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第一章 龍神に覚醒したはずの日々
十 不可避の運命
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1・
一時休憩を取った四名は、軽食には手を出さずに冷水を飲んだ。ロックは加えて飲料水用の氷をガリガリ食べて、気を紛らわせた。
「思った以上に時間がかかるなあ。ショーンを待たせているが、大丈夫なのか」
エリックは聞きながらホルンを見た。
「全然大丈夫です。少し不安がっていたものの、うちのシェフの渾身の力作であるお菓子の城を披露したので、今は上機嫌で撮影会を開催しているようです」
「それいいな。早く切り上げて俺も撮影しに行きたい」
「俺も食いに行きたい。いや、俺の誕生日にも作らせるか」
ロックの目が光る。
「……」
マーティス国王は、長い付き合いなので肝心の龍神たちがこんなだと知ってはいたものの、冷たい視線を送った。
視線を感じたエリックとロックは、素直に席に戻った。
「さて、短い休憩だが少しは落ち着いただろう。話し合いを再開しよう」
エリックの発言に、立ったままのホルンは頷いた。
「はい。では、レリクスとはどのような存在であるかを、おさらいすることから始めます。先ほどマーティス様が仰った通り、レリクスは一人の黒魔術師が生み出した疑似生命体であり、霊的な体を存在の軸とする不安定な生き物として知られています。レリクス自身は己で転生することはほぼ無く、生きている人に憑依し、その体に住んで生命力と経験を得ます。その方法で、次々に生き様を変えて存在し続けるのです」
「はい質問」
ロックが手を上げた。
「ということは、レリクス自らが人に生まれ変わったショーンは、珍しい子ということなのか?」
「ロック様、その発言は真実を射抜いています。一言で説明すると、そういう事なのです」
「どういう事ですか」
マーティスは追加の説明を求めた。
ホルンは続けた。
「レリクスは生涯に一度だけ、必ず肉体を持ち生きなければいけない時期があります。ユールレムの方から流れてきた研究資料によると、それはレリクスが誕生してすぐの時であり、レリクスの親により魔力溜まりに産み落とされた子は、その魂を親が見定めた女性の胎児に植えつけるそうです」
「……」
三人はそれを想像し、しばらく無言になった。
「つまり、ショーン様は産み落とされたばかりのレリクスであり、その彼を追うレリクスは、彼の親なのだと予想できます。レリクスは成長すれば同族の者としても繋がりが希薄になるらしいですが、子が成長するまでは愛情を持ち接するそうですから」
「あー、もしかしたら俺たちは、レリクスに誘拐犯扱いされているのか?」
「それはどうでしょうね。まだ分かりません」
気怠げなエリックの問いに、ホルンは申し訳なさげに答えた。
「そして……ご存知の通り、レリクスは一度絶滅を宣言された種族です。単性生殖が可能なため、我らの元に来ようとしている者は、生き残った最後のレリクスである可能性があります」
ホルンがそう言うと、マーティスが質問した。
「ホルン殿。いささか歯切れが悪いようですが、どうされました。いつもならば、様々な事象を確認もせず断言されるのに」
「それは……あの、エリック様は、歴代の龍神の中でも群を抜いて特殊で、始祖の龍神様の再来と言われるほどに力を持つ龍神であられますよね」
「ええまあ」
マーティスは、それが自分に小犬のように媚びを売る目をしている現実に歯ぎしりした。
「もしエリック様が本気で何かを行おうとした場合、私でもその行動が起こす未来の多くを予知できません。私より力を持つ者の未来は、力が及ばずにほぼ読み取れないのです」
「え」
エリックは、じゃあ今までは自分が本気じゃなかったかと密かに悔いた。
その横で、マーティスとロックは緊張した。
「ということはだ、ホルン。ショーン君の親はお前より強いのか? かつてのポドールイ国王の息子よりも?」
ロックが言うと、ホルンは頷いた。
「残念ながら、そうです。つまり、これからやって来るレリクスは、エリック様級の力を持つ化け物です。もしその子を殺めたとすれば、その者はお返しにクリスタを滅ぼしてしまうかもしれません」
マーティスを中心に、薄暗い何かが発生した。
「それは、安易にショーン様を処刑する訳にいかないという意味ですね」
