4 / 15
4.守護像の言葉
しおりを挟む
ヒントのメモを集めつつ、冤罪の書類も順次回収する。学園内でいじめを目撃したとする証人達が、いつ、どのような交渉で、幾らの報酬を受け取ったかを示すメモだ。
公爵である父に託せば、彼らも全員社会的に葬ることができるだろう。取り残しの無いようにしなければ。
ストレージに全て入れていると中を見せろと言われかねないので、見られてもいいヒントメモやどうでもいい先人の恨み言が書かれた日記は手に持っていた。
メモは謎解き前でも答えが解っているから要らないし、日記はいざとなればいつでも捨てて良いから、ダミーとしては最適ではないか。居住区を抜けて毒の水溜りを回避しつつ進むと、次は明るい通路と暗い通路に分かれていた。
暗い通路の先に、鍵のある謎解き部屋がある。明るい方を先に攻略しておきたいのが普通の心理なのだが、明るく照らすアイテムなど入手できない上に、騎士団長令息の剣が見つかるイベントが強制発生してしまうのだ。
だから、迷わず暗い通路を進んだ。後ろが明るい方を先に行くべきだと騒いでいるが、一切構わない。そんなに行きたければ、お前たちだけで行ってくればいいだろうが。
暗い通路の落とし穴は、落ちればそのままゲームオーバーとなる。
目を凝らしてみれば見えるものなので、気を抜かずに慎重に進む。絶妙な配置で足元への気を逸らすかのように、追跡型の虫や毒ガスのエンカウントを仕掛けてくるのが厄介だ。
後ろの声が次第に遠ざかっていくが、振り返らなかった。あのイベントさえ潰してしまえば、このフロアではもう男爵令嬢が死ぬイベントは発生しないのだから。
この道は、最後の小部屋で謎を解けばまた引き返すしかない。この道をまた戻るのだと知った時、彼らがどんな顔をするものか。想像してほくそ笑む余裕もないのが残念で仕方が無かった。
小部屋に到着し、一息つく。
実況プレイ中は何度もメモを見て考えていたが、一度解ければ何のことはない簡単なパズルだった。狛犬に似た左右対称の石像にそれぞれ答えを打ち込むと、中央の箱が開いて鍵が手に入る。
宝石を埋め込まれた無駄に豪奢な鍵に手を伸ばそうとした時、頭上から無機質な声が響いた。顔を上げる先には、狛犬に似た守護像が荘厳に聳えている。
『盲目の少女よ。ここでは見えずに居る事も罪となる』
『真実に向き合い、己の成すことを見抜け』
…はい。重々解っておりますよ、守護像様。
声に出さず胸中で返答すると同時に、彼らが部屋に飛び込んできた。既に謎は説いたので道を戻りたかったのだが、そこに居座られると部屋から出られない。
止むを得ず彼らが動くのを待っていると、宰相令息が狛犬と箱を検分して後、私の前に来て鼻を鳴らした。
「謎を解いて箱を開けたようですが、随分と早いですね。まさかとは思いますが…?」
思うが何なのだ。はっきりと続きを言え。
眼鏡のブリッジをこれ見よがしにクイと直しているが、お気に入りらしき仕草も私から見ればフレームの調整が甘いだけにしか見えなかった。本当にしっかり調整されたフレームは、多少跳ぼうが走ろうがずれたりはしないものだ。
宰相家はそんなに吝嗇化なのだろうか。それとも、表向きは余裕があるものの内情は火の車とか。
フレーム一つで実家資産の有無を疑われているなどつゆ知らず、思わせぶりに首を傾げる宰相令息。これ以上付き合う気もない私は、ヒントのメモを纏めて彼の手に押し付けて部屋を出た。
メモさえあれば、少し頭のいい人なら簡単に解ける謎だ。宰相令息に解けるかどうかは私の知った事ではないし、鍵が入手できたのだから後は興味も無い。
来た道を引き返し、明るい通路には目もくれず魔法陣の部屋を目指す。そこは檻のようになっており魔法陣が丸見えで、ここの鍵を探さなければ先には進めないのだと、嫌でも解る造りになっていた。
出来るだけ早く脱出したい。それは恐怖もあるが、この迷宮に水や食料が用意されていないことが最たる理由だ。死の罠から逃げ惑った王族が、何人も飢えや渇きで死んでいったのは手記で確認できている。
それが専横の結果であればざまあみろだが、巻き込まれて同じ目に遭わされては堪ったものではないだろう。
解錠し、疲労感を濃くして追い付いてきた一行に一瞥をくれて魔法陣の中に立つ。
さようなら、第一階層。浮遊感に目を細めながら、私は少しだけふざけてそんなことを胸に呟くのだった。
第一階層クリア
この階層での犠牲者 0人
犠牲者の総数 0人
現時点での生存者 5人
公爵である父に託せば、彼らも全員社会的に葬ることができるだろう。取り残しの無いようにしなければ。
