蛇と龍のロンド

海生まれのネコ

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四章 宇宙の龍神様

1 宇宙へGO

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1・

バンハムーバ国クリスタ宇宙軍士官学校での一年間は、あっという間に過ぎ去った。

俺と決闘したアレンデールは、そのうち龍神の中央神殿で飼われることになり、俺が黒犬と呼び続けたので呼び名がクロになった。

彼は本当は黒い化け狐で、なんと龍神を抑えて宇宙一化け物だと民衆に言い伝えられている獣の一族出身だった。

その昔、独裁者風の龍神を懲らしめようと決闘し、その龍神の姿に変化して力まで盗んでコテンパンにした実話があるとか。

それで、もしもの時に不埒な龍神を負かしたいアレンデールが、バンハムーバ人はなく化け狐の一族に生まれ変わったんだと理解できた。

両方がまだ子供なので、あの程度の被害を出すだけで済んだ。でも大人になってからの決闘だったら基地が吹き飛んでいたかもしれないと聞かされ、今のうちに済ませて良かったとは思った。あくまで決闘の部分だけだが。

とにかくその問題は、そうして数ヶ月のうちに和解という形で完全に収まった。

次に問題だったミラノやその他の面々との関係性は、一年が終わる頃には本当に良い物になれた。

開き直って教官にも敬語を使うのを止めたし、立場の差はあってもユリウスとジーンとミラノには友達として振る舞うようにした。

休日に何度も一緒にお出かけしたし、俺がジーンを好きだと誤解させた大本らしい、誕生日に花を贈るのも、ユリウスとミラノにもした。

年末年始は残念ながらロックと宇宙迷走の旅に出かけていて遊べなかったものの、その後に俺の部屋でみんながお泊まりしての天体観測なんかして、本当に充実した学生ライフを楽しめた。

もちろん、死に物狂いで勉強して色々とクリアしていった苦しみが根本にあったものの。
それは自分がなりたい者になるための勉強だから、全然楽しかった。

そして俺は、十九歳の春に無事に進級して二年生になれたのだ。

実はこの士官学校の二年生には、クリスタの他の宇宙軍附属学校の優秀な成績を収めた生徒たちと共に、本物の宇宙軍の戦艦に乗って宇宙に実習に出る授業があるのだが。

まもののエサの俺が、戦艦に乗るとしてもロックの付き添い無しに旅立っていいのか分からない。

正月に宇宙に旅に出たときも、俺を何度として全速力で振り切ろうとした犯人は何も言ってくれないし。

俺はもしかしたら一人で居残りかもと不安に思いつつの、進学でもあった。

新入生入学の日。俺は龍神としての仕事で式に出席して、祝辞を述べた。

その後はもう、他の予定は無かった。

なのでロックに会いに行くと言い残し、中央神殿に飛んでいった。

神殿の入り口で神官に聞くと、ロックは仕事中だけど来てもいいって言っていると教えてくれた。

遠慮なく執務室に行くと、ロックは珍しく机に向かって書類を書かされており、傍の絨毯の上にクロがお座りしていた。

「よっ、やっと来たな? ただいまより、エリック対アレンデール様の第三回戦を開催します!」

「何? 戦わないぞ」

「まあまあ、俺の説明を聞け。エリックを宇宙に連れ回して適度に引き離して泳いでみた結果、エリックがそんなに弱い訳じゃなく、時空獣から一目置かれているのが分かった。大きさとしては子供なんだけど、幽霊だったっていう龍神様からもらった力が有能なようで、それなりに警戒されている」

「え! あの置いてけぼりには、そんな意味があったんかい!」

「違うところに驚いてくれよ。だからな、一応は宇宙に実習に行ってもらっていいかと思うんだ。でも、政府内部からまだ実力不足じゃないかと危惧する声が上がっている。龍神の命がかかる問題において、向こうが妥協する事は無い」

