蛇と龍のロンド

海生まれのネコ

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三章 宇宙軍士官学校にて

1 宇宙軍士官学校に入学

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1・

バンハムーバの準母星のクリスタに到着してすぐ、クリスタの宇宙軍士官学校に入学となるかと思ったら、先にクリスタ在駐の龍神ロックと学校内で会うことになった。

龍神にも個性があり、龍として戦闘能力に長ける者や、バンハムーバの星のエネルギーを操るのが上手い者、魔力を多く持ち世界最高峰の魔術師になる者、宇宙を素早く泳いで移動するのが得意な者。色々といる。

その中でも、ロックはバリバリの武闘派の龍神だというのは噂で知っていた。

それで実際に出会って握手した時に、ロックは俺の手を故意じゃなく握りつぶしたかったようだ。

けれど俺もいつの間にか急激なパワーアップ……きっとあの幽霊龍神から託された力なのだろうが、ロックの怪力に負けない力が出せたので、負けずにガン飛ばした。

そしたらロックは、自分に対応できる龍神の仲間ができて嬉しいと笑って抱きついてきやがった。

年齢はアラフィフのいい大人だが、態度と物言いが幾分か子供っぽい。
バンハムーバ人の寿命通りに二百年ほど生きたとしても、アラフィフではまだ子供の領分なのか。

それとも、龍神の寿命の方で千年ぐらい生きてしまう上でのアラフィフなのか。

どっちにしろ、十八歳の俺が色々と気遣った方がいいなというのは理解した。

今後、宇宙で龍神の姿に変身して戦艦と共に時空獣や海賊と戦う連携訓練をしていくことになる。その時に、しばらくはロックに同伴してもらって宇宙の泳ぎ方を指導してもらうしかない。

