるほど。それでその……今までの迷宮と違って、どこが限界なのか分からないんですが?」
脳内検索能力で、この地上一階の地図をイメージ上に展開してみたが、壁が見当たらない。
今までは広くても四、五キロメートルほどの通路やフィールドがあり、遠くが見渡せるフィールド上でも近づけば出現する土や石の壁があった。
地図上では、その壁も表示されていて把握し易かった。
なのに今、地図上に限界がない。
「ここは異次元世界で、本当の意味で別世界なのだと言われています。ですので、湧いてくる魔物の数はほぼ無制限で、魔王を倒して再出現する時間もランダムです。そして階層主というボスは一階につき一頭おり、平均してだいたい十階程度が最奥地になります」
「あの……死体は回収しないで放っておくのですか?」
「欲しい部位だけ切り取って持っていく場合が多いですが、空間収納が使用可能なら、全部回収するのもいいと思います。放っておけば、そのうち消えます」
「タンジェリンさんは……空間収納が使えますか?」
怖ず怖ずと聞くと、彼は笑顔で答えた。
「既に無理です。しかしハルセト殿でしたら、中層辺りまでは対応できるでしょう。ここでの荷物持ちは彼になります」
それを聞いて、タロートがあれだけあっさりと身を引いた意味、現実に気付いた。
笑顔で答えるが、既に己の限界を悟りゴールド迷宮内で散ってもいいと覚悟をしているだろうタンジェリン。そして自分の死を俺のせいにしない為に、潔く引退したタロート。
どちらも正解で正しい選択だ。俺はこの両者の想いを無駄にせず、未来のために生かさなくてはいけない。
そう決意すると、レオンの封印がある額がピリピリした。解けそうにはないが、何かあるのか。
そういえばゴールド迷宮内に入った瞬間から、外より強い重力と薄い魔力の流れに戸惑うしかない状況にいる。戦士の技は鈍くなり、魔法は発動しにくく威力が弱まる。
その上で魔物は一階の雑魚でもブロンズ迷宮のラスボスレベル。しかもそれが多数同時に出現する。
フィールドはほぼ無限大で、無制限に魔物が出現する。魔物と戦って死ななくても、迷子になり出口にたどり着けないだけで死ねるだろう。
二階に行けば、そこからゴールド迷宮の魔王が出現する可能性が出てくる。階層主のボスと戦っている間にそれに背後から強襲される可能性だってある。簡単に全滅もあり得る話じゃないのだろうか。
まだその魔王に会ってないものの、このゴールド迷宮の恐ろしさが分かり始めた。
俺は黙り込み、遠くで竜の戦士たちによる戦闘が行われている様子を眺めながら考えた。
俺は死ねない。大森林の滅亡の原因が分からないままでも、それを阻止しなけりゃいけない。
そして俺は記憶さえ戻れば最強レベルの戦士になれる。歴代の精霊王たちは文武両道で、伝説にもなれるような功績を残しているから、その実力は疑いようもない。
なにも無理をしてトーマという自分を鍛えなくても、思い出すのを待てばいい。この体が適度に成長して、レオンの封印が消え去るまで待てばいい。
リヒトが言うには問題に対する時間稼ぎが出来ているらしいから、全てを焦る必要はない。
だから、問題はあるけれども、少しはノンビリと構えていこう。
2・
ということで、あくまで視察として地上一階をユルい感じで一回りすることにした。
外への白い扉と青い瞬間移動魔法陣の光が見える範囲で、色々と雑学を教えてもらいつつブラブラ歩いた。
ところどころの地面に穴が開いている、木々の生えていない原野でまず出会った敵は、百匹ぐらい連続で湧いて出た軍隊的な巨大モグラだった。
さすがに地上一階の最初の敵だからが、俺が軽く防御魔法で援護している間にそれらは全滅してしまった。今の俺のパーティー、思ったより強い。
「ウィネリア魔法世界が出来たのは、四万三千年ほど昔のことです。当時は迷宮内部だけではなく、生まれたばかりの人間族とエルフ族、そして竜族のによる地上での戦いもありました」
撃退した後でタンジェリンの話を聞きつつ、今の竜族の戦士たちが別の敵と派手に戦っている様子を遠巻きに見つめた。
四万年しか歴史がない世界って変な気がするが、魔法世界なんだから何だってありなんだろう。
「竜族って、そういえば精霊じゃないんですか?」
前になんかややこしいような設定を聞いた覚えはあるものの、忘れた。
「古代竜と呼ばれる黒髪が特徴の一族と、世界樹から生まれ出て南部大陸の竜の国に移住した竜の精霊の両方が、今の竜族の先祖になります。特別な存在としては、数千から一万年ほどの寿命を持つ古代竜の長老たちと、四代目精霊王様の子孫である光竜一族が有名です」
俺、結婚してた?
