君のいる世界

高遠 加奈

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「玲奈ちゃん。朝ごはんは? 」

「た…食べます」


 食堂に入るなり、優しげな礼治さんの笑顔が出迎えてくれる。なんて……贅沢な。

 朝から神様は大盤振る舞いすぎます。

 早々と切り上げた酒宴のためか、すっきりとした顔でお酒の影響は見られない。

 礼治さんは朝から爽やかです。でも、シャツ一枚を羽織っただけの姿は色気がだだ漏れています。捲られた袖からのぞく腕が筋肉質で素敵です。


 ………いけない。

 無理やり腕から視線を上げると、とびきりの笑顔で、ご飯どれくらい食べる? なんて聞いてくださる。

 ああ…もうっ眩しい。そんな甘い顔で話しかけてくるなんて、朝からどれだけ心臓をばくばく働かせなくちゃいけないの?

 おかずも焼き魚、卵焼き、サラダ、お味噌汁などの和食が食卓に用意してあった。

「あのっ…ご飯も焼き魚も卵焼きも大好きなんです……でも、写真を撮りますよね? だから、あまり食べてはいけないんです……」

 美味しくって食べ過ぎたなら、胃やらお腹やらがぽこりと出てしまう。あたし、水着なんです。

 バレバレです…



「それは残念だね。なら、小腹がすいた時のために、小さめなお握りでも用意してもらおうね」

 まったく煩わしさを感じないのか、礼治さん自らが給仕のおばちゃんに掛け合ってくれる。

「お手間を掛けさせてすみません…」

「気にしなくていーよ。撮影も体力勝負だからね。お昼の注文のついでだよ」


 笑顔も眩しいくらい素敵です。

 これからこの人と仕事をするのかと思っただけでドキドキと鼓動がうるさい。

 これは夢なんかじゃなくて、ずっと目指して頑張ってきたからなんだ。だから、最後の調整もきちんとしたい。

 少しでもベストなコンディションで望みたい。



 すうっと息が楽になる。

 朝の起き抜けには、水を飲む。これはおじいちゃんからも言われていたし、おかーさんからも言われている。

 綺麗な水をコップに注いで一杯飲む。

 まだ何も口にしていない体を水が滑り落ちていく。



 喉を通り、胃を滑り落ち腸のあたりでふわっと消える。おかげさまで便秘知らずに過ごしているけれど、友達にすすめてもあんまり興味を持ってもらえない。

『便秘には朝水を飲むといいよ』

といっても『ああ水分とればいいんだよね』と返ってきたので、『水だよ、水がいいんだよ』といっても『別にさ、お茶とかコーヒーでいいじゃん』と取り合ってくれなかった。


 なぜか理解してもらえなかった。

 水を飲んだ時の、このするする吸収されていく感じをわかってもらいたかったのに。


 なんだかなぁ。

 しばらくコップを見つめていたら、目の前にワンプレートに盛られたご飯が現れた。


 小さく握られたご飯には、ごま塩がかかっていて、鮭やサラダが盛られた和風のプレートで、隅っこにはフルーツが乗せられていた。


「これくらいなら食べれる? 」

「は、はい大丈夫です。とっても美味しそうです」

「そう。良かった」


 そう言った礼治さんはものすごく優しい顔をしていた。





髪をゆるくハーフアップにして、胸をぎりぎり見せることのできるシャツを白い水着の上に羽織ってスタンバイオーケーだ。

いつものグラビアなんかよりずっと緊張して、ドキドキと心臓がうるさい。

これから、ずっと憧れてきた礼治さんに写真を撮ってもらえるかと思えば、今までの苦労なんて何でもない。

とは言え、あたしはピンクラビッツでモデルが出来てとても運が良かったのだから。苦労という苦労はしていないかもしれない。


「今日はよろしくお願いしまぁす」


「はい。よろしくね」


礼治さんは、にっこりと甘い顔をゆるめて笑顔をつくってくれた。

ペこりと頭を下げると、髪が砂に付きそうになる。これは感謝をあらわす意味のお辞儀なので
どうしても深々としてしまう。


目があった結輝さんと、どちらともなくにこっと笑って強い日差しにも負けることもなく撮影がはじまる。
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