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第一章 惑星クリスタにて

十二・処刑場

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1・

僕はどこかの牢屋で、全てを素直に告白した。

もしかしたら、アレンデール様の理解が得られるかという希望もあった。

しかしこれまで色々ありすぎた歴史のあるバンハムーバ人としては、絶対に見逃せない事実のようだ。

アレンデール様はクロフォードさんほどに態度を豹変させ、僕を逆賊と表現した。

僕の話が本当で、ノイエが生きていないと星が半壊するとしても、罪人の僕の手を借りずに解決してみせるという。

よくよく考えれば確かにそうだよなあ、と思える状態になった。

僕の存在は忌み嫌われるものなので、世間にはノイエは病死と発表されることになった。

処刑はアレンデール様が全責任を負い、肉体だけでも龍神である僕に敬意を払って、彼が手を下すことになった。

周囲の人々は処刑のことを、埋葬すると表現した。一年近く前に倒れた時に死んだノイエを、今ようやく埋葬するんだと。

僕は眠れず、牢屋でこれまでのことを繰り返し思い出した。

とても楽しい日々があった。友達も素敵な人たちだ。アレンデール様だって、僕の新しい父さんみたいで好きだった。その彼に手を下させるのが、とても心苦しい。

そのうち朝がやって来た。処刑は、使用していない国の施設の一室で行われることになった。

僕は観念していたから……というか、皆をこんなに傷つけていたと気付かなかった点で無気力になり、全てに大人しく従った。

その場所に連れて行かれ、伝統的な長剣を手に持つアレンデール様の前でひざまづいた。

もう終わり。そう思って目を閉じたところで、誰かが扉を蹴破ったような音が響いた。

目を開けると、思った通りの人物が僕たちに向かって走って来るのが見えた。

「アレンデール様! どうか、そんな馬鹿なことは止めてくれ! ノイエは俺の友達なんだ!」

「分かっているとも。しかし絶対に許されない罪人だ」

二人の龍神は、お互いが手に持つ武器を全力で打ち付けた。壊れてしまわないのが不思議なほど圧力が凄く、発生した風で僕は目を閉じた。

「さあ、今のうちよ」

「え?」

目を開けると、神官の衣装を着たルーチェ姫がいて、僕の腕を掴んで引っ張っていた。

「姫! こんなことしちゃいけない! 僕は逃げるつもりはない!」

「馬鹿ね! みんな貴方を救いたいのよ! みんな、龍神じゃなくて貴方を好きなのよ!」

僕は、その言葉を聞いて生まれ変わった気分になった。だから生きようとして立ち上がった。

なのに僕の上に影が落ち、激しく突き飛ばされて転がり、壁に激突して止まった。

呻きながら起き上がり確認すると、アレンデール様がルーチェ姫の腕を掴んでこちらを睨んでいた。

「我らが何をなせるか、お前には教えた筈だが?」

「アレンデール様……」

ロックも、ルーチェ姫が人質だと動きが取れずに困り果てている。

簡単なことじゃないかと、僕は頷いた。

僕は生きていたらいけないんだから、その通りあの世に帰れば良い。そしてあの神様に会って、文句を垂れまくろう。

僕はその場でひざまづき、先ほどと同じ態勢を取った。

声と音だけで、アレンデール様がルーチェ姫を引き連れて僕の傍に来たのが分かった。

今度こそ、と思った瞬間、再び突き飛ばされて床に倒れた。

そうしたのはクロフォードさんで、アレンデール様に考え直すよう頼み始めた。

アレンデール様は無表情で、クロフォードさんに向かって剣を振り上げた。

クロフォードさんが僕に向かって手を突き出し、今のうちにと言った瞬間、僕は彼をかばって前に出ていた。

それも一瞬のことだった。

だから僕が倒れる前にありがとうと言った言葉が誰かに聞こえたかどうか、分からなかった……。

2・

村の麦の収穫を全て終え、木造農家の縁側でお茶を飲んでいたカシミアは、ため息をつき、さっと立ち上がった。

落ち穂拾いをする獣たちに迷惑にならないよう、広々としたなにも無い畑のど真ん中に移動し、振り向いた。

「死にやがれ!」

背後から強襲したクロフォードの剣は目に見えない力で吹き飛ばされ、彼自身も地面に転がった。

しかし凶暴化したクロフォードは己の限界を超えた動きで起き上がり、怒りの鉄拳をカシミアに叩き込む。

しかしそれも、目に見えない力により阻まれる。

「ちくしょう、ちくしょう! 私は、彼を助けられるんじゃなかったのか!」

「生死が決定はしました」

「お前ら全員呪われろ! 滅び果ててしまえ!」

魂からの叫びを吐いたクロフォードは、ノイエの最期を思い出して力が抜け、その場に座り込んだ。

「どうして、あんなに良い子が、あんな死に方を……」

「彼を救うには、殺させるしかありませんでした」

「全部話せよ」

「私どもも、どうにか丸く収めようと願ったのです。できるならば、彼自身に秘密の暴露がどれだけ危険なのか、それに気付いてもらいたかったんです。でも、彼は気付けなかった」

