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第四章 真実に立ち向かう者達
3 魔王の居城
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1・
リヒト推薦のゴールド迷宮は、リヒトの父親ペールデール国王のおわす首都の背後にある山脈の中に存在する。
世界中にゴールド迷宮は二十四カ所あり、そのうちの七つが世界最高攻略難易度のボスがいるために、別名魔王の居城と呼ばれている。
ペールデール国内で唯一、そしてカルゼア大森林に一番近い位置にあるゴールド迷宮が、その魔王の居城の一つだ。
リヒトがここに来いと言った理由は、今後のために俺に最高攻略難易度の迷宮をとりあえず見せたかったからと、きっとそこで出会う冒険者たちの実力を見せたいからだと思う。
さすがの俺も最高攻略難易度にいま突撃するつもりはないから、一階でぶらぶらしようと思っている。それだけを目的として、今日はここにやってきた。
岩山の連なる高山地帯の中腹にあるゴールド迷宮の前には、オゼロのような門前町がない。
ゴールド迷宮からもし魔物が逃げ出した場合、一般人が傍にいれば確実に全滅するからだという。
ミーナとエリスにゴールド迷宮の門前町を勧めてしまったが、元からないようだ。本当に済まない事をしてしまった。
ペールデールの魔王の居城前には巨大な鉄の扉以外に三重の魔法障壁があり、それを維持する国軍の魔法使いたちと、護衛なのだろう軍人たちが暮らすボロ屋が周辺にあるだけだ。
ここに来ようとする猛者の冒険者たちは契約した上位精霊たちの瞬間移動能力があるから、そもそも近くに町や村なんて必要ないようだ。
実際に来てみてそういう現実が知れて楽しいなと思っている間に、国軍の兵士によって俺たちのゴールドカードの認証が終わった。
三重の障壁魔法を通り抜けて鉄の扉の前に歩いて行くまでに、だいたい二十メートルぐらいある。
他の冒険者たちは一人も見当たらないから、ここで仲間をスカウトする訳にいかない。
「もう一人、盾役が欲しかったなあ……」
歩きながら呟くと、タンジェリンもハルセトもバルバドスも、微妙な雰囲気になった。
「……クロエを呼び戻しますか?」
ハルセトが言ったから、俺は立ち止まった。
「いや、クロエさんはレナードパーティーで実力を磨いてもらって、後で彼らごと手助けをしてもらう予定なんですよ。彼女じゃなくて……その、タンジェリンさんとハルセトは攻撃役でしょう? バルバドスさんも盾役というよりは攻撃役ですよね? 俺の傍にいる後衛の盾役がいないようなものですから、盾役が欲しかったんです」
タロートの代わりの。
「魔法使いでは駄目でしたか?」
タンジェリンがハルセトをチラ見しながら言った。
「はあ、だってあんな可愛らしい女の子に庇ってもらうなんて、俺の心が保ちそうにないんです。出来るなら男性がいいですね。殴っても倒れそうのない──」
筋肉ムキムキのお兄さんでいいやと思いつつ何気なく視線を鉄の扉の方にやると、その前に闇をまとう魔王が一人立っていた。
身動きに支障が出るほどの、重苦しい空気が周辺を覆い尽くす。世の全てを闇に染めようとする強烈過ぎる魔力。見る者すべてを圧倒する存在感を放ち、まとう闇の中で目が不気味に赤く光る。
あっと思った瞬間、扉を護る兵士たちがときの声を上げ、武器を構えて突撃してしまった。
「わ~っ! ちょっと待って下さい! その人、魔王じゃないです!」
俺はそ魔王と思ってしまったが、言葉ではそう表現した。
