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{ 竜王編 }
34. 宴
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粛々と式典は進められ、ようやく全ての儀式を終えたのは、陽が沈みかけた頃だった。
舞踏会場へと続く、王族控え室で……彼女を出迎えた。
その瞳と同じ色のドレスを身に纏った彼女は……燦然とした輝きを放っていた。
朝抱きしめたその感触が、まだ残るその腕に、彼女を迎え入れる。
どこか心あらずといった様子で、遠慮がちに微笑む彼女に、もどかしさを覚えつつも……手を差し出すと、その頬に赤みが増した。
王族専用の扉が開かれた。
「我らが竜人族の崇高なる王! カイラス・ノルデンシュルド陛下!
……そして、ロマルス皇国の姫、ルミリーナ・セウェル・ロマルス様!」
大広間に集まった列席者がこちらを一斉に見上げる。
彼女の手が僅かにこわばった。
腕に添えられたその細い指先を包み込むように……自分の手を重ねる。
広間へと続く階段を、手を繋ぎ彼女の数歩前に立ち、ゆっくりと降りて行く。
『綺麗だ』
そう囁くと、俯き足元を見ていた彼女が顔をあげ、真正面で目が合った。
輝きに満ちた微笑みが広がった……。
彼女を飾る宝石でさえ、その笑顔の前ではくすんで見える。
見つめ合うほど、ルミの虜になっていく自分がいる。
その感情は心地良くあると同時に……どこまでも深みに嵌まっていくようで、恐ろしくもある……。
ルミを初めて目にする者達も、今日この場で、私の横に並ぶ彼女が、どういう存在か……認識するだろう。
拍手に包まれながら……広間の中央に足を運ぶ。
向かい合わせになり、会釈をすると、また完璧な所作で美しいお辞儀を返された。
女と踊ることなど、苦痛でしかなかったが……
まさか、心躍らすような……このような気持ちを抱くようになるとは……。
この場の主役は俺ではない。
ここに至った全ては、ルミの為に行動した結果であり……俺にとって、主役は常にルミだった。
だが彼女がそれに気づくことはないだろう。
……それでいい。
(お前を囲み、縛り付け、お前の愛情を独占しようとする、この企みに……どうか気付かないで欲しい)
演奏が始まった……。
身体を寄せ、ゆっくりとステップを踏む。
その演舞曲は、まるで生まれて初めて耳にするかのように新鮮で、心地よく……目の前の最愛の人と、寄り添い見つめ合いながら踊るその行為が……奇跡のように尊いものと思えた。
ここに至るまで自分を思い悩ました事全て、今この瞬間に昇華されていく……。
踊りは終盤を迎えた。
片腕を伸ばすと彼女が身を翻しひとり軽やかにターンし離れ、横でピタリと止まった。
そしてその瞬間、彼女の両肩からその背に密着するように垂れ下がった白い布が……ほんの僅かに、翻った。
盛大な拍手が会場を包む……。
一瞬自分の目が捉えたその何か……その正体に、理解が追いつかず……
背筋に凍るものが走った時、考える間も無く、その身を引き寄せ、強く抱きしめていた。
そのまま膝から抱き上げると、驚いた彼女が首に手をまわす。
見上げると、目があった。戸惑い、困惑したその表情……。
今、衆目の視線を浴びる、この場で……何も言ってはいけない……。
彼女を困らせてはいけない……。
懸命に自分を抑える。
だが……とてもこの場に留まることは出来なかった。
彼女を抱き上げたまま、先程降りてきた階段を駆け上がり、彼女の部屋へ向かった。
舞踏会場へと続く、王族控え室で……彼女を出迎えた。
その瞳と同じ色のドレスを身に纏った彼女は……燦然とした輝きを放っていた。
朝抱きしめたその感触が、まだ残るその腕に、彼女を迎え入れる。
どこか心あらずといった様子で、遠慮がちに微笑む彼女に、もどかしさを覚えつつも……手を差し出すと、その頬に赤みが増した。
王族専用の扉が開かれた。
「我らが竜人族の崇高なる王! カイラス・ノルデンシュルド陛下!
……そして、ロマルス皇国の姫、ルミリーナ・セウェル・ロマルス様!」
大広間に集まった列席者がこちらを一斉に見上げる。
彼女の手が僅かにこわばった。
腕に添えられたその細い指先を包み込むように……自分の手を重ねる。
広間へと続く階段を、手を繋ぎ彼女の数歩前に立ち、ゆっくりと降りて行く。
『綺麗だ』
そう囁くと、俯き足元を見ていた彼女が顔をあげ、真正面で目が合った。
輝きに満ちた微笑みが広がった……。
彼女を飾る宝石でさえ、その笑顔の前ではくすんで見える。
見つめ合うほど、ルミの虜になっていく自分がいる。
その感情は心地良くあると同時に……どこまでも深みに嵌まっていくようで、恐ろしくもある……。
ルミを初めて目にする者達も、今日この場で、私の横に並ぶ彼女が、どういう存在か……認識するだろう。
拍手に包まれながら……広間の中央に足を運ぶ。
向かい合わせになり、会釈をすると、また完璧な所作で美しいお辞儀を返された。
女と踊ることなど、苦痛でしかなかったが……
まさか、心躍らすような……このような気持ちを抱くようになるとは……。
この場の主役は俺ではない。
ここに至った全ては、ルミの為に行動した結果であり……俺にとって、主役は常にルミだった。
だが彼女がそれに気づくことはないだろう。
……それでいい。
(お前を囲み、縛り付け、お前の愛情を独占しようとする、この企みに……どうか気付かないで欲しい)
演奏が始まった……。
身体を寄せ、ゆっくりとステップを踏む。
その演舞曲は、まるで生まれて初めて耳にするかのように新鮮で、心地よく……目の前の最愛の人と、寄り添い見つめ合いながら踊るその行為が……奇跡のように尊いものと思えた。
ここに至るまで自分を思い悩ました事全て、今この瞬間に昇華されていく……。
踊りは終盤を迎えた。
片腕を伸ばすと彼女が身を翻しひとり軽やかにターンし離れ、横でピタリと止まった。
そしてその瞬間、彼女の両肩からその背に密着するように垂れ下がった白い布が……ほんの僅かに、翻った。
盛大な拍手が会場を包む……。
一瞬自分の目が捉えたその何か……その正体に、理解が追いつかず……
背筋に凍るものが走った時、考える間も無く、その身を引き寄せ、強く抱きしめていた。
そのまま膝から抱き上げると、驚いた彼女が首に手をまわす。
見上げると、目があった。戸惑い、困惑したその表情……。
今、衆目の視線を浴びる、この場で……何も言ってはいけない……。
彼女を困らせてはいけない……。
懸命に自分を抑える。
だが……とてもこの場に留まることは出来なかった。
彼女を抱き上げたまま、先程降りてきた階段を駆け上がり、彼女の部屋へ向かった。
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