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第一章 龍神に覚醒したはずの日々

4 昼食初ミッション

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1・

まだ転校初日だというのに、死にそうな程に緊張してしまった。

無事に合流できたイツキが呼んでくれた車で帰宅してから、また部屋に閉じ籠もろうとするぐらい戸惑っている。

オロオロし過ぎて、時間がある時は一緒に夕食を取ってくれるガイアスさんに、テーブル越しにじっと見つめられてしまった。

「何か問題がありましたか?」

「……いいえ」

質問されても、会話を繋げるのが怖いので嘘をついてしまった。

それからもう会話はなく、食事は終わった。

もう、なり振り構ってられなくなってきたので、イツキの部屋に行って相談してみた。

事情を知ったイツキは、しばらく黙っていてから言った。

「オロオロしていても、いいんじゃないですか。向こうが許容しているのですから」

「えっ」

「動きを止めている間に、向こうが設定したのですから、全く構わないという意味ですよ。どれだけ醜態を晒したところで、きっと受け入れてもらえます」

「しゅうたい……うん、醜態」

そういえば、あんなでも仲良くなろうとしてくれた。だから……明日もこんなのでも良いんだ。でも……。

「見知らぬ、女子と食事は、初めてで」

「普通の友人ですよ。同級生というだけです。クラスメイトの女子は同じ空間に、一緒にいるでしょうに」

「う……そういうのかな?」

「そういうのです」

イツキが断言するから、そうなんだと信じた。少し落ち着いた。

「分かった。普通のことだよね。よし」

ヨロヨロしていた足取りが、何とかマシになった。

「ありがとう。落ち着いたよ」

自分でそう表現すると、本当に落ち着けてきた。

帰ろうとすると、イツキが話しかけてきた。

「ショーン様、そのように人を苦手となさっているのは、幼い頃からなのでしょうか」

「え……」

振り向いてイツキを見たものの、すぐ俯いた。

「小さな頃は、兄とちょっと仲が悪いぐらいで、普通に友達はいたよ。うん…………苦手になったのは、こないだから」

答え、すぐに部屋を出た。

それがあってクリスタに引っ越すことになり、結果として龍神になってしまった。

人が苦手じゃなきゃ、僕はここにいない。でも、龍神としては失格だろう。

いつか、どうにかなるだろうか。今はそれしか思えない。

2・

問題のお昼休みは、来てもらいたくないと意識していたからか、すぐに来てしまった。

バンハムーバ近隣宇宙地理の授業が終わり、もしかして逃げた方がと思いながら教科書をしまおうとしたら、先先が教室を出るより先に前の扉を開けて登場してしまった。

「ショーン君、誘いに来たよ~!」

太陽のような笑顔で手を振るミンスさんは、クラスメイト全員の注目の的になった。

僕は死にそうな気分でスマホを引っつかみ、後ろの扉から廊下に出た。

「食堂に行くよね?」

ミンスさんは疑問系で言ったものの、既に決定事項だったようだ。

答えずにオタオタしている間に僕の手を掴んで、引っ張って移動を開始した。

食堂では、入り口の前にある食券機でスマホ決済の食券を買うシステムだ。

ミンスさんが早く買ってと急かしたので、よく考えずサンドイッチにしようとした。

「せっかくの食堂なのに、温かいのにしようよ」

ミンスさんは、強制的にミネストローネセットのボタンを押した。

僕はただ従い、中に入って食券と本物を交換し、また引っ張られて一つのテーブルに向かった。

校庭を眺められる窓際という好条件の場所には、先に一人の女子がいた。

女子というか……素敵な感じで制服を着崩す、少しやんちゃ系の美人お姉さんだ。長い金髪を無造作にポニーテールにして化粧もしてないのに、とても魅力的だ。僕とは永遠に折り合わないであろう、輝かしい存在だ。