妖気を漂わせながら激怒している風に見えるユーリシエスは、それでも冷静に兵士たちを魔法障壁の外に瞬間移動させて捨てた。
「いや、ユーリシエスこそ待って。ここに何をしに?」
「はあ? まだ生後一ヶ月にも満たない赤子が魔王に挑みに行こうとしているのかと思って、体を張って止めに来たのですよ」
え、なにそのツンデレ。
「え~と、魔王には挑みません。今日はゴールド迷宮の造りや内部の特徴の観察で、一階部分だけを見物しに来たんです」
「……本当に? 奥に行こうなんて思いませんか? 絶対に思いませんか? 二階に上がろうなんて言語道断ですよ」
「ち、誓うので許してください」
「ではお早いお帰りを」
呪いをかけられそうな睨みに、笑顔で頷いてみせた。
「あっ、せっかくだからユーリシエスも一緒に行きましょう」
誘ってみたが、彼は姿を消した。
ツンデレめ~! と心で叫んでいると、タンジェリンがため息混じりに言った。
「彼には、深くて暗くて複雑な事情があるのです。どうか、許してあげてください」
「ああうん」
ツンデレという名のだな。
彼の代わりに兵士たちに謝罪するかときびすを返したところで、突然に周囲に人が増えた。
ユーリシエスと違い、威嚇ではなく本気の殺気を放つ面々。
それぞれの得物を手にして、俺たちが一歩でも動こうものなら全員が殺しにくる。そんな凄まじい緊張感の中で、俺はただ戸惑った。
「竜族の戦士たちです」
バルバドスが身構えず緊張せずに教えてくれたから、ようやく自分は安全だと理解できた。
抜刀していたのはタンジェリンだけで、彼もバルバドスの言葉で剣を収めた。
全員が似たような無骨な造りの鎧を身にまとっている竜族の戦士たちは、周囲を見回すと武器を引いた。
「ここにいたのは何者だ」
一人が言った。
「……それは、うちの息子です」
半分混乱しているから、そんな言葉しかでなかった。
質問してきた、まだ若く見える黒髪の戦士は俺を見て、手にしていた大剣をどこかにやり近づいてきた。
何されるかとビクついたが、彼は俺の前で片膝をついて頭を深々と下げた。
「遅くなりましたが、新たなる精霊王様のご生誕を心よりお喜び申し上げます。我らは竜王様直属の兵士、第二賢竜隊の一員です。この魔王の居城にて、魔物の間引きを行う者です」
他の迷宮もそうだけれど、放っておき過ぎると魔物が入り口から出てきてしまう。それを阻止する為の隊が、竜王配下の者で組まれているのか。
南部大陸に竜の国があるとは前から聞いているものの、竜王が誰なのかは知らない。困った。
「……精霊の一員であり友である竜族の方に、このような暖かい言葉を頂けて、私はとても嬉しく思います。竜王様に、今後ともよろしくとお伝え下さいますか」
「伝言を受け承りました。しかし精霊王様……ここに何をしにおいでで? あなた様のご子息ユーリシエス殿も、ここに立ち入るおつもりですか?」
「いえ、それは、ユーリシエスは私を見送りに来ただけなんです。心配してくれたようで」
「あなた様は迷宮に潜られるのですか」
竜の戦士たちが、少しだけザワついた。何故だろう。俺の見てくれが無力過ぎるからか、生後一ヶ月未満だからか。
「一階部分の視察だけです。すぐに出るつもりです」
「なるほど。けれどあなた様のその部下では、一階部分を見て回るにも戦力が不足していると思われます。我らの隊をクビになった者と、それ以上に実力のない者。それに主人を護りきれなかった者ではないですか」
それを聞いて、俺はゾッとした。口調からしてバカにしているのではなく、ただ真実を告げただけの冷静な意見に聞こえるけれど……主人を護りきれなかった者って誰?