きっと彼と一緒に作業をするのはストレスが溜まるだろうが、しばらくは辛抱だ。

そういう少しの諦めを得たのち、ロックと別れてようやく生徒たちのいる校舎の方に行けた。

先に寮に行くよりも、一日でも早く勉強の遅れを取り戻したいから、こうして空港から教室に直行してみたのだが。

何たることか、龍神は他の生徒と違う教科をいくつか取得しないといけないらしくて、教室に生徒は俺一人だった。先生とマンツーマンだ。

特別に人が好きな性格でもないんだけど、生徒が一人というのはとてつもなく物悲しい。

そう感じつつ、はっきり言って今の俺の実力では難しい内容の授業を夕方まで受けた後、これから暮らすべき寮に向かった。

クリスタ所属バンハムーバ宇宙軍の基地内にある全寮制の学校なので、寮はもちろん軍の敷地内にある。

そこで今度こそ同級生に会えるかと期待したのに、俺を乗せた小型宇宙船ぽい車は寮らしいものの前を素通りした。

どこに連れられるのかと思ったら、職員寮に行った。

しかもその玄関で、学校長以下数名の教師……教官や軍人たち、そして四人の生徒たちの歓迎を受けた。

軍人たちは、俺が今後宇宙に出て訓練する時に世話になる艦隊の人たちだった。生徒四人は俺の同級生で、順番で俺と一緒に授業を受けてくれる係なのだという。

加えて、俺が職員寮で寮暮らしをしている間に、朝から夕食時までの時間限定で俺の世話係としても働くという。
それが彼らの、軍人としての訓練でもあるらしい。

そして四人の上に二人の軍人の教官がおり、指導をする係であると共に、夜から早朝までの俺の生活の補助をしてくれるという。

そういうものかと知ったところで、バンハムーバの王族の一員という学校長が、俺にとり大事な情報を教えてくれた。

今まで俺が龍神だという事実を秘密にしていた政府が、今日を以て正式に公表することになった。

裏ではいくらでも龍神だと言われていた俺も、ようやく本物になれたという訳だ。

2・

玄関での歓迎が終わった後、自分が暮らす事になる寮の部屋まで案内してもらった。

自分の引っ越しなのに自分が荷物を持っていない現実にまだ少し戸惑いつつも、エレベーターで最上階に上がってとても見晴らしの良いベランダ付きの広い部屋に案内された。

高級ホテルのスイートルームっぽいが、あくまで寮なので少し使用感があり古びている家具もある。

それでも、俺一人じゃ広すぎる部屋だ。ベッドは天蓋付きのキングサイズだし。

そこに荷物を持ち込んだ軍人たちが、一通り家具などに収納してくれる作業を椅子に座って眺めさせられ、その後で夕食の時間となった。

本当は俺一人で準備して勝手に食ってもいいんだけれど、俺の世話係と紹介されたばかりの生徒の内の男子二名が、男性教官のグラントに教わりながらも給仕してくれた。

ホルンとナナ以外の、全く見知らぬ人に世話される気まずさを味わった。しかし料理は美味しかった。

食事が終わり、ようやく解放されて気が抜けた俺は、窓辺に移動してスマホで自撮りした。

つぶやき君に載せようかと思っていると、帰ろうとしていた筈の生徒の一人、ヒューズ君がいつの間にか俺の横に立っていた。

「一言宜しいですか」

いかにもバンハムーバ人だという金髪に青い目を持つヒューズは、俺より背が低いものの負けじとガンつけてきた。

「おお、何か?」

「エリック様は、つぶやき君に写真を投稿してらっしゃいますよね?」

「えーと、うん」

「自由意志があると思うのですが、ああいった下品な場所に写真など投稿しないで――」

ヒューズはそこまで言ったところで、グラントに捕まって手で口を封じられた。

もがくヒューズは教官から逃げられず、そのまま引きずられて部屋から退場させられた。

「あの、申し訳ありません。初日ということで、彼も舞い上がっているのだと思います」

残ったもう一人の学生ユリウスが、俺の顔色を窺いつつ控え目に話しかけてきた。こっちは至って普通のようだ。

「ああ、まあ、前から止すようには言われてるし……分かってはいる。赦しているって、伝えてきてくれるとありがたい」

「勿体ないお言葉です」

既に礼儀正しさ百パーセントの茶髪に青い目のユリウスは、さっと一礼するとカートを押して部屋から出て行った。

俺は椅子に座り、引っ越したことを微妙に後悔し始めた。

翌朝。寝間着を着がえた後に今までちらほらと部屋に来ていたグラントがいなくなり、女性教官のマルティナと同級生の女子二人がやって来た。

赤毛ぽい金髪に青い目のジーンと、背が低い以外は普通のバンハムーバ人の特徴を持つミラノは、昨日のヒューズやユリウスと違ってにこやかに給仕をしてくれた。
こちらはまだ大丈夫だと、ほっとした。

それから通学となった。ここから女子二人も一緒の教室に行けばいいのに、一時解散した。

これからずっと別々の通学になるのだろうか? 意味が分からない。
が、何かが原因で必要なんだろう。

それは何か。考えながらほんの少し距離の通学を終えて教室に入ってすぐ、知れることになった。

一時限目の、バンハムーバ国内法律論の教師役のグラントが待ち構えていて、俺が席につくと一度頭を深々と下げてみせた。

それから決死の覚悟を決めた者の顔つきで、俺を真正面から捉えて言った。

「本来ならば龍神様に意見できる者はおらず、従わせようとする言動など取れば、手打ちに遭う覚悟を決めねばなりません。しかし貴方様は我が校の生徒となられました故に、我ら教官、教師の命令を聞く立場となりました。今ここで、この処置が気に入らない場合は、そう仰って下さい。考慮いたします」

一瞬、この人は何を言っているのかと不思議に思った。普通、学校というものは先生の言うことを聞くために入学するものだ。

でないと、きっとろくな勉強が出来ない。が……。

自分がバンハムーバではなく、ユールレムの常識しか知らないことに気付いた。龍神を扱うドラマなどは観ていたが、自分とは全く縁の無い世界だとしか考えなかったので、真面目に憶えてなどいない。

しかし、その少しだけ得た知識の中には確かに、龍神に意見できる者はバンハムーバ王であってもいないとされているとある。

同じ龍神でも、意見できても強制力はない。それだけ、バンハムーバの国の中での龍神の立場は高い。高すぎる位に高い。

なんたって神なのだから。

そこまで思い出してゾッとしながら、改めて考えた。

「昨日のあの子……ヒューズはどうなりますか?」

俺がそれを聞くと、グラントは緊張感を隠さずに返してくれた。

「貴方様の傍仕えは辞退させました。それ以外に、何かお望みでしょうか」

「いや、それは……赦した筈ですが?」

「貴方様が赦されても、我らが赦せなかったのです」

「しかし――」

言いかけて、ここで何故そんな事をと問うてしまえば、問題が限りなく大きくなると気付いた。

きっとこれは、龍神に対する行動の取り方を学べていないヒューズを守るための処置だろう。彼がもう一度口を滑らせた時、俺が赦すかどうか分からないから。

それにもし、俺がたった一人の国民のヒューズの言うことを何度も聞いてしまうような事態が発生すれば、国のパワーバランスが崩れるほどに問題にもなる。

長き歴史の中で培われた、龍神の威厳を誰にも犯させてはならない。
それが、今の俺のすべきことだ理解した。

「分かりました。彼については、その処置でお願いします。それから私はこの学校で、自分に足りないものを多く得たいのです。私が龍神であろうと構わず、教官方からは厳しいご指導を頂けることを強く望みます。どうか、私を一人前の龍神にして頂きたいのです。これからの二年間、宜しくお願いいたします」

俺は、彼に向かって頭を下げた。

頭を上げて再び彼の顔を見た時、その目にはまだ緊張感がありはしたが、安堵感もあった。

グラントがまず矢面に立つために、こうして一人でやって来たのに気付いた。

俺が色々とあったせいで、大人しく言うことを聞くかどうか解らずに不安だったに違いない。
それでも一人で来た彼は凄い。信頼できる。

俺は思わず笑った。
するとグラントの緊張感が解け、一度軽く頭を下げた。

「了解いたしました。我らはこれからの二年間、全力を尽くして指導を行います」

「頼みます」

それからは、良い雰囲気で授業を受けることができた。
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