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もとめる
しおりを挟む笑顔になったミオはレシピも書かずに、量りで粉を計量しだした。
その顔は真剣で迷いがなくて安心する。困っていたり悲しんでいるのはミオらしくない。
ミオは笑っているのがいい。厨房を後にしようとして、ふと写真を撮りたくなった。真剣に取り組んでいる邪魔しないように、一枚だけ。
カシャリとシャッター音が響いても、ミオは気にすることなく、粉をふるいにかけていた。真剣であっても、どこか楽しそうに目元が笑っている。
このミオが見たかったんだ。
厨房から出ると、待ちかまえるかのように、沙那さんがいた。
眉が寄せられて、苦しそうだ。
「結輝、今のなに?」
どこから見ていたのか、ミオを励ましていたのを見られていたらしい。
「ミオが悩んでいたから、話を聞いて相談に乗ってただけですよ」
もしかして、嫉妬?
ヤキモチを妬かれてるみたいで、ちょっと嬉しくなってる自分がいる。沙那さんはクールな大人であんまりそういった感情を表さないと思っていたから、余計に。
「なんで棚橋さんのこと名前で呼ぶの?あたし達、付き合ってるんだよね?」
「……ごめんね。沙那さんが気にするなら、もう呼ばない」
あまり関わったことのない、こういった感情はどう対処したらいいのかわからない。
ただ宥めて誠意を見せるしかない。
「もう他の女の子と話したりしないで」
こつりと沙那さんが肩に頭を寄せてくる。
「わかった。もう心配かけないから」
ぎゅっと抱きしめて髪にキスすると、腕のなかで笑った。
「約束して」
「うん、約束。沙那さんも他の男なんて見ないで」
他の男、と言った時に、鮮やかに御山さんが浮かんだ。
なんで、あんな格好いい人を振ってまで、俺のとこに来てくれたのかわからない。
不安になって、きつく抱きしめた。
「………結輝、今日は一緒にいて」
「朝まで?」
「そうよ…嫌?」
「彼女から誘われて嫌な男なんていないよ」
まだ不安の残る顔にキスをして手を繋ぐ。自分のほうからこの手を離すなんてしたくない。独占欲が胸を締めつける。
たとえ相手が御山さんだとしても。
触れて、舐めて
形のない気持ちよりも、触れることのできる体なら、反応がわかるから安心できた。
沙那さんの反応を見て、いい場所を探していく。
もっと、気持ち良くなって。
もっと、俺を求めて。
「沙那さん……俺を見て」
潤んだ瞳を開けても、どれだけ声が届いているのかわからない。甘い吐息で部屋が満たされていく。
「……ゆ う き」
「うん。……沙那さん、好き」
目にも、耳にも、俺を感じていてほしい
沙那さんが欲しくて、欲しくてたまらない。
すぐにでなくていいから、心も体も全て
欲しい
目が覚めて、腕の中に沙那さんがいることに安心する。
夢なんかじゃなくて、沙那さんがここにいる。
あたたかくて、やわらかい、しあわせ。
眠っていても、長い睫毛に縁取られた目元や、通った鼻筋、わずかに開いた唇も色気があって綺麗な人だ。こんなに綺麗な人が自分を選んでくれたのだから、自分も釣り合うだけの大人になりたい。
眠っている沙那さんを抱き寄せて、頬にキスする。
「………隆志」
御山さんの名前だ。
まだ夢に出てくるのは御山さんでしかないなんて。沙那さん…あなたの心にはまだ御山さんしか入り込めないんですか。
たった一回のデートと一夜を過ごしただけの新しい恋人は、まだあなたの夢にすら入り込めないんですか。
どれだけ体を重ねたら、沙那さんの体は自分のものになるのだろう。
どれだけ心を通わせたら、沙那さんの心は自分に向くのだろう。
「ほんと……ひどい人だね」
掠めるようなキスをひとつ唇に落として、起こさないようにそっとベットを後にした。
切なくて苦しくて、夢の中の御山さんのかわりに抱きしめていることができなかった。
お互いに思いあっていると確認したのに、ふとした事で自信はなくなる。
ねえ 沙那さん
どうして俺を選んだの?
俺が、好きだって言ったから?好きって言ったから選んでくれたの?
聞いてみたい、でもそれを聞くのは怖い。
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