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Borium
第四十話 盗賊、真
しおりを挟む「っな!?ギルド官……だぁ?」
華奢な男はハイライトの言葉に一瞬驚いた顔をするも、その口調は先程とはうって変わって乱暴な物となっていた。
「そうだ、ファンデル王国の人間を拐って売り飛ばす等……その罪は死罪に値するだろう。お前達の身柄は国務官の名を持ってこの場で僕が預かる」
「……はっ、はは、ハハハハ!何処の盗賊が襲ってきたかと思えば……ギルド官かっ、驚かせやがってこのタダ飯食らいがっ!」
「何だ、テメェらファンデル王都のギルド官連中だったのか!わざわざ何しに来た?」
馬を引いていた恰幅の良い男も何故か横柄な態度に早変わりし、真とハイライトの元へと笑みを浮かべながら近づいてくる。
何故こんな態度でいられるのか、先程自分達を盗賊と思っていた時より随分と上から目線になっている男達に若干の違和感を感じる真。
だがハイライトはそんな男達の言葉を流し荷車に乗る少女のロープを解こうと手を掛ける。
「おいおいっ、うちらの商売の邪魔をされちゃぁ困るぜ!それに他国狼藉だぁ?俺たちゃファンデル王国民だぜ」
「ファンデル王国民…………商人なら商業認可証があるはずだ、見せれるのかい?」
ふと、ロープを解こうとした手が止まる。
自らをファンデル王国の人間だと言って退ける男達とそれなら証明書を出せと言うハイライト。
恰幅の良い男は厭らしい笑みを張り付けたまま、荷車の中にある麻袋からギルド員証の様なカードを取りだしハイライトへと見せ付けた。
「確かにうちの国の商業認可証……リトアニア商会だと?…………いや、だが奴隷としてリヴァイバル王国へ売る等……そんな商業は当国では認められていない筈だ」
「はっ、たかがギルド官風情が俺達リトアニア商会に意見するってのか?お前らが呑気に飯を食えるのはうちの後援あってのもんだろぅが。まぁ、いい。今回の事は何も見なかった事にしてとっとと職務とやらに戻りな飼い鳥さんよっ、ハハハ!」
恰幅の良い男の下卑た笑いと言葉を皮切りに、華奢な男もヘラヘラと笑いながら荷車へと戻っていく。
そんな男達に何も言う事なく、何故かその場に立ち竦むハイライトは俯きながら怒りを堪える様に震えていた。
恰幅の良い男もそんなハイライトがこれ以上何も言わないと見たのか馬の元へと戻っていく。
「おい……ハイライト、何してる?助けなくていいのか、明らかに人拐いなんだろ?」
黙り混んだまま俯くハイライトに何をしているのかと問い詰める真にハイライトは震える声で小さく呟いた。
「……ギルドは、リトアニア商会の後援が無ければ……運営出来ない。……リヴァイバル王国の奴等と繋がっていたのか……くそっ」
歯噛みしながら悔しそうに全てを諦めるハイライト。
理解出来かねるが恐らくは国家権力の様な物なのだろう、この男達が国にもたらす利益は恐らく莫大で、そんな男達の行動に国も目を瞑らざる負えないと言った所かと真は理解した。
馬の嘶く声に合わせて男が荷車を動かそうとする。
事態はこれで終息か、ハイライトが未だ俯いたまま微動だにしない事に少しばかりの不満感を感じた真は荷車の車輪を合金製ブーツで蹴り壊すと言う暴挙に出ていた。
荷車が大きく揺れ傾き、車輪による支えを無くした一部が地面へと叩きつけられ形を崩す。
「っシン!?」
「……権力に弱いんだなお前、育ちが良い証拠だ。俺は育ちが悪いんでね」
真の突拍子もない行動に目を見開くハイライトだが、その言葉に怒りの表情を浮かべ真を睨み付ける。
「っな!何だぁッッ、お前何してやがるっ!」
再度の馬の嘶きと共に荷車から華奢な男が飛び出し、慌てて恰幅の良い男も此方へと走ってくる。
「テメェ、何やってんだ!?俺達はリトアニア商会だぞ!こんな真似しやがってギルドへの後援を絶ったらお前らもタダじゃ済まねぇ筈だ!」
「……悪いがギルド官はこのヘッポコ男女だけだ、俺は違う。盗賊だ」
「……なっ、と、盗賊だぁあ?」
真にはこの状況を見逃すのつもり等さらさら無かったのだ。
