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管理者
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いくつもの扉が連なる薄暗い廊下をシャルルとフロルは歩いていた。
「いいか、フロル。人間の国に帰るための『エレベーター』が管理されてる場所に行くには、この街を含めて四つの街を経由するしかない」
シャルルは指を四本立てて見せる。フロルはこくこくと頷いた。
「んで、この奥の部屋にこの街の『管理者』である爺さんがいる」
「管理者?」
(急に知らない言葉を言われても……)
「ああ、街ごとに管理者って呼ばれてる連中がいるんだ。そいつらの許可がないと別の街に行けない」
シャルルは木製扉の前で立ち止まる。
「ここだ。おい、爺さん!生きてるか?」
扉がギシギシと音を立ててゆっくりと開く。
「生きとるよ。よう来たなシャルル」
胴体から無数の脚が生えた白髪の怪物が這い出て来た。黒い着物のような服を着ており、その姿はムカデのようだった。
「爺さん、普通に歩けよ」
「最近腰が痛くてな、こうするのが楽なんだよ。おや、そちらさんは?」
シャルルはフロルの頭をわしゃわしゃと撫でて答える。
「すげぇだろ。五体満足、正真正銘本物の人間だ」
「……こんにちは。フロルです」
怪物は目を細める。
「ほう。はて、最後に子どもがこちら側に来たのはもう何年前のことだったかな」
「ところで爺さん、頼みがあるんだ」
「わかっとるよ。ここに来たということは門の鍵を開けてほしいんだろ。ついておいで」
そう言うとたくさんの脚を忙しく動かして歩き出した。二人はその後について行く。
建物の外に出ると紫色の美しい花が咲いた庭園があった。大きな池の真ん中にツタで覆われた門が見える。
「爺さん、門の手入れはちゃんとしてくれよ」
シャルルが顔をしかめて言った。
「やはり、若いもんにはわからんのだな。芸術というやつが」
「手入れが面倒なだけだろ」
老人はその言葉を無視したのか、それとも聞こえなかったのだろうか。池の橋を渡り、門まで歩いてゆく。
「さてと……」
門の前まで来ると服の袖から金色の鍵を取り出して鍵穴に入れた。ガコッと音がして門が開かれる。そこには薄紅色の空間が広がっていた。
「ありがとな、爺さん。いつも世話になっちまって」
「容易い御用だ。シャルル、無事に戻っておいで。お前にはこの仕事を継いでもらうからな」
それから老人はフロルに顔を向け、気の毒そうに言った。
「おじょうちゃん……、運が悪かったね」
門を潜ると今まで見たものと似通った景色があった。相変わらず分厚い雲が空を覆い、人の姿は見当たらない。
「同じに見えるだろ?違うんだよなぁ、これが。俺は食料を買いによくこの街に来るんだ」
「怪物は何を食べるの?」
何故か自慢げに語るシャルルにフロルは問うた。
「そうだな、人間の食事とそんなに変わらない。ここにしかいない生き物もいるけどな」
「そうなんだ。見てみたいな」
「そうか。なら売ってる店があれば食わせてやるよ。ところで……」
シャルルは申し訳なさそうに口ごもる。
「俺が知ってる管理者は爺さんだけだ。その他は知らん」
「そうなんだ……」
「安心しろ!俺の友達がここでバーをやってんだ。そいつに訊けばわかるさ」
「そうなんだ!その人はどこにいるの?」
シャルルは近くの小屋を指差す。
「そこ」
「そこ?」
「そうだ。お~い、マスター!やってるか~?」
「うるさい!店の前で騒いでないで早く入って来な!」
小屋から女性の声が聞こえた。
「だってさ。行こうぜ」
小屋の中は以外にも広かった。バーカウンターが設置され、奥の棚にはたくさんのボトルが並んでいる。
「いらっしゃい、シャルル。久しぶりだね」
マスターの怪物は長い腕をグャグニャさせてグラスに飲み物を注ぐ。
「キルクス、紹介するぜ!こいつはフロル、人間だよ」
キルクスと呼ばれた怪物の手からグラスが滑り落ちた。店内にガラスが割れる音が響く。キルクスは取り乱していたようだったが、すぐに冷静になる。
「アンタが来るときは基本的に厄介事だね。それで?アタシに何が訊きたいんだ?」
「この街の管理者を教えてくれ」
「なんだ。そんなことね」
割れたグラスを片付けながら答える。
「レストラン『二つ名』のシェフさ。まぁ、アンタみたいなのが店に入れてもらえるとは思わないけど」
「そっか、ありがとう。これでグラス買えよ!」
「ちょ、待ちな!」
シャルルはバーカウンターに硬貨を叩きつけるとフロルを肩に担ぎ、店を出て走り出した。