マーティスは震えながら言った。
エリックは喜びを感じつつ、冷静を通した。
そこで、ロックが質問した。
「また質問なんだけど、どうしてそこまで強いのが賊に捕まってるんだ?」
「予想としては、単性生殖は力を使い果たすものであり、弱っている隙を突かれたのだと思います」
「ふうん。じゃあ今も弱ってるのか?」
「弱っているようには感じますが、徐々に回復してますね」
「今ならば、退治することは可能ですか?」
マーティスが脇から口を挟むと、エリックがため息をついた。
「マーティス君、諦めが肝心だよ」
「貴方様に言われたくはありません」
「それに思い出せ。レリクスの魂を宿しはするが、ショーンは神の子だ。それを処刑してどうする。それよりも、御せる方法を模索すべきだ。レリクスの親についても、味方にして利用する方が有益だろう」
「しかし、龍神様を穢す者を認めたりはしません」
「なら、レリクスの親については、誰にも取り憑かない約束をしてもらえるという条件のみで、受け入れを許可できないか? それならどうだ」
「……確かにそうであれば、話し合いの余地があるという意味でも、受け入れを検討できます。しかしショーン様は? 彼は龍神様の肉体を乗っ取り生まれた子でしょう? どうされますか」
エリックは自分にその質問が来ると思わず、黙り込んだ。本来宿るべき魂を押し退ける形でショーンの魂が入ったのならば、かつて処刑された龍神と同じ状況になると考えた。
「ホルン。ショーンは元あった魂を押し退けるか、吸収する形で存在する者か?」
「……ユールレムの研究書にある通りならば、肉体に別の魂が宿る前に魂を入れるようです。ですので他の誰かが、そのために犠牲になった訳ではないようです」
エリックは安堵したが、マーティスは表情を険しくして言った。
「しかし、龍神として覚醒する者を狙って魂を入れたのであれば、レリクスの親もショーン様も許しておけません。宇宙を支配しかねない存在に狙って転生し、我が国の全てを持っていこうとする蛮行は、どうあっても許せません。その者が良き者だから許されるという問題ではありません。狙って龍神になれる方法などあれば、必ず多くの者が心を惑わし、殺し合いに発展します。ですから、ここで存在しないものにするのです」
エリックもロックも、その懸念は現実のものになると予想できた。なので発言できず、無言を通した。
エリックはホルンを見た。
ホルンは頷き、ショーンの命が助かる方法の一つを提示した。
2・
しばらくのあいだ、僕とイツキと神官さんたちだけで、シェフの渾身の作品だというお菓子の城を堪能していた。
いつみんなが来るんだろうと思いつつ、夕食代わりになったお菓子を食べ続けていると、その内にエリック様がやって来た。
「エリック様! お久しぶりです」
「ショーン君、見ないうちに大きくなったな」
「えっ、そうでしょうか? 前に別れてから、まだ二週間しか経ってませんよ?」
「ほんの数ミリだけな」
「凄い、分かるんですか?」
さすが龍神様だと尊敬して見つめてしまうと、エリック様は目を逸らして言った。
「ごめんなさい」
「は? あの、それよりも、ロック様と……国王様は?」
「ああ。別の仕事が入ったから、会いに来られないかもしれない。しばらくのあいだ、俺とだけ話をしてくれるか?」
「はい。ええと、どんな話をしますか?」
未だに遠く思える存在のエリック様だけれど、これまで何度か会って、とても心優しい人だと分かった。だから、二人だけで話をしても平気……だと思う。
部屋にいた神官さんたちが、全員いなくなった。
僕とエリック様は、二人掛けのソファーに一緒に座った。
「そうだな。レリクスと呼ばれる、幻の一族の話をしようか。レリクスを知っているだろうか?」
「知りません。それは、誰ですか?」
僕は素直に答えた。
エリック様は微笑み、それからレリクスという生命体がどういうものか教えてくれた。
生き残りがいるけれど、ほぼ全滅したらしいと聞いて、なんだか悲しくなった。
「そういえば、神の楽園が消え去ってからの宇宙は、変化が沢山あって、いくつもの種族が滅びているんですよね。学校で、そういう種族について学びました」
「滅んだほとんどが少数民族で、生きる力の弱い種族だったようだ。だがレリクスは違う。一度の人生を他の人に乗り移って分割しつつも、膨大な時間を乗り越えて生きた猛者たちだった。しかし、戦争に負けて滅びかけているんだ」
