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第一章 惑星クリスタにて

2・引き継いだ現実

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1・

胸の辺りに何かの重りが乗っかっているような、締め付ける痛みと息苦しさがあった。

眠りの中でそれから逃れたいと願って暴れていると、段々と楽になってきた。

そして、ふと目覚めることが出来た。目覚めてから、自分が眠っていたと気付いた。

まず目に入ったのは、数々の医療機器だろうものがある病室のような室内に、見知らぬ金髪の男性。

どこか神職の衣装のように思えるものを身につけた彼は目を丸くして数秒間僕を見つめた後、物凄く素早い動きで詰め寄って来た。

「りゅうじ……いえ、ノイエ様! って、様もまだ……あ、その、どこも痛くありませんか? 胸の痛みはどうですか?」

「へえ?」

僕は状況が理解出来ず、真っ白いベッドの上で身を起こした。

そっちこそ大丈夫かと心配してしまいそうになる程に動揺している彼は、一通り僕が大丈夫なのか確認した後に、何か叫びながら部屋から走り出て行った。

一人になり、段々と思い出せてきた。

僕が異世界から転生してきた者だということ。あの少年の願い通り、星を護ると決めたこと。

鏡が無いのではっきりは分からないが、ベッドの上で座る僕は、あの少年の体を使っているのだろう。そうして、死んだ事実を無事にくつがえせた。

それは良かったとため息をついているところに、部屋の扉が音もなく開いて人が数名やって来た。

そういえばあれは自動ドア? と不思議に思って目をやった結果、何だか物凄くファンタジーなヒラヒラ衣装を着て金髪長髪で目の青いイケメン男性がいることに気付いてしまった。

転生してすぐこの手のイケメンに出会うというのはフラグではないかと思うのだが、僕は男子だ。そっち方面のファンタジーじゃない限り……家族かもしれないと思えた。この少年も金髪だし。

「良かった。本当に良かった。助けられて、本当に良かった…」

誰よりも早くベッドの傍に来た彼は、とてつもなく全てを愛しむ表情で僕を見下ろし、そっと手を伸ばしてきた。

これは父に違いないと思った僕は、その手を取り言った。

「父さん。僕は大丈夫です。もう心配しないで」

この瞬間、雰囲気が凍り付いた。

僕に手を握られた彼は、後ろに控える人々の方を向いて言った。

「彼は私の実の子ではない。大きな意味での父という意味だろう」

「あ、はい。勿論ですよね」

よくよく見てみたら、そう返事をした彼も別の男性達も、金髪ばかりだった。これは……そう、民族的な特徴という意味があるような気がした。

僕は手を離し、俯いて震えながら囁いた。

「申し訳、ありません。僕、その、昔のこと、何も憶えてなくて。僕は誰ですか?」

「何だって?」

二度目に雰囲気が凍り付いてからの展開は、記憶喪失者に対応する国のお偉方と部下達の必死なやり取りが主になった。

2・

僕は、とてつもない勘違いをしていた。

集中治療室のような部屋から普通の個室に移動してから受けた説明により、この自分ノイエ・リュートが田舎出身の平民だと理解した。王族ではないのだ。

そして倒れた原因は心臓発作。元々幼少の頃から心臓が弱く、あまり外出できなかったようだ。

しかし最近は調子が良かったので、通っている小学校の一クラスが龍神中央神殿で開催される何かの会に招かれたのが嬉しくて、断る事なく皆と出かけた。

そしてその会が始まろうという時、生まれて初めて生で龍神様を目前にし、興奮したせいでバッタリ倒れてしまった。

倒れた僕を介抱して助けてくれたのは、他でもない龍神アレンデール様。あの、金髪長髪のイケメンさん。

今ここでいう龍神様とは、僕らバンハムーバ族の始祖にして父である元祖の龍神様の力を受け継いで生まれた子の事。

彼らは同時代に数名しか存在できず、その呼び名の通りに巨大な龍に変身できる能力を持つという。小さな船なら体当たりだけで壊せるらしい。

他にも天候を操る神としての力も持ち、星の隅々までの天候のバランスを取ることも可能だとか。

神殿で暮らす龍神様をお世話する係である神官さんの一人にそこまで説明を受けたのち、ノイエの家族達がやって来たので対応した。

既に記憶喪失を知っている家族達とのやり取りは、本物のノイエが死んでしまったと知っているせいもあり気まずい。

記憶が無くても仲良くしたいと告げるので、精一杯だった。

田舎で牧場を経営しているという人の良さそうな両親と、可愛い妹と弟。家族になれて嬉しいと思える面々。

彼らが帰ると言い出した時に、僕も一緒に帰った方が良いと思って部屋から出て行こうとした。

けれど、隅っこで全てを見守っていた神官さんに押しとどめられた。

「ノイエ様、あなたは今日は帰れません。まだお話しする事があるのです」

「うっ、治療費はお幾らでしょうか?」

「そういう意味ではなくて…あのその、今日はここでお休み下さい。ご家族の方とはまた会えます。それよりも明日、アレンデール様の話を聞いていただきたいのです。今日はお疲れ様でした。もう休みましょう?」

僕が神官さんに肩をグイグイ押されている間に、家族達は部屋を出て行き、去り際にこちらに一礼してから帰ってしまった。

僕は一人、広々とした病室で夜を明かした。

3・

翌日の朝。ノンビリ起きてから、美味しいが物足りなく感じる病院食をいただき、ボンヤリと待った。

昼前に龍神アレンデール様がやって来て、僕と差し向かいでソファーに座った。

何となく、予感はあった。だから僕が今この時代で四人目の龍神なのだと聞いた時には、驚かなかった。

「驚かないんだな」

アレンデール様の方が少し驚いた。

「その……何となくですが、そうかなあという予感がありまして」

「なるほど。ならば話は早い。龍神は大人になるまでは主に神殿で暮らすことになる。君が倒れている間にご両親には了解を得た。このまま、家には戻らず中央神殿に行ってもらう」

「はい、分かりました」

「あと、君の病について話そう。どうやら私と会い龍神として覚醒した時、龍神ベースの体として強化されたことでほぼ完治したようだ。しかし、完全ではない。しばらくは療養をした方が良い」

「そうします。無理をしても良いことはないですから」

僕がそう言うと、アレンデール様が愉快そうに笑った。

「無理をして一度死んだから、身に染みたのだな」

「…はい、そうです」

本当は、完全に死んだ。僕が運命を引き継がなければ、この肉体は滅びていた。

僕が思った以上にショックを受けたと理解したアレンデール様は、すぐに謝罪してくれた。そして神官さん達を呼んで、僕の引っ越し作業を手伝わせた。
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