「あっ、やべぇ。場所訊いてなかった」
(本当に帰れるのかな……)
フロルはこの旅の行く末に不安を覚えた。
「いいか、フロル。人間の国に帰るための『エレベーター』が管理されてる場所に行くには、この街を含めて四つの街を経由するしかない」
シャルルは指を四本立てて見せる。フロルはこくこくと頷いた。
「んで、この奥の部屋にこの街の『管理者』である爺さんがいる」
「管理者?」
(急に知らない言葉を言われても……)
「ああ、街ごとに管理者って呼ばれてる連中がいるんだ。そいつらの許可がないと別の街に行けない」
シャルルは木製扉の前で立ち止まる。
「ここだ。おい、爺さん!生きてるか?」
扉がギシギシと音を立ててゆっくりと開く。
「生きとるよ。よう来たなシャルル」
胴体から無数の脚が生えた白髪の怪物が這い出て来た。黒い着物のような服を着ており、その姿はムカデのようだった。
「爺さん、普通に歩けよ」
「最近腰が痛くてな、こうするのが楽なんだよ。おや、そちらさんは?」
シャルルはフロルの頭をわしゃわしゃと撫でて答える。
「すげぇだろ。五体満足、正真正銘本物の人間だ」
「……こんにちは。フロルです」
怪物は目を細める。
「ほう。はて、最後に子どもがこちら側に来たのはもう何年前のことだったかな」
「ところで爺さん、頼みがあるんだ」
「わかっとるよ。ここに来たということは門の鍵を開けてほしいんだろ。ついておいで」
そう言うとたくさんの脚を忙しく動かして歩き出した。二人はその後について行く。
建物の外に出ると紫色の美しい花が咲いた庭園があった。大きな池の真ん中にツタで覆われた門が見える。
「爺さん、門の手入れはちゃんとしてくれよ」
シャルルが顔をしかめて言った。
「やはり、若いもんにはわからんのだな。芸術というやつが」
「手入れが面倒なだけだろ」
老人はその言葉を無視したのか、それとも聞こえなかったのだろうか。池の橋を渡り、門まで歩いてゆく。
「さてと……」
門の前まで来ると服の袖から金色の鍵を取り出して鍵穴に入れた。ガコッと音がして門が開かれる。そこには薄紅色の空間が広がっていた。
「ありがとな、爺さん。いつも世話になっちまって」
「容易い御用だ。シャルル、無事に戻っておいで。お前にはこの仕事を継いでもらうからな」
それから老人はフロルに顔を向け、気の毒そうに言った。
「おじょうちゃん……、運が悪かったね」
門を潜ると今まで見たものと似通った景色があった。相変わらず分厚い雲が空を覆い、人の姿は見当たらない。
「同じに見えるだろ?違うんだよなぁ、これが。俺は食料を買いによくこの街に来るんだ」
「怪物は何を食べるの?」
何故か自慢げに語るシャルルにフロルは問うた。
「そうだな、人間の食事とそんなに変わらない。ここにしかいない生き物もいるけどな」
「そうなんだ。見てみたいな」
「そうか。なら売ってる店があれば食わせてやるよ。ところで……」
シャルルは申し訳なさそうに口ごもる。
「俺が知ってる管理者は爺さんだけだ。その他は知らん」
「そうなんだ……」
「安心しろ!俺の友達がここでバーをやってんだ。そいつに訊けばわかるさ」
「そうなんだ!その人はどこにいるの?」
シャルルは近くの小屋を指差す。
「そこ」
「そこ?」
「そうだ。お~い、マスター!やってるか~?」
「うるさい!店の前で騒いでないで早く入って来な!」
小屋から女性の声が聞こえた。
「だってさ。行こうぜ」
小屋の中は以外にも広かった。バーカウンターが設置され、奥の棚にはたくさんのボトルが並んでいる。
「いらっしゃい、シャルル。久しぶりだね」
マスターの怪物は長い腕をグャグニャさせてグラスに飲み物を注ぐ。
「キルクス、紹介するぜ!こいつはフロル、人間だよ」
キルクスと呼ばれた怪物の手からグラスが滑り落ちた。店内にガラスが割れる音が響く。キルクスは取り乱していたようだったが、すぐに冷静になる。
「アンタが来るときは基本的に厄介事だね。それで?アタシに何が訊きたいんだ?」
「この街の管理者を教えてくれ」
「なんだ。そんなことね」
割れたグラスを片付けながら答える。
「レストラン『二つ名』のシェフさ。まぁ、アンタみたいなのが店に入れてもらえるとは思わないけど」
「そっか、ありがとう。これでグラス買えよ!」
「ちょ、待ちな!」
シャルルはバーカウンターに硬貨を叩きつけるとフロルを肩に担ぎ、店を出て走り出した。
「あっ、やべぇ。場所訊いてなかった」
(本当に帰れるのかな……)
フロルはこの旅の行く末に不安を覚えた。
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