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第三章 冒険者たち

3・知るべきこと

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1・

これからミネットティオルに向けて本格的な旅を行う為の準備をしに、クリスタを出発してから三日ほどの位置にある、バンハムーバ植民地の一つの星に寄港した。

本当ならアリアナを迎えに来ただけの船には、この宇宙文明地域の端から、逆側の端まで突っ切れるような準備はない。

かといって、出発を急がせたいスタインウェイさんの意向があり、かつ僕らを見送りに来てくれた大勢がいる手前、クリスタで補給をして出発はまた明日という訳にいかない状況だった。

なので、途中で補給となった。

しかしハブ宇宙港らしい星には、様々な品物が揃いすぎている。

旅に必要なものを購入するアルベールさんたちについていってみたものの、お土産品を売るコーナーの周辺で足止めを食らった。

生まれて初めて旅の資金という大金を入手した僕の前に、宇宙海賊キャプテンシドニーのアニメ全話収録データチップが出現した。

旅ってずっと宇宙船の中で暇だし、こういうの買っておいても損しないだろうし、と動揺する僕。

少し遠くからアルベールさんの、坊ちゃんが壊れてるから誰か止めろと言う声が聞こえてくる。

誰かがやって来て僕の腕を掴んだのでハッとして見たら、そんなの買うなら俺にくれと言いつつ父さんがクレジットカードを奪おうとしてきたので、必死になって手を振りほどいて逃げた。

たぶん父さんは借金があるなと思いつつ、普通の買い出しに戻った。

その途中で、きらびやかなヘアサロンの前を通りかかった。

ガラス窓に映る自分の姿を見て、そういえばもうポドールイの王ではないので、髪の毛を伸ばす必要はないと気付いた。

しかし同時に、麒麟となりミネットティオルに渡った人は伸ばすべきなのか、知らないとも気付いた。

知らずに切って後で怒られるのは嫌なので、とりあえず質問することにした。

この三日間、おはようとお休みの挨拶しかしていないスタインウェイさんに。

空気が違いすぎるというのか、何かちょっと苦手意識を持ってしまっている彼にその質問が出来たのは、買い出しを終えて船に戻り、出港間近になった時だった。

食堂兼談話室にスタインウェイさんが一人でいたので、思い切って話しかけた。

髪の毛を切って良いのか聞くと、彼が何故か自分を責めたような気配がした。

「貴方様がポドールイの王でしたので、特別に説明しないでも良いかと思っていました。髪は切ってはいけません」

「やはり、そのような取り決めが?」

「そうです。しかしそれは儀式上の問題ではありません。麒麟の髪を使用すれば、その麒麟を呪縛することが可能なのです。ですので、信頼の置ける者に切らせ、即座に焼却処分をして下さい」

