行き場のない花は唯一に再会する

ふゆきまゆ

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再会

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「……む。」

目が覚めるとそこは真っ白い部屋だった。
高い天井と大きな窓。あの家ではない。どこかは知らない場所。いずれいなくなると思っていたら、どこかにいるらしい。
むっくりと起き上がると、本当に広い部屋。出口までは歩かなくてはいけない。どうしたらいいか分からなくてキョロキョロするしかない。

「あ。」

何回目かのキョロキョロの後で、扉が開いていた。

「よかった。起きられたんですね。ここはΩ専門の病院ですよ。」 

入ってきた人は背が低い優しそうな人だった。白い服を着て清潔感のある男の人。
だけどここに来る前に会ったあの人とは違う。

「……?」

「ご安心くださいね。ここにはあなたを害を与える人は誰もいません。」

「……。」

「私は看護師です。今先生を呼びますから、待ってくださいね。」

にっこり笑ったその人は何か小さな機械で誰かと話して誰かを呼んでいる。
しばらくするとまた人が増えた。

「こんにちは。体調はどうかな?」

また優しそうな人だった。でもあの人ではない。

「私はね、君の担当の医者だよ。早速だけど、診させてね。」

ベッドの上にいるまま診察を受けた。

「気持ち悪いとか、具合が悪いとかないかな?」

優しく尋ねられて、何もなかったので頭を横に振った。

「ああ、そんなに頭を振ったらまた具合が悪くなってしまうよ。君は熱中症で倒れたんだ。さらに栄養失調でもあった。危なかったんだよ。今は何もないね。良かった。」

そう優しい雰囲気のまま言って、診察を終えた。
その後はずっと白い部屋で白いベッドの上でただ寝て、窓から外を眺めるだけ。外を見ても見たことはない場所だ。
それを何日か繰り返してまた診察されてしばらく経った後で担当の先生が言った。

「君とどうしても会いたいと言う人がいるんだ。どうしたいかな?……もちろん、君は拒否が出来るからね。……どうしますか?」

誰かに会うのは怖い。とても怖い。
だけど、頭の中にここに来る前に見た人が残っていた。
しばらく考えた後で頷いた。

「何かされないように近くには医者も看護師もいますからね。警備員もいますから、大丈夫ですよ。」




看護師の人に連れられて、病室からは随分と遠い部屋に来た。
応接室と言って、病室には入れない人と会う時はここに来なくてはならないらしい。

「この病院は患者はもちろん身内もΩだけしか入れないんです。先生はΩと配偶者のいるβしかいません。」

起きた時そう言っていた。だから誰も傷つける人はいないのだと。
まだ足元が心もとないからか手を引かれながら部屋まで歩いた。

部屋の前まで来ると、懐かしいような暖かいような匂いがほんのりと近づいてきた。気持ちが少しそわそわしてしまう。
それに気づいた看護師が優しく笑ってくれて、扉を開いた瞬間。

「よかった!ずっと起きないかと!どうしようって!」

そう言って扉を開けた瞬間誰かに思い切り抱きしめられた。

「たとえ番候補でも、直接接触は認められていません。離れてください。」

「警備員!すぐに来て!」

先ほどの優しい微笑みとは一転して、冷たい表情でキッパリと言い放った看護師の一言で抱きついて来た人はあたふたしながらパッと離れた。

目の前にいた人は、あの時会った人だった。
目も髪も真っ黒の男の子。あの時は気づかなかったけど背は随分と高く体格も良い。
もっともここにいる誰よりも身体は小さいのでかなり大きさに差があるようなので極端に大きく見えるのかもしれない。

「あの……。」

「よかった!せっかく会えたのに、ボロボロで、倒れて、それで、」

思わず話しかけるとえぐえぐ泣き出した。どうやら泣き虫らしい。
あの時は気づかなかったかなりの体格差にどうすることも出来ずにカチコチに固まっていると、後ろから目の前の人の首根っこが掴まれた。

「ゆかり!なんでそっち側にいるの?!そっちはΩスペースよ!」

ツカツカと入って来たこちらもかなりの背の高い女性は、ゆかりと呼ばれた人に怒った。
よく見ればこの部屋は二つに区切られていて、真ん中には透明な壁があった。横には大きく開け放たれた扉。ドアノブの部分は大きく壊れている。

「あ。」

「何やってるのよ!こんな危険なことをして、この病院に出入り出来なくなったらもうお見舞も来られないわよ!分かってる?もし藤城様に怒られたりしたら…!」

「戻ります。」

「……今日だけは多めに見ましょう。今日だけですよ。次はないです。本当に。……藤城様に感謝なさってください。」

かなり顔を強張らせて怒った様子の看護師は扉を思い切り閉じた。警備員を呼びその前に机をずらしている。終わった後警備員は部屋なら出ることなく扉の前に立った。
たった少ししか会ってないのに何故だか離れることがとても悲しい。
扉をカリカリしてみると看護師に手を引かれてこちら側のスペースに置いてあった小さい椅子に座らされた。

「ごめんね。今嬉しいのと悲しいのでごちゃまぜなんだ。やっと会えて嬉しい。でもこんなになってるのが悲しい。俺がずっといられたらこんなことにはならなかったのに。ごめんね。」

透明な壁一枚挟んだ正面のゆかりと呼ばれた人が優しい目をしてそう言った。変な行動は取るが優しい人らしい。

「とりあえず今は、しっかり身体を休めようね。」

「あなたは何も考えず、しっかり身体を休めることに専念して。もう大丈夫よ。」

隣にいる背の高い女性はしっかりと意志の強い目でそう言った。

「私はこの子の母親よ。黒羽梓。よろしくね。」

名前を言われて頷いた。そして隣の人を見る。
ずっと優しくて懐かしくて暖かい匂いのするその人を。

「俺はね、ゆかり。黒羽ゆかりだよ。」
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