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第三章 国葬式と即位式

十一 レリクスに関する話し合い

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1・

かわいそうな感じで倒れた僕は、しばらくソファーで横になって休憩したのち、起き出して座った。

「とにかく、母さんの知り合いのレリクスに会ってみたい」

「無理です」

今も大人の姿のままのイツキが、僕の前で跪いて申し訳なさそうに言う。

「見せてと頼むから、大丈夫だよ」

「いえいえ、そんな簡単な話じゃないですよ。レリクスを所持しており、それを魔法アイテムとして使用している場合、向こうもこちらがレリクスを所持していると悟られてしまいます」

「うん? 僕、持ってないよ?」

母さんの宝石は、復活させることができた時に消えた。それを入れていたペンダントトップも壊れたから、ロック様が周囲の目をごまかす為にと、アニメに出てくるような宇宙ロケット型の銀のペンダントトップをくれた。

今は、赤いガラス玉の入ったそれしか持っていない。

「持っていないって、ショーンの母さんはどこにやったんだ?」

少し離れたところにいるエリック様が聞いてきた。

僕は彼の顔を見た。あの場にはいなかった。

あの時、ロック様が、ここにいる以外の人には秘密にしようと言っていたのを思い出した。

「あ、いえ、持ってます。ほら」

首から下げたペンダントトップを、服の中から取りだして見せた。

エリック様が近付いて来て、近くでこれを確認した。

イツキが、犬耳があったら下がってるような気まずい顔をして床を見ている。

「うーん、ただのガラス玉だな。レリクスの宝石を見たことがある魔術師なら、本物じゃないってすぐ見抜くぞ」

「いいえ、これは本物です! 本物です!」

「アルファルド様は、本物じゃないと気付く。それにな、持っていないがショーンの胸に刺さってる方があるだろう? それがレリクスと感知されるんだから、何も持っていないのにレリクスと感知される方がまずい。ショーン自身がレリクスだとバレるだろうに」

「あ……う……ん」

「本物を持っておいて、感知してるのはこっちでしょとしらばっくれるか、二個持ってるけど一個しか見せません風に演技しないと」

「え~と、そうですよね」

「先に忠告しておいた方が良かったかもしれないが、まさか同じレリクスの宝石を持ち出してくるとは思わずに、後手に回ってしまった。ユールレム王国……いや、アルファルド王子が、それだけ必死になってレリクス捜索に来たと取れる。まずいかもしれない」

「もう……バレちゃいましたかね?」

「いや、挨拶しただけだろう? それに事情を理解しているノアが、コッソリとショーンの魔法防御力を上げてくれたようだから、今は会っても平気だろう。ただ、ハルトライト高校で会った時に、レリクス持ちだとバレる可能性が高い」

「ええと、ノア様も一緒に登校できる訳がないですから、学校内では彼と会わない方が良いですよね」

「逃げた方が良いな」

逃げなきゃ、と思った。

「ではショーン様、アデリーさんとは絶交ですね?」

「……ああっ、嫌だ! アルファルド様とは、仲良くしないと!」

イツキの呟きで、そっちの問題を思い出した。

エリック様が続けて言った。

「ショーン君、逃げるんじゃないのか?」

「あっ、はい。でもその、事情がありまして、クラスメイトのアデリーさんと仲良くしたいので、その兄上だろうアルファルド様とも仲良くしたいと思っていました」

「ああ、同じクラスになっていたのか。ロックがクリスタに招き入れた第二王女で、アルファルド様とは異母兄妹になる。しかしその母は、街角に立つ女性だったらしくてな。第二王女だが、追放同然でここにやられた訳だ」

「街角に立つ女性って、何ですか?」

「……お教えしましたよ?」

イツキが視線を床に落としたまま言った。

僕はしばらく考えて思い出して、頭が沸騰しそうになった。

僕が再び倒れていると、少し前からいなくなっていたホルンさんが明るい感じで戻ってきた。

「ただいま戻りました。何やら楽しそうですね?」

「そう言うのはお前だけだ。それで、あれは?」

「はい、無事に送って頂けました。どうぞ」

エリック様とホルンさんが、何かゴソゴソしている。

そのうち、エリック様が僕の傍まで来て、笑顔で何か差し出してきた。

反射的に受け取って、それがレリクスの宝石なのに気付いて飛び起きた。

「これ、レリクス……! でもいったい、どうしてあるんですか!」

母さんの赤でも僕の白でもない。琥珀のような暖かな色合いのニセンチほどの大きさの宝石は、僕に会えてとても嬉しそうにしている。

「それは俺の個人的所有物だ。まあ、元はバンハムーバの国宝の一つだったんだが、マーティスに無理言い過ぎるぐらいに言って、譲ってもらった」

「国宝って……。あの、どうして、エリック様はこれを持とうと?」

まさか転生するのに使いたいなんて……。

「ああ。ショーンの母さんを守るために、別のレリクスを標的にする必要があると思って、俺のものにしたんだ。でも今は、ショーンのものだ。これをペンダントトップに入れて、持ち歩くんだ。そして必要ならば、手放すといい」

