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12話 県道の恐怖
しおりを挟む「大地ぃ、お前ぇ! 俺が先だったんだぞ! 何打ってんだよ」
「うっせぇデブ、てめえのは水じゃねぇ、脂だろ、よって俺の勝ちだ」
「んだとこらぁぁ!!」
境内の水鉄砲戦は最後に友作が前沢を打ち、後は大地と富戸川のどちらが先に打っていたかが勝敗の分かれ目となっていた。
しかし最早そんな事はどうでもよく、前沢は自分がやられた事を悔しがり、女子陣は服が濡れた事に嫌悪し、その他のメンバーはそれなりに楽しみ疲れ果てていた。
「まあまあ、ほら、皆アイス買ってきたから、ジュースもあるし、好きなの選んで! 女子も好きなのどうぞ」
「うっそー! 圭ちゃん最高ぉ」
「梨花、結婚したーい」
「「っしゃぁ!!」」
疲れた空気を事前に察していた桑野圭は、自分の財力と機転であっさりとその場の空気を和ませていた。
今から会社の社長になっても十分に通用するのではないかと思える程の器量の持ち主、それが桑野圭と言う少年だ。
「友君も。このアイスさ、おっぱいみたいじゃない? 好きでしょ」
「ふっ、はいはい、好き好き。全く……ありがとう圭ちゃん」
友作は桑野圭にアイコンタクトでこの場を和ませてくれた礼を言った。
「えぇ! ゆーくん、やっぱりおっきいのが好きなんじゃーん! 嘘つきぃ!」
「あはは、本当に仲良しだね、三河さんと友君は。お似合いだと思うけどな」
「あ、でしょー! へへ」
「おいおい、暑いからあんまりくっつくなよ」
女子特有の柔らかさが肌に当たり、気恥ずかしさと嬉しさ、そして僅かな背徳感に塗れた不思議な感覚に友作はなんとも言えない気持ちになった。
さて、空気も読めて、気も効く上に財力持ちの出来る男子圭であるが、もともとは友作と駄菓子屋で知り合ったのがきっかけで仲良くなった。
そう、圭は元々前沢派などでは無く、純粋な友作の友人の一人であった。
それが自分と関わったせいで今ではこんな派閥争いの渦中にいるのだろうかと思うと、少しの申し訳無さも感じるが、今思えば彼のカリスマ性はきっと友作が関わらずとも目立つものとなっていただろう。
再度の歴史を通じて、友作はそれをはっきりと実感し、貰った例のおっぱいアイスに齧り付く。
刹那。
バシュッと言う音と共に甘い匂いとベタつきが友作の顔面を襲っていた。
「くくくく……」
「うわ! 友君おっぱい塗れじゃーん」
「なははははっ!」
「やっべぇー、圭ちゃん怖ぇ」
「ゆーくん! 大丈夫!? は、ハンカチ」
ゴムで包み込まれただけのバニラアイスだ。
通常シャーベット状に氷っている状態なら先端を千切って少しずつ出てくる筈のバニラアイス。
だがそれがそこそこに溶けていたならどうだろうか。
先端を千切った瞬間包んでいるゴムは弾け、中の甘い液体が襲いかかる。
バニラジュース爆弾の完成だ。
まんまとやられた。
桑野圭にとっては、友作と仲がいいからこそやれるジョークであり、尚且つ前沢陣として友作に一矢報いると言う仕事をしたアピールにもなる。
策士であった。
「けぇーいーー!!」
――――
場も和み、再度の疲れで前沢陣が帰った後、境内の木陰で桑野圭にお詫びと買ってもらったジュースを飲みながら宏がある噂話を持ち出してきたのは偶然か。
「そういや友君さ、あれ覚えてる? キャベツ女」
「あ?」
「あぁ、そういやあれからどうしてっかな、あいつ」
ふと友作の脳裏におかしな髪型と汚い身なりの少女が浮かぶ。
イジメとも言われかねないが、それは互いには理解し、ふざけあいながら帰った通学路の遊び。
だがそこから芋づる式に、友作の記憶は初めてタイムスリップしたあの日の出来事を思い起こさせられた。
「なんで急に……そんなこと」
あの日も、宏のこの噂話から始まった。
校庭を四人で歩き、友作は将来の金儲けを考えていた。
いつも通りの大地と宏、そして三河さゆりの話がその時の友作には鬱陶しく感じられ、そして。
もし歴史が同じ流れを辿るなら、まさか、と。
友作はふと周りを見渡しそこに三河がいない事に気付いて血の気が引いた。
「さゆっ!? さ、三河は!? 三河はどこいった!?」
「あぁ? んだよそんなに焦って、おいおい友……もうあれか? まさかやったのか! それでお前三河がいないと生きられない身体に……」
友作の三河がいない事に対する突然の慌てようには宏と大地も面食らったようだが、大地はそれを面白そうに揶揄う。
「馬鹿いってんな! そんな事より三河はどこいったんだよっ! さっきまでここにいただろ」
「友君、三河ならさっきトイレって言って、学校戻ったじゃん」
「学校……」
三河がいつそんな事を言ったのか、思案に耽っていた自分がただ聞き逃しただけなのか。
それとも歴史の修正力か。
確かにこの公園にはトイレ等無く、学校のトイレなら道路を渡ってすぐ。
道路、たった一本の県道。
それはあの日校門に追突したトラックが走った県道だ。