人拐い、権力、それ事態にとやかく言うつもりもそこまで無いが真はむしゃくしゃしていた。
自ら思い立った下らない散歩がここまでの事態を招き、不覚にも迷子になって戻れなくなった自分への苛立ち。
そう、権力をも越える程の身勝手さから来る苛立ちをここぞとばかりに発散したに過ぎない。
人には偉そうな御託を並べる真ではあるが、もともとは幼くしての荒れくれ者。
真も完璧な大人ではない、寧ろ我が儘の過ぎる子供よりも力がある分質が悪い大人とも言える一面が真にはある。
「ハイライト、人の命より自分の身が可愛いのは分かるけどな――――」
「そんな訳あるかっ!育ちが良いだと?ふざけるな……お前に何が分かるッッ!……俺は……俺は……そうだ、俺はこんな事が起こらない国を造りたくて……権力を持とうと……もっと上に上がろうと思って…………は、ははは」
ハイライトの突然の豹変に、真は自分が何を言おうとしたのかも忘れて唖然とする。
この男はおかしくなったのか……事情把握もまともにしないまま車輪を壊すと言う行動に出た真ですら驚くハイライトの様変わりに、商人の男達も怯えた様な目でただそんな二人のやり取りを見詰めていた。
「そうだ……そうだった。僕はこんな事が起こらないようにここまで来たんだ、その為に上に行こうとしたのに……それが目的を忘れるとはね、本末転倒も良い所だ」
本末転倒と言う言葉がこの世界にあるのかとも突っ込みたかった真ではあったが、段々と口調が元に戻りつつあるハイライトに何処か安堵した気持ちにもなった。
「ぎ、ギルド官がうちの商会に楯突いてタダで済むと思ってんのかっ……この事は直ぐに帰って商会元に報告させて貰う!そっちのお前もだ、お前も今後笑って街を歩けると思うなよ!おいユグドラシルッ、荷車を外せ、馬で行くぞ」
恰幅の良い男はそう捨て台詞を吐くと、もう一人の男に鼻息荒く荷車を馬から外す指示を出していた。
「はは……シン、君のお陰で目が覚めた。だがこれだけの事をしたんだ、もうこの国には居られないかもしれないよ」
ハイライトは物騒な事を言いながらも何処か晴れ晴れとした様子で苦笑いを真へと向ける。
権力への反抗、それは大きな危険が伴うのだろう事は真にも理解出来たが解決法は簡単だと思った。
ここは平原、地球とは違い監視する者もいなければ情報網も穴だらけだ。
つまりこの事態を知る商会の人間とやらはこの二人だけとなる。
「……問題ない、ここでコイツらを消せば済む話だ」
「っ!?」
「……っなっ!?」
「ひぇ?」
そんな物々しい一言をこの場にいる誰もが想像していなかったのか、体を跳ねさせて真へと振り返る三人の男達。
特に商人だと言う二人の男は物騒な真の言葉に一切の動きを停止してただその場に硬直していた。
「消すって……」
「て、てめぇっ、そんな事をしてタダ済むと……商会全てを敵に回す気か!?金で動く連中はいくらでもいるんだぞ!」
男の言いたい事が真には理解しかねていた。
真を賞金首にでもしようと考えているのか、だがその言葉の意図する所はやはり図りかねる。
「何を言ってる?誰が金で動くんだ?」
「だ、誰って……そこら中の……なんならこの世界の金目当ての人間が賞金のかかったお前を殺しに行く」
「……何故?」
「何故ぇ!?てめぇが俺を殺すからだろぉ!そうすれば俺達はそれを商会元に伝え…………あれ?」
どうやら自分達がおかしな事を言っているのに気付いた様で、男達は黙り込んだ。
「……そう言う訳だ、俺達とそこの娘は普通に王都へ帰る。お前らの存在は見ていない」
「は……はっ、は、ちょ……ちょっと待ってくれ!か、金はある、待て、見逃してくれ……な?頼むよ、お前らも面倒は御免だろ?頼むから今回は見逃してくれ!」
恰幅の良い男は先程までの威勢はどこへやら、頭を地につけ必死に媚びる姿は再び盗賊にでも遭ったかの様な……いや寧ろ先程よりも身に危険を感じた保身の塊になっていた。
真は何も言わずにそんな男達を見下ろし、子供が玩具を見つけた時の様な無邪気な目をハイライトに向けたのだった。
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