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Lithium
第二十三話 掛ける言葉
しおりを挟む「B級がお前だけだと?……他の奴等を見殺しにするつもりかっ!」
「だからお前がいれば二人じゃねぇか、それに他はC級だ。自分の身ぐらい自分で守れるさ!まぁお前がいないとなれば……無惨にも死んでいく奴も増えるかもしれないがなぁ」
「……くっ、相変わらずの下衆め」
何やら二人の口論は見た所フレイが劣勢の様に思える。
フレイの態度、怒りに満ちているのに何処か怯えている様なそんな不安が見てとれた。
男の言い方は実にフレイの性格を的確に捉えている。よく知っているのだろう、フレイが弱い者を見捨てる事が出来ないと言う性分を。
それに加えて高額の報酬に弟とやらの病気が治ると言った、表面的に見ればフレイにデメリット等無い好条件の依頼だ。
それでも嫌と言うなら単独で、若しくは個人的に付いて行ってやってもいいと言おうとした真だったが、ここまでの話をされて放っておけるフレイではないのだろうと考え敢えてそこに横槍は入れなかった。
フレイは分かったと俯きながらちいさくそう呟くと、D級の掲示板前に立つ真とルナに向かって歩みを寄せた。
「……シン、何だ、そのな。昔の……連れって訳じゃないが――――」
「話は聞こえた。行くのか?」
フレイがこれまでの経緯を説明しようとしたのを真は遮りただ一言そう聞いた。
「……あぁ、どうやらそうなりそうだ」
「ふ、フレイさんっ……私達はその、足手まといでしょうか!?」
ルナも恐らくはフレイと男の会話の一部始終を聞いていたのだろう、暗に着いていこうかと言っている。
「そういう訳じゃない……ただ、危険だ。シンの実力も知っているしルナも魔導士なのは分かる……だが、これ以上、犠牲は増やしたくない」
フレイは詰まるところ今の真とルナでは生きて帰れない可能性があるとそう言ったのだった。
真はその言葉にこれ以上何かを言うのは止めた。
「……どれくらい掛かりそうなんだ?」
「あぁ、そうだな。ファンデル荒野はファンデル山脈の麓、荷馬車で向かうだろうから上手く行けば二、三日で帰って来れるだろう」
ファンデル山脈と言う位であるからこの国の王都に入る際、遠目に見えたあの尖った山々の事だろう。
荷馬車で往復二、三日。フレイに限って何かあるとも思えないがそれを目安に万が一戻って来ない事があれば捜索に行こうと真は考え頷いた。
「お前の部屋は借りたままでいいんだよな?」
「……ふっ、そうしておいてくれ」
そう聞いたのは真とフレイ、二人ならではのやり取り。
無事に戻って来いよと言う意味を込めた軽口だ。
「し、シン様……それはあまり良くない言葉です、よ……戦地に赴く者に掛ける言葉は数少なく、と私の村ではそんな文言があります」
「ん……そうなのか?別に、一言だろ」
戦地に赴く者に掛ける言葉は数少なく。
真は一言無事に戻って来いよと言う意味を含めた言葉を言っただけに過ぎない。
だがルナにしては珍しくも真へ反論してきたので、何か言ってはいけない言葉でも発してしまったのかと少しの不安も覚えた。
フレイはそのまま下卑た笑いを浮かべる男の元へと向かう。男はあいつらはいいのか等と言っているがフレイがどうやら私だけでいいとそれを制していた。
そのまま振り返らないフレイの背中が人混みに埋もれていくの見送りながら真は再び掲示板へと目を向ける。
「……俺はこれをちょっと請けてくる」
「えっ、シン様。わ、私もお供させて下さい!」
真は先程ルナに勧めたファンデル河川でのラベール花の採集を請ける事に決めた。
決めてとなったのはやはり下の注意書に受け付け不要と書かれていたからだろう。
「いや……でもこれ、二人で請けられるのか?」
二人ではパーティは組めない、元よりパーティを結成する金もない。
ただ付いてくると言うだけならどうなるのか。
と言うより受け付け不要なら何人で行こうが構わないのかと数々の疑問が頭に浮かぶ。
そう考えるとそもそもパーティの概念は一体何なのかと。
勝手に徒党を組んで依頼に望み、一人が報酬を経て後で山分けにすればいいのではないかと真は考えていた。
(今一理解出来ない仕組みだな、穴が多すぎる)
制度や仕組み、時にシステムと言う物はしっかりとした合理性や抜け道を無くす規約が無くてはならない。
情報が錯綜し、それが一国一星の運命を左右する地球では考えられない程の適当なルールだと真は思わざるを得なかった。
「…………まぁいい、付いてくるのか?」
「無論です!私はシン様を追ってここまで来たのですからっ、こんなに早くお会い出来るなんて最早神の導きです。ここで離れる理由がありません」
「そ、そう……なのか」
ルナの行きすぎた発言に恐怖すら感じた真だが、既に自分の科学力を多少なり見られていると言う事も相まって真はルナと共にそのままギルドを出た。
◆
ファンデル王都を最初にフレイと通った道順通りに入り口へと向かう。
フレイがいなくなって分かった事だが真とルナにはこの辺りの地理が全くと言っていい程に分からない。
一度歩いた道順でなければ迷子にすらなりそうな広さなのである。こうして歩いてみて不安を感じると改めてフレイの心強さを実感した。
相変わらず上等な甲冑を身に付ける門番はこの国の兵士か何かだろうかと考えながらすんなりと王都外に出る。
一面に広がる平野、左手には数キロ程度に渡る河が流れそれは聳える王都の向こう側、海へと続いている様だった。
「この世界にも海はあるんだな……」
「へっ!?」
ふと溢れた言葉に反応するルナに真ははっとして口をつぐむ。
「んぁあ、いや、何でもない。で、何処にあると思う?」
「あっ、えと……そうですね。ラベール花と言うのは聞いた事が無いですが……あの森を通った時に川辺で紫色の花を見た気もします。途中グレイズウルフから下りて休んでたんですけど、ただそれがあの絵と同じかどうか……」
ルナは自信無さげに自分の記憶を辿っている様だった。
だが真にも思う所はある。
川辺でといってもここは海にも近くその川幅は広い、自然に咲く花などあまり地球で目にする事は無かったが植物ならやはり同じ植物が多く密生する場所に生育するのではないかと検討をつけていたのだ。
「……行く、か」
「あ、はい!私はシン様に着いていきます!」
自分一人なら加速アシストで一瞬だが、ルナが隣にいる今の状況では何ともやりにくい。
仕方なく真は他力本願的なルナを連れて再びフレイと共に抜けた森へと歩き出したのだった。
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