「我らの戦士を一人、同行させる許可を下さいませんか。さすれば一階部分ならば、安全に行き来が出来るでしょう」
「……はい。お願い致します」
違う問題に心がいっぱいで、よく考えずに返事をした。
第二賢竜隊の隊長らしき彼は、戦士の一人に合図を送った。
その一人を残して、竜族の戦士たちは全員が姿を消した。迷宮の中に戻ったのだろうか。
残った戦士は雰囲気だけで熟練の者に見える黒髪の女の子で、重そうな鎧を身に付けているのに軽装用ぽい二本のダガーを装備している。
「ウルハと言います。よろしくお願い致します」
彼女は無表情を通しつつ言うと、それから喋らなくなった。
3・
その後で、本当にペールデール国軍の兵士たちに謝罪しにいった。
彼らはユーリシエスを知っていて、何年かに一度見かけるぐらいながらいるとは分かっているから、勘違いして突撃した方も悪いと言ってくれた。
ユーリシエスもゴールドカード持ちかと思ったが、彼はそもそも冒険者ではないらしく、大森林の偉いさんとして時折見回りに来るというぐらいらしい。
このゴールド迷宮、魔王の居城がもし壊れてしまえば、溢れた魔物によりペールデール国だけでなく大森林も崩壊の危機に陥る。
こんな状況だから、この迷宮は俺の運命に強く影響しているだろう。
記憶という知識が活用できない今、ただの勘としてはこれは正しい説だと思う。
しかし、問題の一片でしかない気もする。下手したら、世界中の魔王の居城、ゴールド迷宮攻略が俺の宿命かもしれない。
そのぐらい問題が大きい気もする。あくまで気だけど。
国軍の兵士たちとの会話が終わり、ようやく迷宮に入ろうとしたところで、鉄の扉の前で様子がおかしいハルセトが立ち止まって話し始めた。
「既に理解されたかもしれませんが、竜王様直属の竜族の戦士たちはほぼ全てが上位の中から上の実力を持つ猛者たちです。その少女も、私と同じほどの実力があるでしょう。ただし私と違い、主人を守り抜く経験も持つ者です」
「……ハルセト。その──」
「私はかつて、ここではない魔王の居城にて、契約した人間の戦士を守り抜けませんでした。彼女を失い、他の仲間と別れて右往左往している時に、竜族の戦士たちに救われたのです。自分が情けない事は百も承知していますが、二度は間違いを犯しません。ご安心下さい」
ハルセトは、既に覚悟を終えている強い目をして俺を見る。
彼女を失った、というところは普通に理解できる。でもその状況で他の仲間と別れて右往左往って何だろう? まさかハルセトも怪我をして、見捨てられたのか……。
俺は色々と言いたい事ができたものの、最終的に一言で済ませた。
「信じています」
それで、ハルセトは安堵した様子で一礼した。
「行きましょう」
俺が言うと、全員が歩き始めた。
リヒト推薦のゴールド迷宮は、リヒトの父親ペールデール国王のおわす首都の背後にある山脈の中に存在する。
世界中にゴールド迷宮は二十四カ所あり、そのうちの七つが世界最高攻略難易度のボスがいるために、別名魔王の居城と呼ばれている。
ペールデール国内で唯一、そしてカルゼア大森林に一番近い位置にあるゴールド迷宮が、その魔王の居城の一つだ。
リヒトがここに来いと言った理由は、今後のために俺に最高攻略難易度の迷宮をとりあえず見せたかったからと、きっとそこで出会う冒険者たちの実力を見せたいからだと思う。
さすがの俺も最高攻略難易度にいま突撃するつもりはないから、一階でぶらぶらしようと思っている。それだけを目的として、今日はここにやってきた。
岩山の連なる高山地帯の中腹にあるゴールド迷宮の前には、オゼロのような門前町がない。
ゴールド迷宮からもし魔物が逃げ出した場合、一般人が傍にいれば確実に全滅するからだという。
ミーナとエリスにゴールド迷宮の門前町を勧めてしまったが、元からないようだ。本当に済まない事をしてしまった。
ペールデールの魔王の居城前には巨大な鉄の扉以外に三重の魔法障壁があり、それを維持する国軍の魔法使いたちと、護衛なのだろう軍人たちが暮らすボロ屋が周辺にあるだけだ。
ここに来ようとする猛者の冒険者たちは契約した上位精霊たちの瞬間移動能力があるから、そもそも近くに町や村なんて必要ないようだ。
実際に来てみてそういう現実が知れて楽しいなと思っている間に、国軍の兵士によって俺たちのゴールドカードの認証が終わった。
三重の障壁魔法を通り抜けて鉄の扉の前に歩いて行くまでに、だいたい二十メートルぐらいある。
他の冒険者たちは一人も見当たらないから、ここで仲間をスカウトする訳にいかない。
「もう一人、盾役が欲しかったなあ……」
歩きながら呟くと、タンジェリンもハルセトもバルバドスも、微妙な雰囲気になった。
「……クロエを呼び戻しますか?」
ハルセトが言ったから、俺は立ち止まった。