「手放すのが必要って?」

「誰かがレリクス欲しさにショーンの友人を傷つけようとした時は、遠慮なくくれてやれ。そういう意味だ」

「……」

そういう未来があるかもしれないと、今ようやく気付いた。

僕が傍にいるだけで、傷つく人が出てしまう……。

辛い、嫌だと落ち込むと、僕の手の中の宝石がぼんやりと光り始めた。

宝石の中にいるレリクスが、大丈夫だと声をかけてくれる。

このレリクスはかなり昔に生きていた人で、大人らしい落ち着きと知恵を強く感じる。

宝石化してからも長い年月を越えてきた、僕のかなり前の兄だっていう。

心で会話できるのが嬉しくて、僕も笑えた。

「ショーン、どうした? レリクスと話しているのか?」

エリック様が聞くので、顔を上げて頷いた。

「僕の兄さんですって。とっても暖かい人で、長いこと学者さんをしていたみたいです」

「へえ、本当に話せるんだな。俺たちは普通、持っていても話せない。それだけ強い個性を感知できることはない」

「僕は……宝石になっても、やっぱりレリクスなんですね。魂がそれだから……そうではない僕は、僕ではないのかも」

「うーん、どうだろうな。魂というのは光エネルギーでできていて、切り離せるものなんだ。色々と説はあるけれど、それなりにすっぱりと分けられるらしい。ただショーンの魂はレリクスの女王が言った通りならば未熟で、割ると一人の存在として意識を保てるかどうか怪しい」

「それは……では、成熟すれば、もしかしたら……分ける事も可能なのでしょうか」

僕がそう言うと、エリック様は頷いた。

「負担に思えるならば、そうすればいい。ただ、事前に相談してくれ」

「……はい」

僕は、たくさんの人に甘えているな、と感じた。手の中のレリクスさんにも、励まされている。

「ショーン、じゃあお前のガラス玉をくれるか?」

「あ、はい」

僕は銀の宇宙ロケット型のペンダントトップの中から、赤いガラス玉を取り出した。それをエリック様に渡し、琥珀色のレリクスさんをペンダントトップに入れた。

「エリック様……でも、もらっても構わないんですか?」

「ん? ああいいとも。俺は代わりに、こっちのガラス玉を貰うからな」

「ガラス玉ですよ?」

「うんうん。まあ価値のあるガラス玉だ。ロックが別の国に珍しく出張しに行って、たまたまいた時空獣を退治してお礼に貰った品だ」

「……本物ですか?」

「ああ。俺が貰っておく。それでいいだろ?」

「はい」

形見になるんだなと思えて嬉しくなった。エリック様も笑ってる。

「ところで、ショーンの母さんはどこに?」

「えっ、あの、ここでは言えません」

「ここにいるのは、レリクスのことを知っている存在ばかりだ。遠慮せず教えてくれ」

「えっ……と」

汗が出てきた。するとイツキがスッと立ち上がり、エリック様を睨み付けた。

「エリック様、もしかしてご存知ですか? ショーン様をからかわれてますね?」

「ははは、バレたか。彼女が生き返ったと、死んだ後のロック本人が教えてくれたんだ。代わりに、俺が世話しろってな。ノアのところにいるんだろう?」

「それが、実はフリッツベルクさんと旅をしているそうです。友達になったそうです」

「は」

僕が言うと、エリック様の笑顔が固まった。そしてイツキに強い視線をやった。

イツキは言った。

「先ほど、ノア様と会った時に、そう教えられました」

「うわあ。ええと、ああ……まあ、友達になったのは良いことだ。今は、アルファルド様のレリクス問題を解決しよう」

「あの、こうして僕がレリクスではないと誤魔化せるようになったので……まだ魔法防御力という物が強い間に、もう一度会いに行っても構いませんか? 見せて貰えれば、それが女王に関係する誰か分かるかもしれないので」

「……確認しに行かなくても、予想がつくんだが。女王の愛しい人は王様だろう。ユールレム王国は、その宝石を所持しているという噂だからな」

「……王様!」

そう思うと、僕の心の中で感情が大きく動いた。

さっきのように心が燃え上がり、胸が苦しくなり、会いたくて仕方がない。もう離れているのは嫌だ。一緒にいたい……。

「僕の記憶じゃないのに、僕が辛く思っているんです。彼を取り返したいんです。一緒にいたいんです。どうすれば良いんでしょう?」

苦しくて胸に手を当て、俯いた。泣きたくないと思う心もあるのに、震えて泣いた。

「ショーン様」

イツキが傍で膝をついて手を伸ばしてくれたので、僕は彼に抱きついて泣いた。

いくら考えても、アルファルド様にバレずに王様に会える道はない。

「眠らせるか」

エリック様が突然に言った。

「アルファルド様とそのお付きの補佐官オディエルは、ユールレム代表として国葬式に出てくれたから、この勢いで中央神殿に招待して一泊させ、ショーンの力で朝までぐっすり平和に眠ってもらおう。その間に、レリクスの王様と会おうか」

「……いい、い、いいんですか? きっと違法ですよね?」

「バンハムーバにいる限りは、龍神の法に従ってもらう」

エリック様は躊躇なく、きっぱり言った。

「も、物凄く、罪悪感が、あるんですけれど?」

「大丈夫、俺が全部お膳立てするから、ショーンは深い眠りの言葉を彼らにかけて、部屋に侵入するだけでいい。ショーンは悪く思わなくていい」

「でも、僕の為じゃないですか」

「いや、俺だってたまには誰かにイタズラを仕掛けたいんだ。いつもホルンにやられててストレスたまってるから、ここで発散する」

「ええ? いや、相手はユールレムの王子様ですよ?」

「構うものか。もしかしたら、色々と解決できる糸口になるかもしれない」

「色々……ですか?」

僕の問題以外に何があるか知らないが、エリック様はノリノリになった。

こうなったら誰も止められないらしいので、仕方なく作戦に参加することにした。
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