「俺って結婚してたんですか? シルルも?」
「いいえ、シルル様のみは若くしてお亡くなりになられましたので、その子孫は存在しておりません」
ということは、シルル以外は結婚してて子供もいたのか? 覚えてない……というか、今は憎きレオンのせいで何も思い出せない。
レオンも俺なのにと理不尽さに憤っていると、モグラを黙々と拾っていたハルセトが不意に言った。
「歴代の精霊王様方は、その時に顕現された種族の繁栄を願い、同族の女性たちと積極的に結婚されました。人間やエルフとも結婚されていますが、ほぼ同族間の結婚です」
へえ、って普通に思った。
何故か沈黙が訪れた。無表情で俺の傍に立つウルハ以外が、変な雰囲気だ。
「ん?」
何かあるのかと質問しようとしたら、近くの地面の穴から巨大ワームが数匹同時に顔を出してきた。
話している場合じゃないので、みんなと一緒に芋虫を輪切りにする作業に入った。
小一時間後。
俺は虫は食べないとはっきり明言してから、ハルセトの回収作業をぼんやり眺めた。
するとタンジェリンが近くの茂みから、一本の花を手折ってきてくれた。
手にズッシリと重みを感じるそれは、どうやら全体がルビーで出来ているようだ。
他になにか生えていないか探したものの、貴重だからかそれしかなかった。
タンジェリンがくれると言ってくれたから、ありがたく頂いた。
「そういえば……この世界に化石ってあります?」
四万年の歴史で生み出されるものか、気になった。
「ありますよ。この魔王の居城では、あちこちに海で生きていたといわれる生物の化石が落ちています。化石マニアが収集をしているので、完全な形の残る大きな品には良い値段がつきます」
「それいいですねえ。俺も化石は好きな方ですよ。探してみたいです」
「地上二階に上がれば比較的発見し易いんですが、ここでも落ちていると思います。あの岩陰などは……」
タンジェリンが指差した先に、日本の映画でよく見かけるタイプの小型捕食者恐竜が群れで走っていた。
俺は思わず走って逃げた。
ハルセトとタンジェリンが同じ風属性ということで、素早く連携して見事な合同技で退治してくれる。
バルバドスとウルハは、知り合いだったかどうか知らないんだけれど同じ賢竜隊の一員としての連携技を見事に繰り出してくれて、俺を狙おうとする不届き者を力強く粉砕してくれる。
俺がよろけて座り込んだ頃には、戦いは終了してくれた。
ここの恐竜の皮はなめすと良い革製品になるということで、ハルセトだけじゃなくてウルハも死体の回収作業に入った。
ゴールド迷宮の魔物との戦闘は群れが基本で、ついでに休暇がろくに取れない頻度で襲ってくると、ちゃんと経験して理解できた。確かにゴールド迷宮は厳しい場所だ。
バルバドスとタンジェリンが周囲を警戒してくれる中、近くにある石に腰掛けると、かぐわしい薫りが漂ってきた。
立ち上がり、匂いのする方に歩いていった。
気付かなかったものの、すぐ傍の枯れ木に美味しそうな桃の実がいくつか生っている。
「これ、桃ですか?」
「いえ、酒精の実ですね。精霊も好んで飲むお酒ですよ」
タンジェリンが来て、手を伸ばして枝から一個もいで渡してくれた。
見てくれは大きな桃だ。匂いも、アルコール臭があるものの桃だ。桃のお酒なんだろうか。
それにしても……とても良い匂いだ。
「へえ、お酒ってこんな風に生っているんですね」
「人間やエルフたちが普通の果物から醸造する樽酒の方が一般的です。そういえば精霊王様方は、確かお酒がとても苦手であった筈です。ほんの少しでも食べないようにしてください」
「ん……」
でも俺は果物の中で桃が一番好きだし、酒は日本で家飲みだけれどよく飲んでいた。
タンジェリンが返せとばかりに手を伸ばしてくる。
俺は返そうと思ったが、体が動かない。麻痺した訳でもないのに動かない。
本能が語りかけてくる。そのまま喰え! と。
「いただきます」
「あっ」
パクリといった。めっちゃ美味しい桃のお酒だ。しかも適度に冷えている。精霊王が酒が苦手って、それ嘘だ。
タンジェリンが没収しようと飛びかかってきたのを避け、バルバドスに捕まるまでにあと四口食べた。
いい案配に酔いが回る。これ、物凄くアルコール度が高い! きっと良く燃えるぞ!
「トーマ様、吐き出して下さい!」
怒るタンジェリンに桃を奪われたものの、口の中のは全部飲み込んだ。
なんだか……意識が遠のく……。
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