「いや、クロエさんはレナードパーティーで実力を磨いてもらって、後で彼らごと手助けをしてもらう予定なんですよ。彼女じゃなくて……その、タンジェリンさんとハルセトは攻撃役でしょう? バルバドスさんも盾役というよりは攻撃役ですよね? 俺の傍にいる後衛の盾役がいないようなものですから、盾役が欲しかったんです」
タロートの代わりの。
「魔法使いでは駄目でしたか?」
タンジェリンがハルセトをチラ見しながら言った。
「はあ、だってあんな可愛らしい女の子に庇ってもらうなんて、俺の心が保ちそうにないんです。出来るなら男性がいいですね。殴っても倒れそうのない──」
筋肉ムキムキのお兄さんでいいやと思いつつ何気なく視線を鉄の扉の方にやると、その前に闇をまとう魔王が一人立っていた。
身動きに支障が出るほどの、重苦しい空気が周辺を覆い尽くす。世の全てを闇に染めようとする強烈過ぎる魔力。見る者すべてを圧倒する存在感を放ち、まとう闇の中で目が不気味に赤く光る。
あっと思った瞬間、扉を護る兵士たちがときの声を上げ、武器を構えて突撃してしまった。
「わ~っ! ちょっと待って下さい! その人、魔王じゃないです!」
俺はそ魔王と思ってしまったが、言葉ではそう表現した。
妖気を漂わせながら激怒している風に見えるユーリシエスは、それでも冷静に兵士たちを魔法障壁の外に瞬間移動させて捨てた。
「いや、ユーリシエスこそ待って。ここに何をしに?」
「はあ? まだ生後一ヶ月にも満たない赤子が魔王に挑みに行こうとしているのかと思って、体を張って止めに来たのですよ」
え、なにそのツンデレ。
「え~と、魔王には挑みません。今日はゴールド迷宮の造りや内部の特徴の観察で、一階部分だけを見物しに来たんです」
「……本当に? 奥に行こうなんて思いませんか? 絶対に思いませんか? 二階に上がろうなんて言語道断ですよ」
「ち、誓うので許してください」
「ではお早いお帰りを」
呪いをかけられそうな睨みに、笑顔で頷いてみせた。
「あっ、せっかくだからユーリシエスも一緒に行きましょう」
誘ってみたが、彼は姿を消した。
ツンデレめ~! と心で叫んでいると、タンジェリンがため息混じりに言った。
「彼には、深くて暗くて複雑な事情があるのです。どうか、許してあげてください」
「ああうん」
ツンデレという名のだな。
彼の代わりに兵士たちに謝罪するかときびすを返したところで、突然に周囲に人が増えた。
ユーリシエスと違い、威嚇ではなく本気の殺気を放つ面々。
それぞれの得物を手にして、俺たちが一歩でも動こうものなら全員が殺しにくる。そんな凄まじい緊張感の中で、俺はただ戸惑った。
「竜族の戦士たちです」
バルバドスが身構えず緊張せずに教えてくれたから、ようやく自分は安全だと理解できた。
抜刀していたのはタンジェリンだけで、彼もバルバドスの言葉で剣を収めた。
全員が似たような無骨な造りの鎧を身にまとっている竜族の戦士たちは、周囲を見回すと武器を引いた。
「ここにいたのは何者だ」
一人が言った。
「……それは、うちの息子です」
半分混乱しているから、そんな言葉しかでなかった。
質問してきた、まだ若く見える黒髪の戦士は俺を見て、手にしていた大剣をどこかにやり近づいてきた。
何されるかとビクついたが、彼は俺の前で片膝をついて頭を深々と下げた。
「遅くなりましたが、新たなる精霊王様のご生誕を心よりお喜び申し上げます。我らは竜王様直属の兵士、第二賢竜隊の一員です。この魔王の居城にて、魔物の間引きを行う者です」
他の迷宮もそうだけれど、放っておき過ぎると魔物が入り口から出てきてしまう。それを阻止する為の隊が、竜王配下の者で組まれているのか。
南部大陸に竜の国があるとは前から聞いているものの、竜王が誰なのかは知らない。困った。
「……精霊の一員であり友である竜族の方に、このような暖かい言葉を頂けて、私はとても嬉しく思います。竜王様に、今後ともよろしくとお伝え下さいますか」
「伝言を受け承りました。しかし精霊王様……ここに何をしにおいでで? あなた様のご子息ユーリシエス殿も、ここに立ち入るおつもりですか?」
「いえ、それは、ユーリシエスは私を見送りに来ただけなんです。心配してくれたようで」
「あなた様は迷宮に潜られるのですか」
竜の戦士たちが、少しだけザワついた。何故だろう。俺の見てくれが無力過ぎるからか、生後一ヶ月未満だからか。
「一階部分の視察だけです。すぐに出るつもりです」
「なるほど。けれどあなた様のその部下では、一階部分を見て回るにも戦力が不足していると思われます。我らの隊をクビになった者と、それ以上に実力のない者。それに主人を護りきれなかった者ではないですか」
それを聞いて、俺はゾッとした。口調からしてバカにしているのではなく、ただ真実を告げただけの冷静な意見に聞こえるけれど……主人を護りきれなかった者って誰?