髪を切るだけなのに、思った以上に大問題に発展しそうで驚いた。

「そ、そうでしたか。その、自分が麒麟と知ったのは一ヶ月ほど前で、その常識を学ぶ前に力のコントロール方法を学ぼうと必死だったために……」

僕は、何故彼に言い訳をしているのか。きっと彼が捕食者で、僕が獲物だからか……。

そう思っていると、スタインウェイさんが片手を胸に当てて頭を下げる、少し格式張った一礼をしたので余計にビクついた。

「申し訳ございません。私は貴方様を怯えさせてしまっています。私にはそのような意図は全くないものの、どうにも不器用者で――」

「いえ、そうじゃありません。そうじゃなくて……あの、貴方は一体なにに怯えているのですか?」

「……それは」

いま、スタインウェイさんの中には隠された沢山の情報があり、出来るならばどれも僕に知られたくないと思っている。

だから聞きにくいものの、このままでは共に旅など出来ない。

「……知られる、ことにです」

「……僕にですか。済みません」

もう分かってるとバラしたよと自分を責めつつも、どうにか和解に持ち込みたい気持ちの方が大きい。

「せめて、何故僕の出発を急いだのかは、伺ってもよろしいですか?」

「はい……そればかりは説明しない訳にいかないですね。つまりは、貴方を狙う者たちが存在しているからです」

「それは、麒麟を捕まえて売り払い、利益を上げたい人たちですか?」

「いいえ、貴方が存在すること自体を拒否したい者たちです。麒麟には、敵がいるのです」

「それは、初耳です。麒麟は人々に役立つ為にしか生きていない生命体の筈ですが?」

「ですから、その真逆の存在たちが貴方を狙っているのです」

「真逆?」

「ええ。時空獣ですよ」

「……あの、幼い龍神と同じ事で、私も好んで餌にされるところだったと?」

あの戦いの場で、ウルフィール様の次に僕が狙われたのは、そういうことなのか……。

「それも逆です。嫌うから排除の方向性です。麒麟がいる惑星、星域では闇落ちがなく時空獣は生まれませんし、追いやられもします。ですので、チャンスがあれば向こうは貴方様を狙います」

「……待ってください。それじゃあまさか、僕が麒麟として完全に覚醒していれば、クリスタはああならなかったどころか、元から襲われる事もなかったという事ですか? 逆にクリスタが襲われたのは……僕がいたからですか!」

「落ち着いて下さい。手引きした者がいる場合は、貴方様のせいではありません。龍神ウルフィールが引き入れた物が、呼び水となりました」

「それも、僕のせいですよ! 僕が、いたから、ウルフィール様は、あれを持ち込んで……」

「貴方様がおられずとも、あの者はバンハムーバを裏切りました。貴方様は、その運命に巻き込まれただけです。それどころか、貴方様がおられたのであの者を救えたのではありませんか?」

僕はその場にしゃがみ込み、俯いて両手で顔をおおった。

本当は救えた訳じゃない。失ってしまった命なのに。救えたと思い込んだのは、もうそれ以外にどうしようもないからだ。

僕はウルフィール様を救えなかった。

それにあの戦いでは、他の場所で幾人か死者が出た。

それもこれも、僕がおのれを知ってしっかりしていたら、防げたこと。

自分の中に全てが救える答えがあったのに、それにポドールイの王として気付けもしないでいた。

今になり、自分がどれだけ未熟か思い知った。

いつの間にかアリアナが傍に居て、背中を撫でながら僕のせいじゃないと言ってくれている。

父さんも傍に気配があって、困っているのが分かる。傍にいなくても、船のみんなが困って心配してくれているのが分かる。

最初は悲しみの涙だったのに、すぐにみんなへの感謝の念にすり替わった。

すると僕の目からこぼれ落ちた涙が実体化し、キラキラ輝きつつ床に落ちていった。

シーマ様の言っていた宝石だと気付いて慌て、おたおたしたことで気が紛れた。

僕に拾わせようとしないスタインウェイさんが一粒ずつ拾いつつ、箒とちり取りを持ってこようとするカルラ父さんに冒涜だと叫んだので、その姿がおかしくて今度は笑った。

「こうもコロコロ気分が変わるとは、本当にまだ子供だな」

呆れている父さんは、僕に何かの小箱を差し出してきた。

受け取って確認すると、宇宙海賊キャプテンシドニーのアニメ全話収録データチップだった。

「父さん……一緒に観ましょう!」

「ああまあ、それで良いなら」

箒とちり取りを片付けた父さんと一緒に、この食堂にある大画面で見始めた。

いつの間にか背後の席にアルベールさんとクールベさんが増えたのだが、一人で中型船が出せるかと怒るメリデスさんに連れて行かれた。

そして少し離れた場所からアリアナがいつもの兄さんじゃないと呟いたのに対し、アイシャさんが男は死ぬまであんななのよ、と返すのが聞こえた。

そのうちスタインウェイさんも僕らの近くに増えたものの、僕を護るためだったようだ。

船が出発し、夜時間になり止められるまで楽しんだ結果として、父さんがハマった。
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