逃げようとしたのに、ミンスさんはお姉さんの正面に座った。そして隣の席をバンバン叩くので、僕は震えながら指示に従い椅子に座った。

怖くて視線を逸らしていたのに、向こうが声をかけてきた。

「いやあ、本当に人見知りなんだなあ。あたしはローレルっていうんだ。よろしく」

気配で手が伸ばされたのが分かった。無視するのはあまりに失礼なので、ギギギと動いて握手を返した。

二人は僕の様子を見つつ、何が嬉しいのかニコニコしている。

「こちらがショーン・ショア君です。見ての通り、男の子だけど美人さんよ!」

僕が無言だからか、ミンスさんが代理で紹介してくれた。内容はどうであれ。

それから、取りあえず食べようという流れになったので有り難かった。

無言でミネストローネとパンとサラダを食べていき、大体終わったところで会話が再開した。

「いくら見てても、ここにいるのに違和感がないねえ。まつげがバシバシで、青いお目々が大きくて丸いし、背が小さくて可愛いし。ただでさえお人形ぽいと言われるバンハムーバ人の鑑だね」

「私もそう思うわ。ショーン君は、とっても綺麗よね」

「下手したら、あたしより女子力ありそうだよ」

「お姉ちゃんは普通にしててもモテるんだから、化粧しなくてもいいのよ」

「とはいえ、家のこと考えたらねえ……ところでショーン君、何か質問は?」

「…………その、ご姉妹ですか?」

「はい正解。あたしは三年生なのよ。それで妹は一年生ね。それと一応教えておくけど、あたしらは校区内だから通ってるものの、家がちょっと有名な商家でね。だから、派閥は勝手にそっちに入ってんのさ」

「……そうですか。僕は……帰宅部です」

「つまり、ご近所さんなのね。じゃあ、普通に仲良くできるよね。これからもよろしく」

そう言われ、今までため込んでいた疑問がとうとう口から滑り出た。

「何故?」

しんとした。ローレルさんが席を立ち、僕の隣に立って見下ろしてきた。

恐怖のあまりカタカタ震える僕に、彼女は両手を広げ――。

僕の顔を胸に抱いて、思い切り抱き締めてきた。

「可愛いからに決まってるだろ! このまま、うちにお婿さんにおいで! 歓迎するよ~!」

「!!!!????」

「お姉ちゃん! そういうのは止めてあげて!」

窒息寸前の僕を、ミンスさんが無事に引き剥がしてくれた。

ローレルさんはよほど面白かったらしく、豪快に笑いながら帰っていった。

本日二度目に死にそうな僕に、ミンスさんは何度か謝罪してくれた。ローレルさんは気さくでいい人なんだけど、人をからかうのが好きなんだって。

それは性格ということで、自分がピンポイントで苛められただけではないようなので、割り切ることにした。

もう帰ろうと思いつつもタイミングが掴めず、椅子から立ち上がれないでソワソワすると、ミンスさんがごそごそし始めた。

「そうそう、ショーン君、これ」

ミンスさんが、ポケットから便箋を取り出して僕に差し出してきた。

まさかのラブレター? な訳ないか。

受け取って見てみると、手書きでいくつもの曲名が書かれていた。

「それね、私の好きなオールドクラシックの曲名よ。ネットで調べたら、幾つかは無料で聞けると思うわ。良かったら、聞いてみてね」

ミンスさんは、期待の眼差しを僕にくれる。僕は嬉しくなり、頷いた。

「これ、聞いてみます。ありがとうございます」

「やった! オールドクラシック好きの趣味仲間が増えるのは、物凄く嬉しいわ!」

「はい。ミンスさんみたいに、歌詞を憶えて歌ってみますね」

「おお~。じゃあ、いつか一緒に歌おうね!」

僕は校庭では無理っぽいが、そういうのも悪くないと思えた。

最後に上機嫌になった僕は、ローレルさんが残していった食器の片付けを申し出た。曲名をくれたりお礼ということでミンスさんを説得して、自分の分と一緒に片付けた。

ミンスさんはありがとうと笑って言って、先に食堂を出て行った。

僕は良い友人ができたと嬉しくなり、にこやかに帰ろうとした。

そして、出入り口の前で壁に出会った。

背が高く体格の良い上級生たちが立ち塞がり、怒りの形相で僕を睨み付けてくる。

僕は恐怖で立ち尽くし、しばらく彼らを凝視した。

そこで、他の生徒たちが横から抜けて出て行ったので、その流れを逃さずに隙間から逃れて廊下に出られた。

そこからは、必死になって教室まで走って逃げた。
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