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騒がしい接客
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雨が降ってきた。フロルはケープのフードを被る。
(大きい。顔がすっぽり隠れる……)
「ここか。キルクスが教えてくれたレストランっていうのは」
シャルルとフロルが今いるのは石造りの建物の前。窓は無く、看板も無し。これが本当にレストランなのだろうか、二人は口を揃える。
「何だこりゃ」
「何だろうね、これ」
どの角度から見てもレストランという顔には見えない。倉庫と言われた方が納得しそうだ。
「キルクスが嘘をついた……、違うな。もしくは俺が道を間違えた……、もっと違うか」
「ねぇシャルル、とりあえず入ってみよう。ここにいても中の様子がわからないよ」
顎に手を当てて考えるシャルルにフロルが意見する。シャルルはハッと我に返り自分の頬をバシバシと叩いた。
「そうだな、俺としたことが……。腹減って頭が回ってねぇのかな?よし!管理者に会うついでに飯でも食おうぜ!」
言うが早いかシャルルは重い扉を押し開けた。眩しい光が目に入る。
「いらっしゃいませッ!おや?お客様ずいぶんとッ、みすぼらしい装いではありませんかッ!」
頭からたくさんの手を生やしたウエイトレスが失礼極まりない接客で出迎えてくれた。シャルルは無言でチェスターコートのポケットから札束を取り出す。
「二人だ。美味い飯を食わせくれ」
ウエイトレスは札束を数秒見つめた後、頭の手をうねうねと動かす。まるでメデューサだ、料理を運ぶのに適したヘアスタイルと言えるだろう。
「失礼しましたッ!お客様!ささ、早く店内へどうぞッ!」
客は誰もいない。
店内は外観と打って変わって綺羅びやかだった。鏡のように磨かれた床には天井のシャンデリアが反射し、壁にはいくつもの絵画が飾られている。
「凄い……!」
フロルは思わず声をもらす。するとウエイトレスが話しかけてきた。
「お客様ッ、店内ではフードは被らないでいただきたいッ!」
「おい、早く席に案内してくれ」
シャルルが睨みをきかせる。ウエイトレスはまだ何か言いたげだったが大人しく席まで案内してくれた。
「ご注文の際はッ、お呼びくださいッ!」
そう言い残しウエイトレスは奥のドアへと消えて行った。
「さてフロル、何を食おうか」
「メニュー表が無いよ、シャルル」
丸い木製テーブルの上にはメニュー表が見当たらない。
「置き忘れたのかもしれない。他の席から拝借しようぜ」
しかし、どのテーブルも同じだった。どこかに書いてあるということもない、これでは料理を注文できない。
「おかしいな、店員を呼ぶか。おーい!」
シャルルの声が店内に響く。しかし誰もやって来ない。フロルも後に続く。
「すみませーん」
物音の一つも返って来なかった。シャルルは席を立つ。
「客を野放しにするとはいい度胸だ」
「シャルル、怒っちゃだめだよ」
このままではウエイトレスの頭が握り潰されるかもしれない。フロルがなだめるが、シャルルはズカズカとドアへと進んで行く。突然ドアが吹き飛んだ、さすがに驚いたのかシャルルの歩みが止まる。
「君たちか。私の店に入って来た虫共は……!」
その怪物は右腕と脚が三本ずつあった。しかし左腕は無い。頭には背の高い白い帽子、そして返り血が付いた白い服に身を包み、それぞれの手には赤く染まった包丁が握られている。キルクスが言っていたシェフだろう、……たぶん。シェフは怒声を響かせる。
「あのポンコツ!こんな虫共を店の中に……!」
「なんだよ、失礼なやつしかいないのか?この店は。格好は汚いかもしれねぇが俺たちは客だぞ」
シャルルのその言葉を聞いたシェフはさらに喚く。
「何だと!?貴様ぁぁぁ!ふざけるな!虫の分際で……」
