一生のおねがい!

多賀森

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23.訪問と尋問

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 会計を終え、ドラッグストアを出てなんとなく駅へ向かって歩く。暑さのせいか気分のせいか、足取りは重い。
「桃耶」
 行為に及ぶときとは笑ってしまいそうなほどかけ離れた弱々しい声色で呼ばれる。不謹慎かもしれないが、珍しい様子に少しだけ口角が上がってしまう。
「今からおれんち来てっつったら来てくれる?」
「なんで?」
「…………」
「あは、もーわかったよ行く行く。なに困ってんだよ」
 結局笑いが抑えられなくて軽くからかってやると、硬かった田宮の表情が少しだけ緩んだあと、ふてくされたように口をとがらせた。

 そのまま特に会話も無く、駅から十分ほど離れた田宮の部屋へ歩く。部屋の前に着き、鍵を開けた田宮に続いて室内に入った。彼の部屋はなんだか久しぶりな気がする。こんな関係になる前は普通にゲームをしに上がり込んでいたけれど、セックスをするときは準備するのに風呂トイレがいっしょになっている方が便利だから、最近は桃耶の部屋ばかりだった。ドアを抜けて部屋に一歩踏み入ると涼しい空気が一気に体を包む。
「外あっちい~! エアコンサイコー! てかつけっぱじゃん。田宮もちょっと買い物に出ただけ?」
「うん」
「ん、待ってドラッグストア来てたけどなんも買ってなくね? よかったん」
「あーいいよそれは。まあ、明日行くわ。今日はもう暑い、外出ん」
「その気持ちだいぶわかる」
 二人でこの部屋にいると以前のようにゲームをしに来ているときと同じ感覚になっていつも通りの会話をしかけたが、思い出したかのように再び沈黙が落ちる。桃耶は今日は呼ばれて来ただけだから話を切り出されるまで黙ってやろうと思っていたものの、いつまでも無言でいる田宮に焦れて、とうとう口火を切ることにした。

「ねー、俺らケンカしてるワケじゃねえじゃん。なんでこんなお通夜みたいになんないといけないわけ? 俺田宮がなんで機嫌悪いんかわからん」
 少し感情的になってしまった。もう少し抑えなければと思うけれど、この頃情緒が乱高下しているせいか、つい直情的な言い方になる。桃耶の言葉を受けた田宮は、目を逸らしながら覇気の無い声量で弁解する。
「……ごめん、あの、おれが悪いス」
「違うって、責任の所在じゃなくてなんでそんなんなってんのか聞いてんの」
 桃耶は田宮の椅子を占領して、壁にもたれて立ったままの彼を見上げた。彼は困りきった顔をして床の一点を見つめている。
「……おれにもわかんない」
「は?」
「なんか、よくわかんないけどおれを断って別のやつと会ってるのが面白くねえっていうか、……こんな風に言うとガキみたいだな」
 仏頂面というか、拗ねた顔をしてつぶやいているのが笑える。彼の言うとおり態度の理由がやたら子どもっぽい。
「遊ぶんなら俺も誘えよって思ったん? 仲間はずれみたいで寂しかったんだ、ウケんね」
「んー、あー、そうなんかな」
 煮え切らない返答をする田宮は、あまり納得しきれていないらしい。
「てかほんと平本とは遊ぼうとしてないし、偶然会っただけなんだから誘うも何もねえだろ」
「そう、だけど」
 それきりまた黙り込む。
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