「強いのに滅びるとは、悲しいですね。本当に……何故か、自分のことのように残念に思います」
「ショーン君は心優しいからな。それで、一つ頼み事があるんだ。実はショーン君は、口に出して唱えた事が、通常の魔法ではなくても現実化する能力を持っている。それが、ショーン君の本当の力なんだ」
「は?」
意味が分からない。
けれど、エリック様は僕が得た奇跡的な力についても教えてくれた。
それは言霊というものの効果を強める強力なもので、安易に口にするものでも実現化するので、できるなら歌を歌わない方がいいと。
そして、危険な言葉や汚い言葉を現実化しないために、一生そういうのを使わない方がいいとも。
「俺と約束をしてくれ。絶対に、他人を怨んだり傷つける言葉を使用しないと」
エリック様は、冗談に思えない真剣さで手を差し出してきた。
僕は自分の能力が恐ろしくなり、震えながらもエリック様の手を取って握手した。
「約束……します。僕、悪い言葉を一生使いません」
「ありがとう」
エリック様は笑って握手して、それから慰めてくれようとしているのか、軽めに抱き締めてくれた。
「エリック様、僕は大丈夫です。約束は必ず守ります」
「ああ、分かっている。だからその上で……ここで、その力を貸してもらいたい。先に説明したレリクスの、現存するたった一人だろう大人をこの部屋に召喚してもらえないだろうか? 俺はそのレリクスと、今後の話をしたいんだ」
そう頼まれて、驚いた。全く見知らぬレリクスというのを、僕がここに召喚……呼び出せるのだろうか?
実力があるかどうか自覚はないし、それにどういう言葉を使って呼び出せばいいのかも分からない。
ただ戸惑って黙り込んだ僕に、エリック様は一枚の紙をくれた。
「ここに書いてある文章を、ゆっくりと読むだけでいい。呪文とは違うから、間違ってもリスクはない。そのまま続けてくれればいい」
「はい……じゃあ、その、これでいいなら読んでみます」
とても簡単な文章だ。
「えっと……宇宙文明内にいる、たった一人の生きた大人のレリクス、眠りに落ちて僕らのいる室内に安全に出現する」
間違ってもいいとはいえ、やはり怖いので間違わないように集中して読んだ。
すると前触れなく、僕の目の前の床に小さな生命体が出現した。
一時休憩を取った四名は、軽食には手を出さずに冷水を飲んだ。ロックは加えて飲料水用の氷をガリガリ食べて、気を紛らわせた。
「思った以上に時間がかかるなあ。ショーンを待たせているが、大丈夫なのか」
エリックは聞きながらホルンを見た。
「全然大丈夫です。少し不安がっていたものの、うちのシェフの渾身の力作であるお菓子の城を披露したので、今は上機嫌で撮影会を開催しているようです」
「それいいな。早く切り上げて俺も撮影しに行きたい」
「俺も食いに行きたい。いや、俺の誕生日にも作らせるか」
ロックの目が光る。
「……」
マーティス国王は、長い付き合いなので肝心の龍神たちがこんなだと知ってはいたものの、冷たい視線を送った。
視線を感じたエリックとロックは、素直に席に戻った。
「さて、短い休憩だが少しは落ち着いただろう。話し合いを再開しよう」
エリックの発言に、立ったままのホルンは頷いた。
「はい。では、レリクスとはどのような存在であるかを、おさらいすることから始めます。先ほどマーティス様が仰った通り、レリクスは一人の黒魔術師が生み出した疑似生命体であり、霊的な体を存在の軸とする不安定な生き物として知られています。レリクス自身は己で転生することはほぼ無く、生きている人に憑依し、その体に住んで生命力と経験を得ます。その方法で、次々に生き様を変えて存在し続けるのです」
「はい質問」
ロックが手を上げた。
「ということは、レリクス自らが人に生まれ変わったショーンは、珍しい子ということなのか?」
「ロック様、その発言は真実を射抜いています。一言で説明すると、そういう事なのです」
「どういう事ですか」
マーティスは追加の説明を求めた。
ホルンは続けた。
「レリクスは生涯に一度だけ、必ず肉体を持ち生きなければいけない時期があります。ユールレムの方から流れてきた研究資料によると、それはレリクスが誕生してすぐの時であり、レリクスの親により魔力溜まりに産み落とされた子は、その魂を親が見定めた女性の胎児に植えつけるそうです」
「……」
三人はそれを想像し、しばらく無言になった。