ストレージに全て入れていると中を見せろと言われかねないので、見られてもいいヒントメモやどうでもいい先人の恨み言が書かれた日記は手に持っていた。
メモは謎解き前でも答えが解っているから要らないし、日記はいざとなればいつでも捨てて良いから、ダミーとしては最適ではないか。居住区を抜けて毒の水溜りを回避しつつ進むと、次は明るい通路と暗い通路に分かれていた。
暗い通路の先に、鍵のある謎解き部屋がある。明るい方を先に攻略しておきたいのが普通の心理なのだが、明るく照らすアイテムなど入手できない上に、騎士団長令息の剣が見つかるイベントが強制発生してしまうのだ。
だから、迷わず暗い通路を進んだ。後ろが明るい方を先に行くべきだと騒いでいるが、一切構わない。そんなに行きたければ、お前たちだけで行ってくればいいだろうが。
暗い通路の落とし穴は、落ちればそのままゲームオーバーとなる。
目を凝らしてみれば見えるものなので、気を抜かずに慎重に進む。絶妙な配置で足元への気を逸らすかのように、追跡型の虫や毒ガスのエンカウントを仕掛けてくるのが厄介だ。
後ろの声が次第に遠ざかっていくが、振り返らなかった。あのイベントさえ潰してしまえば、このフロアではもう男爵令嬢が死ぬイベントは発生しないのだから。
この道は、最後の小部屋で謎を解けばまた引き返すしかない。この道をまた戻るのだと知った時、彼らがどんな顔をするものか。想像してほくそ笑む余裕もないのが残念で仕方が無かった。
小部屋に到着し、一息つく。
実況プレイ中は何度もメモを見て考えていたが、一度解ければ何のことはない簡単なパズルだった。狛犬に似た左右対称の石像にそれぞれ答えを打ち込むと、中央の箱が開いて鍵が手に入る。
宝石を埋め込まれた無駄に豪奢な鍵に手を伸ばそうとした時、頭上から無機質な声が響いた。顔を上げる先には、狛犬に似た守護像が荘厳に聳えている。
『盲目の少女よ。ここでは見えずに居る事も罪となる』
『真実に向き合い、己の成すことを見抜け』
…はい。重々解っておりますよ、守護像様。
声に出さず胸中で返答すると同時に、彼らが部屋に飛び込んできた。既に謎は説いたので道を戻りたかったのだが、そこに居座られると部屋から出られない。
止むを得ず彼らが動くのを待っていると、宰相令息が狛犬と箱を検分して後、私の前に来て鼻を鳴らした。
「謎を解いて箱を開けたようですが、随分と早いですね。まさかとは思いますが…?」
思うが何なのだ。はっきりと続きを言え。
眼鏡のブリッジをこれ見よがしにクイと直しているが、お気に入りらしき仕草も私から見ればフレームの調整が甘いだけにしか見えなかった。本当にしっかり調整されたフレームは、多少跳ぼうが走ろうがずれたりはしないものだ。
宰相家はそんなに吝嗇化なのだろうか。それとも、表向きは余裕があるものの内情は火の車とか。
フレーム一つで実家資産の有無を疑われているなどつゆ知らず、思わせぶりに首を傾げる宰相令息。これ以上付き合う気もない私は、ヒントのメモを纏めて彼の手に押し付けて部屋を出た。
メモさえあれば、少し頭のいい人なら簡単に解ける謎だ。宰相令息に解けるかどうかは私の知った事ではないし、鍵が入手できたのだから後は興味も無い。
来た道を引き返し、明るい通路には目もくれず魔法陣の部屋を目指す。そこは檻のようになっており魔法陣が丸見えで、ここの鍵を探さなければ先には進めないのだと、嫌でも解る造りになっていた。
出来るだけ早く脱出したい。それは恐怖もあるが、この迷宮に水や食料が用意されていないことが最たる理由だ。死の罠から逃げ惑った王族が、何人も飢えや渇きで死んでいったのは手記で確認できている。
それが専横の結果であればざまあみろだが、巻き込まれて同じ目に遭わされては堪ったものではないだろう。
解錠し、疲労感を濃くして追い付いてきた一行に一瞥をくれて魔法陣の中に立つ。
さようなら、第一階層。浮遊感に目を細めながら、私は少しだけふざけてそんなことを胸に呟くのだった。
第一階層クリア
この階層での犠牲者 0人
犠牲者の総数 0人
現時点での生存者 5人
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので歴代最高の悪役令嬢になりました
Ryo-k
ファンタジー
『悪役令嬢』
それすなわち、最高の貴族令嬢の資格。
最高の貴族令嬢の資格であるがゆえに、取得難易度もはるかに高く、10年に1人取得できるかどうか。
