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29.指先が灯す熱
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入浴を終えて恐る恐るバスルームを出る。もちろんというか念のためというか、まあそれなりに身体の準備も整えた。一応、万が一に備えてのことであって、別に桃耶が積極的に望んでいるわけではない……と心の内で誰にともなく言い訳をする。
田宮はベッドに腰掛けてスマホを眺めていたが、ドアの開く音に気がついて桃耶の方を見やった。彼の右手には、とっくに髪を乾かしおわった様子にもかかわらずドライヤーが握られたままだ。桃耶がそれに気を留めると同時に、田宮が桃耶に声を掛けてきた。
「おつー。髪乾かしたるよ、こっち座って」
「え、なんなんすか」
「いーから座ってみ?」
こういうときのこいつはウザさが加速して面倒なので、桃耶は諦めて田宮の前に座った。今までこんな行為をされたことはない。
田宮がここまで世話焼きたがりな男だったとか、肌を重ねる関係じゃなかったら知らなかっただろう。桃耶が田宮に抱いている感情だって知らずにいたに違いない。知らない状態には逆立ちしても戻れないけど、知っている今の方が心が満たされてしまっている。髪を乾かしてもらうことくらいで。
髪が長いわけではないのでさほど時間もかからずに乾ききった。田宮が風量を弱めて桃耶の髪を指で梳く。心地よい温風と手の柔らかな感触にリラックスして身を任せていると、田宮の声がドライヤーの音に混じって聞こえた。
「おれ桃耶の髪さらさらで好きなんだよな」
桃耶に聞かせるつもりもなかっただろう声量の、かすかなつぶやきだった。反応していいのか迷って、意味もなく軽く俯く。そのせいで田宮の方へ差し出された首筋をふいになぞられた。うっかり触れたような感触ではなく、意思を持って触れた指の動きだ。肩を震わせて突然の刺激に呆けていると、彼の指先が桃耶の耳を撫でてくすぐった。いつのまにか風が止んでいる。顔に熱が集まっていく。彼の手はきっと桃耶の体温がどんどん上がっているのをはっきりと感じ取っているはずだ。羞恥で振り向けずにいると、桃耶の顎に手が添えられて緩く上を向かされた。それ以上の強制は無いのについ目が彼の姿を探す。覗き込んでくる田宮と視線が絡んで、彼の微熱を纏った表情に、桃耶は元からするつもりもなかった拒否の一切を忘れてしまった。
田宮はベッドに腰掛けてスマホを眺めていたが、ドアの開く音に気がついて桃耶の方を見やった。彼の右手には、とっくに髪を乾かしおわった様子にもかかわらずドライヤーが握られたままだ。桃耶がそれに気を留めると同時に、田宮が桃耶に声を掛けてきた。
「おつー。髪乾かしたるよ、こっち座って」
「え、なんなんすか」
「いーから座ってみ?」
こういうときのこいつはウザさが加速して面倒なので、桃耶は諦めて田宮の前に座った。今までこんな行為をされたことはない。
田宮がここまで世話焼きたがりな男だったとか、肌を重ねる関係じゃなかったら知らなかっただろう。桃耶が田宮に抱いている感情だって知らずにいたに違いない。知らない状態には逆立ちしても戻れないけど、知っている今の方が心が満たされてしまっている。髪を乾かしてもらうことくらいで。
髪が長いわけではないのでさほど時間もかからずに乾ききった。田宮が風量を弱めて桃耶の髪を指で梳く。心地よい温風と手の柔らかな感触にリラックスして身を任せていると、田宮の声がドライヤーの音に混じって聞こえた。
「おれ桃耶の髪さらさらで好きなんだよな」
桃耶に聞かせるつもりもなかっただろう声量の、かすかなつぶやきだった。反応していいのか迷って、意味もなく軽く俯く。そのせいで田宮の方へ差し出された首筋をふいになぞられた。うっかり触れたような感触ではなく、意思を持って触れた指の動きだ。肩を震わせて突然の刺激に呆けていると、彼の指先が桃耶の耳を撫でてくすぐった。いつのまにか風が止んでいる。顔に熱が集まっていく。彼の手はきっと桃耶の体温がどんどん上がっているのをはっきりと感じ取っているはずだ。羞恥で振り向けずにいると、桃耶の顎に手が添えられて緩く上を向かされた。それ以上の強制は無いのについ目が彼の姿を探す。覗き込んでくる田宮と視線が絡んで、彼の微熱を纏った表情に、桃耶は元からするつもりもなかった拒否の一切を忘れてしまった。
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