「つまり、ショーン様は産み落とされたばかりのレリクスであり、その彼を追うレリクスは、彼の親なのだと予想できます。レリクスは成長すれば同族の者としても繋がりが希薄になるらしいですが、子が成長するまでは愛情を持ち接するそうですから」
「あー、もしかしたら俺たちは、レリクスに誘拐犯扱いされているのか?」
「それはどうでしょうね。まだ分かりません」
気怠げなエリックの問いに、ホルンは申し訳なさげに答えた。
「そして……ご存知の通り、レリクスは一度絶滅を宣言された種族です。単性生殖が可能なため、我らの元に来ようとしている者は、生き残った最後のレリクスである可能性があります」
ホルンがそう言うと、マーティスが質問した。
「ホルン殿。いささか歯切れが悪いようですが、どうされました。いつもならば、様々な事象を確認もせず断言されるのに」
「それは……あの、エリック様は、歴代の龍神の中でも群を抜いて特殊で、始祖の龍神様の再来と言われるほどに力を持つ龍神であられますよね」
「ええまあ」
マーティスは、それが自分に小犬のように媚びを売る目をしている現実に歯ぎしりした。
「もしエリック様が本気で何かを行おうとした場合、私でもその行動が起こす未来の多くを予知できません。私より力を持つ者の未来は、力が及ばずにほぼ読み取れないのです」
「え」
エリックは、じゃあ今までは自分が本気じゃなかったかと密かに悔いた。
その横で、マーティスとロックは緊張した。
「ということはだ、ホルン。ショーン君の親はお前より強いのか? かつてのポドールイ国王の息子よりも?」
ロックが言うと、ホルンは頷いた。
「残念ながら、そうです。つまり、これからやって来るレリクスは、エリック様級の力を持つ化け物です。もしその子を殺めたとすれば、その者はお返しにクリスタを滅ぼしてしまうかもしれません」
マーティスを中心に、薄暗い何かが発生した。
「それは、安易にショーン様を処刑する訳にいかないという意味ですね」
マーティスは震えながら言った。
エリックは喜びを感じつつ、冷静を通した。
そこで、ロックが質問した。
「また質問なんだけど、どうしてそこまで強いのが賊に捕まってるんだ?」
「予想としては、単性生殖は力を使い果たすものであり、弱っている隙を突かれたのだと思います」
「ふうん。じゃあ今も弱ってるのか?」
「弱っているようには感じますが、徐々に回復してますね」
「今ならば、退治することは可能ですか?」
マーティスが脇から口を挟むと、エリックがため息をついた。
「マーティス君、諦めが肝心だよ」
「貴方様に言われたくはありません」
「それに思い出せ。レリクスの魂を宿しはするが、ショーンは神の子だ。それを処刑してどうする。それよりも、御せる方法を模索すべきだ。レリクスの親についても、味方にして利用する方が有益だろう」
「しかし、龍神様を穢す者を認めたりはしません」
「なら、レリクスの親については、誰にも取り憑かない約束をしてもらえるという条件のみで、受け入れを許可できないか? それならどうだ」
「……確かにそうであれば、話し合いの余地があるという意味でも、受け入れを検討できます。しかしショーン様は? 彼は龍神様の肉体を乗っ取り生まれた子でしょう? どうされますか」
エリックは自分にその質問が来ると思わず、黙り込んだ。本来宿るべき魂を押し退ける形でショーンの魂が入ったのならば、かつて処刑された龍神と同じ状況になると考えた。
「ホルン。ショーンは元あった魂を押し退けるか、吸収する形で存在する者か?」
「……ユールレムの研究書にある通りならば、肉体に別の魂が宿る前に魂を入れるようです。ですので他の誰かが、そのために犠牲になった訳ではないようです」
エリックは安堵したが、マーティスは表情を険しくして言った。
「しかし、龍神として覚醒する者を狙って魂を入れたのであれば、レリクスの親もショーン様も許しておけません。宇宙を支配しかねない存在に狙って転生し、我が国の全てを持っていこうとする蛮行は、どうあっても許せません。その者が良き者だから許されるという問題ではありません。狙って龍神になれる方法などあれば、必ず多くの者が心を惑わし、殺し合いに発展します。ですから、ここで存在しないものにするのです」
エリックもロックも、その懸念は現実のものになると予想できた。なので発言できず、無言を通した。
エリックはホルンを見た。