「死んだのに何故、救ったという」

「彼は人が良すぎました。彼自身の人生なのに、自分の夢を諦めノイエのために消費することしか頭にありませんでした。彼は殺されなくても、千年の間、孤独にさいなまれながら神殿に閉じ篭もり生きる道の上にいました。それが拷問でなくて何なのでしょうか」

「……」

クロフォードは自分の手を見つめ、自分では守り切れない時間を感じ、涙を一粒流した。

カシミアはしゃがみ込み、クロフォードの手を握りしめた。

「また会えますよ。誰とは教えられませんけれど」

「!?」

クロフォードは驚愕したのち、カシミアの手を打ち払い飛び上がった。

「どこだ! どこにいる! 命が惜しければ正直に吐け!」

「貴方が暮らしたいと望む場所にです。ご結婚おめでとうございます」

「! いや、まだなにも言ってない! 声もかけてなあい!」

クロフォードは真っ赤になり、両手で両耳を塞いでから踵を返し、高速で走り去った。

「ああ……」

カシミアは、結局のところ自分が一番の利益を受け取る者になってしまい、悪びれる意味でため息をついた。

「ところで……そこのカルラ君?」

カシミアは、声の届かない木陰に立つカルラに声をかけた。

「余った経費は返すものだよ」

聞こえないけど分かってるカルラは、素早く立ち去った。

3・

僕は再び、真っ白な世界で白ローブの神様を前にしていた。

前と違うのは、光の球体ではなく、ノイエの姿で存在していること。

「本物のノイエ君は、どうなりました?」

「もう他の場所に行ってしまったよ。君に全てを任せて、安心したようだ」

「あのう、僕全く役立ちませんでしたよ? 一年経たず処刑されちゃったんですよ?」

「ノイエが完全に死んでしまったことで半壊問題にスイッチが入ったものの、十分に対策はなされた。君は気付いていないが、君が存在したことで戦力が一致団結した。半壊する可能性が減った」

「あの、その話なんですが……どこの星が半壊するんですか? 僕、ずっとクリスタだと思ってましたが、当たってますか?」

「まだ場所の確定はしていない。けれどクリスタの可能性が高い」

「星を壊すものは、あちこちに出歩けるんですね? 大変だ。止めに行かないと!」

意気込む僕に、神様は仕方がないという風な笑顔と態度を見せた。

「言っておくが、地球に帰ることも可能だ。もう全てを背負わずとも良い」

「見捨てられる訳がないでしょ! 僕に、相応しい居場所を下さい!」

「やれやれ。じゃあ先に、星を壊すものの正体を教える」

神様は僕にその正体と、どうしてノイエが生きている必要があったのか教えてくれた。

今まで集めた情報で考え及ぶ範囲のものだったのに、全くの盲点だったと驚いた。

それから神様は僕の前に、空中に浮かぶ半透明のステータス画面を複数表示した。

僕が生まれ変われる可能性のある人の、大まかな人生ファイルだった。

見知った苗字を発見して嬉しくなり、手を伸ばそうとした。でも不意にその隣のファイルに目を取られて、手を止めた。

「あのこれって……まさか、こんなのアリですか」

「その者の運命が星を壊すものとリンクする可能性は薄いけれど、望めば関与できる。しかし見ての通り、他の場所で大変な運命を背負っている」

「ええ。でもみんなを救えます。僕は彼として生まれます」

「今までの記憶は消すが、それで構わないか?」

「はい。思い出せば良いだけの話です」

「では、祝福を」

神様はステータス画面を一個だけ表示して、僕に向けて祝福の光を与えてくれた。

そして意識が遠くなり、眠りの中に落ちた。

4・

白い空間に残る白ローブの青年は、思わず笑い出し頬に手を当てた。

「さあ、これで災厄の獣ですらひれ伏す魔王の誕生だ。その時が来るまで、存分に日常生活を楽しんでおくれ」

青年は、魔王の中身がお人好しで泣き虫で控えめな純情派のくせに、強情で勇気があるのは問題だと考えた。

「私の盾、いや矛として、果たしてどこまで成長できるのかな……」

青年は期待半分不安半分の複雑な気持ちを抱え、瞬間移動して消えた。
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