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22.クールダウンの需要あり
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はっきりと言わずはぐらかしながら無香料で拭き心地さらさらと謳ったボディシートを手に取ると、平本は既に選び終わっていたらしく、桃耶の方に姿勢を向き直していた。その手には桃耶が選んだものと同じ商品が握られている。
「いっしょじゃん! まじ?」
「あはは! 二人してあんな悩んでおいて被ることあんの」
「決め手なんだった?」
「そら値段でしょ」
「いっしょだし!」
思わぬ一致に顔を見合わせて笑う。ウチらお揃いでサラサラ無臭メンズになろ! とふざけたことを言っていると、陳列棚に近づいてくる足音に気づいた。通行の邪魔になるかと思って通路の左に寄ろうとしたところで、今年一番聞いている男の声がした。
「……やっぱ桃耶じゃん」
急に聞こえた声に驚いてその主を見る。予想の通り、田宮だ。いつもヘラヘラしているくせに今は何故かあまり表情がはっきりしない。桃耶が振り向いてから一瞬歩みを止めたが、すぐに近づいてきた。視線を桃耶から外さない。涼しい店内にしばらく居たのに、動転したままの桃耶の背中に汗が伝った。平本がのんきに声を掛けているものの、田宮の反応は薄い。
「今日は部屋にいたい気分じゃなかったの」
「そのつもりだったし……昼飯ついでに買い物来ただけだけど」
なんでこちらが気まずくならなきゃいけないんだ。別に桃耶と田宮は、休日に誘いを断って行動するのを相手に咎められるような関係ではないのだ。田宮は無表情を崩さず、何を考えているのか読み取れない。普段も何を考えているかなんて読み取れてはいないけど。
「平本とどっか行くん」
「や、別に。偶然会ったんだよ」
「おんなじやつ持ってるじゃん」
「あーこれもたまたま被って笑ってたんだって……なに? 昨日からおかしいよどしたん」
疑問を隠しきれずに問うと、田宮の表情が曇った。常時とぜんぜん違う反応にぎょっとして彼の顔を覗き込もうとする。そのタイミングで突如平本が頓狂な声を出した。
「だあ! やっばいもう彼女来てるかも! 悪いもう行くな、今度遊ぼ、連絡するわ!」
まさにドタバタという擬音が似合う挙動で、平本は慌ただしく会計を済ませ去って行った。残された二人の間に沈黙が流れる。
「……俺とりあえず会計してくる」
桃耶が宣言すると、田宮は何も言わずに小さくうなずいた。
「いっしょじゃん! まじ?」
「あはは! 二人してあんな悩んでおいて被ることあんの」
「決め手なんだった?」
「そら値段でしょ」
「いっしょだし!」
思わぬ一致に顔を見合わせて笑う。ウチらお揃いでサラサラ無臭メンズになろ! とふざけたことを言っていると、陳列棚に近づいてくる足音に気づいた。通行の邪魔になるかと思って通路の左に寄ろうとしたところで、今年一番聞いている男の声がした。
「……やっぱ桃耶じゃん」
急に聞こえた声に驚いてその主を見る。予想の通り、田宮だ。いつもヘラヘラしているくせに今は何故かあまり表情がはっきりしない。桃耶が振り向いてから一瞬歩みを止めたが、すぐに近づいてきた。視線を桃耶から外さない。涼しい店内にしばらく居たのに、動転したままの桃耶の背中に汗が伝った。平本がのんきに声を掛けているものの、田宮の反応は薄い。
「今日は部屋にいたい気分じゃなかったの」
「そのつもりだったし……昼飯ついでに買い物来ただけだけど」
なんでこちらが気まずくならなきゃいけないんだ。別に桃耶と田宮は、休日に誘いを断って行動するのを相手に咎められるような関係ではないのだ。田宮は無表情を崩さず、何を考えているのか読み取れない。普段も何を考えているかなんて読み取れてはいないけど。
「平本とどっか行くん」
「や、別に。偶然会ったんだよ」
「おんなじやつ持ってるじゃん」
「あーこれもたまたま被って笑ってたんだって……なに? 昨日からおかしいよどしたん」
疑問を隠しきれずに問うと、田宮の表情が曇った。常時とぜんぜん違う反応にぎょっとして彼の顔を覗き込もうとする。そのタイミングで突如平本が頓狂な声を出した。
「だあ! やっばいもう彼女来てるかも! 悪いもう行くな、今度遊ぼ、連絡するわ!」
まさにドタバタという擬音が似合う挙動で、平本は慌ただしく会計を済ませ去って行った。残された二人の間に沈黙が流れる。
「……俺とりあえず会計してくる」
桃耶が宣言すると、田宮は何も言わずに小さくうなずいた。
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