そして王子から婚約破棄を宣言された公爵令嬢は、最高の『悪役令嬢』となりました。
さらに明らかになる王子の馬鹿っぷりとその末路――


婚約破棄された悪役令嬢ですが、闇魔法を手に聖女に復讐します
ごぶーまる
ファンタジー
突然身に覚えのない罪で、皇太子との婚約を破棄されてしまったアリシア。皇太子は、アリシアに嫌がらせをされたという、聖女マリアとの婚約を代わりに発表。
マリアが裏で手を引いたに違いないと判断したアリシアは、持ち前の闇魔法を使い、マリアへの報復を決意するが……?
読み切り短編です
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】転生したらもふもふだった。クマ獣人の王子は前世の婚約者を見つけだし今度こそ幸せになりたい。
金峯蓮華
ファンタジー
デーニッツ王国の王太子リオネルは魅了の魔法にかけられ、婚約者カナリアを断罪し処刑した。
デーニッツ王国はジンメル王国に攻め込まれ滅ぼされ、リオネルも亡くなってしまう。
天に上る前に神様と出会い、魅了が解けたリオネルは神様のお情けで転生することになった。
そして転生した先はクマ獣人の国、アウラー王国の王子。どこから見ても立派なもふもふの黒いクマだった。
リオネルはリオンハルトとして仲間達と魔獣退治をしながら婚約者のカナリアを探す。
しかし、仲間のツェツィーの姉、アマーリアがカナリアかもしれないと気になっている。
さて、カナリアは見つかるのか?
アマーリアはカナリアなのか?
緩い世界の緩いお話です。
独自の異世界の話です。
初めて次世代ファンタジーカップにエントリーします。
応援してもらえると嬉しいです。
よろしくお願いします。

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!
宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。
前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。
そんな彼女の願いは叶うのか?
毎日朝方更新予定です。
【完結】悪役令嬢が可愛すぎる!!
佐倉穂波
ファンタジー
ある日、自分が恋愛小説のヒロインに転生していることに気がついたアイラ。
学園に入学すると、悪役令嬢であるはずのプリシラが、小説とは全く違う性格をしており、「もしかして、同姓同名の子が居るのでは?」と思ったアイラだったが…….。
三話完結。
ヒロインが悪役令嬢を「可愛い!」と萌えているだけの物語。
2023.10.15 プリシラ視点投稿。
【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」
***
ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。
しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。
――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。
今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。
それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。
これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。
そんな復讐と解放と恋の物語。
◇ ◆ ◇
※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。
さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。
カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。
※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。
選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。
※表紙絵はフリー素材を拝借しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる