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{ 物語の始まり }
01. 私は終末を待ち侘びる
しおりを挟む終焉の舞台は……黄金色に満ちていた。
視界を覆う大きな扉が開かれて、眼前に広がった光景……そこは私が命を散らすには、分不相応に感じる程、煌びやかな広間だった。
惨めな人生の幕引きに、少しの花を持たせてくれるかのような、物語の演出が憎らしい。
私を捉え苦しめた、この無慈悲な世界。
やっと、ようやく、抜け出せる。
鮮明な意識化でゆっくりと巡る、走馬灯……。
玉座に続く絨毯に、一歩足を踏み出した。
この残酷な世界と、目前に迫る死と……そこから続く、私だけが知る物語の終末に思いを馳せながら……。
この悠久の歴史が続く大陸を、支配する存在……「精人」と「竜人」
精人は天から降り立ち、文明をもたらした神々の末裔として……竜人は地上の生物の覇者として……多様な種族が暮らす地を、南北に二分し治めていた。
そして、精人・竜人族の中でも、固有の能力を強く受け継いだ血筋は、神のように崇められ……絶対的な権力で、その頂点に君臨していた。
大陸の南の地、精人族の治める皇国では……人々は、彼らに献身を捧げ、一族の中でも身分が高く優れた娘を、求められるがままに、捧げ物として、皇城へ送り出した……。
だが、身分が高いとされても、所詮は精人族より劣るとされる他種族の子。
皇城に捧げられた娘たちは「召使」として、あるいは「奴隷」に近い扱いを受けながら、親元に帰ることも許されず、死ぬまで精人達に使役された。
そんな娘たちの中で……
仕えた第2皇子の気まぐれで子を成した女、それが私の母だった。
精人の子を宿した母は、腹が膨らむほどにやつれ、産後私を抱くこともなく、すぐに息を引き取ったそうだ。
父は、他種族と交わり、血を穢した罰として流罪となり、惨めな死を迎えたそうだ。
罪の子として、虫ケラのように扱われながらも、皇城の隅で生き延び……日々生存本能に駆り立てられながら迎えた16歳のある日……突如前世の記憶が蘇った。
前世の記憶が蘇っても、懐かしむ相手も、惜しむ物さえないほど、空虚な人生を送り……
突然の事故で呆気なく前世を閉じた20歳の大学生、それが私だ……。
そしてすぐ、今世のこの世界が、前世で私が綴ったファンタジー小説そのものだと気づいた。
時折、夢の中で、あるいはふとした瞬間に頭に思い浮かんだ文章を繋ぎ合わせ、ノートにおもむろに書き綴った物語。
ファンタジーと言っても、2大勢力の攻防戦を描いた戦闘が主で、自分でもちょっと引くぐらい残酷な描写も多かった。
不遇な環境下を生き抜き、やがて頭角を現して、知略を張り巡らせ戦場で活躍する主人公に思い入れはあったが……いざ自分が、この救いようの無い物語の、住人になったら話しは別だ。
自分の夢や空想の中でだけ存在したはずのこの世界……。
目覚めることのない、延々と続く悪夢……。
だが、この身体に常についてまわる、飢えや痛みは紛れもない現実だった。
せっかく前世で人生を終わりにできたのに……。
また何の因果で、こんな世界に生み落とされて……惨めな人生を送らなくてはいけないのか。
それからは、私を囚えるこの世界に……いつか訪れるはずの終末を、待ち侘びる日々だった。
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