言いかけてフロルに顔を向けた。フロルは一歩後ずさる。
「匂う……!匂うぞ!この匂い!懐かしい匂い。これは……、人間の匂い……!」
シェフは三本の脚をゆっくりと動かしながらフロルに迫り来る。そして三本の右腕を勢いよく振り下ろした、その手に握られた包丁が襲いかかる――――。
重々しい破裂音が耳をつんざく。シェフの腕が一本、血しぶきと共に宙を舞った。
「おいおい、本当に接客態度が悪いんだな。この店は」
シャルルの右手には拳銃が握られていた、リボルバーだ。シェフは奇声を上げて飛びかかる。
「虫がぁ!店内で発砲するとは何事だ!?貴様らに食わす残飯は無い!その肉を……、切り刻んでくれるわ!」
シャルルは左手で撃鉄を起こし二発目、三発目と放つ。しかしシェフは三本の脚でカサカサと床を高速で這い回り弾丸を躱す。
「マジかよ!?速っ」
「シャルル!」
フロルの声で身に迫る二本の包丁を避ける。それと同時に四発目を放つが、シェフは足でテーブルを蹴り上げ盾にする。だが、弾丸はテーブルを撃ち破りシェフの身体を貫いた。磨かれた床に血が滴り落ちる。
「虫め……!虫の分際で……、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
シェフがフロルに斬りかかるが、シャルルが床に転がっていた包丁を拾い上げて斬撃を受け止めた。
「足が遅くなったな。痛いならそう言えよ」
「黙れぇ!この虫けらがぁぁぁ!……決めたぞ、貴様らの調理法を!ミンチにして、刻んだ玉ねぎと混ぜ合わせ――」
シャルルの蹴りがヒットした。シェフの身体はきしみを上げながら壁に激突する。シャルルはその隙に再装填を行った。
シャルルが使用するリボルバーはシングルアクション方式、最大装弾数は四発。トリガーガードの突出部位を握り込むことで銃身が下がり、シリンダー後部が露出する。装弾数は少ない。だが、通常の中折れ式リボルバーとは異なる機構のため、強力な大型弾を撃つことが可能である。
そして――銃声と共にシェフの頭が砕かれた。
(大きい。顔がすっぽり隠れる……)
「ここか。キルクスが教えてくれたレストランっていうのは」
シャルルとフロルが今いるのは石造りの建物の前。窓は無く、看板も無し。これが本当にレストランなのだろうか、二人は口を揃える。
「何だこりゃ」
「何だろうね、これ」
どの角度から見てもレストランという顔には見えない。倉庫と言われた方が納得しそうだ。
「キルクスが嘘をついた……、違うな。もしくは俺が道を間違えた……、もっと違うか」
「ねぇシャルル、とりあえず入ってみよう。ここにいても中の様子がわからないよ」
顎に手を当てて考えるシャルルにフロルが意見する。シャルルはハッと我に返り自分の頬をバシバシと叩いた。
「そうだな、俺としたことが……。腹減って頭が回ってねぇのかな?よし!管理者に会うついでに飯でも食おうぜ!」
言うが早いかシャルルは重い扉を押し開けた。眩しい光が目に入る。
「いらっしゃいませッ!おや?お客様ずいぶんとッ、みすぼらしい装いではありませんかッ!」
頭からたくさんの手を生やしたウエイトレスが失礼極まりない接客で出迎えてくれた。シャルルは無言でチェスターコートのポケットから札束を取り出す。
「二人だ。美味い飯を食わせくれ」
ウエイトレスは札束を数秒見つめた後、頭の手をうねうねと動かす。まるでメデューサだ、料理を運ぶのに適したヘアスタイルと言えるだろう。
「失礼しましたッ!お客様!ささ、早く店内へどうぞッ!」
客は誰もいない。
店内は外観と打って変わって綺羅びやかだった。鏡のように磨かれた床には天井のシャンデリアが反射し、壁にはいくつもの絵画が飾られている。
「凄い……!」
フロルは思わず声をもらす。するとウエイトレスが話しかけてきた。
「お客様ッ、店内ではフードは被らないでいただきたいッ!」
「おい、早く席に案内してくれ」