ホルンは頷き、ショーンの命が助かる方法の一つを提示した。
2・
しばらくのあいだ、僕とイツキと神官さんたちだけで、シェフの渾身の作品だというお菓子の城を堪能していた。
いつみんなが来るんだろうと思いつつ、夕食代わりになったお菓子を食べ続けていると、その内にエリック様がやって来た。
「エリック様! お久しぶりです」
「ショーン君、見ないうちに大きくなったな」
「えっ、そうでしょうか? 前に別れてから、まだ二週間しか経ってませんよ?」
「ほんの数ミリだけな」
「凄い、分かるんですか?」
さすが龍神様だと尊敬して見つめてしまうと、エリック様は目を逸らして言った。
「ごめんなさい」
「は? あの、それよりも、ロック様と……国王様は?」
「ああ。別の仕事が入ったから、会いに来られないかもしれない。しばらくのあいだ、俺とだけ話をしてくれるか?」
「はい。ええと、どんな話をしますか?」
未だに遠く思える存在のエリック様だけれど、これまで何度か会って、とても心優しい人だと分かった。だから、二人だけで話をしても平気……だと思う。
部屋にいた神官さんたちが、全員いなくなった。
僕とエリック様は、二人掛けのソファーに一緒に座った。
「そうだな。レリクスと呼ばれる、幻の一族の話をしようか。レリクスを知っているだろうか?」
「知りません。それは、誰ですか?」
僕は素直に答えた。
エリック様は微笑み、それからレリクスという生命体がどういうものか教えてくれた。
生き残りがいるけれど、ほぼ全滅したらしいと聞いて、なんだか悲しくなった。
「そういえば、神の楽園が消え去ってからの宇宙は、変化が沢山あって、いくつもの種族が滅びているんですよね。学校で、そういう種族について学びました」
「滅んだほとんどが少数民族で、生きる力の弱い種族だったようだ。だがレリクスは違う。一度の人生を他の人に乗り移って分割しつつも、膨大な時間を乗り越えて生きた猛者たちだった。しかし、戦争に負けて滅びかけているんだ」
「強いのに滅びるとは、悲しいですね。本当に……何故か、自分のことのように残念に思います」
「ショーン君は心優しいからな。それで、一つ頼み事があるんだ。実はショーン君は、口に出して唱えた事が、通常の魔法ではなくても現実化する能力を持っている。それが、ショーン君の本当の力なんだ」
「は?」
意味が分からない。
けれど、エリック様は僕が得た奇跡的な力についても教えてくれた。
それは言霊というものの効果を強める強力なもので、安易に口にするものでも実現化するので、できるなら歌を歌わない方がいいと。
そして、危険な言葉や汚い言葉を現実化しないために、一生そういうのを使わない方がいいとも。
「俺と約束をしてくれ。絶対に、他人を怨んだり傷つける言葉を使用しないと」
エリック様は、冗談に思えない真剣さで手を差し出してきた。
僕は自分の能力が恐ろしくなり、震えながらもエリック様の手を取って握手した。
「約束……します。僕、悪い言葉を一生使いません」
「ありがとう」
エリック様は笑って握手して、それから慰めてくれようとしているのか、軽めに抱き締めてくれた。
「エリック様、僕は大丈夫です。約束は必ず守ります」
「ああ、分かっている。だからその上で……ここで、その力を貸してもらいたい。先に説明したレリクスの、現存するたった一人だろう大人をこの部屋に召喚してもらえないだろうか? 俺はそのレリクスと、今後の話をしたいんだ」
そう頼まれて、驚いた。全く見知らぬレリクスというのを、僕がここに召喚……呼び出せるのだろうか?
実力があるかどうか自覚はないし、それにどういう言葉を使って呼び出せばいいのかも分からない。
ただ戸惑って黙り込んだ僕に、エリック様は一枚の紙をくれた。
「ここに書いてある文章を、ゆっくりと読むだけでいい。呪文とは違うから、間違ってもリスクはない。そのまま続けてくれればいい」
「はい……じゃあ、その、これでいいなら読んでみます」
とても簡単な文章だ。
「えっと……宇宙文明内にいる、たった一人の生きた大人のレリクス、眠りに落ちて僕らのいる室内に安全に出現する」
間違ってもいいとはいえ、やはり怖いので間違わないように集中して読んだ。
すると前触れなく、僕の目の前の床に小さな生命体が出現した。
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