「政府を説得しようにも、俺には手段がない。ロックはついて来れないもんな」

「ああ。シーマ様は引退してて、コーネリアは双子を生んで育児中だろ? 俺は星のお守りでここにいなきゃいけない。でも、代理の守護者がそこにいる」

ロックは、クロを指さした。

「説得して一緒に連れていけば、もう誰も文句言わないぞ」

「クロ! 一緒に来てくれえ!」

俺はクロに飛び付いた。クロは瞬時にその場から姿を消し、壁ぎわに移動した。

「お願いだから、一緒に来てくれ! 俺独りだけ置いてけぼりで、寂しく勉強なんてしたくない! みんなと一緒に宇宙に行きたいんだ! だから、頼む!」

俺はもう必死になって両手を合わせ、頭を下げた。

お願いだからと何度も叫んで拝み続けていると、そのうち根負けしたのか答えをくれた。

「個室をくれるなら、行ってもいい」

「そんなの、お安い御用だぜ! ありがとう、クロ!」

また抱きつきに行ったが避けられた。

代わりにロックが抱きつきに来て、あれよという間に椅子に座らされた。

「それは龍神共通の書類だから、エリックが署名しても全然大丈夫さ」

「よし任せろ」

「俺は王様に、クロも行くって知らせておいてやるぜ」

張り切って立ち去る笑顔のロックを笑顔で見送った俺は、国内外のいくつかの問題に関する書類に目を通し、定時まで働くサラリーマンになった。

2・

そういう流れで、宇宙行きをゲットした俺。

六月にクリスタ全土から選り抜かれた学生たちを集めた軍港で出立式があり、そこでまた少し偉そうに話さなきゃならなかったのは少し恥ずかしいが。

しかし訓練用に供されたバンハムーバ宇宙軍の戦艦は、立派で大きくて格好良くて最高だ。

特に戦艦マニアという訳じゃないが、男の子の中に必ず眠っているこういうものへの憧れが思う存分満たされた瞬間だった。

そして旅の間に俺が寝泊まりする部屋は艦長室と同じような広さで、寮の部屋と比べても遜色ない。快適な旅になること請け合いだ。

気になってクロの部屋に行ってみたら、まあまあ広い部屋だった。しかし何が気に入らないのか、不満げに黙って椅子に座っている。

どっちかというと、俺よりクロの方が支配者階級資質を持っているんだろう。この間まで二百年と少しぐらいは本当に龍神だったんだし、質素なのが耐えられないのか。
気の毒だが、部屋はチェンジできない。

他には特に問題もなく、戦艦は無事に軍港から旅立った。

宇宙に出てからの活動は、龍神としての任務もあり少し忙しめのスケジュールだ。

まずは戦艦全体の構造や兵士の配置、働きについてしっかりと学ばされる。実習もある。これは他の生徒たちと共に受ける授業。

それから、宇宙文明に関する一般知識の座学に多く時間が取られる。宇宙国際連盟の所属国が遵守する国際宇宙法も、ここでしっかりと学ぶ。

ユールレム勢力圏内には行かず、バンハムーバ勢力圏内の宇宙周辺を旅するだけといっても、過去の戦乱などの余韻でユールレム植民地の星もたくさんあるし、ユールレムでもバンハムーバでもない、独自の文化と政治形態を持つ星も多い。

普通の生徒たちは、この辺りをサラリと学ぶようなのだが、独立した龍神は今すぐ他国の驚異として干渉できてしまう力を持つために、俺だけはバンハムーバ勢力圏内の一つ一つの星の法律と政治形態と歴史を、百パーセント間違えないぐらいに覚え込まないといけない。ざっと見て、五十ぐらいの星のだ。

まさに、戦艦という一つの牢獄に閉じ込められた、逃げ場のない地獄の勉強漬けだ。俺はそれを実際に味わうようになってから、クロに付き添いを頼んだ事をうっすら後悔し始めた。

かといって、居残っていても独り寂しく同じ内容の勉強をしただろうから、友達がいるこっちの方が良いとは思える。

……が、実際に宇宙に出て、龍神としてあちこち巡るというのは、地上で大人しくしているより数万倍大変だ。

旅の計画によると龍神としての正式訪問地となるいくつかの寄港地が決められているのだが、そこは近辺で一番重要な権力のある星で、とりあえずそこを押さえておけば周囲の星は来てもらえなくても文句言えないという場所。

まかり間違ってもそこより格下の星に寄港して、龍神の俺が公式訪問なんかしちゃいけない。
それだけで、その空域に不穏な空気が流れる。

そしてバンハムーバ政府の役人さんたちが十分に吟味して選んでくれた適切な星に公式訪問しても、出迎えてくれたそこの政府の方々とはつかず離れずで仲良くしなくてはならない。

バンハムーバ植民地の場合は普通に笑顔でこんにちはで十分なのに、違う国に行ったら、どんな言葉でも時と場合を考えすぎるぐらいに考えて発言し、向こうが俺に失礼をしないよう、そして俺は威圧しないように努めなければならない。

宇宙二大勢力の一つの支配者の龍神に対する、小さな星の支配者たちの決死の表情を毎度のように拝むのは、本当に忍びない。マジつらい。

これを寄港したから与えられる他の生徒たちの休日にこなさなきゃいけないんだから、余計に身も細る思いだ。

何度目かに思うが、龍神辞めたい。
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