友作の背中には一筋の冷たい汗が流れ、気づけば境内を飛び出していた。
「うっせぇデブ、てめえのは水じゃねぇ、脂だろ、よって俺の勝ちだ」
「んだとこらぁぁ!!」
境内の水鉄砲戦は最後に友作が前沢を打ち、後は大地と富戸川のどちらが先に打っていたかが勝敗の分かれ目となっていた。
しかし最早そんな事はどうでもよく、前沢は自分がやられた事を悔しがり、女子陣は服が濡れた事に嫌悪し、その他のメンバーはそれなりに楽しみ疲れ果てていた。
「まあまあ、ほら、皆アイス買ってきたから、ジュースもあるし、好きなの選んで! 女子も好きなのどうぞ」
「うっそー! 圭ちゃん最高ぉ」
「梨花、結婚したーい」
「「っしゃぁ!!」」
疲れた空気を事前に察していた桑野圭は、自分の財力と機転であっさりとその場の空気を和ませていた。
今から会社の社長になっても十分に通用するのではないかと思える程の器量の持ち主、それが桑野圭と言う少年だ。
「友君も。このアイスさ、おっぱいみたいじゃない? 好きでしょ」
「ふっ、はいはい、好き好き。全く……ありがとう圭ちゃん」
友作は桑野圭にアイコンタクトでこの場を和ませてくれた礼を言った。
「えぇ! ゆーくん、やっぱりおっきいのが好きなんじゃーん! 嘘つきぃ!」
「あはは、本当に仲良しだね、三河さんと友君は。お似合いだと思うけどな」
「あ、でしょー! へへ」
「おいおい、暑いからあんまりくっつくなよ」
女子特有の柔らかさが肌に当たり、気恥ずかしさと嬉しさ、そして僅かな背徳感に塗れた不思議な感覚に友作はなんとも言えない気持ちになった。
さて、空気も読めて、気も効く上に財力持ちの出来る男子圭であるが、もともとは友作と駄菓子屋で知り合ったのがきっかけで仲良くなった。
そう、圭は元々前沢派などでは無く、純粋な友作の友人の一人であった。
それが自分と関わったせいで今ではこんな派閥争いの渦中にいるのだろうかと思うと、少しの申し訳無さも感じるが、今思えば彼のカリスマ性はきっと友作が関わらずとも目立つものとなっていただろう。
再度の歴史を通じて、友作はそれをはっきりと実感し、貰った例のおっぱいアイスに齧り付く。
刹那。
バシュッと言う音と共に甘い匂いとベタつきが友作の顔面を襲っていた。
「くくくく……」
「うわ! 友君おっぱい塗れじゃーん」
「なははははっ!」
「やっべぇー、圭ちゃん怖ぇ」
「ゆーくん! 大丈夫!? は、ハンカチ」
ゴムで包み込まれただけのバニラアイスだ。
通常シャーベット状に氷っている状態なら先端を千切って少しずつ出てくる筈のバニラアイス。
だがそれがそこそこに溶けていたならどうだろうか。
先端を千切った瞬間包んでいるゴムは弾け、中の甘い液体が襲いかかる。
バニラジュース爆弾の完成だ。
まんまとやられた。
桑野圭にとっては、友作と仲がいいからこそやれるジョークであり、尚且つ前沢陣として友作に一矢報いると言う仕事をしたアピールにもなる。
策士であった。
「けぇーいーー!!」
――――
場も和み、再度の疲れで前沢陣が帰った後、境内の木陰で桑野圭にお詫びと買ってもらったジュースを飲みながら宏がある噂話を持ち出してきたのは偶然か。
「そういや友君さ、あれ覚えてる? キャベツ女」
「あ?」
「あぁ、そういやあれからどうしてっかな、あいつ」
ふと友作の脳裏におかしな髪型と汚い身なりの少女が浮かぶ。
イジメとも言われかねないが、それは互いには理解し、ふざけあいながら帰った通学路の遊び。
だがそこから芋づる式に、友作の記憶は初めてタイムスリップしたあの日の出来事を思い起こさせられた。
「なんで急に……そんなこと」
あの日も、宏のこの噂話から始まった。
校庭を四人で歩き、友作は将来の金儲けを考えていた。
いつも通りの大地と宏、そして三河さゆりの話がその時の友作には鬱陶しく感じられ、そして。
もし歴史が同じ流れを辿るなら、まさか、と。
友作はふと周りを見渡しそこに三河がいない事に気付いて血の気が引いた。
「さゆっ!? さ、三河は!? 三河はどこいった!?」
「あぁ? んだよそんなに焦って、おいおい友……もうあれか? まさかやったのか! それでお前三河がいないと生きられない身体に……」
友作の三河がいない事に対する突然の慌てようには宏と大地も面食らったようだが、大地はそれを面白そうに揶揄う。
「馬鹿いってんな! そんな事より三河はどこいったんだよっ! さっきまでここにいただろ」
「友君、三河ならさっきトイレって言って、学校戻ったじゃん」
「学校……」
三河がいつそんな事を言ったのか、思案に耽っていた自分がただ聞き逃しただけなのか。
それとも歴史の修正力か。
確かにこの公園にはトイレ等無く、学校のトイレなら道路を渡ってすぐ。
道路、たった一本の県道。
それはあの日校門に追突したトラックが走った県道だ。
友作の背中には一筋の冷たい汗が流れ、気づけば境内を飛び出していた。
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