「我らの戦士を一人、同行させる許可を下さいませんか。さすれば一階部分ならば、安全に行き来が出来るでしょう」
「……はい。お願い致します」
違う問題に心がいっぱいで、よく考えずに返事をした。
第二賢竜隊の隊長らしき彼は、戦士の一人に合図を送った。
その一人を残して、竜族の戦士たちは全員が姿を消した。迷宮の中に戻ったのだろうか。
残った戦士は雰囲気だけで熟練の者に見える黒髪の女の子で、重そうな鎧を身に付けているのに軽装用ぽい二本のダガーを装備している。
「ウルハと言います。よろしくお願い致します」
彼女は無表情を通しつつ言うと、それから喋らなくなった。
3・
その後で、本当にペールデール国軍の兵士たちに謝罪しにいった。
彼らはユーリシエスを知っていて、何年かに一度見かけるぐらいながらいるとは分かっているから、勘違いして突撃した方も悪いと言ってくれた。
ユーリシエスもゴールドカード持ちかと思ったが、彼はそもそも冒険者ではないらしく、大森林の偉いさんとして時折見回りに来るというぐらいらしい。
このゴールド迷宮、魔王の居城がもし壊れてしまえば、溢れた魔物によりペールデール国だけでなく大森林も崩壊の危機に陥る。
こんな状況だから、この迷宮は俺の運命に強く影響しているだろう。
記憶という知識が活用できない今、ただの勘としてはこれは正しい説だと思う。
しかし、問題の一片でしかない気もする。下手したら、世界中の魔王の居城、ゴールド迷宮攻略が俺の宿命かもしれない。
そのぐらい問題が大きい気もする。あくまで気だけど。
国軍の兵士たちとの会話が終わり、ようやく迷宮に入ろうとしたところで、鉄の扉の前で様子がおかしいハルセトが立ち止まって話し始めた。
「既に理解されたかもしれませんが、竜王様直属の竜族の戦士たちはほぼ全てが上位の中から上の実力を持つ猛者たちです。その少女も、私と同じほどの実力があるでしょう。ただし私と違い、主人を守り抜く経験も持つ者です」
「……ハルセト。その──」
「私はかつて、ここではない魔王の居城にて、契約した人間の戦士を守り抜けませんでした。彼女を失い、他の仲間と別れて右往左往している時に、竜族の戦士たちに救われたのです。自分が情けない事は百も承知していますが、二度は間違いを犯しません。ご安心下さい」
ハルセトは、既に覚悟を終えている強い目をして俺を見る。
彼女を失った、というところは普通に理解できる。でもその状況で他の仲間と別れて右往左往って何だろう? まさかハルセトも怪我をして、見捨てられたのか……。
俺は色々と言いたい事ができたものの、最終的に一言で済ませた。
「信じています」
それで、ハルセトは安堵した様子で一礼した。
「行きましょう」
俺が言うと、全員が歩き始めた。
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