シャルルが睨みをきかせる。ウエイトレスはまだ何か言いたげだったが大人しく席まで案内してくれた。
「ご注文の際はッ、お呼びくださいッ!」
そう言い残しウエイトレスは奥のドアへと消えて行った。
「さてフロル、何を食おうか」
「メニュー表が無いよ、シャルル」
丸い木製テーブルの上にはメニュー表が見当たらない。
「置き忘れたのかもしれない。他の席から拝借しようぜ」
しかし、どのテーブルも同じだった。どこかに書いてあるということもない、これでは料理を注文できない。
「おかしいな、店員を呼ぶか。おーい!」
シャルルの声が店内に響く。しかし誰もやって来ない。フロルも後に続く。
「すみませーん」
物音の一つも返って来なかった。シャルルは席を立つ。
「客を野放しにするとはいい度胸だ」
「シャルル、怒っちゃだめだよ」
このままではウエイトレスの頭が握り潰されるかもしれない。フロルがなだめるが、シャルルはズカズカとドアへと進んで行く。突然ドアが吹き飛んだ、さすがに驚いたのかシャルルの歩みが止まる。
「君たちか。私の店に入って来た虫共は……!」
その怪物は右腕と脚が三本ずつあった。しかし左腕は無い。頭には背の高い白い帽子、そして返り血が付いた白い服に身を包み、それぞれの手には赤く染まった包丁が握られている。キルクスが言っていたシェフだろう、……たぶん。シェフは怒声を響かせる。
「あのポンコツ!こんな虫共を店の中に……!」
「なんだよ、失礼なやつしかいないのか?この店は。格好は汚いかもしれねぇが俺たちは客だぞ」
シャルルのその言葉を聞いたシェフはさらに喚く。
「何だと!?貴様ぁぁぁ!ふざけるな!虫の分際で……」
言いかけてフロルに顔を向けた。フロルは一歩後ずさる。
「匂う……!匂うぞ!この匂い!懐かしい匂い。これは……、人間の匂い……!」
シェフは三本の脚をゆっくりと動かしながらフロルに迫り来る。そして三本の右腕を勢いよく振り下ろした、その手に握られた包丁が襲いかかる――――。
重々しい破裂音が耳をつんざく。シェフの腕が一本、血しぶきと共に宙を舞った。
「おいおい、本当に接客態度が悪いんだな。この店は」
シャルルの右手には拳銃が握られていた、リボルバーだ。シェフは奇声を上げて飛びかかる。
「虫がぁ!店内で発砲するとは何事だ!?貴様らに食わす残飯は無い!その肉を……、切り刻んでくれるわ!」
シャルルは左手で撃鉄を起こし二発目、三発目と放つ。しかしシェフは三本の脚でカサカサと床を高速で這い回り弾丸を躱す。
「マジかよ!?速っ」
「シャルル!」
フロルの声で身に迫る二本の包丁を避ける。それと同時に四発目を放つが、シェフは足でテーブルを蹴り上げ盾にする。だが、弾丸はテーブルを撃ち破りシェフの身体を貫いた。磨かれた床に血が滴り落ちる。
「虫め……!虫の分際で……、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
シェフがフロルに斬りかかるが、シャルルが床に転がっていた包丁を拾い上げて斬撃を受け止めた。
「足が遅くなったな。痛いならそう言えよ」
「黙れぇ!この虫けらがぁぁぁ!……決めたぞ、貴様らの調理法を!ミンチにして、刻んだ玉ねぎと混ぜ合わせ――」
シャルルの蹴りがヒットした。シェフの身体はきしみを上げながら壁に激突する。シャルルはその隙に再装填を行った。
シャルルが使用するリボルバーはシングルアクション方式、最大装弾数は四発。トリガーガードの突出部位を握り込むことで銃身が下がり、シリンダー後部が露出する。装弾数は少ない。だが、通常の中折れ式リボルバーとは異なる機構のため、強力な大型弾を撃つことが可能である。
そして――銃声と共にシェフの頭が砕かれた。
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